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Expressive E : JSPA 代表理事 氏家克典が紐解く Osmose の表現力の秘密

2023年8月に発売された Expressive E のエクスプレッシブ・シンセサイザー Osmose。発売に先立ち、JSPA(一般社団法人 日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ)のメンバーによる試奏会が開かれ、いち早く本機に触れていた JSPA 代表理事の氏家克典氏からその革新的な表現力の秘密が明かされました。

音色を変化させる色々なセンサーが搭載されている


Osmose は見ての通り、鍵盤の構造が普通ではなく、前方の黒い部分から手前の白い部分までがすべて鍵盤になっています。音域は4オクターブあり、左端にピッチベンドやモジュレーションなどの操作系があります。同社の Touché は外部音源を操作するためのコントローラーでしたが、Osmose は中に音源を持っていて、Haken Audio というメーカーのサウンドエンジンを使っています。Haken Audio と言えば Continuum Fingerboard という、タッチすると音程が出る赤白のフェルトのような製品を10年くらい前から知っているのですが、Osmose は同社の音源を使っているわけですね。

osmose全体

Osmose の音源システムとしては、アナログ、FM、物理モデルの3つを搭載しています。聴いた限り、物理モデルは擦弦や打鍵など何種類かあるようです。そして、それをコントロールする色々なセンサーが盛り込まれているという感じです。例えば鍵盤を押し込んだり、水平に揺らすことで音色を変化させることができる、いろんなセンサーが搭載されています。それらを1つずつ説明していきます。

まずは「タップ」です。鍵盤を軽く叩くような弾き方により、特有の音色が出せます。鍵盤は非常にセンシティブに反応してくれますね。

次が「プレス」です。鍵盤を押すことで音色を変化させます。そして「タップ&プレス」。タップしてスタッカートで弾く時と、プレスする時とで音色を使い分けることができます。

osmose押し込み
▲鍵盤を深く押し込むことで音色を変化させることができる

次に「ピッチ」。鍵盤を横に動かしてピッチを上下に変化させます。続いて「アフタータッチ」。VAシンセサイザーのように、アフタータッチをするとフィルターが動く感じですね。そして「シェイク」。鍵盤を振るような動きですね。物理モデルというのは、ある力を加えるとその発振源が鳴るのですが、このシェイクは、弦の物理モデルに常に力を加えることで連続的に発振させているわけです。とても不思議な感じがします。

osmoseピッチ
▲鍵盤を左右に動かすことでピッチを変化させることができる

続いて「ストラム」。これは例えばフルート系の音色などで、鍵盤を押し込むと、違う音程に変化します。音色によって、1オクターブ上に移動するものもあれば、押し込み具合で3度ずつ上に移動するものもあったりします。

次が「プレッシャー&グライド」。アナログ系の音色などで、2つの音程間を滑らかにつなぐ奏法です。例えばドを弾きながらミを弾くと、音程がミに向かって上昇しながら、レまでしか上がらないのですが、ドの鍵盤を離すとミに到達します。レガートで次の音に移る際、その動き方が前後の音の繋ぎ方によって微妙に変化するわけです。フワーっとゆっくりと繋げば、音もゆっくりと変化していきます。

面白いのが、低音部と高音部に違う音色が割り当てられているデュアルの音色です。スプリットポイント(音色が切り替わる箇所)が固定ではなく、押さえる音によってスプリットポイントも自動的にズレていきます。しかも、レガートでフレーズを弾いていくと、スプリットポイントを超えても音色を維持したまま弾くことができるので、右手と左手を交差させるような奏法も可能。これは不思議な感覚ですね。

最後が「ノートオフ」。これは鍵盤から指を離す瞬間に発音します。ただ、意図せず指が左右にブレるとピッチが揺れてしまうので、弾き方が難しいのですが、センシティビティの設定でベンディングを切れば左右の揺れが効かなくなります。弾きづらい場合はこういった設定も可能です。こうやっていろんな表現ができるのは面白いですよね。

Osmose はタッチが繊細なので、クラビ系の音色とかを弾く時は、わりと軽やかにタッチするとピッチが安定します。弾きこなしのコツは、常に上から垂直に鍵盤を押すこと。ビブラートをかけたい時だけ揺らすようにします。

エフェクターやセンシティビティの設定で音色を加工できる


左側のディスプレイとロータリーエンコーダーでプリセットを選ぶことができ、その下にプリセットのセレクトボタンとオクターブのシフトボタンがあります。

osmoseディスプレイ
▲ツマミはすべてロータリーエンコーダーになっている

プリセットはカテゴライズされていて、ベース、ブラス、ボーイング、エレクトリックピアノ、フルート&リード、キーズ、リード、パッド、パーカッション、マレット、ピックラックド、オルガン、SFXに分かれています。さらにサブカテゴリーで、アコースティック、エアリー、アナログ、クリーン、ディストーションなどがあって、その中でプリセットを選択できる形になっています。

osmoseプリセット
▲プリセットはタイプ別/キャラクター別にカテゴライズされている

シンセのパラメーターはマクロやEQなど、色々と動かせます。音色ごとにフィットしたマクロが表示されて、いくつかのパラメーターが一気に動く。内蔵エフェクトは3系統で、空間系とEQとコンプがあります。エフェクトは自由度が高くて結構動かせます。

osmoseマクロ

他にも鍵盤のセンシティビティを設定したり、[playing]というページでは、アルペジエイターの設定なども可能です。普通のアルペジエーターもありますし、[コード]というアルペジエイターや、押し込むとオクターブ上がるなど[アフタータッチオクターブ]など、色々なものが選べます。こうしたセットアップをした状態で、音色をメモリーしておくことも可能です。

エフェクターやセンシティビティの設定次第で、自分なりに音色を加工することができますが、元の音色を作り込むことはまだ Osmose 上ではできません。Max/MSPのエディターがあるんですが、使い方が全然わからなくて(笑)。今、解析中です。プリセットは現在500種類で、今後も増えるみたいです。非常にセンシティブに弾ける音色から、普通に弾けるものまで、プリセットは色々網羅されています。音色が多彩で、演奏の仕方も色々考えられるのでとても面白いですね。

osmoseヘッドホンアウト
▲ヘッドホンアウトの隣に備わるヘッドホンボリュームは押すとへっこむ仕様になっている

製品写真:桧川泰治

氏家克典 プロフィール

学生時代より数々のコンテストに出場するかたわら、 作編曲、自己のグループ、スタジオミュージシャンなど本格的プロ活動をスタート。音楽コンサルティング、音楽ソフトウエア企画制作、音楽教室運営、作編曲、プロデュース、国内/海外デモンストレーション、研修、後進育成、連載執筆など、その活動は多岐に渡っている。
特にデジタル楽器関連の分野では、その軽妙で豊かな経験に基く語り口と、独自の視点によるハイクオリティで斬新なプロデュース作品が、常に業界の注目を浴びている。
シンセサイザー・プログラミングのキャリアは、ヤマハのDXシリーズをはじめ、 SY、VL、EX、CS、MOTIF、MONTAGEシリーズを手掛けた。
パターン制作はQY、PSRシリーズやMOTIFのアルペジエイターなど多数。アートリア社のソフトシンセ各種やMatrixBrute、PolyBrute、コルグKRONOS、KROME、OPSIXでプリセット・ボイスを制作している。
学研「大人の科学」シンセサイザークロニクルでの監修、付録シンセSX-150のコンサルティング、ポケットミクNSX-39監修。

今まで手掛けたTVCM音楽や楽器内蔵デモ曲は数百曲、20年に渡っての専門誌での連載執筆、デモ演奏や研修で訪れた国々は25ヶ国以上、youtubeで配信されたデジタル商品のレビュームービー(musictrackjp)は600本以上、8.5万人超の登録ユーザー、3,500万再生回数を超え、世界中のミュージシャンやクリエイターから注目を浴びている。

1981年、鳴瀬喜博アルバム『MYTHTIQUE』にシンセサイザー奏者としてアルバムセッションへ初参加、続いてQUIZにライブで参加。
その後、多くアーティストのサポート活動を経て、冨田勲氏の作品”源氏物語幻想交響絵巻"、"イーハトーヴ交響曲”、”ドクターコッペリウス”でのフルオーケストラ公演にシンセサイザー奏者として参加。坂本龍一氏のインターネット配信ライブ・サポート。小室哲哉とのプロジェクトTK Gateway、Planet TK、TK Onlineでのサポート、コンサルティング。Dream Comes True、安部恭宏、佐藤竹善、土橋安騎夫、浅倉大介、ミッキー吉野、渡辺香津美など、多くのアーティストと共演している。

氏家克典ソロアルバム「MUSIC COLLAGE」「MUSIC COLLAGE II "Love & Universe”」、6巻の教則DVD、2冊の教則本を大好評発売中。

<Site Katsunori UJIIE>
http://www.sitekatsunoriujiie.com
Katsunori Ujiie MUSIC SHOP 代表
https://ujiie.thebase.in
”ミュージック・トラック”・・・クリエイティブディレクター
http://www.youtube.com/user/musictrackjp
参加音楽団体:
一般社団法人 日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ JSPA(代表理事)
http://www.jspa.gr.jp/
一般社団法人 演奏家権利処理合同機構MPN(監事)
http://www.mpn.jp

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