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PWM : Mantis - バスクのスポーツ Nomi が行き着いた理想のリードシンセ

バスクのスポーツなどで活躍するキーボーディスト/コンポーザーの Nomi さん。長年愛用してきた機材の代替機を探す中で彼が行き着いたのが、PWM のハイブリッド・シンセサイザー Mantis でした。デジタル・オシレーターとアナログ・フィルター、VCA の融合が生み出すサウンドの太さ、そしてライブプレイヤー目線で設計された直感的な操作性について、実際の現場での使用感や独自のアプローチなどを交えてお話を聞きました。

導入の決め手はイニシャルパッチのハリのある音


- まずは Mantis を導入した経緯から教えてください。

もともとバンド活動で、リードシンセとして Moog Sub 37 を7〜8年ほど使っていたんです。それが壊れてしまって、保証も効かないということで代わりの機材を探し始めました。メインのステージキーボードとは別にリードシンセとして使うものを探していて、Moog と同価格帯、かつ同じくらいのサイズ感で色々と検討した結果、Mantis に行き着きました。

- どのようにして見つけたのでしょうか?

僕は新しい楽器の情報を追ったり動画を見たりするのが好きなので、最初は海外の試奏動画などをチェックしていました。ただ、動画だとSE的な派手な音色が多くて、いまいち Mantis の素の音がどういうものかわからず、最初はそこまでピンときていなかったんです。でも、ある海外の動画で少しだけイニシャルっぽい音が出た瞬間があって。その音がすごく良いなと感じて、実際にお店へ触りに行きました。

- イニシャルっぽい音というのは?

プリセットの音ではなく、素のオシレーターの音のことです。イニシャルパッチがすぐ出せるので、実際にお店でその音を出してみたら、めちゃくちゃハリがあったんですよ。思った通り良かったですね。またライブでは頻繁に音色を変えるので、使い勝手としてプリセットボタンがあることと、デュオフォニック(2音発音)であることを前提に探していました。Mantis も公称はデュオフォニックなんですが、実際に出してみたら4音出る(笑)。2オシレーターでデュオフォニックなので、結果的に4音出せるため、ポリフォニック的な使い方もできて非常に使い勝手が良いなと。そこで導入を決めました。

Mantis
▲PWM Mantis

デジタルとアナログのいいとこ取りができている


- 素の音が良いというのは、音が太いということでしょうか?

そうですね。僕は昔から KORG MS-20 や ARP Odyssey などビンテージのアナログシンセを使っていましたが、壊れることがあるので、デジタルシンセやアナログモデリングも試していたんです。でも、イニシャルの音がチープだと、バンドの中に入った時に全然抜けないんですよ。僕のやっているバンドがそもそもめちゃくちゃ爆音だからというのもあるんですが(笑)、そこに負けない音を出せることが絶対条件でした。Mantis のイニシャルの音の利点を一番強く感じたのがそこです。アナログシンセなので音にもともとハリがあるし、ピッチがそこまで正確じゃないほうが抜けてくるような音が多いんです。

- Mantis はオシレーターがデジタルなのでピッチは正確ですよね。

ピッチはすごく正確ですが、オシレーターに OSC DRIFT というつまみがあって、これで2つのオシレーターを出している時の揺らぎを表現できて、かなり絶妙でちょうどいい塩梅にできるんです。ただ単に波形の音が出ているよりも、ちゃんと音が揺れたようなビンテージのピッチ感が表現できます。僕はこれをフルがけして、なんならLFOをピッチにかけちゃうくらい、かなり揺らして使っていますね。アナログ感がかなり出ます。

- フィルターやVCAはアナログ回路になっています。

はい、そこも大きいと思います。通常のアナログモデリングシンセだと、つまみなどの操作感はアナログでも、結局アウトプットはデジタルとして出ているものが多い。でも、Mantis はかなりアナログっぽいアウトプットができている気がしますね。デジタルとの明らかな違いを感じます。極端で予想外なピッチの狂いなどの不具合が全くなく、デジタルとアナログのいいとこ取りができている印象です。

- デュオフォニックの強みはどういった部分で感じますか?

単音でリードやベースを弾くほかに、SE的でアンビエントな表現をするシーンもあるので、デュオで出しながら、1つのオシレーターの中で揺らぎを変えたりすると、かなり音の幅が広がります。また、ステレオ出力時のボイシングの幅を Voice Spread で決められるのが面白いですね。弾くたびに左右のパンを振っているような感じにできたり、フィルターを左右で変えたりと、ステレオの強みが出ていると感じます。4音使えると気づいてからはパッドとしても使うようになりました。

オシレーター
▲デジタルのオシレーターによる正確さと、アナログのミキサー/アンプ/フィルターによる質感を併せ持つ

Mantis のドライブはテープのようにうまく歪む


- サウンドを歪ませたりすることはありますか?

素の音で使うことも多いですが、エフェクターやEQを通すこともありますし、内部のフィルターについている Drive もよく使いますね。シンセの内蔵ドライブって、ビチッとした汚い音になりがちな印象があるんですが、Mantis のドライブはテープのようにうまく歪むというか、荒くなりつつ音量も稼げる。プリセットごとに頻繁に歪み具合を変えられるのも使いやすいです。質感調整みたいな感じですかね。

- フィルターの効き味は?

かなり強いです。発振するくらいまで効きますし、カットオフの幅や Width のピッチ調整に加え、レゾナンスも強くかけられるので、フィルターだけでも音作りができます。ローパス、ハイパスに加えてバンドパスもあるので、音色によってバンドパスで下を削ることもあります。バンドの中での抜け具合を意識すると、こういう点が重要ですね。

- ジョイスティックはどのように活用していますか?

可変の範囲を絶妙に選べるので、ピッチを上げつつモジュレーションを少しだけかける、といった操作に重宝しています。他にはエンベロープのリピート機能が便利です。これはADSRを繰り返す機能で、LFO代わりにもなります。アタックとディケイを削ったカクッとしたエンベロープをリピートさせると、スタッターのような音になります。これをアルペジエーターと組み合わせて、4音で鳴らしてボイシングで左右に広げると、ランダムにポコポコ鳴るパーカッシブなニュアンスも出せて面白いです。

- リバーブやコーラスなど、内蔵エフェクトの印象は?

リバーブは独特で、ルームの少し大きいバージョンのようなイメージです。思い切り回すと飽和するくらいかかります。コーラスは昔の JUNO コーラスのようなものとはまた少し違いますが、良い具合にかかるので、パッドで使うとすごく広がりのある音になります。

FILTER
▲アナログのフィルター/アンプと、デジタルのエフェクト部

常にライブに持ち込んで絶対に使う機材になっている


- サイドパネルのカラーが緑から黒にカスタマイズされていますね。

Mantis はサイドパネルが磁石で簡単に付け外しできるんですよ。購入後に海外の有志メンバーズサイトに登録したら、「サイドパネルの3Dプリンター用CADデータ作ったぜ」という人がいて(笑)。友達が3Dプリンターを持っていたので、グレーのFRPで出力してもらって、自分で塗装しました。気分によって交換できるのがいいですね。

- つまみの色も変わっていますね。

はい。最初は全部同色で統一されていたんですが、役割ごとに色を変えるほうが見やすいので。頻繁に回すフィルターのノブを大きくしたり、セクションごとに「オシレーターは緑」「LFOは黄色」「エンベロープはADSRごとにバラバラ」といった具合にカスタマイズしています。視覚的にわかりやすいのはライブでもかなり助かります。

- パネルのレイアウトは使いやすいですか?

シンセサイザーに慣れている人からするとすごくわかりやすい、ルーティングが左から右へ流れるオーソドックスなレイアウトです。特にアフタータッチのルーティングがわかりやすいですね。MOD ROUTES 部で「SCALE のアフタータッチを選ぶ」→「ソースを選ぶ」→「変えたいコントロールを選ぶ」という設定が、階層なしでパパパッと指でできちゃう。1機能1ボタンで、ライブ中にもサッと変えられるのが素晴らしいです。

- 重さや可搬性もちょうど良さそうですね。

前に使っていた Moog が15kgくらいだったんですが、Mantis は多分5kgちょっとしかなくて。この可搬性はかなり助かりますし、今では常にライブに持ち込んで絶対に使う機材になっています。フルサイズの37鍵というサイズ感も、リードを弾くには十分でちょうどいいですね。

Mantis

ドラムやギターに当たらずにうまく抜けてくれる


- 使い始めて1年ほどとのことですが、自身のプロジェクトでかなり使われているそうですね。

はい。昨年9月に出したバスクのスポーツの4曲入りEP『Louranda』でも、ほぼ全ての曲で Mantis を使っています。2026年4月から始まるアニメ『女神「異世界転生何になりたいですか」 俺「勇者の肋骨で」』の劇伴もやらせてもらっているんですが、そこでも2曲くらいはこの Mantis だけで作ったりしています。意外と用途を限定せずに、幅広く使えています。

- どんなミュージシャンに Mantis をおすすめしたいですか?

劇伴作家さんやSEを作る人はもちろんですが、個人的にはリードシンセやベースシンセで使う人に弾いてもらうとすごく映えると思います。まだそこまで知られていないと思うので、選択肢に入れたらきっと嬉しい驚きがあるはずです。バンドサウンドの中でもドラムやギターにぶち当たらず、うまく抜けてくれる音が出せますからね。

Mantis

写真:桧川泰治

Nomi(バスクのスポーツ)

4人組エクスペリメンタル・ポップグループ「バスクのスポーツ」のキーボーディスト/コンポーザー。長年ビンテージ機材やアナログシンセを愛用し、激しいバンドアンサンブルでも際立つ「抜けるリードサウンド」を追求している。自身のバンド活動にとどまらず、アニメの劇伴音楽を手掛けるなど幅広いフィールドで活躍中。ライブ現場での実践的なアプローチと、機材の特性を活かした緻密な音作りを探求し続けている。

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