Hookup,inc.

エンジニア石野洋一郎が明かすメタル・レコーディングとスタジオワークの裏側

メタルからアイドル、ヒップホップまで多彩なジャンルのレコーディング / ミックスに精通し、Jens Bogren や Fredrik Nordstrom ら海外の大物プロデューサーとの現場も数多く知るエンジニアの石野洋一郎氏。現在の活動拠点である東京・品川の Crunch Studio を訪ね、石野氏独自のレコーディング手法と、豊富な機材を宅録ライクに扱えるというスタジオ環境について話を聞きました。

ミュージシャンが気持ち良く演奏できるようにオペレーションをする


- 石野さんは元々ミュージシャンとしてアーティスト活動や作・編曲、プロデュースなどをされていて、その後、エンジニアに転身されたそうですね。

エンジニアになったきっかけは、元々自分でレコーディングをしていたからなんです。バンドを始めた頃からすぐにDAWを使うようになって。デモを作る作業も、周りのミュージシャンがリズムマシンやMTRでやっていた時代に、Cubase にババッと打ち込んでアレンジみたいなことをやっていました。作・編曲をしながら自分の演奏を録るのって、今は多くの人がやっていますけど、僕は昔からやっていたんです。

- それは、いつ頃のことですか?

DAWを使い始めたのは23年前くらいですから、1997年頃ですね。

- 当時からDAWを使っていたミュージシャンって珍しいですよね。

そうですね。Pro Tools もありましたけど、まだ初期でした。なんとかオーディオが扱えるくらいで。

- どのようにしてエンジニアとしてのスタイルを確立していったのですか?

自分の中に録りたい音や作りたい音、「あのアルバムのこういう音にしたい」というイメージがあったので、そこに向かってひたすら研究していましたね。

- 好みのバンドを多く手掛けていたのですね。

そうですね。どちらかと言うとメタルバンドだったり、僕が手掛けた作品を聴いてくれたクライアントから、仕事の依頼をいただくことが多かったです。

- 海外のプロデューサーと一緒に作業することもあったそうですね。

スウェーデンでは Jens Bogren* や Fredrik Nordstrom** と仕事をしました。基本は、彼らにミックスをやってもらって、それを僕がチェックするという作業でした。

- 共同作業の中で印象深かったことは?

マインドの部分が大きいかもしれないですね。Jens はめちゃくちゃマニアックなタイプで、賢くて研究熱心で、頭の構造がインテリっぽいというか。サイドチェインを組み合わせて音作りをしたりしていました。それに対して Fredrik は案外オーソドックスで、あまりそういうワザを使わないんですよ。でも、2人に共通していたのは“攻める”感じというか。まず「ゴン!」って感じの力強い基礎を作るんです。もちろんディテールも作り込むんですけど、作り方の発想の基本はそういうことなんでしょうね。

- そういった経験を通じて、自身のスタイルに変化はありましたか?

僕は結構色々変わるというか。どちらかと言えば細かく作り込む方なんですけど、Jens ほどインテリなことはできません(笑)。

- メタル作品のレコーディングにおいて大事なことは何でしょうか?

ドラムだとやっぱりアタックをちゃんと録ることと、クリアに録ることです。メタルに限らないかもしれませんけど、余分な音を入れないというか、雑味を少なくするんです。これは録りでもミックスでも同じですね。

- なるほど。では、ジャンルを問わず大切にしていることは?

色々ありますけど、ひとつはミュージシャンが気持ち良く演奏できるように、演奏に専念できるようにオペレーションをすることですね。それはどの楽器、どのジャンルを録る場合でも同じです。そのためには空気を読むことがすごく大事なんです。アーティストの反応やパフォーマンスからも読むし、表情や「今の聴かせて」って言った時のニュアンスで、「あ、迷ってるのかな?」って読み取ったり。「もう一回トライするのかな?」とか「今のテイクをキープしておいてもう一回録るだろうな」と察知して、プレイバックしながらオペレーションをしておく。で、「もう一回やってみようか?」と提案するんです。レコーディングはアーティストと一緒にいいテイクを作る作業なので、もうワンテイクに挑戦しやすくしたり、別パターンを録って比べやすいようにしながら、録り音をちゃんとチェックして調整しておくんです。

- 長時間におよぶレコーディングでは、ミュージシャンの集中力を保つのも大変ですよね。

そこはミュージシャン1人1人の気質にもよりますね。パッと録って「あとはエディットしといて」って言う人もいるし、録る曲とミュージシャンの性格によって、いろんなパターンがあります。レコーディングはいい音源を作るためのプロセスなので、ゴールまでの向かい方や道はいろんなパターンがあるんですよ。それが空回りしていたり、うまくいかない現場もあるので、そういう時は「これならエディットでいけますよ」と提案してみたり。場合によっては録りながらエディットしておいて、よりタイトな音で聴いてもらうことで、次のステップへ気持ち良く進んでもらえるようにすることもあります。そういうサポートの仕方もありますね。

- プロデューサーとして制作に携わることも多い、石野さんならではのサポート方法ですね。

プロデューサーとして関わるプロジェクトでは特にそういうサポートがしやすいですね。自分が最後まで作品を仕上げる立場なので、例えば、演奏が少し突っ込み気味になっている時でも、パッとエディットして「これでよし!」と自分で決めることができます。歌のテイクも自分で選ぶので、レコーディング中に決め切れない場合は、複数のテイクを残しておいて後で判断したり。そういった部分は、エンジニアを超えた範囲でできますね。

Apollo 16 の第一世代と第二世代をカスケードして使っている


- この Crunch Studio はどんな環境を目指して作ったのですか?

ここでは若いミュージシャンや、バジェットが小さめのプロジェクトでも、しっかりした作品を作れるようにしたいと思いました。機材とかも贅沢に選べて、「この値段だからこんなもんか」っていう程度のクオリティじゃなくて。

- 確かに、ここにはギター・アンプやキャビネット、エフェクターも豊富にありますし、プレイヤーにとってワクワクするスタジオですよね。

それでいて規模感が小さいので、宅録をやっているようなノリでじっくり録れるんですね。そういう意味で、リラックスしてレコーディングするために、ここを使ってくださる方も多いです。

Crunch Studio のレコーディングブース。ロビーにもアンプやエフェクターが多数ある

- DAWは Pro Tools だけでなく、Logic Pro X や Cubase も用意されていますね。

僕自身は Logic を使わないんですが、誰かユーザーがきた時のために一応入れてあります。僕が使うのは Cubase と Pro Tools です。どちらを使うかは、まずクライアントからの指定によります。「Pro Tools のセッションで欲しい」とか「アーティストが Cubase を使っているから Cubase のプロジェクトで欲しい」という場合もあるので、どちらにするかをまず聞いて。特に指定がなければ、ボーカルのエディットが多くなりそうな場合は、Vari Audio が作業しやすいので Cubase にしたり。逆に、バンドをドラムから録っていくような場合は、Pro Tools の方がドラムが録りやすいし、エディットもしやすいんです。そういった作業性で選んだりもします。

Crunch Studio のコントロールルーム

- どちらかのDAWで作業を始めたら、最後までそれを使い続けるのですか?

そうとも限らなくて、Pro Tools で録って Cubase でミックスしたり、その逆もあります。プロジェクトのプロセスを予想して、どっちでやるかを考えますね。今回のプロジェクトはこういう作業を多く求められるだろうから、こっちのDAWにしようかな、という風に。

- オーディオインターフェイスに Universal Audio Apollo 16 を選んだ理由は?

以前から Universal Audio UAD-2 Satellite でUADプラグインを使っていたんです。で、このスタジオを立ち上げた時に、Apollo 16 ならチャンネル数がたくさんあってドラムも録れるし、UADプラグインもそのまま使えるので決めました。カスケードもできるから、将来的に、今までの財産を維持したままシステムを拡張できるというのも大きいですね。現在は Apollo 16 の第一世代と第二世代をカスケードして使っています。

中段が Universal Audio Apollo 16 の第二世代
中段が Apollo 16 の第一世代

- 実際にレコーディングで使っていて、Apollo 16 のサウンドはどうですか?

第一世代と第二世代では明らかに録り音のクオリティが違いますね。なので、新しい第三世代の Apollo x16 も気になります。第二世代のチャンネルから優先的に使って、足りないチャンネルを第一世代で補うという感じですね。

- よく使っているUADプラグインは?

1176 Classic Limiter CollectionTeletronix® LA-2A Classic Leveler CollectionPultec Passive EQ Collection あたりはメチャクチャよく使いますね。どんなパートにも使います。ドラムには 1176 を使うことが多くて、ボーカルだと 1176 と LA-2A を二段がけしたり。録りではハードウェアのコンプをかけることもあります。

- ハードウェアのコンプというと?

Universal Audio の 2-LA-2 や 2-1176、あと Tube-Tech CL1B も使っています。ギターはあまりかけ録りをしませんけど、ボーカルはほぼかけ録りをしていて、場合によってはドラムもそうします。

上から Universal Audio の 2-1176 と2-LA-2

- プリアンプの Universal Audio 2-610 はどんな時に使うのですか?

ドラムのルームマイクを通しています。AKG C414(コンデンサー・マイク)をステレオで立てて、2-610 に通すんです。2-610 はEQが付いているし、レベルのツッコミ感も調整できるので、ルーム感のコントロールがしやすいんですよ。スネアとかはタイトに録りたいんですけど、ルームは生々しく録りたいんです。雑味だったり、ドラムのサウンド全体を拾うマイクですから、2-610 はそれをコントロールしやすいんですよ。ドラムを録る時には必須ですね。

- 他にもプリアンプが多数ありますが、Rupert Neve Designs の Portico 5024 Quad Mic Pre はどんな用途で?

これはプリが 4ch あるので、わりとチャンネル数が必要なパートに使います。例えば、タムの音を揃えたり、ギターとかアコギにもよく使います。クリーンな音で録りたい時に使うことが多いかな。「Silk」ボタンをオフにするとソースの音が本当にそのまま録れるんです。以前、他の機種と聴き比べてみましたけど、Silk をオフにした Portico 5024 が一番ソースに忠実でした。もちろん Silk をオンにすることもあって、ドラムの皮ものを録る時や、歌にも使います。基本的にはオンにすることが多いかな。もう少しニュートラルなサウンドにしたい時に、オフにするという使い方です。

上から二段目が Rupert Neve Designs Portico 5024 Quad Mic Pre、三段目が Universal Audio 2-610

- 同じく Rupert Neve Designs の RNDI はベースのライン録り用ですか?

そうです、ベーシストに無茶苦茶評判がいいんですよ。実際に使ってみて、良さを実感するベーシストが多いですね。自分の演奏がスッと入ってくるというか、多分ニュアンスの感じとか、プレイヤーのイメージ通りに音が入ってくるんだと思います。以前、大きなアリーナ・クラスのライブで RNDI 経由でベースを鳴らしてみたら、いい意味で、他のDIとはすごく差がありましたね。

Rupert Neve Designs RNDI

- ラック内の Manley Laboratories Stereo Variable MU Limiter Compressor はマスタリング用ですか?

マスタリングというか「ミックスバス」と言った方がいいですね。通すだけで立体感が出せて、独特のカラーが付くというか、まとまり感があります。で、同じ Manley の Enhanced Pultec EQP-1A を使うのは、歌録りとかでキャラを付けたい時ですね。あと、2ミックスに対しては UAD-2 の Thermionic Culture Valture をこっそり挿しています(笑)。ハードロックとかだと、最終的に「バスで音を汚したい」って言われることが多いので、そういう時に使いますね。原音とのミックス量がパラレルで調整できるので汚しやすいです。

Manley Laboratories Stereo Variable Mu Limiter Compressor
中段が Manley Laboratories Enhanced Pultec EQP-1A

- sE Electronics Reflexion Filter もありますが、これはどんな場面で使うのでしょうか。

最近はあまり使わなくなりましたけど、キックの外側に立てたマイクをこれで囲んで、他の音が被らないようにすることがあります。歌を録る時には使っていませんが、アコギの弾き語りを録る時に、ギターに立てたマイクに歌が被るのを抑える目的で頻繁に使います。

- 今後、システムの拡張は考えていますか?

Apollo の新しいモデルは、A/D & D/A がさらに良くなったようなので興味があります。あとは API 500シリーズ規格のモジュールがあれば、もっと面白くなりそうですね。マスタリング用にEQも何か導入したいし、マイクに関しては常日頃チェックしていて、Manley のマイクも気になっています。

石野洋一郎

自身がギター・作編曲・プロデュースを担当するメタルバンド AREA51 にて4枚のアルバムをリリース。欧米のメディアを中心に高い評価を獲得。
レコーディングには、Rob Rock (IMPELLITTERI)、Dirk Verbeuren (Megadeth, Soilwork)、Mike LePond (Symphony X)、Matt Guillory (James LaBrie) といった世界的ミュージシャンが参加。
Jens Bogren (Dragonforce, Arch Enemy, Angra, Dir en Grey)、Fredrik Nordstrom (In Flames, Arch Enemy, Architects)、Jacob Hansen (Amaranthe, Primal Fear, Pretty Maids)、Mika Jussila (Stratovarius, Sonata Arctica, Children of Bodom) ら海外のトッププロデューサー・エンジニアとの制作を経験。
YOUNG GUITAR・BURRN!・ギターマガジン・ナタリー・BARKSなどの国内メディアをはじめ、BW&BK・Fireworks Magazineなど海外メディアからのインタビュー取材も多数。
2016年1月、東京都品川区に Crunch Studio を立ち上げ、メタル〜ロック〜ヒップホップ〜アイドルまで様々なタイトルのレコーディング・ミックス・マスタリングを行っている。

*Jens Bogren = Dragonforce、Arch Enemy、Angra、Dir en Grey などの作品に携わっているスウェーデンの音楽プロデューサー、ミキサー、レコーディング・エンジニア。

**Fredrik Nordstrom = In Flames、Arch Enemy、Architects などの作品に携わっているスウェーデンの音楽プロデューサー、ミキサー、レコーディング・エンジニア。


写真:桧川泰治

関連記事

ページトップへ