こんにちは、AT-Music の辻敦尊です。
前回の #6 エレキギターアンプレコーディング編 から少し時間が経ってしまいましたが、準備等が整いましたので、今度はドラムレコーディングをテーマにいくつかの方法についてご紹介をしていきたいと思います。
まず今回は誰でも手軽に試すことができるよう、マイク2本だけを使用してしっかりとしたドラムサウンドを録る方法から説明していきましょう。
方法その1「ドラムセットの上部に2本のマイクを立てて録る方法」
ドラムセットはいくつもの楽器を組み合わせて構成されているものなので、2本のマイクで収録する場合はドラムセット全体を2chステレオで捉えるようにすることが基本だと考えています。そして上手いドラマーであればドラムサウンド自体がカッコよくまとまっているので、2本のマイクだけでも十分に説得力のあるサウンドを収録できることも少なくありません。
もし使用できるマイクの本数に制限はなかったとしても、土台となるサウンドは2本のマイクで構築し、そこへ目的に応じて追加のマイクのサウンドを足していくような考え方も大切だと思っています(4ch以上のサラウンド収録が目的の場合はこの考え方は多少変わってきますが)。よって、ここでご紹介する方法はドラムレコーディングの基本とも言えると思いますので、とくにビギナーの方は参考にしてもらえたらと思います。
それでは具体的な手順説明に入っていく前に、今回の例で使用するレコーディングシステムについて簡単に説明しておきましょう。
- マイクは sE8 のマッチド・ペアモデル*を使用。ドラムは音量が大きいため、Padスイッチを-20dbに設定します。
*ここで言うマッチド・ペアモデルとは sE Electronics が数百もの個々のマイクから熟練工によって選別した、可能な限り最高のステレオイメージを実現する2本のマイクセットのことを指します。 - オーディオインターフェースは Universal Audio Apollo Twin MkII (2ch分のマイクプリを搭載) を使用し、ここからファンタム電源を各マイクへ供給します。
- DAWはこれまでの例で使用してきた Steinberg Cubase から変更して Avid Pro Tools を今回から使用していきたいと思います。
以上がセットアップの基本内容となります。
次にマイクの立て方についてですが、実際に演奏するドラムのフレーズ等を意識しながら、サウンドの中心となるポイントを探します。ロックやポップス等では通常バスドラムとスネアでビートの土台が決まってくることが多いので、今回の例ではスネアから少しバスドラム寄りの位置を中心ポイントとして設定してみます。
中心ポイントが決まったら今度はスネア側のハイハットのフチの上部辺りに1本目のマイクをセット(ドラムの方向に向けてマイクは下向きにセット)します。この時の高さは地面からスネアまでの高さの倍くらいの高さを目安にしてみると良いかと思います。
続いて、ケーブルやドラムスティックといった近くにあるものを使用しながら、先ほど決めたドラムセットの中心ポイントと1本目のマイクのダイアフラム部分との距離を測ります。そして等しい距離になるようフロアタムの上部あたりのポイントを探し、そのポイントへ2本目のマイクをセット(こちらもドラムの方向に向けてマイクは下向きにセット)します。この時、2本のマイクの高さに差が生じたとしても気にすることはありません。逆に見た目の高さを優先させてセットアップしてしまうと位相ズレの問題を引き起こす可能性が高くなりますので注意しましょう。
それではここまでを理解してもらいやすいようにイメージ図を下に載せておきましょう。
写真にはマイクが2本以上写ってしまっていますが参考にしてもらいたいのは上部にセッティングした2本のマイクになります。
赤いラインで示した距離が等しくなるようにします。
それではこの方法でセッティングした具体的なサウンドをお聴きください。
*良いモニター環境で聴いていただけるほど、その効果を感じていただけるかと思いますので、スマホなどで確認される方はイヤフォンやヘッドフォンで聴いてみていただけたらと思います。
**今回のサンプルサウンドは収録したサウンドに少しコンプを掛けて、その上で少しだけEQ処理を施しています。
いかがでしょう?マイク2本だけでもこのようにステレオ感をしっかりと感じていただけるドラムサウンドが収録できる事が伝わったでしょうか。
今回使用したマイクは単一指向性のものでしたが、無指向性のマイクを使用してみても効果的な収録が期待できるケースも多くありますので、機会があればどちらも試してみていただけたらと思います。
次に別のセッティング方法として、MS方式を用いたドラムレコーディングについても説明していきましょう。
方法その2「ドラムセットの前方にMS方式でマイクを立てて録ってみる」
MS方式についてはこの連載の #5アコースティックギターレコーディング【2chステレオ MS方式編】 で説明しましたが、ドラムレコーディングでもMS方式は効果的ですので、再度ここでご紹介をできればと思いました。
ここからは使用するマイクを sE8 から sE2300 というモデル2本に変更し、説明していきたいと思います。sE2300 は指向性を「単一指向性」の他、「双指向性」、「無指向性」に切り替えて使用できるためMS方式に適していますし、-20dbのパッドも備えているのでドラムレコーディングにも向いていると思います。
それでは2本のマイクそれぞれに対する設定について説明します。
1本目、Mid用として使用するマイクの指向性は単一指向性に設定し、Padスイッチを-20dbに設定します。続けて2本目、Side用として使用するマイクの指向性は双指向性に設定し、こちらもPadスイッチは同じく-20dbに設定します。
次にマイクを立てる位置についてですが、下記写真のようにドラムの前方から50㎝~60㎝の距離、そして高さはタムの高さと同じくらいにセッティングします。
sE2300を2本使用する場合はこのようにセッティングすると良いでしょう。
ここまでセッティングが整ったら、実際レコーディングを始めていくのですが、レコーディング後には必ず下記手順もDAW上で行うようにしてください。
1.レコーディングした双指向性マイク(Side)のトラックを複製します。
2.複製したトラックのフェーズを反転させます(複製元のトラックのフェーズを反転させるのでも構いません)。
*下図の例では目的のトラックにチャンネルストリップのプラグインをインサートし、それを利用してフェーズを反転させています。
3.複製したトラックと複製元のトラックのPan(定位)をそれぞれLeftとRightに振り切ります。
ポイント!
2トラック構成となったSide側のトラックはグループ化などしておくと音量調整などする際に便利でしょう。
4.Mid側の音を基準にSide側の音量を調整し、聴感上良いと感じる音像に仕上げます。
それでは上記手順を終えた上での実際の収録サウンドを聴いてみて下さい。
あわせて、参考までにMid用マイクだけのサンプルサウンドもお聴き下さい。上記サウンドとの音像の違いを感じてもらえると思います。
いかがですか?最初にご紹介した方法の方が明確な定位感はあると思いますが、MS方式による音像の拡がりも独特な魅力を感じていただけたのではないでしょうか?
今回ご紹介した方法以外にも、ドラマーの頭上辺りにORTF方式でマイクを立てて録る方法も効果的だと思いますし、もう少し部屋鳴りの要素も加えて録りたい時等はドラムセットの前方少し離れた位置にXY方式やNOS方式などでマイクを立てて録るのも有効だと思います。参考までに、sE8 をXY方式でドラムの前方約1mの位置にセッティングし収録したサウンドもここに載せておきますので聴いてみて下さい。
さぁ、今回はこの辺りまでとしておき、次回はマイクの本数を6本に増やしたパターンで同じくドラムのレコーディングについて説明していきたいと思います。
sEマイクで始めるホーム&スタジオレコーディングのテクニック:#8 ドラムレコーディング【6本のマイクによるドラムレコーディングについて(前編)】>
辻 敦尊(つじあつたか)
音楽家・クロスメディアアーティスト
中学時代より作曲とギターを始め、20歳からプロとしての音楽家活動をスタート。
近年では企業向けに音を中心としたコンテンツの提供や開発協力などをおこなう事が多く、3Dコンテンツ制作や立体音響コンテンツ制作、映像コンテンツ制作、プログラミングなど幅広いジャンルで制作プロジェクトに関わっている。
最近のリリース作品としては大久保茉美「Oboe Music」やそがみまこ「花束」などがある
AT-Music 代表
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真朗太(マロウタ)
1983.7.12生まれ
高校よりドラムを独学で始める。
19才より上京し、ヤマハ音楽院に入学。
在学中からプロドラマーとしての活動を開始。
卒業後は数々のライブ、レコーディングに参加。
現在はメジャー、インディーズ問わずポップス、ロック、演歌、映画音楽等のジャンルを主にLIVEやレコーディングの現場で活動中。