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Expressive E : ストリングスの打ち込みに重宝するMIDIコントローラー(2)

インストゥルメンタル・バンド NABOWA のバイオリニスト山本 啓さんが、愛用するMIDIコントローラー Touché の魅力を、現場でのエピソードを交えて紹介する連載。第2回は Touché に対応した同社のストリングス音源 Arché について解説します。

第2回 ストリングス音源「Arché」+人間の存在感を足す「Touché」


Touchéをなぞったり揺らした時の音色の変化が弓っぽい

私はバイオリン奏者なので、Touché に最適かされた Arché というストリングス音源を操作した時、「よっしゃ」と思った。理由は2つある。ひとつは、ピチカートの音がリアルで、Touché のコントロール感というか演奏の理屈のようなものが本物のストリングスに近いから。もうひとつは、Touché を「なぞる」「揺らす」といった操作と、それに応じた音源の変化が、かなり弓っぽいからだ。

Arché には Arché ViolinArché ViolaArché Cello の3種が用意されており、出せる音域の幅が広いだけではなく、ボディの大きさの差により音のレンジが分けられていている。たんにバイオリン、ビオラ、チェロを高音と低音で分けているわけではなく、楽器そのものの音が結構違うということをちゃんと考慮して設計されているようだ。

▲Arché Violin

Arché Violin はクリアで抜けてくるようなトップの音らしい印象、Arché Viola は Violin に比べて深みのある音色、Arché Cello は落ち着きのある印象だった。Arché 単体で音を鳴らすと、「たんなるエレキストリングス音源なのかな?」と思うが、Touché と組み合わせて使うことでポテンシャルを発揮するようで、急に活き活きとし出すのには笑ってしまった。

バイオリンという楽器は、弓の根元と先では弦に当たる毛の量が違うので音色が変わるし、弓の圧が変わると音の大きさだけじゃなくて、音色も一緒に変わるものだ。その辺りも含め、かなり細部までシミュレートされているのが感じられて、バイオリン奏者としては触っていておもしろい。

▲Arché Cello

最近のプラグイン音源の進化は凄まじい。ソロのバイオリンなら、それが音源か本物か、バイオリン奏者の僕なら大体聴き分けが付くが、オーケストラの音に関しては正直な話、本物か音源か聴き分けが付かない。その中に1〜2本でも本物のバイオリンの音が混ざっていたら、おそらく作った本人か、もしくはその作品の予算感を知る人にしかわからないと思う。本物のバイオリンとプラグイン音源の最大の違いが何かと言うと、プラグインの音は“正確過ぎる”のだろうと思う。皮肉な話、うまいオケの音は逆にプラグインっぽくなるという話がある(僕の中で)。

オーケストラでは、「この小節の、この音は、弓のこの部分を、こういう感じで弾きましょう」みたいなことをしっかり決めて、それをパート全員が守って弾くことが求められる。うまいプレイヤーが揃うオケであればあるほど、音の粒のようなものが本当にピッタリと揃っている。パート単体で聴くと「機械的」な美しさがあり、それが他のパートと混ざりながら、指揮者のセンスと共鳴するから有機的な響きになる。ということなんだろうなと、プロオケのパート練習を見た時に思った。

それぐらい、各パートを単体で聴くとビシバシ揃っていて鳥肌が立った(あ、僕この中に入ったらめっちゃ怒られそう……って思った)。つまり、それだけ綺麗に揃っているということは、逆に言えば、機械的にかなりリアルに再現可能なのではないかと。逆にソロパートは、プレイヤーの個性が色濃く出るので、ビブラートひとつとっても1音の中で変化するし、弓の返し方も一定ではない。未来はどうかわからないけど、現在においては、まだソロパートを打ち込みで再現するのはかなり難しいと思う。

ちなみに、「打ち込みのオーケストラ音源の中で、ソロパートとその他のパートを少し補う形で、本物のバイオリンを弾く」というやり方で、数年前に友人と作った映画のサウンドトラックが、海外の映画祭で最優秀音楽賞を獲得した。なので上記の仮説はわりと正しい気がする。そして、感染症対策、予算削減の両方の観点からそういう制作スタイルは今後増えるだろう。


ウルフノイズが変化する感覚まで再現

さて、前置きが長くなった。Touché の話に戻ろう。前回の記事で「このデバイスは弓のニュアンスとビブラートのニュアンスが出せる」 と説明したが、これって前述の現状を少し前に進められるということなんじゃないかと思う。

例えばオーケストラ音源なら、Touché を使えば“指揮者のように複数の同じ楽器を鳴らす”のに近いことができる。元々プラグイン音源は音の粒がプロオケ並みに揃っているわけだから、その波を全体で揺らせばかなり有機的な音になるのだが、数値で打ち込む必要があるため「もっとこう直感的にやりたいのに!」とイライラしてしまう。それに、数値で打ち込んだ揺れは、聴いていてもなんだか数値を感じるというか、何というか……。

その点、Touché の場合、以下のように設定すると、実際の楽器を弾く感覚にかなり近くて使いやすかった。

1. 板の手前側から奥に撫でる動作でクレッシェンド(音をだんだん大きく)

2. 板の奥側を叩くとピチカート

3. 横に揺らしてビブラート

もちろん慣れるまでに多少の訓練は必要だが、結構ノリノリでプレイできる。

▲Touchéの各種設定を行うための付属ソフト Lié(リエ)

特に音源を Arché にすると、音そのものはエレキバイオリンだが、クレッシェンドの動作でウルフノイズ(実音の他に鳴る、弓の毛が弓を擦っている雑音のような音)がちゃんと変化した。バイオリンのクレッシェンドは普通、弓の先から根元にかけて、だんだん弓圧を強くしてかけていくことが多いが、ウルフノイズもそれと共に変化する。というか、根元に行くに従って多くなるのだが、その感覚が Arché ではちゃんと再現されていて、「おおっ」と声が出た。ピチカートの音に関しては、「え……もう重ねパートならコレ使えますやん」という感じでかなりリアル。板の先端を叩く動作も弦を弾く感覚に近く、本物っぽい。

そして、Touché は平たく言えばMIDIコントローラーなので、他の音源のパラメーターを各動作に割り当てて使うこともできる。例えば、リードシンセをバイオリンのように弾くみたいなこともできる。

今後、音源の進化はまだまだ進むのは間違いない。Touché の操作で人の動きのニュアンスを足し、有機的にプラグイン音源を鳴らすことができれば、バイオリン弾きじゃなくてもその音を加えられる。楽器のテクニックの部分を飛び級した人が、イメージとセンスでとんでもない作品を作る未来を予感せずにはいられない。

写真:桧川泰治

山本 啓(やまもと ひらく)プロフィール

京都を拠点に活動している4人組インストゥルメンタル・バンド NABOWA のバイオリニスト。国内外大型フェスへの出演や、近年は、台湾3都市ツアー、香港ワンマンを行うなどライブアクトとしてアジアでも高い評価を獲得している。2021年6月に2年ぶり7枚目のフルアルバム『Fantasia』をリリースした。

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