Hookup,inc.

LiquidSonics Seventh Heavenユーザーボイス : 山本 匠(Takumi Yamamoto)

伝統的なステレオ・ハードウェア・リバーブのサウンドを、高度かつ高品位に再現するプラグインで高い評価を得ている LiquidSonics。同社製品のヘヴィユーザーであるコンポーザーの山本 匠さんに、お気に入りのリバーブ・プラグイン Seventh Heaven の魅力について聞きました。

リバーブは仮想空間と現実を橋渡しする役割に近い


- 山本さんは作・編曲家として、普段どんなお仕事に携わっているのですか?

HOVERBOARD という作家事務所に所属しており、楽曲では主にアレンジを手掛けることが多いです。HOVERBOARD では積極的にコライトでの楽曲制作をしています。「アレンジは得意じゃないけどメロディは書ける」や、「メロディや歌詞があまり得意じゃないけどトラックは作れる」という人同士が組んで曲を作っています。1人で作ることがダメというわけではなく、それぞれの長所を掛け合わせて新しいものを作ろうということなんです。コンペに出すために本来自分の強みではない部分を「頑張って書かなきゃ…」と行き詰まるくらいなら、自分の苦手な部分を得意とする人と組んで新しいものを生み出した方がいいよね、というスタイルなんです。

- 1人で曲を作る時との違いは?

自分で曲を書く時は歌詞から作り始めることが多いのですが、その場合、歌詞→メロディの順で最後が編曲という流れになります。「詞と曲だけで表現し切れない部分を担うのがアレンジ」という感覚でした。コライトするようになった今でも、他の方が作った詞と曲に対して色を着けるような感覚でアレンジすることもありますし、逆に僕がトラックを先に作ることもあります。いずれにしても、色彩感のイメージを相手に伝えるという気持ちで作っているので、根本的な部分では大きな違いはありません。

- コード進行に手を加えたりすることも?

そうすることもありますが、あえて手を加えないこともあります。組む作家さんによっては「こう直されるのがあまり好きじゃないだろうな」というのがわかる場合もあります。なので、トラックから作る場合でも、その人がメロを付けたくなるようなコード進行で組んでいったりします。僕としてはコライトをやる以上、アイディアを押し付け合うのは意味がないと思います。そのやり方では化学反応も起きないまま、お互いただの作業になってしまうので、あまり自分の好みに近づけたいとは思いません。どうしても譲れないコード進行などがある場合は、こっそりとフレーズを入れて誘導することもありますが(笑)。

- なるほど。ではサウンドメイクで心掛けているポイントは?

サウンド的なインスパイアはJ-POPよりも海外の作品から受けることが多いです。海外の作品を聴くと、それがミックスでのサウンドメイクなのか、アレンジでのサウンドメイクなのか、切り離して聴けないなと感じます。僕自身もアレンジとミックスをあまり切り離して考えてはいないので、クリエイティブなエフェクト処理はアレンジャーがガンガンやるべきだと思っています。ギタリストが自分で音を作るのと同じように、アレンジの段階からサウンドを決めにいく意識は常にあります。自分の意思や意図をより具体的に伝えるという意味でも、ミックスのことをある程度知っていると、エンジニアさんにお願いする場合にも自分のイメージした完成図とのギャップが少ないのかなと思います。

- たしかに曲の印象は、ミックスでガラッと変わってしまうこともありますよね。

そうですね。作家としての仕事を始めたてだった頃は、エンジニアさんにパラデータを渡す際にプラグインを全部外した状態にしていたんですが、最近はほとんどかけっぱなしです。リバーブに関しても、絶対にそのリバーブ感が欲しいという時は、かけたままの状態でお渡しします。ただ、エンジニアさんがやりづらくなりそうだなと思う部分は、逆算して回避するようにしています。例えば薄くかけた歪みのエフェクトなどは外しておくこともありますね。

- リバーブを選ぶ際に意識しているポイントは?

理屈っぽいことはあまり考えていなくて、聴いた時にどう感じるかを一番大事にしています。特に自分の作る楽曲は打ち込みが多いので、リバーブは仮想空間と現実を橋渡しする役割としてリバーブを選んでいます。ライン楽器の場合は別ですが、ドラムの生音やライブ演奏、もっと言うと普段僕達が聞いている音すべてにほぼ何かしらの残響音は必ずありますよね。音楽では、歌ものである以上、そこには必ず空間があると思っています。そうすると、歌を主役と考えた時にリバーブがある場合にどのように感じ、ない場合にはどのように感じるのか、ということを考えながらサウンドメイクをしていることが多いですね。

Seventh Heaven はリバーブを感じさせないリバーブ


- お気に入りのリバーブはありますか?

LiquidSonics のリバーブは全て持っています。それは単純に義務感というか(笑)、コレクター欲のような「買っておかなきゃ!」という気持ちがあるんです。最初に買ったのは Seventh Heaven(Standard)でした。それがすごく良かったので他の製品も試してみたくなったのがきっかけです。Seventh Heaven は BRICASTI Design M7(デジタル・リバーブ・プロセッサ)のエミュレートで、実機にものすごく似ているとSNSで話題になっていたんです。「プラグインで M7 の感じが欲しいなら、これ一択じゃないか」というコメントを目にして、買ってみようかなと。いろんなエンジニアさんの愛用する機材とかを調べていくうちに、現代的なリバーブとして M7 が使われていることが多いというのもわかりました。さらに僕が好きなエンジニアの Manny Marroquin(マニー・マロクィン)もM7を愛用していたこともあり、そのエミュレーターを使ってみたくなりました。Standard も Professional も音は一緒ということで、はじめに Standard を導入し、それから1年ほど使用した後に Professional にアップグレードしました。

seventh heaven
▲Seventh Heaven Professional

- “現代的なリバーブ”というのは?

回答になるかはわかりませんが、僕は Seventh Heaven のことを“リバーブを感じさせないリバーブ”だと思っています。テールが美しいとか音が艶やかとか、そういった点に関しては色々な好みがあると思いますが、失敗しないリバーブだと思います。逆に暑苦しさを出したい時には向かないかなと思います。存在感があまりないというか、いい意味で溶け込んでしまうリバーブなので。

- オケに溶け込ませたい時や、トラック同士を滑らかにつなげたい時に良いのでしょうか?

そうですね。例えばルーム感のある生っぽいドラムトラックの上に、ボーカルだけがデッド過ぎて不自然に感じてしまう場合などに、滑らかにつなぐ目的で Seventh Heaven を挿すことがあります。あるいは、仕上がりとして完全にデッドではないけれどリバーブをあまり感じさせたくない時に、世界観をまとめる目的で挿すこともあります。他のルームリバーブだと、どうしても浮いてしまったり、リバーブ後の処理が複雑化することが多いのですが、最短で自分のイメージの音にたどり着けるのが僕にとっては Seventh Heaven なんです。

- 使い勝手が良さそうですね。

以前、ミックスをした曲で「ボーカルをもっとスッキリさせたい」と言われた際に、リバーブを Seventh Heaven に変えてみたらそれだけでOKが出たことがありました。響きに軽さが欲しい時や、ボーカル自体の重心は上げずにボーカルと同じ高さで残響を残したい場合にも重宝しています。

- ルームリバーブとして使うケースが多いですか?

はい。例えば送られてきたボーカルデータが小さなブースなどで吸音され過ぎていて、音像が小さく窮屈に感じるような時によく使います。海外のボーカルトラックを聴くと、そもそも録音段階での音像がビッグだなと感じることが多いんです。もちろん声そのものや言語の違いもありますが、わりとルームの音が入っていることも結構あって、そういったことも含めてビッグな音像が出来上がっているのかもしれないというヒントを得て、類似的に部屋の空間を作ったりしてみるわけですが、その際に Seventh Heaven はとても自然に使えるので気に入っています。

- 音像の大きさを調整するために使うと?

そうですね。多分、外してもパッと聴いただけではわからないと思います。オンオフしながら聴けばわかるんですが、いかにもリバーブがかかっているといったような感じではないですね。音像に少し余裕が出来る感じ。不思議とボーカルの高域も落ち着いて、イヤな成分がちょっと減るんですよ。だから余計なEQをしなくても済むんです。以前は Seventh Heaven だけでそういう調整をしていたのですが、最近は去年出た Universal Audio UADプラグイン AMS DMX のピッチシフターと合わせてルームリバーブをかけるようにしています。

- DMX をダブラーのように使うわけですね。

そうです。Seventh Heaven だけではルーム感が強いなと思うこともあったので、Soundtoys Micro Shiftなどのピッチシフター、フェイザー系で音色を若干汚すような処理を以前からしていました。これまではイマイチぴったりハマるものがなかったんですが、いろいろ試した結果、今は DMX がしっくりきています。

ams dmx
▲UAD AMS DMX

旋律が多い曲に残響感をキレイに入れられる


- リバーブ感がもっとガッツリ欲しい時には、他のリバーブを選ぶんですか?

Seventh Heaven のプレートも好きなんですが、単体で使うことはあまりなくて、後段にディストーションやフェイザーを挿れて少し汚したりしますね。重くしたくはないけど存在感をもう少し出したいという時に少し加工します。残響感をしっかり出したい場合は WAVES Manny Marroquin Reverb を使うことも多いですが、旋律が多いJ-POPで残響感をキレイに入れていくにはやはり Seventh Heaven が重宝しますね。

- Seventh Heaven は繊細な空間作りに向いているようですね。

そう思いますね。音が飽和しないから使いやすいです。

- CPUの負荷はどうですか?

僕はまったく気にならないですね。これだけ高品質で、CPU負荷も気にせず使えるっていうのは、すごくありがたいです。

- よく使うプリセットは決まっていますか?

曲ごとにその都度イチから選ぶことが多いです。お気に入りのプリセットもありますが、わりと最初から選ぶのが好きなんです。マンネリ化しちゃうのが嫌なのでセッションもテンプレートをあまり作らないし、ビートを組む時も Splice を使って持っていないサンプルから検索したりします。「この前良かったからまた使おう!」というやり方もいいですが飽きてしまうこともあります。新しいサンプルを探して、その都度いろいろなものに出会えるのもいいなと。「今は使わないけど今度使えそう!」というサンプルは、お気に入りに入れておきます。

- LiquidSonics の中では、やはり Seventh Heaven の使用頻度が一番高いですか?

一番高いですね。Cinematic Rooms は自分にとっては上品過ぎるせいか、あまり手が伸びなくて。空間がすごく感じられて生っぽさが強いので、生楽器が主体のクラシック系なんかにすごく合いそうだなと思うのですが、僕は illusion の方が好きですね。illusion には以前から Dynamic Section が付いていてコンプレッサーをかけられるのが非常に使いやすかったのですが、最近になって Cinematic Rooms にも Seventh Heaven にも Dynamic Section が追加されたので、使用感ではあまり大差がなくなりました。illusion と Cinematic Rooms は触れる箇所が多いこともあり、Seventh Heaven の方がシンプルで直感的に作業できるので、どうしても先に手が伸びてしまいます。

illusion
▲illusion

- Dynamic Section はどんな時に使いますか?

ボーカルなどレンジが広いパートにリバーブをかけた時、突発的に膨らんでしまってリバーブ感が邪魔に鳴ってしまうような時に、そのピークを少し抑えるために Dynamic Section を調整します。そういえば illusion を使っていて気が付いたのは、もちろん曲や求めている音によって変わりますが、3〜6dBくらい叩いてからブーストした方が密度感があっていいなと思いました。

- Reverberate3 も使っていますか?

Reverberate3 は基本的にIRローダーとして使っていて、IRをいくつかプリセットとして入れています。海外メーカーから出ている Fairchild や Neve 1073 のIRだったり、U47、U67、ELA M 251 のようなマイクのIRだったり。AMS RMX16 のIRなども入れています。M7 のIRも Reverberate3 に最初から入っているんですが、Seventh Heaven とは違って、濃いというかザラつき感が少しあります。なので存在感のある M7 が欲しい時はあえて Reverberate3 にすることもありますね。Reverbrate3 は Fusion IR をガンガン活用するリバーブなので、そこを理解しないと扱いが難しい面もあります。でも Fusion IR のシグナルルーティーンを変えられるのは Reverberate3 だけなので、使いこなせば他のリバーブと違った音作りの幅があると思いますね。

reverberate
▲Reverberate3

- 山本さんのお知り合いにも LiquidSonics を使っている方はいますか?

すごくたくさんいます。今ではオススメのリバーブを聞かれて真っ先に出てくるメーカーなのではないでしょうか。「プロは知っているけど」という感じが以前はありましたが、ここ1〜2年で一気に様々な層に広まった気がしています。今はSNSなどを通してプロやアマチュア関係なく情報が交換できたり、様々な情報を目にする機会も増えたので、素晴らしいものはどんどん広まっていってほしいなと思います。

山本 匠(Takumi Tamamoto)

北海道出身。

Compose / Lyric / Arrangement / Mixing

幼少期に歌謡曲に影響を受け、中学高校と吹奏楽部でトロンボーンを担当する。その後、作編曲を始め2018年HOVERBOARDに所属。自身の軸となる歌謡曲と、現代のサウンドを融合した作編曲を得意とする。代表作として櫻坂46「恋が絶滅する日」、AKB48「君がいなくなる12月」、MACO「桜の木の下」、神宿「明日、また君に会える」、ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(エマ・ヴェルデ CV:指出毬亜)「哀温ノ詩」、Girls2「ジャパニーズSTAR」などが挙げられる。

関連記事

ページトップへ