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sEマイクで始めるホーム&スタジオレコーディングのテクニック:#10 ドラムレコーディング【12本のマイクを使ってのドラムレコーディング】

sE Electronics マイクを使ったレコーディングに役立つTipsをご紹介します。ナビゲーターは AT-Music 代表の辻 敦尊さんです。

こんにちは、AT-Music の辻敦尊です。

これまで複数回に渡って説明してきましたドラムレコーディングも今回で4回目となり、一応このテーマはこれで締めくくりにしたいと思います。

今回はさらにマイクの本数を増やし、プロの現場でも用いられることの多いセッティングパターンを例に説明していきたいと思います。

最初に今回のセッティングから説明していきましょう。下図をご覧ください。

今回、オーディオインターフェイスは8チャンネル分のマイクプリを搭載した Universal Audio Apollo 8p を使用し、そこへ同社のマイクプリ 4-710d (4チャンネル分のマイクプリを搭載)をADAT接続して使用したいと思います。

ADAT接続によるマイクプリの増設方法は以前のテーマでも説明しましたが、今回はオーディオインターフェース側(Apollo 8p)をワードクロックのマスター機器として使用したいと思いますので、その場合のポイントについて今回は説明をしておきましょう。

まず、ADATケーブルで 4-710d の【ADAT OUT】から Apollo 8p の【ADAT IN】に接続するまでは前回テーマの時と変わりありません。大切なのはここからです。

Apollo 8p の【WORD CLOCK OUT】と 4-710d の【WORD CLOCK IN】をBNCケーブル(75Ω)で接続します。そして Apollo 8p 側の【WORD CLOCK ターミネーションスイッチ】はOUT=OFF(押し込んでいない状態)に、4-710d 側の【WORD CLOCK ターミネーションスイッチ】はIN=ON(押し込んでいる状態)にします。

次に、4-710d のフロントパネル右下に位置している【SAMPLE RATE】ノブを一番右に回し切り【W/C】(WORD CLOCKの略表記)が選ばれている状態にします。

これでハードウェアの設定はひとまず完了です。

わかりやすいよう結線イメージ図も準備しましたので、こちらもご覧下さい。

次にソフトウェア側の設定について説明します。

Apollo コンソールの左下に位置している【SETTINGS】ボタンを押し、【Cosole Settings】ダイアログを開きます。そして下図の赤枠で示している【CLOCK SOURCE】プルダウンメニューから【INTERNAL】を選択します。

そして同じく【Console Settings】ダイアログの【DIGITAL INPUT】ダイアログメニューから【ADAT】(下図黄枠で示している箇所)を選択します。

以上で Apollo 8p をクロックマスターとして使用しながら、外部マイクプリ 4-710d をADAT接続して使用する準備が整いました。

続いて、今回はマイクの本数も多いことですから、作業がスムーズに進めていけるよう入力系統に関する名前付けもしておきましょう。

名前を付けておくと作業がスムーズになる箇所は主に3か所あります。

1か所目は Apollo コンソールのチャンネル名
*今回は下図(赤枠内)のようにしてみました。

2か所目はDAWの入力系統の名称
*例えば Avid ProTools であれば【I/O設定】の【インプット】タブ内で下図(赤枠内)のように名前付けしたりすると作業がスムーズになるでしょう。

3か所目はDAW上に作成しているトラック名となります。
*2か所目の【インプット】タブで設定した内容は赤枠で示している形で見えるので、各トラックへの入力系統を選択する際に便利と思います。

さぁ、ここまで準備が整ったら次はマイクプリとマイクを接続しながら各ドラムのパーツへマイクを立てていきましょう。

マイクを立てていく順番に決まりはありませんが、私の場合は楽器に近くそして低い位置にあるものから立てていくようにしています。その方がスタンドの脚まわりも比較的キレイにセッティングしていけるように思えるためです(今回の場合であれば、バスドラム→スネアドラム→タムorフロアタム→ハイハット→ライドシンバル→オーバーヘッド→アンビエントマイクの順番で立てるようにしました)。

なお、バスドラム、スネアドラム、オーバーヘッド、アンビエントマイク(3to1 Ruleでドラムの前面にセッティング)は 前回のテーマ で説明した内容と同様にセッティングしますので、今回は説明を割愛させていただきます。

今回は、これまでに説明をしてきていないタムやフロアタム、そしてハイハット、ライドシンバルなどへのマイキングを中心に説明していきたいと思います。

まずはタムとフロアタムから始めていきましょう。

基本的にタムもフロアタムも私の場合は同じ考え方で立てていくようにしています。

サスティンが長めのサウンドで収録したい場合であれば、ヘッドの中心あたりにマイクを向けて立てるようにします。

サスティンが短くタイトなサウンドで収録したい場合は、ヘッドの外側にマイクを向けるようにします。

アドバイス!
マイクによって角度をつける効果は大きく異なってきますので、色々なマイクで試してみることをオススメします。

それぞれのセッティングで収録したサウンドサンプルを準備しましたので試聴してみて下さい(今回使用したマイクの指向性やサウンドキャラクターだと角度をつけた効果がわかりにくいかもしれませんが、参考までにお聴き下さい)。

前半はマイクをヘッドの中心を向けたサウンド、後半はマイクをヘッドの外側に向けたサウンドとなっています(タムを叩いた後に続けてフロアタムを叩いて一式としています)。

*このサウンドサンプルはコンプレッサーやEQなどの処理は施さずに音量調整だけで調整したサウンドとなっています。
**良いモニター環境で聴いていただけるほど、サウンドキャラクターを感じていただけるかと思いますので、スマホなどで確認される方はイヤフォンやヘッドフォンで聴いてみていただけたらと思います。

いかがですか?違いを感じていただけましたか?

のちほどドラムセット全体でのサウンドも聴いていただきますが、そちらではマイクをヘッドの外側に向けたセッティングを用いてみました。

では次にハイハットへのマイクの立て方について説明していきましょう。

私はハイハットへマイクを立てる場合、スティックのチップ(先の部分)がハイハットに当たる細かいニュアンスを録ることを目的にしているので、奏者のスティックの動きにあわせマイクの立て方をいつも変化させるようにしています。今回の奏者である真朗太氏の場合には下の写真のように立ててみました。

ここでのポイントとしては、スティックの反対側からスティックのチップを狙うようにはしないという点です。スティックの反対側から狙ってしまうとドラムセットの内側を向く形になってしまい、フロアタムの音などが大きく乱れた状態でカブってきてしまったりするためです。

次にライドシンバルについてですが、こちらも考え方はハイハットと同様で、私の場合はオーバーヘッドのマイクで収録したサウンドだけではライドシンバルを刻むニュアンスに不足を感じるような時に、ライドシンバルへマイクを立てるようにしています。

また、ライドシンバルの場合にはハイハット以上にメーカーやサイズなどでサウンドバリエーションが大きく変わってくるのでマイクとシンバルとの距離などはその時々で大きく異なってきます。ただ、スティックのチップが当たる範囲に向けてマイクを立てるようにするのはハイハットと変わりはありません。今回の場合には下の写真のように立ててみました。

さぁ、以上でドラムレコーディングを目的に12本のマイクを立てたわけですが、どのようになったかを写真でご覧いただきましょう。

そして今回のセッティングによって実際に収録したサウンドを最後にお聴きいただきましょう。

*このサウンドサンプルは各マイクで収録したサウンドにEQ処理を施し、全体に少しだけコンプを掛けたものとなっています。

これまで紹介してきた2本のマイクによる収録サウンドや6本のマイクによる収録サウンドとの違いをどのように感じていただけたでしょうか?

大切なのはマイクの本数ではなく、どのようなサウンドを収録したくてどんなマイクを使用し、どのように立てるかということです。

例えば今回のように12本のマイクを使ってレコーディングしても、ミックス時に全てを使用しなければならないというものではありません。イメージするサウンドをしっかり意識して、それを具体化していくことが大事なんだと思います。

最初の頃は失敗と思うようなことが何度もあるでしょうが、諦めずにしっかりと反省し、どこに失敗の原因があったかを振り返りながら一歩ずつ取り組んでいけばきっと成長していけるはずです。それに向けてここで説明した内容が少しでも手伝いになるのであれば嬉しく思います。これまで10回に渡ってお届けしてきたこの連載ですが、今後は少しテーマなどを変化させた形でまたお届けしていけたらと考えています。

タイミングや機会があればセミナーやワークショップ的なものも開催できたらと思ったりもしています。

ここまでご覧いただきありがとうございました。

辻 敦尊(つじあつたか)

音楽家・クロスメディアアーティスト

中学時代より作曲とギターを始め、20歳からプロとしての音楽家活動をスタート。

近年では企業向けに音を中心としたコンテンツの提供や開発協力などをおこなう事が多く、3Dコンテンツ制作や立体音響コンテンツ制作、映像コンテンツ制作、プログラミングなど幅広いジャンルで制作プロジェクトに関わっている。

最近のリリース作品としては大久保茉美「Oboe Music」やそがみまこ「花束」などがある

AT-Music 代表
AT-Music オフィシャル ホームページ

真朗太(マロウタ)

1983.7.12生まれ

高校よりドラムを独学で始める。
19才より上京し、ヤマハ音楽院に入学。
在学中からプロドラマーとしての活動を開始。 卒業後は数々のライブ、レコーディングに参加。
現在はメジャー、インディーズ問わずポップス、ロック、演歌、映画音楽等のジャンルを主にLIVEやレコーディングの現場で活動中。

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