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DSM & Humboldt : Simplifier X 開発者 Daniel Schwartz インタビュー

デジタル・シミュレーションの精度が上がり、競うようにアンプ・モデラーが輩出される中、アンプ・サウンドをアナログで表現することにこだわっているのが DSM & Humboldt だ。同ブランドが完成させた“Simplifier X”は、真空管アンプ然とした歪みのみならず、デジタル機がいまだ到達できていないリアルな“ダイレクト感”まで再現。アナログ回路に可能性の余地がまだまだ残っていることを証明している。

回路を置き換えただけでは不充分 耳で感じる成分も反映させる必要がある 


- 世界中のギタリストが今なおマーシャル・サウンドに魅了されています。あなたはマーシャルのどこに「魔法」を感じますか? 

マーシャル・アンプは、ロック・サウンドを定義しましたよね。歪みが欠点ではなく、特徴となった最初のアンプだったのではないでしょうか。ジム・マーシャルは当時のギタリストが何を求めているかを理解し、単なる増幅機以上のものを創造したんです。おかげでアンプは楽器の一部となり、奏者の表現における重要な要素となりました。マーシャル・アンプは、軽いタッチで甘く優しい音を出せる一方、激しくピッキングすれば瞬時に咆哮する獣へと変貌します。興奮、楽しさ、そして生命力に満ちた存在と言えますよね。

- それを電子回路で再現する際、最も重要な要素は何でしょうか? 回路を実際のアンプのように動作させるデザイナーもいれば、多くの人が「マーシャル・サウンド」だと思い浮かべる響きに合わせることに注力する人もいますよね。

実際には両方でしょう。単に真空管回路をソリッドステート回路に置き換えただけでは充分ではありません。マーシャルの音色は、ステージ間のミッドハイ強調、トーン・スタック・デザイン、プリアンプ・ステージの歪みにパワーアンプでの若干のブレイクアップが加わることで形成されています。歪みは生々しく、エッジが効いていて、素早いアタックと倍音を通して弦の響きを感じさせる明瞭さも備えていますよね。私たちは各ステージを慎重に設計した上で耳と感覚でも微調整を行ない、初期のヴァン・ヘイレン、AC/DC、スラッシュ、ポール・コゾフ、ジミ・ヘンドリックスなど、私たちスタッフ全員が思い描くマーシャル・トーンになるまで回路を調整していきます。

- “Simplifier X”には、アンプの実機に搭載されていない“RESONANCE”コントローラーが備わっています。これはユーザーがそれぞれの「マーシャル・サウンドのイメージ」に合わせて音色を微調整するための機能なのではないかと感じました。 

まさにその通りですね。“RESONANCE”は、パワーアンプの出力から位相反転器へのローエンド・フィードバック量をコントロールしています。ユーザーの求めに対応する“柔軟性”を確保する機能といったところでしょうか。必要に応じてローエンドのレスポンスが調整できるわけです。例えば、低域が多めのPAシステムに繋げる場合はブーミーさを取り除いたり、小さなモニターやヘッドフォンを使用する際には音色に重みを追加したりできます。 

①Measurement & Analysis
②Measurement & Analysis

▲①②:開発中の様子。波形を計測して視覚的に調整を施しつつ、得られた結果を回路に反映させる。もちろん最終的には耳でジャッジしているそうだ。

プリアンプとパワーアンプのバランス それが“マーシャル感”を生み出す 


- 前回のインタビューでは、「パワーアンプ・ゲイン・コントロールが大きなブレイクスルーとなりました」と言及されていましたよね? 

パワーアンプ・ゲイン・コントロールの開発は非常に啓発的なプロセスでした。“AC30”、フェンダー“Bassman”、マーシャルのプレキシと“JCM800”、それぞれのパワー・セクションを比較することで、各アンプの特徴が明確になったのです。マーシャルのパワーアンプはバランスの取れた位相反転器を使用していて、プッシュされると対称的にクリップし、適度なネガティヴ・フィードバックを備えています。フェンダーの強いフィードバックとVOXのゼロ・フィードバックの中間に位置するといった特性でした。 

- もう少し詳しく解説していただけますか? 

フィードバックは、スピーカーのインピーダンス曲線(通常100Hz付近でピークがあり、1kHz以上で上昇)が最終的な音をどう形作るかに影響します。VOXアンプはブーミーになりがちで、そのためプリアンプで低音を多めにカットします。フェンダーのパワーアンプは、よりフラットかつハイファイですね。マーシャルの場合、パワー・セクションは100Hzの共鳴を約200Hz付近の適度な隆起に形成し、音に重みを加えています。これが“Greenback”スピーカーが持つ高域のロールオフ特性と組み合わさることで、特徴的な唸るような音色が生まれるというわけですね。そして歪ませると、パワーアンプはもはやフィードバック補正を適用できなくなり、その結果、周波数/ゲイン・レスポンスがダイナミックに変化します。これにより、滑らかなコンプレッションが生まれ、最終的には厚みのある飽和した響きになるんですよ。鍵は、プリアンプとパワーアンプのゲイン・バランスです。両方とも多すぎると音はどろどろになり、少なすぎると冷淡な感触になります。 

- “Simplifier X”にはパワーアンプの動作を示す“PWR AMP CLIP”インジケーターを搭載しています。適切な位置はどこでしょうか? 

プレイヤーのスタイルによりますが、個人的には強いアタックでインジケーターが点滅する設定が好みです。そこがスウィート・スポットですね。パワーアンプが周波数応答を動的に変え、明瞭さを保ちながらピークを圧縮するポイントです。ライトが長く点灯し過ぎている状態では、パワーアンプが過度に圧縮され、既にクリップしているプリアンプ信号をクリップさせるため、音が濁ります。逆に全く点灯しない場合、トーンは平坦で満足感がありません。それは100Wプレキシを寝室で鳴らせる程度の小音量で演奏しているようなものです。 

- 最後に教えてください、DSM & フンボルトはアナログ回路にこだわっています。ほとんどの部分をアナログで構築することの利点は何ですか? 

私たちは、アナログ技術が優れた音質と本物らしさを提供すると強く信じています。無限のサンプル・レートとビット・レート、ゼロ・レイテンシー……それはプレイヤーのタッチによって信号が直接形作られることを意味します。アナログの精神はプラグ&プレイです。ギターを接続し、アンプの電源を入れ、真空管が温まるのを待ち、スタンバイ・スイッチを切り替えて、心を込めて演奏すること以上に気持ちが盛り上がることはありません。ただ実際には今、もっとシンプルなものがあります。それが“Simplifier”なのです。

③Manufacturing
組み立ては、工房でスタッフが1台ずつハンドメイド。アナログ回路ならではの作り方だ。従業員はほぼ全員が楽器演奏をたしなみ、日頃からロックなサウンドに親しんでいるという。

[ 試奏レビュー ]Simplifier X [Amp Simulator]


アナログ回路だからこそ実現できた超リアルな“マーシャル感”

ペダルボードに設置できるほどのサイズながら、この中にアンプとキャビネットを備えているというのだから驚きだ。アンプ・シミュレーターのみならず、キャビネット・シミュレーターも搭載しているので、作った音色をそのままPAやオーディオ・インターフェイスへ出力することができる。しかもリヴァーブ以外はアナログ回路で構成されているため、レイテンシーはゼロ。アンプを鳴らしているのと遜色ないスピードで音が飛び出してくるので、シミュレーターを使っている感覚をほとんど抱かない。このダイレクト感はデジタル・シミュレーターでは味わえない感触だ。手元のヴォリューム操作にしっかり反応する様もリアル。アンプ実機の代わりが充分に務まるだろう。

Output

“AMP A”と“AMP B”にそれぞれ出力を用意。接続先の特性に合わせて、キャビネット・シミュレーターをオフにすることもできる(出力端子の下に備わっているミニ・スイッチで選択)。

Mode Switch

プリアンプとパワーアンプの選択スイッチ。それぞれ、VOXタイプ、フェンダー・タイプ、マーシャル・タイプの3種類が用意されている。“AMP B”側のマーシャルはプレキシ、“AMP A”側は“JCM800”だ。

LED Indicator

真空管のようなイラストが描かれている“PWR AMP CIP”インジケーター。ピッキングするとLEDが光り、パワー部でどれぐらい歪みが追加されているのかを知らせる。

DI Output

PAやオーディオ・インターフェイスに繋ぐ際はバランス・アウトが活用できる。“AMP A”と“AMP B”を個別に出力できる他、ステレオ・アウトとして使うことも可能だ。

[Specifications]●コントロール(Amp A & Amp B):Preamp(Bass、Mid、Treble、Preamp Gain)、Power Amp(Resonance、Presence、Power Drive)、Cab Sim(Speaker Color)、Master Level B、Reverb B  ●コントロール(共通):Phone Level、●スイッチ(Amp A & Amp B):Pre Type、Power Type、Cab Type[Combo/Twin/Stack] ●スイッチ(共通):Return Link、Cannel[B/A]、Mode[1/2/3]、Reverb Type[Room/Ether/Plate]、Aux Select、Out A Cabsim Bypass、Out B Cabsim Bypass、Gnd/Lift ●端子:Input A(Main)、Input B、Send A、Send B、Return A、Return B、Foot Switch、Phones、Aux In、Thru、Out A(R)、Out B(L)、DI Out A(R)、DI Out(L) ●サイズ:125mm(W)×105mm(D)×65mm(H) ●付属品:専用フット・スイッチ ●電源:9-12VDC 

取材、文:下総淳哉 Junya Shimofusa

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