こんにちは。AT-Music の辻です。
前回に引き続きアコースティックギターのレコーディングをテーマにお届けしていきたいと思うのですが、今回はマイクの数を2本に増やして2チャンネルによるステレオレコーディングの方法について説明していきたいと思います。2チャンネルステレオによるレコーディングと言ってもいくつもの手法がありますので、今回は私が現在最も気に入っている「ORTF方式」を例に説明していきたいと思います。なお、今回もギターの演奏で渡辺具義さんにご協力いただきます。
※演奏に使用したギターは Martin HD-28V、弦は Martin MSP-3100(012〜054)です。
ORTF方式とは
そもそもORTF方式とは?と思っている人も少なくないと思いますのでその点から説明していきましょう。
ORTFとはフランス放送協会「Office de Radiodiffusion Television Francaise」の略語で、そのフランス放送協会が考案したマイクのセッティング方式を指して「ORTF方式」と呼びます。具体的には単一指向性のマイク2本を110度角に開き、それぞれのマイクのダイアフラムの間隔を17cmにセットするというものです。この方式で録った音は、「人が両耳(左右の耳)で聴いた感覚に近い音」などと表現されます。
私がこの方式をはじめて知ったのは自分自身のレコーディングプロジェクト時で、先輩エンジニアの方から教えてもらって以来、アコースティックギターのレコーディングでよく用いています。
それではここから詳しく図や写真も合わせて説明していきましょう。
これがORTF方式でセッティングしたマイクを上から見たイメージです。
今回は sE8「マッチド・ペア」モデルを使用しながら説明していきます。
※マッチド・ペアモデルとは sE Electronics が数百もの個々のマイクから熟練工によって選別した、可能な限り最高のステレオイメージを実現する2本のマイクセットの事を指します。
もし使用するマイクが物理的に干渉してしまうような場合は下の写真のように上下に少しずらして設置するのでもかまいません。
ポイント!
ここではペンシルタイプのマイクを使用していますが、もちろんペンシルタイプのものでなくてもかまいせん。マイクの指向性も sE8 と同じカーディオイドでなくても、例えばワイドカーディオイドなどにしてみるのも効果的ですし、収録する楽器の大きさやレコーディング場所など条件に合わせてマイクを開く角度を110°よりも少しだけ開いたりしてみるのも有効だと思います。それからマイクを立てる位置ですが、前回のモノラル編で説明した時よりも少し離して、上側から狙うようにすると良いように思います。
アドバイス!
今回の方式に限らずマイクを立てる時には、可能であればはじめにマイクを立てる位置に自分の耳を持っていき、そのポイントで聴ける実際のサウンド確認してから(納得してから)マイクを立てるようにするのが良いと思います。
収録した実際のサウンド
それではここまで説明してきたORTF方式で収録した実際のサウンドを聴いていただきましょう。
※良いモニター環境で聴いていただけるほど、その効果をよく感じていただけるかと思いますのでスマホなどで確認される方はイヤフォンやヘッドフォンで聴いてみていただけたらと思います。
※前回と同じく今回使用したオーディオインターフェースとマイクプリは Universal Audio Apollo Twin MkII、DAWは Steinberg Cubase Pro 8 で、収録時/収録後でEQ処理やエフェクト処理はおこなっていません。またサウンドサンプルに対してもノーマライズ処理だけを施している状態となります。
参考までに前回聴いていただきました sE8 のモノラル(マイク1本)レコーディングサウンドをもう一度お聴きいただくとその差をより感じていただけるかと思います。
いかがですか?
やはりモノラルレコーディングの時よりも広がりを感じられると思いますし、その広がり感は両耳(左右の耳)で聴いた感覚に近いように思います。例えばこの方式で録った複数パートのサウンドを上手に定位調整しながらミックスしていくとなかなかステキな音場がつくれたりもするのでご興味ある方はお試しいただけたらと思います。
それでは今回はこの辺りまでとし、次回は MS(Mid/Side)方式によるアコースティックギターレコーディングをテーマにお届けしたいと思います。
sEマイクで始めるホーム&スタジオレコーディングのテクニック:#5 アコースティックギターレコーディング【2chステレオ MS方式編】>
渡辺具義(わたなべともよし)
Musicians Institute (Hollywood校) 卒。
アーティストやタレントのライブサポート、レコーディング、アレンジ等で活躍。 (SMAP、つのだひろ、つるの剛士、城南海、LiLiCo、松下奈緒、南里沙、すみれ、野沢香苗、 等)
リットーミュージックより多数のギターの教則本を出版。
アコースティックギターアルバム『眠れる森のJazz Guitar』をitunes storeにて発売中。
辻 敦尊(つじあつたか)
音楽家・クロスメディアアーティスト
中学時代より作曲とギターを始め、20歳からプロとしての音楽家活動をスタート。
また、音楽家としての活動と並行しながらコンピュータ系のエンジニアとしても長年活動。
企業向けに音を中心としたコンテンツ制作や開発協力などをおこなう事が多く、ここ数年では音楽分野以外にも3Dコンテンツ制作に関する執筆業やサラウンドや立体音響コンテンツ制作、映像コンテンツ制作、プログラミングなど幅広いジャンルで制作プロジェクトに関わっている。
AT-Music 代表