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Rupert Neve Designs : Newton Channel レビュー - 利便性と多様性を持ち合わせた最高のチャンネルストリップ

Rupert Neve Designs から今年リリースされたパワフルでモダンなチャンネル・ストリップ Newton Channel。その特徴的なサウンドとキャラクター、シンプルな操作性はどんなサウンドメイクを実現させてくれるのでしょうか。big turtle STUDIOS のエンジニア yasu 2000 氏が試します。

つまみやLEDの色分けがわかりやすいフロントパネル


録音機器の中で最も高く評価され、多くのレコーディングエンジニアに愛され続けている名機を生み出してきた Rupert Neve 氏。自身の名を掲げたブランド、Rupert Neve Designs による新作 Newton Channel は、Neve 氏の生まれ故郷ニュートン・アボットから名前の由来を受け、当時の音を継承しつつも現代に合ったサウンドと利便性を兼ね備えた最高のチャンネルストリップです。僕はボーカルはもちろんのこと、打楽器をはじめ、あらゆる楽器の録音でよく Neve 氏作の機器を使用してきました。特に Neve 1073 は大のお気に入りで、それと同じクラスA回路がこの Newton Channel にも使用されているとのことで、当時のサウンドとの比較もしていこうと思います。

Newton Channel はフロントパネルの色が往年の Neve 製品と同じで、ゲインノブの赤いところや硬いナッジ式なところも継承されていて、Neve 好きにはたまりません。つまみの大きさや使い方に現代に合ったコンパクトさがあり、何より色分けがわかりやすい。ゲインやEQのブースト/カットが赤く、フリーケンシーやスレッショルドが青、トリムとリリースがシルバーと、セクションごとに色分けされていて、間違えずにすぐさま調整が可能です。またLEDも、48Vが赤、電源のON状態や各セクションのバイパスが緑、フェーズスイッチがオレンジと色分けされ、細かいところまで使いやすさの追求が伺えます。

そんな利便性の中で僕のお気に入りは、GR(ゲインリダクション)とアウトプットレベルのメーターが平行に並んでいてとても見やすところ。アウトプットは14dBからオレンジに変わり、22dBで赤に、GRは10dBからオレンジに変わり、14dBで赤になるため、瞬時に最適なゲインとコンプのリダクション量を把握し、同時に素早く調整することができます。それぞれのセクションを詳しく見ていきます。

倍音の解像度が高くて細かいマイクプリアンプ


マイクプリは Neve 製品の最も重要な部分で、このセクションで Neve 特有の暖かい歪みが得られ、キャラクターが決まります。Newton Channel も往年の Neve 製品と傾向は同じで、歪みや倍音の量が1目盛りごとに大きく変化しますが、倍音の解像度が少し高くて細かい印象を受けました。

倍音や歪みを増やしたり抑えたりする際、ゲインの1目盛りが6dBごとなので、レベルの微調整はトリムノブで行います。往年の Neve 製品は、小さいレベルで倍音調整するとピーキーな音になってしまうので、トリムを上げめで調整した方がうまくいくのですが、Newton Channel は解像度が高いので、トリムを真ん中にしていてもゲインレベルを容易に調整できました。そのおかげでラインレベルでもピーキーにならず調整しやすかったです。

僕は日頃ボーカル録音で手持ちの Neve 1272 を利用する時、ゲインの値は30dBあたりをよく選んでいましたが、Newton Channel のゲインも同じく30dBが良い歪み具合で、丁度良い倍音が得られました。30dBがノブの真ん中あたり、時計で言う11時ぐらいに設置されているのがまた良いですね。声量によって、そこから6dBごとに変わるナッジ式のノブを1つ上げるか下げれば、大体の倍音調整が決まるようになっています。

打楽器録音に関しては、フェーズスイッチがあるので、特にスネアの上下にマイキングする際などに容易に位相合わせができます。HPF(ハイパスフィルター)のクオリティには驚きで、ローエンドのノイズや不要な曇りがスッキリと、ビンテージ感のあるブラシストロークな消え方でよく効きました。

マイクプリアンプ
▲マイクプリ・セクション

硬い音から柔らかい音まで、様々な声や楽器をコントロールできる万能型EQ


LF(低域)は60Hzと150Hzのスイッチがあり、それぞれ1kHzから60Hzもしくは150Hzにむけて緩やかなカーブでブースト&カットが行えます。150Hzモードでは特にあ行、さ行、た行がよく聴こえ、60Hzモードでは、な行、か行、ま行がよく聴こえました。60Hzの場合、右に+12dBまで振り切ってもモコモコにならず、倍音のおかげでスッキリと聴こえます。LFを150Hzモードで大胆なブーストをしてから、マイクプリのHPFで30Hzあたりまでカットすると、ふくよかな音になって良いコンビネーションになります。細い声のボーカルや、腰のあるスネア、ベースをレイヤーした時の輪郭担当のEQにも使えそうです。

HF(高域)は8kHzと16kHzスイッチがあり、それぞれ1kHzから8kHz、もしくは16kHzに向かって緩やかなカーブでブースト&カットができます。8kHzモードでは右に振り切っても痛い声になりませんでした。16kHzモードでは特には行、さ行、な行がよく聴こえ、8kHzモードで、あ行、か行、た行がよく聴こえました。

220Hzから7kHzをベル型で調整できるMID(中域)は、まさに痒いところに手が届くEQになっています。マイクプリでキャラクターを少し強めに加えた時に発生する、ピーキーになり過ぎるところをこのMID EQで抑えることができます。まさにこの3つのバンドで硬い音から柔らかい音、様々な特徴の声や楽器の音もコントロールすることができる万能型EQです。

EQ
▲EQセクション

短くてアタッキーな打楽器向きのコンプレッサー


素直な効き方をするVCA型コンプで、マイクプリで決めたキャラクター(倍音)を前に張り付かせるようなクリーンなサウンドで、良く効きます。ブレッシーな歌や最近流行りのエッジボイスに最適です。アコギのアルペジオやエレキのカッティング、ベースにも合いそうです。アタックは20msの固定で、リリースの領域は50〜500secと幅が広く、FASTとMED間の調整で積極的なトランジェント加工ができるので、スネアやキックなどの打楽器にも十分に威力を発揮しそうです。便利なことにPRE EQスイッチがあるので、倍音やEQでブーストした形状をコンプで叩くことで違ったアプローチができます。ボーカル向きというより、短くてアタッキーな打楽器向きな印象がありました。

コンプレッサー
▲コンプレッサー・セクション

魅力的な色合いとツヤ感と立体感を加える SILK


SILK はこのチャンネルストリップの最後のひと押しで、最もユニークなセクションです。出力トランスを切り替えることができ、ビンテージ感のある倍音を加えてくれます。青色が低域に、赤色が高域に二次三次倍音を追加でき、魅力的な色合いとツヤ感と立体感を一気に加えることができます。TEXTURE ノブで効き具合を調整でき、ほんの少しかけたり、MAXに振り切ったとしても音崩れがない範囲になっていて、安心して調整ができます。高音がキレイな女性ボーカルには青で暖かみを加えたり、低い声が魅力的な男性ボーカルには赤できらびやかさを加えることができます。「最後のひと押し」と表現しましたが、TEXTURE を調整した後でEQやコンプを再度調整することで、より細かく理想まで追い込むことができます。往年の Neve 機器にはないアプローチで、最高のブレンド感が溢れていて楽しくなります。

SILK
▲SILK セクション

それぞれのセクションにバイパススイッチが付いているため、元音との変化の判断が素早くでき、[マイクプリとEQのみ]や[マイクプリと SILK のみ]などの選択が容易にできます。また、マイクプリだけでOKな別の楽器を録音する際、EQ設定やコンプ設定を変えずにバイパスしておけるので、 作業の時短にもなります。

リアパネルのLINK端子で2台の Newton Channel をリンク可能


リアパネルは無駄な要素が削ぎ落とされて便利な機能が残されている、とてもシンプルな構造になっています。メインアウトは通常のアウトプットと-6dB用アウトプットの2種類があり、積極的にブーストして歪ませたとしても、-6dBのアウトを利用して自然にレベルを抑えることが可能です。またインプットの隣にあるLINK端子は、Newton Channel を2台TRSケーブルで繋ぎ合わせて、コンプの情報をリンクさせることが可能です。ステレオでドラムのバスなどに挿せば、深みが出ること間違いなしです。

リアパネル
▲各入出力端子が備わるリアパネル

この Newton Channel は、往年のビンテージ感ある暖かい倍音を継承して、かつ高解像度な現代的サウンドで、時短につながる利便性と多様性を持ち合わせた最高のチャンネルストリップだと思います。

yasu 2000(big turtle STUDIOS)

1999年にDJとして単身渡米。N.Y.のライブハウス「CBGB」にて一流ジャズミュージシャン達とMPCで共演。NYであらゆるジャンルのカルチャーに感化されサウンドエンジニアに興味を持つ。その傍ら、エンジニアの専門学校IARに入学し、卒業後はブルックリンのスタジ オに2年間在籍。2005年に帰国し、現在はorigami PRODUCTIONのハウスエンジニアを勤める。

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