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Universal Audio : コンプレッサーの基礎知識

コンプレッサーとリミッターは、最小音量と最大音量の幅(ダイナミックレンジ)を狭めるために使われます。コンプで最大音量を整え、平均音量を高く保つことで、サウンドをより洗練されたものにできるのです。そんなコンプの基礎知識と様々なタイプ、使用時のヒントを紹介します。

目次

なぜコンプレッサーをかけるのか?


コンプレッサーは、歪みを加えずにサウンドを微妙に変化させることで、ナチュラルかつ聴きやすい状態にすることができます。また、ハードウェア/ソフトウェアを問わず、多くのコンプレッサーが特徴的なサウンドを持っており、それを利用することで、味気ないトラックに素晴らしいカラーとトーンを加えることも可能です。

ただし、コンプレッサーをかけ過ぎると、音楽のパワーが失われてしまいます。その仕組みを理解し、基本的な知識を身に付けることで、自信を持ってコンプを扱うことができるようになるでしょう。

コンプレッサーのパラメーター/コントロール


使用するコンプレッサーがハードウェアであるかプラグインであるかにもよりますが、コンプレッサーには共通のパラメーターとコントロールがいくつかあるので、よく理解しておきましょう。以下の各コントロールを理解することで、様々なコンプレッサーをスムーズに使用することができます。

スレッショルド

コンプレッサーの効果が有効になるレベルを設定します。トラックのレベルがスレッショルドを超えた時のみ、コンプレッション(圧縮)が掛かります。スレッショルド値が「−10dB」に設定されているとすれば、そのレベルを超えた信号のピークだけが圧縮されます。それ以外の信号に対しては、コンプは動作しません。

ニー

コンプがかかっている状態とかかっていない状態の間を、どのように推移するかを設定します。一般的にコンプレッサーは、「ソフトニー」と「ハードニー」のどちらか、または両方を切り替えて使うことができます。一部のコンプレッサーでは、この2種類のニーの間で、任意の位置に調整することもできます。下図のように、ソフトニーはハードニーよりも滑らかで緩やかなコンプレッションを可能にします。

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▲ソフトニーはハードニーに比べて、よりスムーズで緩やかなコンプレッションが可能だ

アタックタイム

スレッショルド値を超えてから、信号が完全に圧縮されるまでの時間を設定します。ユニットの種類やブランドによって異なりますが、速いアタックタイムは20〜800us(マイクロ秒)、遅いアタックタイムは10〜100ms(ミリ秒)となっているのが一般的です。コンプレッサーによっては、時間ではなく、1秒あたりのdBで傾きを表示するものもあります。アタックタイムが速いと、もともと動きの遅い低域でサウンドが変化してしまい、歪みが発生することがあります(例:100Hzの1周期が10msの場合、アタックタイムが1msだと波形が変化する時間があるため、歪みが発生します)。

リリースタイム

リリースタイムは文字通り、アタックタイムとは逆の意味です。つまり、信号が圧縮された状態(または減衰した状態)から、圧縮されていない元の信号に戻るまでの時間です。アタックタイムに比べてリリースタイムはかなり長く、ユニットによって異なりますが、一般的に40〜60ms(ミリ秒)から2〜5s(秒)程度です。また、時間ではなく、1秒あたりのdBの傾きで表示されることもあります。

一般的に、リリースタイムは、コンプレッサーの周期的な有効/無効による「ポンピング」を生み出さない範囲で、できるだけ短く設定する必要があります。例えば、リリースタイムを短く設定し過ぎて、コンプレッサーがかかっている状態と掛かっていない状態を行き来すると、存在感の大きなパート(通常はベースとバスドラム)がノイズフロアにも影響し、「ブレス」のような音が発生してしまいます。

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▲アタックとリリースを設定し、ソースやトラックに合わせてコンプのかかり具合を調整する

レシオ(圧縮比)

信号に適用される減衰量を比率で指定します。使用するコンプレッサーの種類やメーカーによって、様々な比率があります。「1:1」でレシオが最も低く、ユニティゲイン、つまり減衰がないことを表しています。これらの圧縮比はデシベルで表され、比率が「2:1」だと、スレッショルドを2dB超えた信号はスレッショルドの1dB上まで減衰され、スレッショルドを8dB超えた信号はスレッショルドの4dB上まで減衰されます。

目安として、「3:1」だと中程の圧縮、「5:1」も中程の圧縮、「8:1」は強い圧縮、「20:1」〜「∞:1」はほとんどの人にとって「リミッティング」とみなされ、信号がスレッショルド値を超えないようにするために使用されます。

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▲この図は、レシオが信号全体にどのような影響を与えるかを示している

アウトプット・ゲイン

コンプレッサーを掛けると音量が大きくなったように感じますが、実際には出力レベルが下がっています。ここで登場するのが「アウトプット・ゲイン」、または「メイクアップ・ゲイン」というパラメーターです。アウトプット・ゲインは、コンプレッサーによる減衰を補うために使用します。UA 175B & 176 Tube Compressors などの一部のコンプレッサーには、全体の減衰量をdBで視覚的に示すメーターが搭載されており(「GR」または「ゲインリダクション」モードにすることで使用可能)、それを見ることで適切な量のアウトプット・ゲインを正確に設定することができます。

ハードウェアのコンプレッサーは、真空管かソリッドステートのコンポーネントを使用してメイクアップ・ゲインを実現しており、それがサウンドのカラーやエフェクトの量に影響を与えます。

主な4つのコンプレッサー・タイプ


コンプレッサーの種類は、エフェクトの全体的なサウンドに大きな影響を与えます。コンプレッサーの種類によっては、アタックタイムとリリースタイムが他のものよりも速く、内部のコンポーネントによって、より色付けのあるモデルや、ビンテージの雰囲気を持つものがあります。ここでは、最も有名な4つのコンプレッサー・タイプと、その違いを簡単に説明します。

1. チューブ

おそらく最も古いタイプなのは、チューブ・コンプレッサーでしょう。真空管式のコンプレッサーは、他のコンプレッサーに比べてレスポンスが遅く、アタックとリリースが遅い傾向があります。そのため、他のタイプのコンプレッサーでは得られない、独特のカラーリングやビンテージサウンドを得られます。

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▲20本以上の真空管を搭載したFairchildのコンプレッサーは、ビートルズやモータウンの作品でも愛用された

2. オプティカル

光学式のコンプレッサーは、光素子と光学セルを介して、信号のダイナミクスに影響を与えます。信号の振幅が大きくなると、光素子がより多くの光を発し、光学セルが出力信号の振幅を減衰させます。

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▲スムーズなリミッティングが可能で、ほとんどのソースに最適なTeletronix LA-2A。メイクアップ・ゲインには真空管を使用している

3. FET

FET(Field Effect Transistor)コンプレッサーは、トランジスタ回路で真空管の音を再現します。高速で、クリーンで、信頼性があります。Universal Audio 1176 は、ボーカル、ベース、ギターなどに最適なFETコンプレッサーです。ルームマイクの臨場感を引き出すための選択肢としても人気があります。

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▲初のFETコンプレッサーである1176は、レッド・ツェッペリンからマイケル・ジャクソンまで幅広く愛用されている

4. VCA

高速でパンチの効いたVCAコンプレッサーは、ミックスバスや楽器のグループトラックに使用されるSSLのG BusやEシリーズのロールスロイス・コンプレッションから、スネアやエレキギターに強烈なキャラクターを与える伝説的な dbx 160 の「ホット・ロッド」アティチュードまで、様々な種類があります。

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▲SSLのG BusとEシリーズのVCA回路は、透明感のある柔軟性を持っている

コンプレッサーを使いこなすためのヒントとテクニック


ここでは、コンプレッサーを使いこなすための、いくつかのヒントをご紹介します。これらのテクニックは鉄則ではありませんが、知っておくことで、誤用されることの多いコンプレッサーを、より自信を持って使えるようになると思います。気楽に試してみてください。

  • レコーディング/ミキシング/マスタリングの各工程において、どこかで過剰にコンプレッサーをかけるのではなく、様々な段階で「穏やかに」コンプレッションをかけることが一般的であり、推奨されています。
  • コンプレッサーをかける時は、必ず耳を澄ませてください。コンプレッサーは、楽器の音色に悪影響を与えることがあります。これは単純に、コンプレッサーの種類によることもありますが、多くの場合、演奏の山と谷の間の音色の違いによるものです(山を谷に比べて小さくすると、音色が変わってしまう)。特にビブラートの幅が広い楽器を高速でコンプレッションすると、この現象が現れます。
  • レシオを「2:1」〜「5:1」の中間あたりに設定して使い始めてみてください。アタックタイムを中くらい、リリースタイムを中くらいに設定します。スレッショルドを徐々に上げていき、約5dBのゲインリダクションが得られるようにします。次に、5dBの減衰を補うようにアウトプット・ゲインを設定します。最後に、アタックタイムを極端に速くしてから、少し戻します。
  • 劇的なコンプレッションをエフェクトとして使ってみましょう。例えば、コンプレッサーを使ってクリーンなギタートラックを押し潰してみたり、スネアを引き締めるようにして目立たせると、とてもクールなサウンドになります。
  • ミックス全体にコンプレッサーをかける場合は、注意が必要です。多くのポピュラー音楽には、信号レベルがほぼ一定のベースラインが入っています。管楽器などの大きなピークに対してコンプレッサーを使用すると、そこでミックス全体の音量が下がってしまい、ベースラインも凹み、ポンピングが発生してしまいます。Precision Multiband Compressor のようなマルチバンド・コンプレッサーを使えば、信号を複数の周波数帯域に分割して、個別にコンプレッションできるので、そのような事態を避けることができます。

いつものように、最終的な判断はあなたの耳に委ねましょう。音が良ければ、それは良いことなのです。

― Mason Hicks

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