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sE Electronics : ドラムマイク導入事例 @ C&K ライブツアー

シンガーソングライターユニット C&K が日本全国を回った昨年の『AKB55 ツアー』。そのライブステージでは、ドラムセットのほぼすべてに sE Electronics(以下sE)のマイクが使用されていました。各マイクのチョイスの経緯を、PAを担当するエンジニアの大村 亮氏に聞きました。

BL8 は誇張する感じがなく、アタックの感じがいやらしくない


- 大村さんが sE のマイクを使うようになった経緯を教えてください。

最初はリボンマイクの VR1 がきっかけで sE のことを知りました。見た目がかっこ良かったので、いつか使ってみたいとは思っていたんです。で、ある時 JUJU さんのライブで、ボーカルマイクの被りの多さがちょっと気になったので、ワイヤレスのヘッドの交換を検討したんです。質感のいいマイクって大抵は被りが多いものですが、指向性が狭いマイクを試してみたかったので、sE の V7 MC2 を借りることにしました。そしたらすごく良くて。一昨年の JUJU さんのツアーはずっと V7 MC2 を使いました。

- それでドラムのマイクも sE を検討したわけですね。

去年の夏頃に sE からバウンダリーマイクの BL8 が出ましたよね。フックアップの方から BL8 を推薦されたので、それならドラムマイクを一式 sE にしてみようかなと思ったんです。どれも見た目がかっこいいので、「見た目がいいなら音もいいだろう」と予想して、実際に BL8 は良かったです。キックにマイクを2本立てる時、よくアタック感とロー感を分担させるじゃないですか。だけどこの BL8 は1本で両方とも拾えるオールマイティな印象でした。C&K のツアーでは V KICK も併用しましたが、回線に余裕がない時や、どうしてもキックにマイクを2本割けない時の選択肢としても BL8 はありえますね。他社のバウンダリーマイクと比べても全然いいと思います。

大村さん
▲エンジニアを務める株式会社ケイアイエム音響部の大村 亮氏

- BL8 を置いた位置はどの辺ですか?

まずキックの真ん中からスタートして、音色を聴きながら前後に動かしました。キックのアタックを録りたいのに、スネアの音が被ってきてしまう時は BL8 をひっくり返したこともあります。そうすると一応、上からの被りは少なくなります。本当は Kelly Shu Flatz アイソレーション・システムを使って、BL8 を逆さに浮かせることができれば理想的なんですが。

- V KICK の方は補助的な役割として使用したのですか?

今回は BL8 を軸にして、V KICK で何かしらを足すという感じでした。ドラマーさんがバラードっぽい曲やハードなファンクなど、色々なバリエーションを叩くスタイルだったので、曲によってサウンドに何かしらの足し引きをする際、この組み合わせは使いやすかったです。BL8 は他のマイクと違って、アタックの感じがいやらしくない。それが表現をする上で大事なんです。誇張する感じがなく、素直にいい音だなと思えました。叩くドラマーさんにもよるかもしれないけど、今回に関してはすごく良かったです。

BL8 / V KICK
▲キックの中に設置された2本のマイク。上が V KICK、下が BL8

- V KICK のサウンドセッティングのスイッチはどんな設定にしましたか?

低域も中高域も[Classic]にしました。今回のリハでは[Modern]との違いがあまり試せなかったので、次の違う現場で試してみたいです。

- スネアは両面に V BEAT を立てていますね。

V BEAT は元々タムにすごくいいマイクだなと思って、それなら同じマイクで革物を全部拾いたいと思ってスネアも V BEAT にしました。タムに使った時、被りが少ないだけじゃなくローがドッシリしていて、ドラマーさんも「叩いた時にパンッてくる音の早さがいい」と言っていたので、それならスネアもこれでやろうと。叩いている人がいいと思えるなら間違いないだろうなと。で、僕は基本的にスネアのトップとボトムに対して、同じようなEQと同じようなコンプレッションをするので、マイクも同じ種類にしたくて両方 V BEAT にしました。

スネアにV BEAT
▲専用クランプの V CLAMP を利用し、スネアの上下に V BEAT を取り付けている

- タム用も含めると多数の V BEAT がセットされていますが、意外とスッキリして見えますね。

V CLAMP がすごく優秀なのでセッティングはラクさせてもらいました。要塞みたいなドラムセットなので、スタンドなしでマイクを設置できるのは助かります。それとなるべくオンマイクにしたくて、V CLAMP じゃなかったらここまで近くに攻められなかったかもしれない。混み行ったところに正確に立てるのはマイクスタンドだと大変だし、演奏中にスネアとかが少しずつ動いたりもするので、一定の間隔を保つにはやっぱりクランプを使う方がいい。安定感という意味でもクランプを使うのは大事だと思います。ドラマーさんもすごく協力的で、クランプを付けてからチューニングをしてくれたんですよ。

タムにV BEAT
▲それぞれのタムにも V BEAT がセットされている。V CLAMP を利用することで狭いスペースにも難なくセットできる

sE のマイクはリバーブを使わなくても奥行き感がある。余韻まで綺麗に拾える


- ハイハットにリボンマイクをチョイスした理由は?

リボンマイクは双指向だから指向性が狭いじゃないですか。なおかつ、ハイハットの上側にはシンバルがあるけど、下側には何もないから、小さめの VR1 で下から狙うポジショニングにして被りを減らしました。距離は指4本分、5cmくらいですかね。次回はハイハットのチップとか、叩いているところをダイレクトに狙ってみようかなと思っています。VR1 は他の楽器にも試してみたいですね。うちのスタッフは「琵琶の弾き語りに VR1 を使ったらものすごく良かった」と言っていました。リボンマイクだから空気感も含めてナチュラルに拾えるんでしょうね。野外ライブだったので、琵琶をピンポイントで狙ったのがすごく良かったみたいです。

ハイハットにVR1
▲ハイハットは下側からリボンマイクの VR1 で狙う

- トップにはコンデンサーマイクの sE8 をステレオで立てていますね。

カーディオイドタイプの sE8 Pair ですね。あとでオムニタイプの sE8 omni があると聞いて、オムニでやったら良かったなと思いました。シンバルの数が多かったので、全体を拾うには指向性が広いオムニタイプを試してみたい。でも sE8 Pair の立て方を少し変えて、外から内を狙う感じで斜めに立てたら万遍なく拾えたので、それもすごく良かったです。シンバルが綺麗に拾えるマイクだなと。ロー感もすごく良かったから、ドラムセット全体を狙うような使い方もありかもしれないですね。

トップにsE8 Pair
▲シンバル類はスモールダイアフラム・コンデンサーマイクの sE8 Pair で拾う

- ドラムマイクをすべて sE 製品に変えたことで、サウンド全体の印象がガラリと変わったのでは?

全体としてかっこ良くなったから、全部を一気に変えて良かったと思います。今まではオンマイクで拾ってリバーブを足していましたが、sE のマイクはリバーブを使わなくても奥行き感があるというか、1つ1つの余韻まで綺麗に拾えるのをすごく感じました。この試みはすごく楽しかったし、全部変えるのはありですね。

ドラムセット

- 今後さらに追加したいマイクはありますか?

sE8 omni を試したいのと、T2 や sE 4400 などの大きいモデルも試したいと思っています。あと、次は C&K のボーカルマイクも sE を試したいと思っています。実は先日、加藤ミリヤさんの事務所のレイナさんというシンガーのワンマンライブで、楽器用の V7X をボーカルマイクに使ってみたら、すごく良かったんですよ。

- 歌声との相性が良かったということですか?

歌い出しの第一声で、モニターも含めて「いいな!」と思える瞬間があるじゃないですか。歌っている感覚や、マイクを握った時の重量感も多分良かったと思うし、口に十分近づけられる感じがある。ライブエンジニアとしては、マイクを口から離すよりは近づけてくれる方が嬉しい。だけど、音色にちょっとでも違和感があったら遠ざけられてしまうから、近づけられるマイクって大事だなと。自然といい距離感が取れるマイクって、そのボーカリストに合っているマイクなんだと思います。彼ら彼女らが表現するものを汲み取るという意味では、フェーダーを動かしてどうにかするよりも、そういうマイクを選んであげたい。V7X はぜひとも導入したいですね。

会場全景

写真:桧川泰治

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