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Expressive E Touché : ストリングスをリアルに奏でるMIDIコントローラー(3)

インストゥルメンタル・バンド NABOWA のバイオリニスト山本 啓さんが、愛用のMIDIコントローラー Expressive E Touché の魅力を存分に語る連載記事。その最終回は、ライブ現場における Touché の優位性について紹介します。

第3回 ライブ現場におけるTouchéの優位性


優位性1 パラメーターの組み合わせとアイディア次第で、Touchéならではの音作りやプレイが可能

Touché はMIDIコントローラーなので、制作の現場だけではなくライブの現場でも活躍する。僕はバイオリン弾きなので、第1回では「弓のニュアンスやビブラートのニュアンスが出せる」ということ、第2回では「プラグイン音源と併せてどう制作に生かすか」ということに関して書いてきたが、パラメーターを割り当てて音を直感的に変化させられる Touché は、むしろライブの現場でこそ真価を発揮するのかもしれない。

Touché は、本来は同時に操作できないような複数のパラメーターを、「なぞる、叩く、ゆらす」といったアクションによって、無段階で混ぜながら操ることができる。特に、リアルタイムで演奏をしなければならないライブの現場では、パラメーターの組み合わせとアイディア次第で、Touché でしかできない音作りやプレイができ、他のプレイヤーと差を付けることができるだろう。

■セッティング例1

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使用ソフトシンセ:ARP2600
・手前を押す動作→OSC3 Volume
・左を押す動作→OSC1Volume
・右を押す動作→OSC2Volume
・奥を押す動作→Dylay DRY/WET

アルぺジエイターをオンにして、Touché を上記のセッティングにする。すると、手前から奥に徐々になぞっていくことで少しずつディレイがかかっていくのに加えて、途中で少し左右に重心を移してOSC1やOSC2の音を微妙に混ぜながら音を変化させることで、ライザーとして使えそうなサウンドがシームレスにコントロールできる。

■セッティング例2

img2

使用ソフトシンセ:Prophet5
・手前を押す動作→Noise Volume
・左を押す動作→OSC1Volume
・右を押す動作→OSC2Volume
・奥を押す動作→Env Filter Amt

このセッティングでは、薄いホワイトノイズの中から、シンセの実音をフィルターでコントロールしながら登場させるというプレイが可能だ。ライブの始めのドローンな雰囲気作りに使えそう。

ちなみに、上記2つの方法をノブでやろうとすると、おそらく手が3本必要だ。Touché はノブで操作するよりはるかに直感的に操作が可能なうえ、手を離すとスプリングによりゼロ地点に戻るので、そのシーンが終わってもいちいちすべてのノブを元に戻す必要がない。

手前から奥に真っ直ぐなぞるという動きは人間の手には難しいので、少し右や左にブレてしまうのだが、イレギュラーなプレイになることで、より演奏が人間臭くなる。電子音をツマミで操作する時に、たまに感じる機械っぽさが嫌な時にも一役買ってくれそうだ。


優位性2 違和感なく持ち運べる、サスティンペダルと同等のサイズ感

さて、この記事を読んでいる人は、おそらく動画か何かで Touché を使用している様子を見て、「おお、こんな方法を採用してる機材があるのか!」と驚いて興味を持ち、検索されたはず。なので、あえてこう書くが、操作感については見りゃわかるというか、ご想像通り非常に画期的で、革新的で、最高。手触りも良い。

なので、ライブ現場での Touché については、あえて違う角度から優位性を描きたいと思う。なぜなら僕は演奏家であり、作曲家だけど、ハードなツアーをやりまくっているバンドマン18年生でもあるからだ。

2019年まではバンドと個人で合わせると年間平均100本ほどライブをやっていたし、最高で3日で5本(全部別の場所で)のライブをやったこともある。「夕方に福岡、夜は岡山」や「今日は群馬の後、沖縄へ移動」、そして「今日大阪でワンマン、明日は日帰り北海道」。極め付けは「0泊3日で東北でライブ、京都に帰ってもう1本ライブ」といったギャグのような行程を何度もやった。そんな僕の、リアルなライブの現場の話として読んでほしい。

長年のライブ経験によって色々学んだことがある。そのひとつが「ライブにおいては、どんなに良い機材でも、持っていけない物は使えない」ということ。

「ライブにおいては、どんなに良い機材でも、持っていけない物は使えない」

大事なことなので2回書いとこう。

多分、ライブ機材にとって、このことは一番大事である。実際、可搬性を優先せねばならず、涙を飲んで音を諦めるという悲劇に何度も遭遇した。「ライブで使えるかどうか」を考える時、案外大事なのがそのデバイスの大きさなのだ。

僕も昔、「音は最高、操作感も申し分ない、戦車で踏まれても壊れないタフさ! けど、重さ8キロ!」というマルチエフェクターを使っていて、その他のエフェクター、ケーブル、ハードケースなどを含めると全体で20キロになってしまったことがある。現地スタッフが「あ! 僕、持ちますよ!」と言って持とうとして、動かないカバンのパントマイムのようになってしまうほど重かった。結局、誰かが腰をイワす前に使うのをやめた。

どんなに良い機材で、どんなに操作性が良くても、重くて大きい機材はいつか使わなくなるのだ。演奏家の仕事のかなりの割合を占めるのは、実は「移動」なのだから。それを踏まえ、さあ、Touché を持ってみてほしい。現物が目の前に無い方のために、サイズと重さを書いておこう。

  • サイズ:246(D)×100(W)×62(H)mm
  • 重さ:770g

軽い。そして小さい。。。産まれて数週間の子猫くらいだ。

これは僕の予想だが、Touché が主に鍵盤に使うもの、しかも「足す」ものとしてデザインされるにあたり、この大きさを超えてはいけないとか、この重さだと使ってもらえないとか、そういうことをメーカーは考えたに違いない。Touché の大きさは、ざっくりサスティンペダルと同じくらいの、鍵盤奏者には馴染みのあるサイズ。いつもの機材と違和感なく、共に運べる。

飛行機に乗る時、手荷物に入る、頑張ればポケットに入るサイズ。鍵盤は借りることができても、Touché のような個性的かつ替えが利かないデバイスは借りられない。それが、まず運べるサイズにまとまっていることは本当に素晴らしい。

もう一度書いておこう。「ライブにおいては、どんなに良い機材でも、持っていけない物は使えない」。

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▲楽器ケースのポケットにも収まるサイズ

優位性3 配信ライブで映えるデザインとパフォーマンス性

さて、コロナの影響でライブが激減した2020年、僕も本数で言えば半減どころではないほど減った。しかし逆に急成長したものがある。そう、配信ライブだ。2020年は「配信ライブ元年」と言っていい。

多くのミュージシャンが「カメラの前でどうやってライブするか」という慣れない課題をクリアすべく、試行錯誤しながらアレコレ試しているし、思ってもみない問題が起こったり、逆に「そんなところが好評なの!?」ということもしばしば。

その中で意外とお客さんから興味を持たれたのが、機材のことだ。そういえば、普通のライブでは足元や手元が見られることはないが、配信ライブではそれが結構アップで映ったりする。なので、操作するところを、配信ライブで初めて目の当たりにする人も少なくない。「あれは何ですか?」とか「足でも何か色々忙しくやってるんですね」と言われたり、同業者から「あれ使ってるんだね! 俺も持ってるよ!」と言われたりと、手元や足元を観ることができる配信ライブでは、機材がコミュニケーションのきっかけになることがある。

断言できるが、配信ライブで、Touché は、映える。機材の記事で音以外のことをつらつらと書いて申し訳ないが、ライブの現場では、ものすごく大事な話なのだ。Touché は「うわ、あれ何??」と目を引くし、操作しているところもパフォーマンス的にかっこいい。あと、本体のデザイン自体もめちゃくちゃクールである(この辺は僕の感想ですが)。ライブにおいて手元や足元も見られることになったのなら、実用性はもちろん大事だが、そこはカッコいい方がいいに決まっている。

ライブで多くの人に手元が見られる世の中になったことで、実用性も兼ね備えた Touché のような機材は、この時代にフィットしたデバイスであると言えるだろう。

山本 啓(やまもと ひらく)プロフィール

京都を拠点に活動している4人組インストゥルメンタル・バンド NABOWA のバイオリニスト。国内外大型フェスへの出演や、近年は、台湾3都市ツアー、香港ワンマンを行うなどライブアクトとしてアジアでも高い評価を獲得している。2021年6月に2年ぶり7枚目のフルアルバム『Fantasia』をリリースした。

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