私たちが愛する“非線形”なサウンドは回路図の想定を大きく超えたもの - ジェームス・サンチャゴ(Universal Audio)
ギター・ペダルの製作を生業にしていて、フェンダー・アンプのサウンドに影響を受けなかった者などいるだろうか? ましてや、それが米国内の話であれば尚更だ。誰もが憧れ、欲し、あらゆる現場における最高の選択肢であった伝統のアメリカン・サウンドに今最も接近しているとされるペダル・ブランド──UAFX。ギター業界を震撼させた“Dream”や“Woodrow”というペダルを世に放った彼らは、その偉大なサウンドとどのように向き合ってきたのだろうか? その点に関して、ユニバーサルオーディオでシニア・プロダクト・デザイナーを務めるジェームス・サンチャゴ氏に話を聞いた。
絶対的なNO.1アンプは、ツイードでもブラックフェイスでもない
- フェンダー・アンプのサウンドは、ひと言で表現するのがなかなか難しいですよね?
そうですね。そもそも、ツイードなのかブラックフェイスなのかによっても話は全く違います。しかも、ヴィンテージ・フェンダーは、レオが純粋なクリーンを目指してデザインしたにもかかわらず、時に意図された範囲外で動作させられることがありますから。例えば、ツイードの“Bassman”。真空管とトランスが限界までプッシュされるほどの電流が流れると、スピーカーが歪み始めてオーヴァードライヴのトーンが生まれます。ですが、そうした私たちの愛する“非線形”的なサウンドの領域は、回路図の想定を大きく超えたものなのです。だからこそ、私はフェンダーの回路に恋をしてしまったんですけどね(笑)。
- 特に好きな回路はあるんですか?
1960年代のほぼすべてのアンプで使用された古典的な“AB763”サーキットは、演奏面でも、エンジニアとしての成長を計るベンチマークとしても、私の人生を変えるものでした。初めての出会いは、10代の頃に手に入れた2×12インチ・キャビネットがセットになった“Bandmaster”(のヘッド)です。約150ドルで買ったそれは、わずか40Wの出力しかありませんでしたが、音量を上げ下げするだけで驚くほど幅広いトーンを得ることができました。“VOLUME”=4のクリーンも素晴らしいですし、7まで上げて“Tube Driver”や“Tube Screamer”を加えた時の歌うようなリード・トーンも大好きでしたね。しかも、ペダルを入れるとギター側ヴォリュームにもさらに良く反応するようになるんですよ! これは私見ですが、オーヴァードライヴになる前の、真空管にわずかなコンプレッションがかかった段階の“AB763”回路が生み出すクリスタルな煌きに勝るものなどないと思っています。
- ツイードのアンプの回路はどうですか?
ブラックフェイス・アンプの洗練されたクリーン・マシンの心臓部分に比べると、ツイードのそれはもう少し“野生的”です。クリーンからクランチでは、際立った中域があるおかげでミックスの中でも美しい切れ味があり、ほとんどすべてのドライヴ・ペダルとうまくマッチしますね。しかも、グリット感こそ少し多目ですが、チューブ整流器のおかげで素敵な膨らみとサグを持っていて、最大音量の12にすると他のアンプにはないファズ・アウトしたようなユニークなトーンになるのです。スティーリー・ダンのレコーディングに参加したラリー・カールトンは、ツイードの“Deluxe”とハムバッカーを載せたES-355だけでクリーンからダーティーなリードまでを操っていました。
- そういう話を聞くと、やはりどちらも捨て難いですね(笑)。
「完璧なアンプ」は、ツイードでもブラックフェイスでもないということでしょう。実際に、トム・ペティ&ハートブレイカーズのマイク・キャンベルや、ナッシュヴィルのセッション・エースであるトム・ブコヴァックのように両方を一緒に使う人もいるわけですから。みなさんには、実際のアンプでも良いですし、あるいは“Dream”と“Woodrow”の組み合わせでも良いかもしれませんが、ぜひ異なる2つを同時に試してみることをお勧めします。それは、本当に素晴らしいトーンの体験になるはずですよ。

弦をヒットする時のピックの音を注意深く観察する
- UAFXには、実物のアンプに迫るほどリアルな感触を得られるペダルがいくつもあります。そのスタートはどんな経緯だったのですか?
初期の“OX”を開発中に、すでに本格的なアメリカン・アンプのモデルを作るためのR&Dを立ち上げる計画を進めていました。その試験台となったのが私の所有していた1955年製のアンプだったのです。非常にシンプルなものでしたが、単一のトーン・コントローラーとヴォリュームを動かすだけで得られるトーンの幅が驚異的だったのです。ヴォリュームが上がるにつれてサウンドがどのように破綻していくのかを、サーキットの各部分と照らし合わせながら検証していき、最終的に満足する結果が得られたので、それをまずUAD“’55 Tweed Deluxe”プラグインとしてリリースしたわけです。この大規模なDSPプロジェクトをペダル・フォーマットに収めるという素晴らしいアイデアは、ギター・チームのパートナーであるトーア・モーゲンセンから聞くまでは考え付きもしませんでしたけどね。
- なるほど。今の話を聞くと“Woodrow”のような製品が出てきても何ら不思議な気はしません。開発には、時間もかかったんじゃないですか?
私たちは、狙ったアンプと遜色ない周波数応答と倍音内容を得られるまでは、音色の構築が完了したとは考えません。コントローラーが任意の設定でも同じように反応する必要があるからです。そこからさらに、パワー・セクションがどのように膨らみ、トランジェントがどう処理されるかに関わる部分に入っていきます。これらのプロセスだけで、完成させるまでに数ヶ月かかることもあります。こうした分析と検証の積み重ねだけが、ユーザーのダイヤルした設定が期待通りに機能することを私に確信させるのです。
- UAFXのアンプ・シリーズは、ピッキングに対するレスポンスとスピードも信じられないほどリアルですよね。どんなパラメーターを突き詰めたらこれほどの応答性を実現できるのでしょうか?
それは全プロセスの中で最も難しい部分の1つです。同じ周波数応答を持ち、倍音が実機と同じように並んでいたとしても、それだけではアンプの応答が速いか遅いかについては何も分かりません。また、単にAコードをできるだけ長く弾きたい場合に、アンプがどれだけ音を持続できるのかも分からないのです。私はトランジェントに対処するために、弦を弾く際のピックの音がどう聞こえるかを注意深く聴くことに多くの時間を費やします。実際に使用するDSPテクニックについて明かすことはできませんが、レスポール、ES-335、ストラトなどのあらゆる古いギターを、いろいろな厚さと素材のクラシックなギター・ピックで弾けるようにしておく必要がある、ということだけは言っておきます。
- トラディショナルなアメリカン・アンプのサウンドを狙っているはずの“Dream”や “Woodrow”に、英国製スピーカーを選択できる“GB25”のようなモードが入っているのはなぜですか?
昔から古いジェンセンのスピーカーが“飛ぶ”のを見てきたのもあって、私のツイード“Deluxe”には25Wの“Greenback”スピーカーが載っています。実はツイード・アンプにセレッションを合わせるプレイヤーは多くて、友人のジョー・ボナマッサもその1人なんですよ。何よりも、マーシャルが“Bassman”を元にしたアンプにそうしたスピーカーを組み合わせたことを忘れてはいけません。
- 最後にUAFXのファンにひと言お願いします。
日本人の知識と製品開発の細部に対する関心は、他のどの国よりも高いと感じます。おかげで私もギター・ギーク・モード全開で話すことができました(笑)。良い機会をくれてありがとう!
[試奏レビュー] マニア垂涎の“ツイード・サウンド”を手軽に味わう
UAFX Woodrow ’55 Instrument Amplifier [Amp Emulator]

その登場がアンプ・モデリングの技術革新に一石を投じたとも言われる、伝説のUAD“’55 Tweed Deluxe“プラグイン、本機はその全てをストンプ・スタイルの物理ギアに封入し、より実践的な音作りをサポートする高次元なブースターをバンドルしたUAFXアンプ・シリーズの先駆的モデルだ。ギター側ヴォリュームへの反応は当然として、ピッキングの強弱や弦に触れるニュアンスに対するレスポンスの生々しさは圧巻。ワイドに暴れる高域と、煙るような光沢を放つミッドの芳醇さはまさに黄金期のツイード・アンプを思わせる。今や生音を聴く機会も少なくなった1950年代の音色をメンテナンス・フリーで楽々と現場に持ち出せるのは喜びしかない。





[試奏レビュー] 1960年代を代表するアメリカン・アンプの質感を抽出
UAFX Dream ’65 Reverb Amplifier [Amp Emulator]

ヴィンテージ・アンプの中でも最も万能なサウンドを持つとされ、長くLAのセッション・プレイヤーたちのスタジオ標準機として愛されたブラックフェイス期のフェンダー・アンプ。“Dream”は、サンチャゴ氏の友人が所有していた完璧な状態の“Deluxe Reverb”やその他の多くのアンプへの無上のリスペクトから誕生したUAFXを代表する人気モデルだ。弾けるように燃え上がる倍音と、透き通っていながら深い坑道で響くような立体的な“鳴り”を放つサステイン。我々が想像可能な最上のアメリカン・トーンに、何1つ足さず、何も引かない……そんな実直でありながらギタリストの手に全てを委ねるようなデザインが尊い。





インタビュー&文:今井 靖 Yasushi Imai
※シンコーミュージック・エンタテイメント「THE EFFECTOR BOOK Vol.67」より転載