Hookup,inc.

Expressive E Touché の魅力 : HATAKEN

Expressive E Touché をいち早くモジュラーシンセシステムに導入したエバンジェリストとして個性的なパフォーマンスを展開する HATAKEN 氏。氏のサウンドメイクやパフォーマンスにおいて Touché がどのような役割を果たしているのか、その魅力と可能性についてお話を伺いました。

革新的な発想とそのパフォーマンス性に奥深い可能性を感じました。

- 最初に HATAKEN さんが Touché に興味を持ったキッカケはどのようなことだったのでしょうか?

最初に知った経緯は少々記憶が曖昧ですが、誰かから「面白いデバイスがあるから」と教えてもらったことだったか、たまたまネットを閲覧している時に Touché のデモビデオを見て知ったかのいずれかです。ただ、そのきっかけとなったデモビデオの内容が非常に革新的でした。後で調べてみたらCVアウトが4系統あると知って「これだ!」と思い、Touché を手に入れました。

最初の印象は、思ったよりも扱いが難しいので馴染むまでは使い込む必要があるな、と思いました。また、それと同時に Touché の内包する機能に奥深い可能性を感じました。

余談ですが、家具調の見た目や天板の触り心地の良さも気に入りましたし、手にした時のずっしりとした質感に満足感もありました。

実際に使用してみて感動したのは、CVアウトはあるものの、USBでコンピュータと接続してソフトウェアで細かく設定やアサインができることです。プラグインとの相性や、アサインが容易に行えコンピュータ上での音楽制作や演奏表現の幅を広げる道具としてとてもよくデザインされていると感じました。

元々DTM的な活用ではなく、モジュラーシンセのパフォーマンスで活用することだけを考えていたので、4つのCVアウトのレンジやポラリティ、コントロールカーブ設定や電圧の設定まで Lié (Touché 付属アプリ) 上でフレキシブルにアサインや設定が行える点が驚きでした。

それに加えてモジュールのCVインは一般的に "0 ~ +5V"、"0 ~ +10v" のようにプラス側だけコントロールが行えるものが多いのですが、Touché は "-5v ~ +5v"、"-10v ~ +10v" などマイナス方向の変化の設定が行え、そのパターンをバンクにメモリーできる点が良いですね。

繰り返しになりますが、モジュラーシンセと接続して使用した時は、非常に製品自体の可能性は感じたものの、思い通りの表現を実現するには研究と時間が必要だと感じました。

それだけに製品のポテンシャルと、本製品を使いこなすことによってオリジナリティ溢れる表現を生み出せることを直感して、私のモチベーションは高まりました。それですぐに2台目を入手しました。

- HATAKEN さんは Touché をどのようにご自身の機材システムの機器などと組合せて使用されているのでしょうか?

いろんなアプローチを試していますが、現在多用しているのは Make Noise の Erbe-verb というモジュールのコントロールを行うために、MIX、ABSORB、TILT、DECAY の各パラメータへ Touché から4つのCVを送る、という使い方です。

それぞれの機能やかかり具合、効果の説明は少々難しいのですが、それぞれのパラメータのレンジ幅を浅いものから深いものまで4段階作って、各バンクへ順番にメモリーして操作を分かりやすくしています。

このように1つのモジュールへ4つの信号を入れる理由は、演奏がコントロールしやくなるためです。

いくつものパラメータをコントロールしつつ、もう一方の手でリズムのオン/オフを行うような場合には同時に操作する手が足りなくなります。

このような時、Touché は複数のコントロールが片手で容易に行えるので、非常に重宝します。

- HATAKEN さんの考える Touché の可能性についてお聞かせください。

モジュラーシンセ自体が無数のツマミとそれぞれのCVインプットを備えていますので実験したいことは山ほどあります。

ライブで使っているシステム上で同時に操作したくても手が足りないところを Touché に割り当ててコントロールする、という方法が、無の状態からあれこれ考えるよりも可能性を広げる近道だと感じています。

例えばフィルターのカットオフを開いて行く時にレゾナンスは下げつつリバーブを深くする、とか、LFOの周波数を変化させる、などが片手で行えます。

ある程度モジュラーシンセで表現したいことが決まってくれば、Touché でコントロールするパラメータが明確になり、パフォーマンスの可能性も広がってくると思います。

現状では自分自身でも使い方の方向性をまだまだ模索している状況ですので実験的な使い方をして可能性を広げていく部分は多いのですが、Touché をつなげることで常に新たな発見があります。これまでに思いつかなかった使い方ができるようになるのは非常に楽しいです。

- 今後、機能面で Touché に希望したいことなどはありますか?

例えば、一般的なジョイスティックやホイールのコントローラは手を離した時にその位置で固定されるタイプとバネでゼロ位置に戻るタイプがあります。

Touché の場合はジョイスティックに近い操作性で、手を離せば元の位置に戻るようになっているのですが、固定にする、もしくは元の位置に戻るかを選択できるようになればいいですね。

また、Touché で多用するホールド機能は解除した時にすぐ元の位置に戻っていきますが、ホールドの解除や手を離した時に、スルーリミッター的な機能によってポルタメントタイムのように滑らかに元の位置まで変化させる設定が行えたり、戻り加減に残像的な効果が加えられたら、さらに表現力が増すと思います。

それと機能面ではないのですが、Touché の専用ケースがあっても良いかと思います。ライブで移動が多い時など、運搬中に本体の上に他の機材による圧が加わってゴムパーツ部分に負荷がかかるように感じられ、少々不安になることがあります。

機材の運搬時には割と気を遣っていますから、専用ケースがあると安心ですね。後はユーザーの好みで操作感が変えられるように、交換用ゴムパーツ部分の固さや材質などが選べるようになるのも面白いのではないでしょうか。

既製のサウンドに依存することなく、オリジナルの音楽表現へつながるサウンドを作り出してほしい。

- 日頃の活動内容についてお聞かせください。

現在は、モジュラーシンセの可能性の追求と日本におけるモジュラーシンセシーンの活性化を目指した活動を中心に展開しています。

モジュラーシンセの演奏家としてアンビエント、テクノ、トランス、エクスペリメンタル、ノイズなど幅広いジャンルのエレクトロニックミュージックシーンへ招かれ演奏を行っています。

昨年は LUNA SEA、X JAPAN のギタリスト SUGIZO 氏と出会い、氏のソロアルバムのリミックス、最新作の3曲にモジュラーシンセアーティストとして参加した他、Tokyo Festival of Modular 主催のイベントでは氏のギターと私のモジュラーシンセによる即興演奏でのデュオライブの実現、12月には氏のソロツアーでオープニングアクトとしてモジュラーシンセソロ演奏などを行いました。

- お話に出てきた "Tokyo Festival of Modular" とはどのようなイベントなのでしょうか?

数年前までの日本のモジュラーシンセシーンは欧米に比べるとかなり遅れをとっている状況で、僕らがモジュラーシンセを演奏するイベントを開催しても人が集まらず、今一つ盛り上がりに欠けていました。

そこで、シーンの活性化やモジュラーシンセの魅力を伝えることを主旨としたイベント "Tokyo Festival of Modular (通称TFoM)" を2013年から始めました。

このイベントは海外のブティックメーカーと言われる少人数のデベロッパーを日本に招き、展示会、見本市を開催するとともに、海外で活躍し評価を得ているモジュラーシンセアーティストを招いたコンサートを組み合わせた内容です。

展示会とコンサートが一体化したモジュラーシンセ専門のフェスティバルは世界でもまだ数少ないイベントとなっています。お陰様で TFoM なら、ということで海外スポンサーの参加、国内シンセメーカーや楽器店などの参加も年々増加し、それとともに来場者数も増加し続けています。

最近では海外アーティストからの逆オファーも届くようになり、国内シーンやマーケットも拡大しモジュラーシンセの愛好家や演奏家も増え、その演奏レベルも年々向上しているなど、モジュラーシンセシーンは活性化してきているのが感じられます。

今後もこのイベントが更に盛り上がるよう、活動に注力していきたいと思っています。

- 最後にシンセアーティストを志す人たちへメッセージをお願いします。

最近はコンピュータの機能と周辺機器の音質の向上によって、DAWやソフトウェアシンセサイザーを使用したコンピュータベースでの作業ですべての工程が完結する時代と言っても良いかと思います。

私もかつては今日の時流に乗った形で活動していましたが、そのような形ででき上がった作品に予定調和的なつまらなさを感じてきました。

その結果、現在の活動の源流となるモジュラーシンセを使った即興的にその場で作曲し、物語を描いて行くような演奏活動へ興味が移り、今日に至っています。

もちろん商業ミュージックなどがきっかけで興味を持つことは良いと思います。

ただ、"シンセアーティスト" を目指すのなら、メーカープリセットや他の誰かが作成した既製のサウンドだけではなく、モジュラーシンセのように電気がパーツを通ってジェネレートされる音を体験し、自分の音楽表現へつなげていけると良いでしょう。

全ては憧れから始まっても良いのですが、自分自身を満足させる音楽表現にたどり着くための目標やビジョンを持って欲しいと思います。

加えて重要なのは、シンセアーティストに限ったことではありませんが、音楽は自身の人間性が如実に現れてくるものだと思います。やはり人間性というものをトータルで磨いていけると良い結果に結びついていくと思います。

インタビュー:内藤朗

HATAKEN (Wåveshåper(mutantra) / TFoM / ZEN ZEN / TKG)

モジュラーシンセサイザーライブパフォーマー、エレクトロニックミュージックプロデューサー。

北米、欧州、アジアの各地で精力的にライブ活動を行い、モジュラーシンセを駆使し、新たなエレクトロミュージック表現を探求している。Greg Hunter (Dub Sahara) と Wåveshåper としても注目を集め、2014年より3枚のアルバムをリリース。2012年の Boom Festival で7時間に及ぶライブを成功させ、それを機に Ozora , Sonica などの欧州のフェスティバルに招かれ、日本を代表するエレクトロニックミュージックのアーティストである。

DJ Alex R / High, DJ Yumii らとオーガナイズチーム、Zen Zen をスタート、アンビエント、エレクトロニックニュージックのイベントを主催。さらにモジュラーシンセの普及にも努め、2013年より国際的なモジュラーシンセの展示会/コンサートをジョイントした、Tokyo Festival of Modular を主催、モジュラーシンセサイザーの国内の普及、新たな音世界を発信、メジャーアーティストをはじめ、世界中のアーティストから注目されている。

2017年秋 Matsuri digital chill より待望の5年ぶりのフルアルバム "a Prana Planet" をリリース!ギタリスト SUGIZO のソロアルバム、リミックスアルバムに参加、TFoM のイベントではデュオによる即興演奏も披露。2017年 SUGIZO ソロツアーの東京公演でフロントアクトにて一時間に及ぶモジュラーシンセライブを披露、リミックスアルバムにも参加。

2018年も引き続き SUGIZO とのプロジェクトのほか、Coppe’ とのコラボもスタート。夏から秋にかけて欧州、北米ツアーの予定。

HATAKEN リンク:
http://hataken.info/
http://soundcloud.com/hataken/
http://mixcloud.com/hataken/
https://hataken.bandcamp.com/
Wåveshåper リンク:
http://mutantra.bandcamp.com/
HATAKEN オーガナイズ:
http://zenzen.asia/
http://tfom.info
HATAKEN インタビュー:
http://mysound.jp/om/163/
リリース:
http://hataken.info/wp/new-album-from-matsuri-digital-chill/
A Prana Planet (2017)
https://www.beatport.com/release/a-prana-planet/2160155
Ascension (2015)
https://www.beatport.com/release/ascension/1005223

関連記事

ページトップへ