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生楽器のミックスに MBT、マスターに MBP をインサートする
- PAチームでは主にどの製品を使っているのですか?
佐々木(優):Portico II Master Buss Processor(以下 MBP)と MBT : Master Bus Transformer(以下 MBT)です。どちらもプレミアムな機材なので、使えるメンバーを制限していて、持ち込める現場のグレードも精査しています。本来ならどの会場にも持ち込みたいですが、かなり高級な機材なので、費用対効果を考えてホールクラスのライブ以上なら使用OKとしています。
青木(繁男):MBP は良いミックスができてこそ活きる機材なので、基礎ができているオペレーターが使います。そうしたオペレーターは大きい会場を担当することが多いので、必然的にそういった現場で多く使われます。
佐々木:一時期 SSL Fusion が流行って、価格帯も安かったので、一斉にPAエンジニアが飛びついたんですよ。弊社でも導入を検討しましたが、その後に MBP が出たので、こちらを選びました。MBP はトランスとかが入っていて、シンプルに重さの説得力がすごいです。Fusion は2Uで多分1kg程度とすごく軽い。そして、音を通せば一発で違いがわかります。MBP はちゃんとしたミックスを通せばすごく良い変化が起きるし、使い勝手もいい。単体でも、ミックスバスでも、マスターでもいろんな使い方ができるのは、すごく大きいですね。

- どんな使い方をすることが多いですか?
佐々木:僕らがよくやるのは、歌やシーケンス以外の生楽器のミックスに MBT をインサートして、マスターに MBP をインサートするという2段がけです。色々試した結果、MBT と MBP を組み合わせるのがすごく良かったですね。今は当たり前のように全てがデジ卓で、96kHzがFOHの標準ですが、MBT や MBP は通した後の音がアナログライクというか、質感が機械じゃなくなる感じがあるんです。少し生っぽくなるというか、全てデジタルではない扱いやすい感じのミックスに持っていけます。
- ある程度ミックスが仕上がった段階で使用するんですか?
佐々木:はい、ブラッシュアップに使います。挿した状態と外した状態を聴き比べると違いは一目瞭然です。仕上がりが整って、奥行きも押し出しもすごく出ます。特に MBT の SUPER SILK は効果的ですね。ヤマハの卓にも SILK は実装されていますが、あれとは別物です。SUPER SILK は、かけ過ぎても邪魔な音にならない。これがデジタルとアナログの違いだと思いました。あと ZENER DRIVE(ダイオードベースのソフトクリップ回路)がすごくいい。倍音のお祭りみたいな感じで、ある程度突っ込まないと反応しないけど、バンドの2ミックスとかに使うと綺麗な倍音がいっぱい出て、奥行きや広がりがさらに出ます。もちろんバンドのサウンド感に合わせて、ローとハイは調整します。

- EQやコンプの効き具合はいかがですか?
佐々木:いい意味でナローに綺麗に効いてくれるので、もう少しブライトにしたい時や、もう少しラウドにしたい時に調整しやすいですね。カラーコンプも普通のコンプとは少し違って、ある程度突っ込んでも変な潰れ方をしません。倍音に特化したコンプなんだと思います。しかもブレンド具合で遊べます。結構突っ込んでも、ブレンドを少し薄くすれば良いところだけが出てきてくれますから、これを使わないケースはあまりないですね。
- MBP はその後のマスター段に挿すわけですね。
青木:昨今、バンドとシーケンスの音を高解像度で扱えるようになった反面、ミックスではまとまりが作りにくくなっているので、MBP をマスターに挟むことで高品位なサウンドになり、仕上がりも良くなります。プラグインも使いますけど、こういったアナログ機材を通すことで、よりリッチなサウンドをお客さんに届けられるんじゃないかと思います。
佐々木:そうですね、最後にかますことでまとまり感が作れます。音数がすごく多い現場だと、よりまとまる感じがありますね。似た感じのプラグインはいくつもあるけど、全然ものが違います。
青木:ただ使い方が難しくて、4〜6dBくらいリダクションさせた方が MBP の良さは出るんですけど、大きな会場だと聴こえ方が違ってしまうので、リダクション量を3dB以下にセーブしています。ちょっと突くだけでも効果は如実にわかるので。本当は6dBくらいリダクションした方がドライブ感が出るけど、それをPAでやるのは正解ではない気がするので、日々模索中です。アナログの良さは正解が見えないことなので、どんどん試していこうかなと。MBT に関しては、制作でもライブ現場でも使い勝手は一緒です。
佐々木:MBT はいい意味で何も変わらないところがすごい。よく、通すだけで音が良くなる機材とか、その逆もありますけど、MBT は本当に変わりません。それでいて、色々調整していくとちゃんとアナログの感じになっていくんです。

RNDI は原音に忠実。味付けがないところがいい
- RNDI シリーズも使っているんですね。
青木:信頼と安定の Rupert Neve Designs からDIが出てきたら当然使います。
高橋(雄大):僕はいま RNDI をベース、RNDI-S をキーボードで使用することが多いです。ベースに使うと、ローの出方が他のDIとは違いますね。海外の会場だと、ローの調整が甘くて出しにくいことがありますけど、スピーカーをチューニングして RNDI を使えば、ローの出方もいい感じになります。だから低音がしっかり出てほしいバンドの時に、RNDI が活躍してくれます。鍵盤に関しては、高音の出方が痛くなく、ちゃんと抜けてくれるので、卓のEQで処理する必要がなくなります。5年ぐらい同じ RNDI を使っていますが、結構ハードな扱い方をしていても、トラブルが起きたことは1回もありません。
佐々木:この5年くらいで RNDI を使う人がすごく増えましたね。PAだけでなく、ベースやキーボード、ギターのプレイヤーが自分で持ち込んで通すこともあります。インピーダンスとかを気にする方は特にそうですね。
高橋:RNDI で受け切れなかったライン楽器はないですね。他のDIはたまにありますけど。
佐々木:8chの RNDI-8 を使っているキーボーディストは多いですね。アウトが8chあるので個別にも取ることができるし、通した後に手元のミキサーに入れて、そこからPAがもらうこともあります。RNDI-8 の製品ページに「その低域は豊かで奥行きを感じることができ、高域はとてつもなくクリアで嫌な雑味を一切含みません」と書かれていましたけど、まさにその通りです。
高橋:原音にすごく忠実ですよね。味付けがないところがいい。
佐々木:測ったわけではないけど、各メーカーのDIってそのDIの音になってしまうんですよ。COUNTRYMAN はブラインドでわかるほどだし、一時期流行した Avalon もどうしてもその音になってしまう。それに対して RNDI はフラットカーブっぽい。その楽器の音がそのまま出てきます。
高橋:変な色付けがされないから、アーティストとも話が早いですよね。
青木:確かに「この音は RNDI だよね」って話は聞いたことがない。原音のまま出したい音がそのまま出るので、プレイヤーがDIを持っていなければ、とりあえず RNDI に繋いでどんな音か聴いてみるようにしています。

- ヘッドホンアンプの RNHP もありますが、これもライブの現場で使うんですか?
佐々木:プロデューサーさんなど、音を決める立場の方に2ミックスを確認してもらう時には、RNHP で聴いてもらうようにしています。嘘じゃない音でちゃんと聴いてもらえますから。現場によっては小型ミキサーがヘッドホンアンプ代わりに使われていることもありますが、それだと一生懸命音を作っても結局レンジの狭い音でチェックされてしまう。RNHP ならそのままの音を聴いてもらえます。小型ミキサーだと卓のラインアウトを受けた時に歪んでしまうこともあって、解像度を下げざるをえないんですが、RNHP ならそういうことは絶対にありません。ヘッドルームが巨大なので、大きなレベルで入れても歪まない。ちゃんとしたバランスの音を聴いてもらえるから本当に重宝しています。
青木:RNHP はフロントにインプットセレクトが付いているので、客席側に出ている音と、演者さんのイヤモニの音を切り替えて確認できる点も便利ですね。演者さんのイヤモニに届いているクリックや指示と、客席側の音を両方確認しなければいけない立場の方に、インプットAとBを切り替えてチェックしてもらえる。こういった使い方もします。
佐々木:端子の作りも秀逸ですね。ミニステレオで入れてもキャノンで入れても劣化がないのは、すごくこだわって作られているんだなと思いました。どれも同じ音をしていて、一貫していますね。

- アウトボードからDIやヘッドホンアンプまで、本当に幅広く Rupert Neve Designs の製品を活用していますね。
佐々木:今ここにはないですが、実はもう1台、5045 primary source enhancer という秘密兵器があります。これは元々ヤマハの卓に標準で装備されているプラグインですが、その実機が海外のオペレーターの間で流行ったんですよ。FOHに3〜4台入っているのをよく見かけます。
高橋:スレッショルドを決めて、音が入力されていない時に、設定したレベルだけ音量を下げるというものです。ボーカルの被りを減らすために使っています。例えばマイクから離れている時や、歌っていない時に、ボーカルのレベル自体をグンと下げてくれるんですよ。
佐々木:5045 は本当に歌っている時だけ開いて、ナチュラルにその音を活かすことができます。ゲートとはまたちょっと違う効果で、被りがなくなる分、他の楽器のミックスがクリアに出せる。デジタルのプラグインだと本番中の誤操作がリスキーですけど、こういうアナログ機器だと、事故なく操作できるという利点もありますね。

写真:桧川泰治
佐々木 優
2000年よりPA業界に身を置き、フリーランス時代に青木氏と出会いライブデートのスタートアップメンバーとなる。MY FIRST STORY、ヨルシカ等PAを担当。自社案件としてボカロ系アーティスト現場のサウンドデザイナー、PAも担当している。
高橋雄大
2007年よりPA業務を開始。2019年より株式会社ライブデートに在籍。ロック、ファンク要素を含むバンドサウンドを軸に、国内外のライブやツアーでPAを担当。海外公演でのPA経験を踏まえ、現場環境に応じたサウンドメイクを担当している。
