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Universal Audio : 5分で知る UAD プラグイン(11)Fairchild Tube Limiter Collection

ビンテージ機材の中でも「コンプレッサーのヘビー級チャンピオン」と称される伝説の名機をご存知でしょうか? 今回は、世界中のエンジニアやプロデューサーから最高の評価を得ているリミッター、Fairchild 660 / 670 を完全再現した UAD プラグイン、Fairchild Tube Limiter Collection をご紹介します。

Fairchild 660/670 はレベルコントロールを行うための世界標準


オリジナルハードウェアの Fairchild 670 は、14個のトランスと20本もの真空管を搭載し、重量は約30kgにも及ぶモンスターマシンです。1950年代後半に発表されて以来、レベルコントロールを行うための世界標準として長年愛されてきました。

この名機を設計したのは、エストニア生まれの移民である Rein Narma 氏です。レス・ポール氏やルディ・ヴァン・ゲルダー氏といった著名人からオーディオリミッターの作成依頼を受けた彼が生み出したデザインを、Sherman Fairchild 氏がライセンス取得して世に送り出しました。

Fairchild の最大の特徴は、真空管をアンプリファイアー(増幅器)としてではなく、ゲインリダクションそのものに使用している点にあります。これにより、2:1のコンプレッサーから30:1のピークリミッターまで、オーディオパス内で直接かつ極めて自然なコントロールを実現しています。

実機を超えた!? UAD 版の進化とラインナップ


UAD の Fairchild Tube Limiter Collection では、Ocean Way Recording の Allen Sides 氏が所有する「ゴールデンリファレンス」と呼ばれる極上の実機を、コンポーネントレベルから精密にモデリングしています。しかも実機とは違い、使用前に30分間ウォームアップする必要はありません!

このコレクションには以下のプラグインが含まれており、用途に合わせて使い分けが可能です。

Fairchild 660
コントロールの少ないシンプルなインターフェイスが求められる場面に最適なモノラルプロセッサー。

660

Fairchild 670
世界中のエンジニアが愛用する、2チャンネルのステレオプロセッサー。第2世代のアルゴリズムにより、スレッショルドの挙動からトータルゲイン、歪み量まで厳密に再現されています。

670

空間の広がりをコントロールする Lat/Vert モード(M/S処理)


Fairchild 670 を語る上で欠かせないのが、ラテラル/バーチカル(Lat/Vert)機能です。もともとはレコードのマスター製造時、レコードの溝のスペースを効率的に使うために開発された機能でした。ステレオ信号の成分をラテラル(ミッド/センター)とバーチカル(サイド/ステレオ)に分離し、独立してダイナミクス処理を行うことができます。現代の音楽制作においては、空間の広がりをコントロールするクリエイティブなエフェクトとして非常に有効です。

lat/vert

特徴的なパラメーターとプラグイン限定の新機能


インプットゲイン
プラグインに入る音量を調整するツマミですが、単なるボリューム調整ではありません。 Fairchild は真空管とトランスの塊です。インプットを上げることで、回路内の真空管にどれだけ信号を叩き込むかを決めます。大きく入力すると、真空管特有の心地よい歪み(倍音)が加わり、音が太く、温かみのある質感に変化します。コンプレッションをかけるためだけでなく、アナログの質感を足すための積極的な音作りとして活用されます。

INPUT

    スレッショルド
    一般的なコンプレッサーのスレッショルドは「何dBを超えたら圧縮を始めるか」を決めますが、Fairchild の場合は「どれだけ深く圧縮するか」を決める調整ツマミに近い感覚です。スレッショルドを回していくと、内部では圧縮の比率(レシオ)も連動して変化します。最初は2:1くらいの緩やかなコンプレッションから始まり、深く回すと最終的には30:1のリミッティングへとシームレスに変化していきます。後述する「DCスレッショルド」を調整することで、この圧縮のかかり始めの鋭さ(ニー)をさらに細かくカスタマイズできます。

    スレッショルド

      タイムコンスタント
      アタックとリリースタイムを決める6ポジションのスイッチです。ポジション1〜4は数字が大きくなるほどアタックとリリースの時間が長くなり、ゆったりとしたかかり方になります。ポジション5と6は、入力される音量や長さに反応してリリースタイムが自動で変化します。ドラムの粒立ちを揃えたい時はポジション1か2、ボーカルを前に出したい時は2か3、マスターで全体に艶とまとまりを出したい時は5か6を選んでみるといいでしょう。

      タイムコンスタント

      ヘッドルーム(HR)
      内部のオペレーション・レベルを調整する、プラグイン専用の機能です。反時計回りに回して値を下げることで、コンプレッション前に入力信号を増加させるための、ヘッドルームを増やすことができます。逆に高い値に設定すると、信号が簡単にゲインリダクションを起こし、ハードウェア特有のノンリニアリティやハーモニック・ディストーションによるカラーリングを加えることができます。

      ヘッドルーム

      サイドチェイン・フィルター
      20Hz〜500Hzの間で設定できるローカットフィルターで、これもプラグイン専用の機能です。コンプレッサーのサイドチェイン信号から低域をカットすることで、重低音が引き起こす不自然なポンピングや過度のゲインリダクションを防ぐことができます。

      サイドチェインフィルター

      MIXコントロール
      こちらもプラグインのみの機能です。処理されたシグナル(ウェット)とオリジナルのドライシグナルの出力バランスを調整できます。DAW上で複雑なルーティングを組むことなく、手軽にパラレル・コンプレッションが可能です。

      MIX

      DCスレッショルド
      コンプレッションの比率(レシオ)と、ニーの幅をコントロールします。右回りに回すとレシオが低くなりニーの幅が広がるため、適度なコンプレッション時にはかかり方が緩やかになります。

      DCスレッショルド

      軽快な動作とクリーンなサウンドの Fairchild 670 Legacy


      Fairchild Tube Limiter Collection には、最新モデリング版だけでなく第1世代の Fairchild 670 Legacy も収録されています。このレガシー版は2004年にリリースされたもので、当時の限られたDSPリソースに対応するため、トランスやI/Oの歪み特性などはあえてモデリングされていません。

      670 Legacy
      ▲Fairchild 670 Legacy

      一見すると機能が省略されているように思えるかもしれませんが、歪みの少ないクリーンなコンプレッションをかけたい状況では非常に重宝します。また、DSPリソースの消費が少なく、アップサンプリングを行っていないためレイテンシーを低く抑えられるという実践的なメリットもあります。

      さらに嬉しいことに、この Fairchild 670 Legacy は、Universal Audio の最新オーディオインターフェイスである Apollo X Gen 2 シリーズに標準で付属しています。Apollo X Gen 2 シリーズを導入した方は、すぐにこの伝説のコンプレッサーのサウンドを自身のトラックに取り入れることができますので、ぜひ活用してみてください。

      極上のアナログサウンドが得られるプリセットを多数搭載


      歴史的なヘビー級名機を最新技術で手軽に扱えるようにした Fairchild Tube Limiter Collection。マスターフェーダーでの使用から、個々のソースへの極端なゲインリダクションまで、幅広いシチュエーションで極上のアナログサウンドを提供してくれます。著名なアーティストが作成した即戦力のプリセットも多数搭載されているので、皆さんもぜひ自身のトラックでこの魔法のコンプレッサーを体感してみてください!

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