このアルバムは日本中、世界中で愛されている名曲を平均年齢25歳という若手ジャズミュージシャンによってカバーするというものです。アルバムのサウンドコンセプトとしては、古き良きサウンドと新しいモダンなサウンドの融合、という部分が挙げられますが、結果を先に言うのであれば今回のドラムレコーディングには大変満足したと言えます。
まずはそのサウンドを聴いてみてください。楽曲は "Scarborough Fair" です。最初がEQやコンプなどをかけていないマイクそのものの音、次にEQとコンプをかけたサウンド、最後に完成楽曲の順で流れます。
それでは、今回収録したセットについてです。
ドラムセット : YAMAHA OAK CUSTOM
- バスドラム22”
- フロアタム16”
- タムタム12”
- タムタム10”
- スネア Yamaha live custom14”
シンバル類 : Zildjian
- K Custom Hybrid Hi-Hat 13″ (Top Bottom)
- K Custom Hybrid Crash 18”
- K Custom Dark Ride 20”
- K Zildjian EFX 18″
- K Zildjian Constantinople Bounce 22”
これらを収録したマイクは以下のとおりです。
- バスドラム : V KICK
- スネアおよびタム : V BEAT
- ハイハット : sE4
- オーバーヘッド : sE8 Pair
それでは、各パーツの収録方法とミックスについて見ていきましょう。
バスドラムの収録
アルバムの他の楽曲では18インチも使っていますが、この時の楽曲では22インチのバスドラムを使用しました。V KICK はヘッドの外側に配置し、マイクのサウンドキャラクラターの設定は "classic" で収録しました。V KICK のポテンシャルは素晴らしく、実はバスドラムに関してはミックスに際しても 25 Hz 以下をハイパスでカットしただけで、あとはドラムトラック全体に掛かっているリミッターで全体のピークのみを抑えた、という状態です。これはジャズならではのダイナミクスを大事にしたミックスにしたかったと言う部分もあります。サウンド的にはまったく申し分ありませんでした。ロックやポップスにもこのまま使えそうですが、スイッチを "modern" モードにするとよりパンチの効いたサウンドになります。
スネアの収録
スネアには V BEAT を使いました。専用クランプの V CLAMP でスネアに取り付けました。このマイクは打楽器向きにカスタマイズされているだけあって、ドラム本来の響きを余すところなく拾ってくれる、そんな印象です。またセパレーションも良いので、他の楽器の音があまり回り込まないため、ミックスが非常に楽と言えます。とはいえ、まったく回り込まないわけではないので、ミックス時にはコンプをかけ、EQで 250 Hz 以下をカットしました。高域に関しては何もイコライジングはしていません。
タムの収録
今回のキットはタムタム2つとフロアタムですが、いずれもスネア同様 V BEAT で収録しています。このマイク自体が非常にコンパクトな上、専用クランプである V CLAMP を使うことで場所を取らないため、打面から比較的距離を取ってもセッティングに苦労しません。今回は胴鳴りも十分に拾いたかったため少し打面から距離を取りましたが、距離と角度を調節してやるだけで十分に納得できるサウンドが録れました。タムに関してはノーコンプ、ノーEQです。
ハイハットの収録
ハイハットの収録には、コンデンサー型の sE4(生産完了品/後継モデルは sE8)を使用しました。コンデンサーマイクらしい明瞭な音ですが、250 Hz 以下をハイパスフィルターでバッサリとカットしました。ダイナミクスに関してもハイハットだけにかけると言うことはせずに、ドラムトラック全体のリミッターに任せています。
オーバーヘッドの収録
オーバーヘッドの収録には、コンデンサー型の sE8 をペアで使用。モダンなサウンドながら十分に温かみもあるこのマイクは、実は今回のピアノの収録にも使用しました(メインは sE2300 のペアを使用)。
さて、ジャズドラムを収録する際、オーバーヘッドのセッティングには、とくに気を遣います。これはライドシンバルを多用するためで、そのサウンドを中心にしつつもアンビエント感をいかにうまく収録するかを考えねばならないためです。ですので今回は左右対称という考え方ではなく、向かって左のオーバーヘッドはライドを綺麗に録ることを目的として、さまざまな配置を試してみました。やはり低域はカットしていますがリミッター系は使用していません。
ドラムトラック全体のミックス処理
パラで収録した各パーツを一度ドラムグループにまとめ、リミッティングとイコライジングを施します。なんと今回は、この段階でもイコライザーは使用しないで済みました。もちろんこの辺りは好みもありますし、もう少しあたたかい音が良ければイコライジングするのですが、今回はオケ全体のバランス的にこのくらいが適当と判断し、あえてのノーEQです。ダイナミクス系に関してはドラム全体を -6 dB あたりでリミッティングし、2 dB ほどマキシマイズしました。
何にしろ今回使用したマイクセットは、セッティングさえうまく行えばEQをする必要がないくらい良い音で録れる!!これが率直な感想です。
ちなみにアルバムの中の4曲は、ジャズでは有名な塩田哲嗣によるレコーディングで、一般のスタジオもなかなかお目にかかれないビンテージのマイクロフォンとマイクプリアンプを持ち込んで収録しています。興味のある方はアルバムで、どの曲がどちらのマイクセットか聴き分けていただければと思います。
収録アルバム
文/小川悦司
ギタリスト、音楽プロデューサー、作編曲家
JAZZサックス奏者、米澤美玖の全ての作品をアレンジプロデュースし、2019年リリースのジャズスタンダードバラードアルバム「Dawning Blue」(Trilogic)とメジャー第1作となるフュージョンアルバム「Exotic Gravity」(KING)の2作品で、JAZZ JAPAN AWARD NEW STAR 部門 RECORD OF THE YEAR を受賞する。
その他、五十嵐はるみ、折重由美子、JAZZ LADY PROJECT などのサウンドプロデュース、菅沼孝三、大高清美、川口千里、梶原順などのDVDにも楽曲提供をしている。
ドラム演奏/竹内大貴
三重県松阪市出身。24歳。
9歳よりドラムを叩き始める。
2014年、国立音楽大学 ジャズ専修に入学。
2015年6月、ロサンゼルスで行われた Grammy Camp(Grammy 基金、GUCCI 等で運営)に奨学生として選ばれる。
2017年9月、小曽根真プレゼンツ JFC All star bigband のメンバーとして東京Jazzに出演
これまでに神保彰氏、高橋徹氏、高橋信之介氏、山本真央樹氏に師事。
共演歴(敬称略、順不同)
本田雅人、勝田一樹(DIMENSION)、小曽根真、池田篤、Toku、宮本貴奈、北川勝利(ROUND TABLE)、米澤美玖
現在、都内を中心にジャンルを問わず活動中。