Culture Club のスタジオアルバムでとくに知られるプロデューサー/コンポーザーの Steve Levine は、Audio Network から1960年代のソウルのクラシックサウンドを再現するよう依頼を受けました。彼は当時の雰囲気を捉えるために、その筋の専門的なボーカリストや60年代のレコーディング機材、加えて、UAD パワードプラグインを含むビンテージからインスパイアされた最新機材を採用しました。
ここでは、彼がどのようにして UAD プラグインを活用し、Motown サウンドを捉えていったのかについてご紹介します。
60年代のソウルサウンドを捉える
私は Audio Network から依頼され、1960年代半ばから後半にかけての本格的なソウルのレコーディングセッションのヴァイブとサウンドを捉えるという、非常に興味深く、魅力的なプロジェクトに携わりました。このレコーディングは、Motown、Stax、Atlantic Records のような特定のソウルサウンドを目指したものではなく、まるでパラレルワールドにいるかのようなそれを意図したものです。
1958年生まれの私は、1960年代にレコードを作っていた年齢ではありませんが、BBC Radio 2 や Radio 6 Music の The Record Producers で、Motown のスタジオには1965年以降、8トラックの録音環境があったことは知っていました。The Four Tops の “Reach Out” や The Supremes の “Reflections”、そして “Can't Hurry Love” など、私たちが「クラシック・モータウン・サウンド」として愛してやまないものの大半は、すべて8トラック録音だったのです。
Motown、Atlantic、Stax Records は、The Beatles がそれほどまでに多くのトラック数を利用できるようになるよりもずっと前から8トラック録音を行っていました。伝説のソングライターである Lamont Dozier と Motown Records は、本シリーズのために、Motown のオリジナル・マルチのコピーを提供してくれたんです。おかげで、これらの作品がどのように作られたのかについて独自の見識を深めることができました。
プロデューサーが連れてきた素晴らしいミュージシャンと並び、当時のレコーディングエンジニアがいかに斬新で、創造的だったかも知ることができました。ドラムとベースのトラックを分けたり、リードボーカルをバッキングボーカルとは別にオーバーダビングしたり ─ こうしたアイデアによって、当時としては前例のないミキシングコントロールを実現していったんです。多くの場合、イギリスではまだ4トラックを使用していました。8トラックを使うことによって、タイトでソウルフルなサウンドを生み出すことができるようになったのです。
このユニークなサウンドをうまく再現するためには、それに適したスタジオとミュージシャンを押さえることが鍵となりました。幸運にもそのようなスタジオがロンドンで見つかったんです。それが Toe Rag Studios ですね。そこには、1インチの Studer 8トラックテープレコーダーと EMI REDD が備えてありました。このテープレコーダーは70年代のもので、卓の方は60年代前半のものですが、私たちの求めるものとしては十分でした。
レコーディングルームは Motown のスタジオに非常に近い広さと雰囲気があり、セッションは1週間に渡って行われました。私は事前にボーカリストとともに計画を立て、ドラム、ベース、ギターを基本トラックとしてトラッキングしていきました。
マイクは可能な限りビンテージのものを選びながら、Audio Technica のリボン(AT4080 と AT4081)のようなニュービンテージとも言えるマイクも採用しました。これらはオーバーヘッドに1本、そしてキックに1本を使いましたが、素晴らしいドラムサウンドを捉えるのに極めて効果がありましたよ。
Toe Rag には本物の EMT 140 プレートリバーブがあったので、私は EMT® 140 Classic Plate Reverberator プラグインのための設定のエミュレートにも挑みました。おかげで、ストリングスとボーカルでヴァイブを得ることができましたね。EMT 140 用に保存したプリセットはこちらからダウンロードできます。
バッキングトラックの収録後は、ギター、ハンドクラップ、パーカッション(ビブラフォン、タンバリン、コンガなど)のオーバーダブを行いました。すべてのトラックは、EMI の卓を介し、Studer の1インチ・テープマシンに録音されています。私は、8つのトラックを使い切った後は、同一トラックに複数の楽器を入れないようにしました。そしてマスターテープをラップトップに移し、ストリングスとホーンのオーバーダブをラップトップに直接行っていったのです。
UAD プラグインを使った最終的な仕上げ
60年代のソウルアルバム・プロジェクトのために、11曲をレコーディングしました。以下は、“Just Give MeAChance” という曲のファイナルマスターです。
ミキシングの段階では UAD プラグインを多用しましたが、この曲も例外ではありません。主な使用プラグインは、Pultec Passive EQ Collection プラグインと Fairchild® 670 Compressor プラグインで、これらの実機は当時の Motown の多くのレコーディングで使われていました。また、Studer® A800 Multichannel Tape Recorder プラグインのおかげで、60年代の多くのソウル・レコーディングに見られるような、オーバードライブしたテープサウンドを得ることができました。
“Just Give Me A Chance” のストリングスには、Neve® 1073® Classic Console EQ プラグイン、dbx 160 Compressor / Limiter プラグイン、Studer A800 を使いました。使用したプリセットはこちらからダウンロードできます。
以下は、UAD プラグインを使用していないストリングスです :
そして UAD プラグインを使ったものです :
ドラムのファイナルミックスのために、Fairchild® 670 Compressor プラグインを Studer A800 に加え、素晴らしいサチュレーションを得ました。以下はプラグインなしのミックスです :
UAD プラグインを使ったものです :
バッキングボーカルには、EMT 140 プラグインでリバーブ、dbx 160 でコンプレッション、そして Studer プラグインによるテープサチュレーションを使いました。以下は UAD プラグインを使用していない状態です :
UAD プラグインを使ったものです :
リードボーカルが最も印象的でした。Studer A800 プラグインに EMT 140 からリバーブを追加すると、声に艶が出ましたね - まさに LEVI STUBBS! リードボーカルに使用した Studer のプリセットはこちらからダウンロードできます。
以下は UAD なしのリードボーカルです :
そしてこちらが UAD プラグインを使ったリードボーカルです :
Audio Network のマスタリングエンジニアである Christopher Brooke は、UAD プラグインがミキシングでもたらした効果を実感した後、UAD-2 カードを購入し、プラグインを使ってアルバムのマスタリングを行いましたよ!
Photos by James Callum.
— Steve Levine