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sE Electronics : ドラムマイク導入事例 @ 三軒茶屋Heaven's Door

東京・世田谷区の老舗ライブハウス Heaven's Door では、ドラムの収音用に sE Electronics のマイクを導入し、より現代的なドラムのサウンドメイクを追求しています。同店のPAに携わるエンジニアの杉山 茂氏、矢野美恵子氏、古市泰敬氏に、導入までの経緯と使用感を聞きました。

全体的にドラム周りの音抜けが良くなった


- まずはドラム用のマイクを入れ替えた経緯から教えてください。

杉山:僕がこの Heaven's Door に関わるようになってから、使っているマイクの状態があまり良くないのが気になっていて、新たなマイクの導入を検討していたんです。sE Electronics(以下sE)のマイクについては安価なわりにちゃんとしている印象があって、大手メーカーでプロオーディオ機器の開発に長年携わった人達が関わっている点でも注目していました。ヨーロッパでは Neumann や Senheiser、AKG あたりから技術者が抜けて独立系の会社がいくつか立ち上がりましたが、その中で sE のマイクは構造的に見ても、伝統的な作り方をしながら低コストでやっていたんです。

- 今までに使用したことはあったのですか?

杉山:僕は単一指向性のペンシルコンデンサー sE7 と、無指向性の sE8 omni を両方ペアで持っていて、先日もレコーディングで sE8 omni を使いましたがドラムの音が本当に自然に録れます。今までのマイクと違って、ある意味個性がない、聴いたままの音が録れるという印象です。Shure SM57 や Senheiser MD421、AKG のマイクなどは色付けがとても強いのですが、sE はそれとは違って聴いたままが録れるナチュラルな感じですね。それはこれからの方向性としてはとてもいいかなと。エンジニアとしても新しい発想を得ることができるんじゃないかなと思いました。今までだと SM57 はこういう音、MD421 はこういう音っていう概念があって、それぞれのメーカーがマイクに個性を付けようとしていたと思うんですが、sE はそれとは違う方向性を模索している気がします。指向性のコントロールはしつつも、なるべくナチュラルな音が録れるような方向性ですね。ただ、アリーナツアーやホールツアーで導入する場合、今まで使っていたマイクじゃないとどうしてもミュージシャンが不安になったりするので、まずはこういうライブハウスから使い始めてみようかなと。そうして技術的なノウハウを僕自身も蓄積したいと思ったわけです。

Heaven's Door
▲三軒茶屋Heaven's Doorのステージ

- 実際にライブの現場で使い始めてみてどうでしたか?

矢野:主にドラムで使っているのですが、ナチュラルな音質でわりあいフラットな印象ですね。今までキックに使っていた Senheiser のマイクなどと違って、クセがないぶん正直最初は戸惑った部分がありましたが、使っているうちにそのナチュラルな感じにも慣れてきて、いろんなジャンルに対応できるタイプなのかなと思いました。

古市:僕の印象も同じく自然な感じで、余計なEQとかをせずに録れますね。ペンシルコンデンサーの sE8 は上の方まで綺麗に録れるし、キック用の V KICK も身の詰まった重心が低めの音がそのままドスンと出るので好印象でした。違和感を感じる部分はなかったです。

- ドラムのマイクを変えたことによるバンドサウンド全体への影響は?

古市:全体的にドラム周りの音抜けが良くなったと思います。今までのマイクだと埋もれることもありましたが、同じ編成でも埋もれずに抜けて聴こえてくるのが大きいですね。

矢野:今までのマイクだと被りが多くて、タムのマイクにシンバルが被ってしまうのが気になっていたんです。sE のマイクに関してはそういう被りが少ないから、トップのマイクでちゃんとしたシンバルの音を出せるようになりました。sE のマイクはどれも被りが少ないですね。

- ミュージシャンからの反応は?

杉山:「今日やりやすかったよ」っていう反応はありましたね。なぜ変わったのかミュージシャン側にはわからないと思いますが、機材が変わったことには気づいているようでした。今までは極端な爆音を出すために古いマイクを使うことが多かったですが、今は爆音を出してナンボみたいな時代じゃないですから。音圧で誤魔化すのではなく、より音楽を聴かせるという形になっているのではないでしょうか。

エンジニア
▲左から古市泰敬氏、杉山 茂氏、矢野美恵子氏

パチンとしたアタックではなく、本来のアタックが出やすい


- V KICK のサウンドについてもう少し詳しく教えてください。

矢野:基本的にはフラットな音質なのですが、足りない帯域とかをEQで補正すると、そこが素直に持ち上がってくれるので調整はしやすいですね。

杉山:[classic]と[modern]のスイッチが付いているのが面白いですね。modern にすると決まった音になるのですが、classic にして多少EQをした方がバンドごとに対応する音は作りやすいかな。

V kick
▲キックドラム用に調整されたサウンドキャラクターを持つV KICK
v kick
▲背面に備わる2つのスイッチの組み合わせによって、4つの異なるサウンドセッティングを実現する

- スネアとタムには V CLAMP を利用して V BEAT を立てていますね。

古市:V BEAT もそのままの音を録れる感じです。僕はそんなにEQせずにマイキングで行けるイメージを持っています。

- アタックの出方はどうですか?

杉山:パチンとしたアタックではなく、本来のアタックが出やすいですね。ただタムに関してはサスティンをすごく拾うので、曲によって、叩き手によって、バンドによって、ゲートで切らないといけない場面がある感じはします。

古市:他のマイクだとハイにクセがあるせいでアタックを感じるのかもしれないですが、sE はより自然なアタック感が出ているのかもしれません。

矢野:それプラス被りが少ないのがすごくいい。

杉山:以前はタムのマイクにスネアがよく被っていたんですが、V BEAT にしてからそれが減りました。使ってみて最初はショックを受けると思うんですよ。今までのマイクと全然違うし、そこが受け入れられない人は「これダメだ...」みたいな印象を持つかもしれませんが、そこはもう少しトライしてもらった方がいいかなと。

- イコライジングの仕方も最初は試行錯誤したのでは?

矢野:そうですね。最初はちょうど Heaven's Door の卓も変わったばかりのタイミングで、同時期に sE を導入したので「アレ?」ってなった部分はあったんですが、それぞれの機材に慣れていくうちに良さがわかってきました。

V beat
▲V CLAMPを使うことで、V BEATをしっかりとドラムリムに固定しながら理想のセッティングに近づけることができる

- トップマイクは sE 8 のペアですね。

杉山:sE8 は主に金物を狙っています。キットの鳴りまでカバーすることもできますが、ライブハウスだとなかなか難しいですね。ライドシンバルだけを強く出したいとか、そういうオーダーがあった場合には古典的やり方だけど、カップの裏側に SM57 を立てたほうがいいかもしれないですね。

古市:シンバル寄りに立てても、意外とスネアの音とかも拾えました。

sE8
▲ステレオペアのsE8 Pairを使って左右のシンバルを狙う

杉山:sE のマイクってちょっと先の音楽を見据えていると思うんですよ。リボンマイクの VR1 をアコースティックギターに立てたらすごくいい感じに録れたし、トランペットも柔らかくていい音で録れました。僕の場合、長い間エンジニアをやってきているので、新しいものを求めてしまうんです。同じことをやっていてもサウンドは新しいものに近づけたいので。

- 今後はボーカルマイクの V7 を導入してみてもいいかもしれませんね。

杉山:使った感じはすごく良かったです。昔ながらの SM58 の音を求める人にはちょっとコシが足りないように聴こえるかもしれないですが、今はそんな太い声でシャウトする人は少なくなりつつある感じなので、これからの時代に V7 はいいんじゃないでしょうか。ワイヤレスのアダプタとかで使いたいですね。

写真:桧川泰治

杉山 茂

1972年からエンジニアとしてのキャリアをスタートし、1981年に有限会社KENNEK KNOCKを設立。今までに沢田研二、中島みゆき、長渕 剛、DREAMS COME TRUE、岡村孝子など多数のアーティストの作品に携わっている。

矢野恵美子

ヤマハ音楽院卒業後、一年間レコーディングスタジオでアルバイト。その時知り合ったライブハウス関係者の紹介で新宿AntiknockでPAを始める。現在は主に三軒茶屋ヘブンスドアでPA業務をこなす。

古市泰敬

フリーのライブサウンドエンジニア。

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