Hookup,inc.

Expressive E : 小田朋美 plays Osmose

CRCK/LCKS のメンバーであり、cero や UA、KIRINJI のライブサポートとしても活躍する音楽家の小田朋美さんは、ソロからバンドまで様々なステージで Expressive E の次世代シンセサイザー Osmose を活用しています。

「鍵盤を叩く」というより「音を入れ込む」感覚がある


- 小田さんはフックアップのショールームで初めて Osmose を体験したんですよね。

電子音楽家の荒木(正比呂)さんが試奏に誘ってくれたんです。買うつもりはなかったのですが、触ってみたら予想以上に面白くて。かなりワクワク感があって、視野を広げてくれそうな感じがしたので、思わず衝動買いしてしまいました。

- 何が他のシンセと違ったのでしょうか?

まずはこの楽器の一番の売りである特殊な鍵盤ですよね。普通の鍵盤よりかなり深く押し込めて、左右に揺らせる。鍵盤のバネの動きがかなり柔らかくて滑らかなので、「鍵盤を叩く」というより「音を入れ込む」という感覚に近くて、鍵盤楽器に限らず、どの楽器でも味わったことのない新感覚です。フィルターやLFOをいじったりビブラートをかけるようなことは、従来のシンセでもモジュレーションホイールやアフタータッチで操作できますが、Osmose はこの特殊な鍵盤によって、もう一歩踏み込んだ操作性を実現していて、より直感的な演奏ができます。あと、音色によってモジュレーションのパッチが変わっていて、音色ごとに起きる変化が違うように設定されていたりするのですが、そのセンスがちょっと独特で。そういう遊び心があるところも好きです。

- 鍵盤の横の動きでピッチが変えられるのは独特ですよね。

すごくいいですよね。実は、ピアノを弾く時もそういうことをほんの少しやっているんですよ。「弾き方でピアノの音程が変わる」と言う人もいるくらいで、実際のところは私はわからないのですが(笑)、イメージとしてはそういう気持ちで弾いたりします。私は津軽三味線の高橋竹山さんと10年ほど一緒に演奏をしているんですが、たまに「尺八のように弾いてほしい」というようなリクエストをされることがあって、あくまでイメージの話ですが、息を吹き込むような、ビブラートをかけるようなつもりで演奏したり。Osmose はそういう感覚の延長線上で、よりわかりやすくイメージを具現化できる感じです。あと、トップノートだけ、とか、和音の内声だけ、とかピンポイントでビブラートをかけられるのも大きいですよね。揺れるようなニュアンスがほんのちょっと欲しいけど、全体にかかっちゃうのは違うんだよな...みたいな時に、本当に微妙な表現ができるのはすごいですね。

Osmose

- 弾き心地やタッチはいかがですか?

鍵盤がすごく深くまで押し込めるし、押し込む時の滑らかさも普通の鍵盤とはかなり違って不思議な感覚です。最初、鍵盤と鍵盤の間に指が入っちゃったりして(笑)、慣れるのに少し時間がかかりました。デジタル音源って、フィジカルのエネルギーがどこかで切れて変換されている感じがして、Osmose ももちろんそうではあるけど、身体性にかなり近づいている気がします。あと、鍵盤の素材もすごくいいですね。全体的にマットで触り心地がいいし、見た目もすごくこだわられていて。あまりやったことはないけど、鍵盤の奥の黒い部分でグリッサンドすることもできるんですよね? ピアノで半音のグリッサンドをするとたまに流血したりするんですが(笑)、Osmose なら安全にできそうです。

- 内蔵音色の印象はいかがですか?

デフォルトで入っている音色がかなりクリエイティブです。音色出発で曲が作れるというか、昨夜も弾いていたらアイディアが思いついて、1時間ぐらいで短いトラックを作ってみました。良いシンセって人を触発してくれるところがありますが、Osmose もかなり触発してくれます。リードやパッド等はもちろんのこと、パーカッシブな音色や、オリエンタルな音色も入っていたり、個性的な音色も豊富ですね。

- Osmose の音だけでトラックを作ったんですか?

はい、全部 Osmose です。エフェクトなどの加工もしていません。トラック数は9つくらい。パーカッションは2種類重なっていて、ベースが1つ、コードベースみたいなのが1つ、その上にパッド系の音色などを重ねました(下の動画で視聴可能)。[Pitch House]というプリセットのパッドがすごく好きで、メインで使っています。パッドは、ピッチの揺らし方にまだ慣れていなくて、ライブで盛り上がると思ったより揺らしすぎてしまうこともあるんですが、その揺れ具合も設定で調節できるから毎回試行錯誤しています。自分の身体性に近づけていく感じというか、眼鏡の度数を合わせるようにちょっとずつ調整していきます。

パッドの中で歌うのが気持ちいい。環境音に包まれている感じになる


- アコースティック楽器の再現性という意味ではどうですか?

ストリングスの代替のような役割でライブで使いましたが、再現というよりは、再解釈みたいな感じですね。本物のストリングスっぽく弾こうとすると、AIが作った写真じゃないけど妙な違和感があって、でもその違和感や異質感もまた楽しいので、うまく活かせる方法を探っています。

- バンドサウンドとの馴染み方はいかがですか?

バンドにおける存り方は模索中ですが、やっぱりかなり存在感はあると思います。独特のきらびやかなところはよく目立ちますし、でも、さらに音の厚みとか温かみというか、中低音がしっかり欲しい時にどうしたらいいかなと思って、エフェクターをかませたりと、調整の仕方を研究しているところです。ライブではまだ試している段階ですが、制作ではすでに大活躍しています。かなり自由に細かく調整できるので、馴染ませたり、逆に異質な存在感を出したり、ちょっとスパイス的な使い方をしたり。「普通のパッドっぽいけど何かちょっと違う」と思わせる小粋な使い方もできますね。

- ソロで使用したことは?

昨年末にやったソロライブで使用しました。色々な鍵盤を並べて弾いたなかで、Osmose と歌だけの場面も作ったのですが、とても良い感触でした。Osmose は音色に説得力があるから、ベースラインを弾いて、ループさせて、その上で歌うだけでもパフォーマンスが成り立ちます。エレピっぽい音も使えるし、パッドの中で歌うのが気持ちいい。有機的というか、環境音に包まれているような良い場面を作れたと思うので、これからも発展させていきたいです。

- KIRINJI のライブでも使ったようですね。

KIRINJI では、ストリングスやフルートなどの生楽器の代替的な役割がメインで使いました。普通のキーボードは音色はリッチでもニュアンスが付けにくいですが、Osmose では表情豊かに演奏できます。MIDIで同期させて、他のシンセと重ねて使ったりもしましたね。あと、元々サックスがメロディのインスト曲を演奏したのですが、この時はメインメロディ担当だったので、サックスをなぞるような代替的な使い方をしてしまうと勿体無いと思い、お気に入りのリードの音色を見つけて演奏しました。元曲とは違った味が出たのではないかなと思います。

- Osmose をMIDIキーボードとして使うことはありますか。

私は CRCK/LCKS というバンドをやっていて、バンドリーダーの小西(遼)も Osmose を持っています。彼はMPE対応のソフトシンセとかに繋いで使っているらしく、私も Sequential OB6(アナログ・ポリフォニック・シンセサイザー)に繋いだりと、制作でもちょっとMPEを試しています。OB6 自体がすごく大好きなんですが、Osmose で弾くと何か別の音源みたいで、もちろん OB6 の鍵盤で弾いてもいい音だけど、Osmose で弾くと不思議な広がりが出せる。同じ音色でも別物みたいになりますね。

小田朋美/Osmose

写真:桧川泰治

小田朋美

Compose / Voice / Piano / Synthesizer
1986年神奈川県生まれ。
幼少期よりクラシック音楽(主にピアノ、作曲)を学びつつ、多様な音楽に興味を持つ。
大学在学中、三味線奏者・二代目高橋竹山氏、菊地成孔氏との出会いをきっかけに、演奏家としての活動を開始。
以来、作曲家、編曲家、ヴォーカリスト、ピアニスト、シンセシスト等として音楽に携わる。
バンド・CRCK/LCKS(2015〜)、DC/PRG(2013〜2021)のメンバー、cero、UA、KIRINJIのサポートメンバーとしてのライブ活動や、映像への楽曲提供も多数。
現在、自身のリリース3枚目となるソロアルバムを制作中。

関連記事

ページトップへ