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Rupert Neve Designs 5059 Satellite : Mixがクリアになるサミングミキサー

クリエイター集団 SIGN SOUND のエンジニアとして、『進撃の巨人』や『僕のヒーローアカデミア』のサウンドトラックなど、多数の作品に携わる相澤光紀氏。相澤氏が昨年導入し、ほぼ常用しているというのが Rupert Neve Designs のサミングミキサー 5059 Satellite です。

音が鈍りすぎず現代的で、解像度が上がるような印象


- 相澤さんは以前からサミングミキサーをお使いなんですか?

いえ、ずっと使っていなかったんですけど、アナログ機材が大好きで、ハードウェアインサートをよくやっていたんです。サミングはチャンネル数の兼ね合いもありハードルが高かったんですけど、洋楽のようなサウンドにしたいとは思っていて。それで海外の人達が何を使っているのかを調べてみたら、名前が上がってきたのが 5059 Satellite(以下、5059)だったんですよ。ちょうど、A/D D/Aの良いオーディオインターフェイスに変えたところだったので、ここに 5059 を加えたらすごく性能を発揮できるんじゃないかと思ったんです。

参考記事 サミングミキサーのすすめ

- インターフェイスを買い替えたことがきっかけだったのですね。

インターフェイスを変えたら、サウンドがかなりクリーンになって解像度も上がったので、そこにアナログの質感を加える目的で 5059 を導入しました。僕がよく一緒に仕事をするLA在住のやまだ 豊くんという作家さんがいて、彼がかなりの機材オタクなんですけど、日本にある自宅スタジオに 5059 を導入したというので音を聴かせてもらったら、それがとても良くて。すごく音楽的に感じたので購入を決めました。音が鈍り過ぎず現代的で、解像度が上がるような印象があるんです。イン・ザ・ボックスだと明瞭度が薄かった音が、5059 を通すことによってクリアになるというか、解像度が高いモダンな音になります。

相澤光紀
▲エンジニアの相澤光紀氏。これまでに関わったアーティストは、澤野弘之、林ゆうき、横山克、大間々昂、やまだ豊、KOHTA YAMAMOTO、広川恵一、西木康智、西川貴教、Survive Said The Prophetなど。劇伴音楽からバンドサウンド・ゲーム音楽まで多岐に渡った作品を手掛けている

- 分離が良くなるようなイメージでしょうか?

分離が良くなりますね。導入した当初は、ミックスをある程度終えてから 5059 に通していたんですけど、それだと思ったより分離してLowエンドもスッキリしてしまう印象があったので、最近は始めから 5059 に通すようにしています。最初に 5059 をアサインし、その出音をモニターしながら、5059 の手前でプラグイン処理をしていくわけです。通すことによりバランスが変わるので、この手順の方が完成形が見えやすいですね。

- 最終的にはDAWに戻すのですか?

DAWに戻した上で、マスターで Manley Stereo Variable Mu Limiter Compressor(以下、Vari-Mu)を通したりします。

- 5059 に送るステムの内訳は?

ベース系、ドラムなどのリズム楽器、ギター、鍵盤系、ストリングス、ブラス、シンセ、ボーカル、それ以外のFXとかですね。それぞれステレオでDAWから出して、チャンネルが足りない時は混ぜたりもします。

5059 Satellite
▲5059 Satellite(ラック中段)は、Rupert Neve Designsのフラッグシップコンソールである5088や、Portico II シリーズに採用されている数々の回路やカスタムトランスフォーマーによって構成されている

録音時にマイクをたくさん立てて、5059でミックスして録る


- 2つあるステレオアウトは、どのように活用していますか?

僕はステレオアウト1しか使っていませんが、ステレオアウト1と2を使えば、それぞれ違う処理ができますよね。例えばステレオアウト2だけステレオイメージャーをかければ、リズム楽器は広げずに、上ものだけを広げるような音作りもできます。あるいは、リズムパートにだけ Vari-Mu をかけたり。あと、僕はギターを録音する時にマイクを何本も立てるんですけど、アコギに何本か立てて、パンを真ん中にしてステレオアウト2から出すと、LとRで違うコンプをかけられるんですよ。他の楽器でも何本か立てたマイクの音を混ぜてコンプをかけたい時は、マイクプリの後に 5059 でミックスしてから、コンプをかけて録音します。そういう用途も考えて導入しました。

- ステレオアウトが2つあることで、コンプをかけるパートとかけないパートに分けるといったこともできるわけですね。

そうです。エレキギターのダブルを録る時も、LとRでコンプの設定を変えて広がりを出したりできるから、すごく使い勝手がいいです。今度、ホールで弦を録るんですけど、マイクをたくさん立てるので、それを 5059 でミックスして録ろうかなと考えています。ストリングスにもパートごとコンプをかけたいんですよ。マイクの本数にもよりますが、4chまで個別でアウトできるのでとても便利です。

5059parameter
▲「STEREO 2」ボタンをオンにしたチャンネルは、ステレオアウト2から出力される。また、ステレオアウト1と2のそれぞれに、「Silk」ボタンと、Silkの深さを調整する「TEXTURE」ツマミが備わっている

- 録りでもミックスでも活用しているんですね。

普通のミキサーとしても使えますし、5059 には「Silk」も付いていますから、ちょっとキャラクターを変えることもできます。Silkを押すと若干飽和するので、使うかどうかはサウンドの好みによるんですけど、僕は今っぽいサウンドを作りたいので、Silkを押さない方が好みです。ただ、Silkをちょっとだけかけるのはいいなと思っていて、全体の味付けで使ったりはします。TEXTUREツマミを絞り切りからちょっとずつ上げていくと、だんだんレンジ感がギュッと変化していくので、ジャンルに合わせて調整しますね。クリアで分離が良い感じなので、それをくっつけたい時にSilkを入れて、TEXTUREで混ざり感を調整していくという感じでしょうか。

- SilkのBlueとRedの違いはどう感じましたか?

Redの方が中域に寄って明るくなる感じで、Blueの方がフラットな印象ですね。落ち着いたサウンドというか……僕の好みはBlueかな。僕の場合は、DAW上やアウトボードを使いサミングの手前でディストーション、サチュレーションを極端に付加したりするので、Redだと飽和感が増してしまう感じがしたんです。

- それ以外に調整する箇所は?

他のツマミは固定にしていることが多いですね。1回信号を入れて、−16dBでキャリブレーションしてあります。結構持ち運んでいるんですけど、ほとんどズレないですね。すごく優秀です。

- 曲調を選ばずに使えそうですね。

オールマイティに使えます。基本的に 5059 はサウンドが鈍り過ぎてイナタクならず現代的なので、どんなジャンルの曲に通してもいいと思います。どのプロジェクトでも使っていて、スタジオでミックスをする時は必ず持っていきます。僕が担当する作品は激しい楽曲が多くて、BGMでもリズムが入っているようなものとか、澤野弘之さんの『進撃の巨人』のサウンドトラックも激しいし、歌ものもかなりの音数が重なっているんですけど、5059 を通せばそれがクリアになる。Rupert Neve Designs はどの製品もクリアで色付けが薄めなイメージがあるので、そういう意味でも現代のサウンドに合うと思いますね。音が訛り過ぎないですが音楽的で、薄くバターを塗るような適度な味付けもある。僕は洋楽のサウンドを探究しているので、その目的に叶う、いい結果が得られたと思います。

写真:桧川泰治

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