Hookup,inc.

Expressive E : モノンクル角田隆太が操る Touché × Ableton Push

ソングライティングデュオ、モノンクルのベーシストで、作詞・作編曲を手掛ける角田隆太さんは、Ableton Live と専用コントローラー Push に Expressive E Touché を組み合わせて表現力豊かなシンセサウンドを生み出しています。導入の経緯と使いこなしのTipsを教えてもらいました。

すべてを同時に動かせるのが Touché の強み


- モノンクルの楽曲制作はいつもこのプライベートスタジオで行われているのですか?

ものにもよりますが、生のドラムやグランドピアノを録る場合は外のスタジオに行って、それ以外は大体ここで完パケしています。外のスタジオで「せーの!」で録る場合は自分もベースを持っていきますが、個別で録るならベースもここで録ってしまうことが多いですね。

- ここでミキシングまですることも?

ミキシングはエンジニアさんに任せることが多いです。プロジェクトによっては自分でやってしまう場合もありますが、基本的にはエンジニアさんに任せたい気持ちがあります。

- Ableton Push と Expressive E Touché が並んでいて、両脇に分離型キーボードという配置がユニークですね。

Push をキーボードの手前に置くか、奥に置くか、デスクトップ上での位置で、Push ユーザーはみんな結構悩むと思うんですよね。この配置だと Push でのMIDIコントロールと文字入力などのタイピング操作が平行線上の少ない動きでシームレスにできるんです。MIDIノートも Push ですべて打ち込むようになったので61鍵のキーボードは片付けてしまいました。1年ほどこの形で使っていますがとても良いですね。

▲角田のデスク。手前中央に左から Touché と Push が並び、それらを挟むように分離型のキーボードが配置されている

- 角田さんはベーシストでありながらMIDIコントローラーやシンセも多用しています。モノンクルの作品でもシンセサウンドが占める割合は増えていますか?

そうですね。特にコロナ禍になって家で制作するようになってからです。以前は他のプレイヤーとセッションする時間が多くて、生のアンサンブルからアイディアを得られることが多かったのですが、それがなかなかできなくなり、セッションの回数も明らかに減ったので、家で作る音楽に向き合う割合が多くなった気はします。

- Push はいつ頃導入したのですか?

2020年だったかな。コントローラーというよりMIDIキーボードとして弾くという比較的珍しい使い方をしているんですが、これが自分の中ではしっくりきています。Push は音の配列が横方向に半音間隔、縦方向に4度間隔とベースやギターにかなり近しいので、音の配置がイメージしやすく、頭の中で直感的に操作できる感じがします。

- Touché と組み合わせて弾いているそうですね。

Touché はSNSか何かで見かけて、「これは革新的だな」と。ただ値段を見て高いなと思って(笑)すぐには導入しませんでしたが、実際に使ってみたらすごく面白かったです。Push と並べると高さがピッタリ合うんですよ。しかも、MIDIキーボードと Touché を組み合わせるよりも距離が近くて、より一体感があるかもしれません。Push のリボンコントローラーはピッチベンドかモジュレーションのどちらかしか選べないので、一方を Touché にアサインすれば、より完璧な形で Push を使えます。あと、Ableton Live 用の無料プラグイン Touche Mapping を使えば、好きなプラグインのパラメーターを Touché にマッピングできるので、Lie(Touché に付属するコントロールソフト)を起動しなくてもサクッと Touché が使えます。すごくシンプルだしわかりやすい。Push と Touché の連携はすごくいいですよ。

▲Touché と Push を並べると台座の高さがピタリと合う

- Touché の操作性はいかがですか?

すごく面白いです。本体内のスライダーでスキン(上部に備わる木製タッチプレート)の揺れ具合を変えられるのも画期的ですよね。同じ音色でもスライダーの設定次第で様子が変わって、できることや表現力がまったく違うものになります。組み合わせが無限大過ぎて、設定によっては思うように操作できないこともありますが、その辺も慣れていくことで表現の幅が変わってくるのかなと思いました。

▲スキンを外すとスライダーがあり、これで横方向の揺れ具合を調整できる

- 他に便利な点は?

Push のノブでフィルターを開いたり、エフェクトをかけたり、オクターブ上げたりしようとしても、それらを同時には操作できないからどこかで途切れてしまうのですが、すべてを同時に動かせるのが Touché の強みかなと。それは Expressive E の音源による部分も大きかったですね。Imagine は“オリジナルの民族楽器を作ろう”みたいなコンセプトを感じる音源で、叩く道具の素材感とかも変えられるじゃないですか。ある楽器とある楽器の中間のようなものとか、聴いたことのないニュアンスも組み込むことができるから、アフリカや東南アジアのあまり知らない楽器みたいなものを新しく創作するような感じもあって楽しく使えました。Noisy は“オリジナルのアナログシンセを作ろう”という感じの音源で、シンセチックでありながらも、触れたことのない操作感がありました。どちらの音源も特定の何かをシミュレートした感じではなく、Touché を使うことでポテンシャルをフルに発揮できる感じがあります。全部の音色に Touché のプリセットが組まれているのが楽ですね。Touché のどこをどう動かしたらどう変化するかが、音色ごとに違うんですよ。そこは難しいところでもあって、この音色では右に振るとエフェクトが広がるけど、次の音色だと左に振った時にエフェクトが広がる。その辺の使い勝手は、プレイスタイルや好みに合わせて使い込んでいく必要があります。

- カスタマイズして使うというより、プリセットを覚えていくような感じですか?

どちらもありますね。プリセットを自分の中に落とし込んでアジャストしていかなくてはいけないけど、効率の良い方向に Touché を設定していく必要はあると思います。

- Noisy や Imagine 以外の音源にも Touché を活用していますか?

Arturia のシンセをマッピングすることもできたし、Lie に入っている音色も面白いのがかなりあります。

- ストリングスに Touché を使ったことは?

それはないですが、クレッシェンド感や繊細なタッチとかは表現しやすいかもしれません。バイオリンだと弓の返しとかかな。スキンを叩くという操作も特徴的なので、ライブ映えもしますよね。Push に限らずですが、ライブの中で様々な音色を場面ごとに切り替えて鳴らすコントローラーはお客さんから見ると今何の音色を弾いているのかがわかりにくくて、バンドやシーケンスも鳴っている中だと尚更わかりにくい。だけど“叩く”という動作は目に見えてわかるじゃないですか。Touché はそういう視覚的な要素がすごく強い楽器なので、ステージ映えするのではないかなと。

- ベースに使うことは?

ベースの音色でもすごく面白かったです。Touché は横方向に戻る動きを利用してキュッとニュアンスを付けるのが得意なので、シンセベースもただノベッと弾くより、表情を付けた方が音楽的に広がりが出て豊かになります。そういう微妙な動きは、オケに入った時に強烈に聴こえるわけではありませんが、少しあるかどうかで雰囲気がかなり変わってくるので、フレーズの終わりでプッシュ感を付けたりと、ベースにもすごく役立つと思います。

▲スキンを押す、揺らす、擦る、叩くなどの動きにより複数のパラメーターを操作し、様々なニュアンスを付けることができる

アイディアの出発点として Touché や Imagine や Noisy がある


- Push と Touché を使った動画を Twitter や Instagram に投稿されています。この動画で使用している音源は Noisy でしょうか?

そうですね。リードに使用した[Almighty]というプリセットは、低音成分がかなり含まれていたので、特にベースも入れず、これ1本で行っちゃいました。プリセットをそのまま使ったと思います。この音色では Touché を手前に押し込むとLFOが強まって、奥側に滑らせるとローパスが開けていく。左右はFXがアサインされていて右側へシフトするとコーラス、左側へシフトするとフェイザーとなっています。ざっくり言うとそんな感じですが複数のパラメーターが同時にアサインされていて、手の動きと連動して表情を変えてくれます。Touché はとても雰囲気を持っているハードウェアだなと感じますね。

noisy
▲リードに使用した Noisy の[Almighty]

- 短めのジングルやサントラのようなものは特に作りやすそうですね。

プリセットの音色がどれも世界観を持っているので、楽器や理論をそこまで知らなくても、鍵盤で1音弾いて Touché を操作するだけで面白いものが作れそうです。ジングルももちろんだし、動画クリエイターの人でサウンドロゴ的な1〜2秒の音楽を、買ってきたサンプル音源じゃなく自分で作りたいという人に推せるんじゃないかな。

- 次の動画では、3つのパートを Touché で演奏していますね。

コード弾きから始まって、琴のような音色とベルのような音色の2つを混ぜたリードを入れました。後半にも少しだけ Noisy でレイヤーっぽいフレーズを入れていて、ベースは Imagine を使いました。

- コードに使用したプリセットは?

[Ambient Glitch]です。Push でコードを押さえながら、Touché を叩いてアクセントを付けました。1つの音色なのに、2つの音色が鳴っているような感じがしますよね。こういうことができるという意味で Touché はすごく強力なんです。ライブでシンセ、ベース、ドラムだけの3人編成でも、Touché を使えばかなり広がりを持たせることができそうです。

- ではリードのプリセットは?

琴のような音色が[Kooto]で、もう1つ重ねたベルのような音色が[Aquatica]です。Aquatica は結構エディットしたので、プリセットのままではないかもしれない。パラメーターもかなりイジったので、元とはちょっと違うかも。

KOOTO
▲リードに使用した Imagine の[Kooto]

- ところどころ Touché を横に動かしてニュアンスを付けていますね。

これはLFOをコントロールしていて、モジュレーションホイールのような使い方ですね。グリッチ感を増やすような感じ。で、奥に滑らせることでグレイン感がちょっと増えます。

- ベースのプリセットは?

Imagine の[Warmed Up Bass]かな。ベースは Touché を使わずに弾きましたが、もう少しニュアンスを付けても面白かったかもですね。

WarmedUpBass
▲ベースに使用した Imagine の[Warmed Up Bass]

- 続いての動画は、途中で大きく展開する2部構成になっています。

この動画ではかなりたくさんのプリセットを使いました。ベースは2種類で、Noisy の[Subby]と[Body Trap]を前半と後半で使い分けています。負荷が重かったのでオーディオに書き出しました。Noisy の[Brassic_TND]が、コードとリズムを担当しているメインの音色です。手前を2回叩き、前方に滑らせてクレッシェンドさせてから、奥と手前を1回ずつ叩くのですが、スキン上を滑らせるニュアンスで印象がかなり変わってくるのが面白いです。叩く位置によってもニュアンスがかなり変わってきます。奥か、真ん中か、手前かでSaw Waveのような成分の付き方か違うんだと思います。奥の方だと、ノイズのゲインやExpressive Controlも上がるみたいです。

Brassic
▲コードに使用した Noisy の[Brassic_TND]

前半と後半の間に入るドローンは Imagine の[Hell Drone]というプリセットで作りました。これも映画で使われていそうな雰囲気がありますよね。で、リードは[Yosemite]です。Noisy ではなく、Touché に付属する UVI Workstation の音色です。いかにもなシンセリードで、いい音ですね。Live の内蔵エフェクトもかけていて、Touché を右側へ押すことでモジュレーションのかかり具合をコントロールしています。

yosemite
▲UVI Workstation の[Yosemite]

- どのパートも Touché でニュアンスを付けることで、ポテンシャルがさらに引き出されていますね。

ピッチベンドやモジュレーションホイールを操作するような感覚で、いろんなパラメーターを操作できることが大きいのかなと思います。Push や小型のシンセと一緒に使うなら楽器の左側に縦向きに置くのが良いと思いますが、ピアニストの James Francies は、ピアノの譜面立てに Touché を横向きに置いて使っていましたね。88鍵のピアノだと隣に置くと遠すぎるのでそうしているんでしょうね。それぞれの楽器や使い方に合わせて最適解を見つけていく過程も楽しいですよね。

- 今後はどんなふうに活用してみたいですか?

ライブで使うとするならば、音源が少し重いので、ハードシンセと組み合わせていくのが使いやすいだろうなと思います。僕は比較的パワーのあるPCを使っていますが、バッファサイズを上げ目にしないと少しプツプツしちゃう感じだったので。Touché については、ボーカルの(吉田)沙良がめちゃくちゃ気に入っていて。シンセを普段弾かない人にもグッとくるものがあるというか、音色に説得力があって魅力的だなと思いますね。制作で使う機会も増えるんじゃないかな。ただ、パラメーターも独創的で、一般的なシンセの固定概念から恐らく意図的に離れているところもあったりするので、曲に合わせて細かくエディットしたいと思った時に、どのパラメーターをいじればいいか慣れるまで時間がかかるかもしれません。なので最初は曲に合わせてエディットしようとすると、イジる場所がわからなかったりするので、どちらかというとアイディアの出発点になるものなのかなと。曲に合わせて微調整して馴染ませていくというよりは、アイディアの出発点として Touché や Imagine や Noisy がドーンとあって、そこから作っていくっていうのがいいのかなと思いました。

- Touché に触ることでインスピレーションを得るわけですね。

動画の3曲は、そういうことを大事にして作り始めようって決めていました。理論や技術がなくても誰もが直感的に音楽を作ってアウトプットできるような時代だし、今後それが加速していく中で、Touché のような指先の感覚と音色を深く結びつけて音楽制作が出来るツールはとても魅力的だと思います。デザインもポップで、なんだか使う気を起こさせてくれますしね。

角田隆太

写真:桧川泰治

モノンクル

吉田沙良(Vocal)と角田隆太(Bass)によって2011年に結成されたソングライティングデュオ。
詩情豊かな日本語詞の世界観と、ジャズのエッセンスを核に据えつつもジャンルレスでポップな楽曲は、音楽ファンからの高い支持を得ている。
【主な作品】
『READY』シチズンクロスシーTVCM(2022)
『Higher』ソニー Xperia 1 Ⅳ TVCM(2022)
『Salvation』TVアニメ『ヴァニタスの手記』2nd Seasonエンディング・テーマ(2022)
『Every One Minute』シチズンクロスシーTVCM(2020)

【主なパフォーマンス】
SUMMERSONIC 2022(東京・大阪公演)
Billboard Live TOUR 2021(東京・大阪・横浜公演)
モン・ジャポニスモvol.2 w/tofubeats@渋谷WWW (2019)
モン・ジャポニスモvol.1 w/Nakamura Emi@渋谷WWW (2019)
『RELOADING CITY』 ReleaseTOURFinal@恵比寿LIQUID ROOM (2017)
FUJI ROCK FESTIVAL 2015@GYPSY AVALON

関連記事

ページトップへ