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Lynx Studio Technology : Make Hits Lab が Aurora(n) で到達した「極上の宅録」

東京・新宿のシェアリングスタジオ Make Hits Lab は、ルームチューニングされた防音環境とプロフェッショナルな設備を兼ね備え様々な小規模プロジェクトで利用されています。その核となるのが Lynx Studio Technology Aurora(n) です。オーナーの谷 正太郎氏に導入の経緯を聞きます。

音を出しても文句を言われない環境になってから、機材の選び方が変わった


- このスタジオには厳選された機材がレイアウトされていますね。

おっしゃる通りです。元々はデジタルで完結させようとしたんですが、欲が出てしまいました。ビンテージ機材だと個体差があるし、メンテも大変なので、選択肢に入れていなかったのですが、「最新のアナログ」をテーマにアナログ機材の導入を決めました。

- ここはもともと谷さんのプライベートスタジオなんですか?

いいえ。私が創業したMake Hits Production®︎が運営するレンタルスタジオです。当時、SongPluggerとして契約をしていた、エイベックス・ミュージック・パブリッシング様の作家さんにご利用いただくことを大きな目的として、別の物件でスタートしました。この物件に引っ越して4年近くが経ちました。利用する方にパソコンを持参してもらい、Thunderbolt で繋げば、どなたでも自由に使用できます。私は作家さんのマネージャー・SongPluggerとして、海外でソングキャンプをオーガナイズする機会に恵まれました。現場では、みなさんスタジオに自分のDAWを持ってくるんですよ。なので、そういう用途のためにこのスタジオを作ったんですが、次第にそれ以外のニーズにも応えたくなり、アナログ機材も入れ始めました。元々宅録好きだったので、スタジオ作りを始めたら止まらなくなってしまいました(笑)。

- コライトやセッションにはうってつけの場ですね。

最初は楽器可のマンションの1階の角部屋で運営していたのですが、低音の漏れがどうしても防げず苦情がきてしまったんです。そこで専門業者に頼んで、50万円ぐらいかけて防音施工をしたんですよ。壁一面にウレタンや鉛をビッシリ貼ってもらったんですが...後付けの防音では焼け石に水でした。すでに換気扇や水道などの生活導線が張り巡らされていたので、一面だけを止めても、いろんな音の出入口があるから全然駄目で。しかもコロナが始まったばかりの2020年の2〜3月頃って、多くの方が不安で神経も立っていたと思うので、音を漏らすのは余計に厳しい状況でした。そんな時、幸運にもこのマンションの最上階の角部屋が空いていたので、すぐに入ったんです。

Make Hits Lab
▲Make Hits Lab

- この建物は防音構造なんですか?

はい、三重防音でベランダにはサッシが3枚あります。そこに吸音材を配置し、音の反射をコントロールしました。こういう防音性能に優れた物件が、山手線沿線で、駅近というのは、あまり類を見ない好条件が揃うレアなケースです。高田馬場はたくさんのグルメスポットがあるので、こちらも魅力のひとつです(笑)。

- ミキシングもレコーディングもできるんですか?

はい。マイクは新品の Sony C-800G を取り寄せて、1点豪華主義にしました。当時はコロナの真っ只中だったので、納品まで1年半ぐらい待ちました。マイクの職人さんがメーカーに戻って、オフィシャルで再販し始めた頃のものです。

- C-800G を選んだのは、このスタジオをよく利用する方の音楽ジャンルなどを考慮してですか?

ジャンルは特に気にしませんでしたが、海外の制作動画とかを見ると C-800G がすごく人気だし、R&B・HIPHOPアーティストがよく使っているというのも指標のひとつでした。以前は Universal Audio の Sphere というマイクモデリングができるステレオマイクを使っていたんですが、ステレオで録音する仕様なので、取り回しがちょっと不便だという声があったんです。例えば VocAlign のような、メインとハモのタイミングやピッチを自動で合わせてくれるプラグインは、モノじゃないとかからないんですよ。そういったこともあって、スタジオの機材をちょっとずつアナログに移行しようとした時に、どうせマイクも買うなら C-800G がいいなと。リセールバリューもちょっと考えながら(笑)。

- Sphere にも C-800G のモデリングが入っていますよね。

Sphere のモデリングもすごく良かったです。好評でした。

- 他にも Universal Audio の製品はよく使っているのですか?

Apollo x6 は前から導入しており、ご好評をいただいております。最初は Apollo Twin でしたが、この部屋に引っ越してからグレードアップしました。色々な要因があるんですが、部屋が変わったことが一番大きかったですね。音を出しても誰にも文句を言われない環境になってから、機材の選び方も変わりました。

Aurora(n)/Apollo x6
▲オーディオインターフェイスは Universal Audio Apollo x6(下)とLynx Studio Technology Aurora(n)(上)を使用

Aurora(n) の音は顕微鏡のように精密でありながら、パッションが失われない


- Lynx Studio Technology の Aurora(n) を導入したのはなぜですか?

AD/DAが優れているためです。UAD を基調としたフルデジタルで完結するスタジオ設計だったのですが、SSL Fusion の導入をきっかけにAD/DAが優れているコンバーターを探し始めました。色々調べていくと単体のAD/DAコンバーターは非常に高額で、それならオーディオインターフェイスごとAD/DAが優れているものに変えようかなと。価格帯を含めて吟味した結果、Aurora(n) の導入を決めました。買って良かったなと思います。コスパがいいというのが、導入の決め手ですね。やっぱりビジネスとしてやっていくと、損益分岐を考えた時に、高けりゃいいというものでもないので。さらに、拡張性の高さも大きな魅力です。Make Hits Labでは、サミングミキサーの導入を視野に入れており、チャンネル数を用途に応じて柔軟に拡張できる点が特に魅力的でした。

- サウンドの印象は?

ものすごく素晴らしいです。いい意味で着色がなくて、すごく素直というか、綺麗に表現できます。歪ませたい時も、歪みの一粒一粒までわかる。どれぐらい歪んでいるかもすごくわかりやすいです。顕微鏡のように精密でありながら、パッションが失われないというか、両方を持ち併せた欲張りな感じですね。音楽ってあまり精密にやると退屈になってしまう時もあるんですが、Aurora(n) には楽しさと正確さが共存している感じがします。

- Apollo との使い分けは?

ミックス、マスタリングは Aurora(n)、レコーディングは Apollo x6 という形で使い分ける方が多いです。先日、タイの HYPE TRAIN ENTERTAINMENT のCEOである NINO さんに使っていただいた際に、Ablton Live の入力を Apollo x6、出力を Aurora(n) にするという設定をしていて、柔軟な発想で素晴らしいと思いました。彼も Aurora(n) の音の良さに感動してインスタに投稿していました。一方で、録音用としてはやはり Apollo の方が需要がありますね。歌やラップは UAD の Auto-Tune をかけ録りすることが多いし、UAD の Marshall アンプとかでギターをガーッと弾いて、その素材を持って帰るクリエイターさんもいますから。

- Auto-Tune をかけ録りするケースはそんなに多いんですか?

多いですね。例えば NAOtheLAIZA さん(音楽プロデューサー)のセッションでは、Auto-Tune をかけ録りするか、あるいはかけた音をモニターに返しているようです。おそらく、ボーカリストが歌いやすいようにってことだと思います。NAOさん曰く、「録りは UAD が必須」とのことです。本当は Aurora(n) も録音用に使ってみたいですが、今はまだそのルーティングができていないですね。

- ルーティングやセッティングでこだわった部分は?

Apple の Thunderbolt 4 Pro ケーブルという高価なケーブルがあって、Aurora(n) だけはそれでPCに直挿ししています。これは気分の問題なんですが、Aurora(n) の綺麗な音をなるべくそのまま、ハブをかまさずにいいケーブルでPCまで届けたいと思って。音の違いを比べたことはないんですけど。

- 音質のピュアさを少しも損ねたくないわけですね。

はい、立体感もあるし、楽しい音ですから、それこそ耳だけじゃなく体に気持ちいいというか、細胞に溶け込むようなサウンドを出してくれる印象です。多分ヘッドホンだけだとわからないけど、スピーカーで鳴らすと波動が飛んでくるんですよ。それを体が覚えてしまって...もう他には行けないですね。耳だけでは捉えきれない何かを感じます。こだわりを感じられる音楽作品を Aurora(n) で聴くと、感動もひとしおです。それに正確に音選びができるから、作業の時短にも繋がります。例えばキックを選ぶ作業も、イケてない音はすぐわかるから、迷わずスルーできます。バシバシッと決めていける。唯一の欠点は、Aurora(n) で聴かないと、音楽の楽しさを汲み取るために脳内変換が必要になってしまうということです(笑)。

- Apollo と Aurora(n) はどんなルーティングで繋がっているんですか?

そこは繋がっていません。マイクから Rupert Neve Designs Shelford Channel → Apollo という流れで PC に音が入って、PCから出ていく時は Aurora(n) に行きます。

- マイクプリアンプに Shelford Channel をチョイスした理由は?

C-800G の導入を決めた後に、それを受けるプリアンプを考えて、いろんな方々にリサーチしたんですよ。そしたら Shelford Channel を挙げる方が圧倒的に多くて。国内で活躍しているエンジニアさんもオススメしていて、海外でも評判が良かったので、音も聴かずに導入しました。自分がトラックを作る時はベーシストに演奏を頼むことが多いので、ベースを録ってもらった後に、リアンプして Shelford Channel で味付けをしたりもします。本当に通すだけでかっこいい音になるし、何とも言えない説得力がありますね。何度でも聴きたくなるようなサウンドになります。

Shelford Channel
▲Shelford Channel

サンプル選びやサブベースを作る作業が楽になった


- Aurora(n) にしてからコンプやEQのコントロールもしやすくなりましたか?

つまみをグイッと動かした時に、気持ちいいポイントが判断しやすくなりました。闇雲に「この辺かな?」ってやっていたのが、「ここが気持ちいい!」と自信を持ってポイントを決断できます。それこそさっきの音選びで言うと、低域のすみ分けがしやすいですね。キックとベースとサブベースのすみ分けとか、100Hz以下の組み方や選び方みたいなのは非常にわかりやすい。サブベースも形が色々あって、サスティンの長さやリリースのタイミングなどはヘッドホンだと追い切れなくて耳がしんどくなってしまうんですが、Aurora(n) だと非常にわかりやすく処理できるっていうのがあります。サンプル選びだったり、サブベースを作る作業は非常に楽ですね。

- 低域がゴチャッとしないんですね。

Aurora(n) を使う前はそういった音の切り分けというか、役割分担も曖昧なままやっていた気がするんですが、いらないところがスパッとわかるから、トラック数も減ると思います。闇雲に音を積まなくていい。

- ここでマスタリングまでしていく方もいますか?

自主制作でリリースする方々はマスタリングまでしていきます。うちの立ち位置は「極上の宅録」なので、個人のクリエイター様からすると敷居がひとつ上で、音楽レーベルからすると、プライベートが守られてクリエイティブに没頭することができてコストパフォーマンスがいい。そんな空間・サービスを目指しています。

- Aurora(n) はどんな人におすすめですか?

Aurora(n) は音楽ジャンルを問わず、音楽・映像作品を創造する方、DTMをされる方、AD/DAをされる方におすすめです。出音が素晴らしく、気分が高揚し、いい作品作りにつながると思います。今後の構想は、Aurora(n) のチャンネルを増やして、Rupert Neve Designs 5057 Orbit(16chサミングミキサー)を入れたいんですよ。5057 Orbit を常に通した状態にすると Neve の卓のような状態になるので、あらゆる作業が Neve のキャンバスでできるから、それが1個の売りになるかなと。Aurora(n) の音を体感すると、本当に音楽っていいなって思うので、その喜びをたくさんの人にシェアしたいですね。

谷さん

写真:桧川泰治

谷 正太郎

1981年1月2日、大阪府・泉南市生まれ。音楽活動を始め、数々のDJコンテストで活躍し、作曲家のマネージャーとしても活動。2014年に MPA の音楽著作権管理者養成講座に合格し、2019年に Make Hits Production を創業、2020年に JASRAC 、 NexTone と信託契約を締結、2022年に商標登録が完了、LDH music & publishing と音楽出版に関する業務委託契約を結び、2023年にはサウンド&レコーディング・マガジンの音響設備ファイルで Make Hits Lab が特集されるなど、音楽業界で精力的に活動している。2024年には電子入札用電子証明書の審査が完了し、株式会社スタジオイクイプメントとの販売店契約を締結した。

Make Hits Production 株式会社
https://makehitsproduction.jp

Make Hits Lab
https://lab.makehitsproduction.jp

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