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OVERLOUD : 名機アンプ、本物のトーンを追求した次世代シミュレーター THU

かつてプラグインのアンプシミュレーターの先駆けであった OVERLOUD TH シリーズに、さらに多様なアンプモデルやキャビネット、IR の技術を盛り込んだ最新のシリーズ THU が加わりました。独自技術 Fluid IR や Rig Player がもたらす圧倒的なレスポンスの向上、期待すべき技術 Fluid Modeling などに触れつつ、そのリアルをギタリスト青木征洋氏が解説します。

アンプサウンドのクオリティを求めて - OVERLOUD との出会い


OVERLOUD は2006年設立のイタリアのデベロッパーで、彼らの最初のプロダクトである TH1 はもともと同じイタリアの会社のアンプシミュレータープラグインの開発チームにいた Thomas Serafini 氏によって生み出されました。TH は Thomas さんの名前を持ってきたのではなかろうかと勝手に考えています。

TH1 がリリースされた2008年当時、プラグインのアンプシミュレーターはマーケット規模もそれほど大きくはなく選択肢が限られていました。当時カプコンに就職して、一年目でサイレントにちゃんとしたアンプサウンドを録れる真っ当なクオリティのソリューションを探していた私が TH1 に出会うのは、ある種の必然だったのかもしれません。

TH1 の情報を入手して祈るような気持ちでまずプライベートで購入し、最低限アンプの音と考えて差し支えないレベルの音に到達していることを確認できたため、会社でも導入してもらうことを決心したのでした。

その後リリースされた TH2 も使っていたのですが、私のプロジェクトで言うと『G5 2010』と『G5 2013』、カプコンのプロジェクトで言うと『戦国 BASARA 3』や『戦国 BASARA 4』のギターはほぼ TH1 か TH2 を使ってレコーディングしています。

その後再びチューブアンプのマイク録りに回帰して以降 TH シリーズはお布施的に購入することしかしていなかったのですが、今回久しぶりに THU v2 を触ってみて当時と変わらない感触と、大幅に進化した部分の両方を感じることができました。

さらに充実したアンプモデル、キャビネット


▲TH2の頃よりハイゲインアンプの選択肢が増えていて良い感じで

まず、THU Premium(上位版)に入っているアンプモデルやキャビネットについては、モデルの種類こそ増えているもののクオリティ自体は2008年当時の味を忠実に受け継いでいる印象です。ピッキングに対するレスポンスが、アンプを弾いているというより OVERLOUD を弾いているという感覚とでも言いましょうか。もう少し具体的に言うと、メーター上ではヘッドルームがあるのに音がアナログクリップしているような潰れた印象になります。当時から使っている人には懐かしさを感じる部分かもしれません。

ただこの「モデルが増えた」ことは非常にポジティブに考えられる部分で、私が触っていた TH2 の頃はハイゲインアンプだと Peavey 6505 もなければ ENGL Fireball も無く、Mesa Boogie Mark IIC も、Bogner Ecstasy も、Soldano X88R も、Diezel VH4 も無かったことを考えると、色んな音が出るお買い得感があると思います。

AI によるリアルなキャビネットの挙動の再現 - SuperCabinet と最新技術 Fluid IR


▲IRを読み込んだら、その先は何一つ触らないのが吉です。全てのノブをデフォルトポジションにした時が一番忠実な音になります

キャビネットについては純正のバーチャルマイキングが楽しめるキャビネットとキャビネット IR の2つが昔からある機能なのですが、今使うなら最近追加された SuperCabinet 一択です。SuperCabinet の中で動いている Fluid IR というテクノロジーは「 IR =静的データ」という問題点を解決してくれていて、カスタム IR を読み込んでも自動的に本来のキャビネットの挙動を AI が予想して再現してくれます。これが実は非常に重要なポイントで、弾き心地、レスポンスに大きく影響します。

現在市場にあるアンプシミュレーター類でキャビネット部分の IR の静的特性を問題視して作られているものはさほど多くありませんし、既存の IR を読み込んでそこに動的な特性を付与できるものとなると OVERLOUD 以外では1社くらいしか思いつきません。

デフォルトで入っている SuperCabinet は THU Premium でも3種類しかなく、私が満足できるようなマイキングでは収録されていなかったため、きちんと真価を発揮させようと思ったら別途販売されている SuperCabinet ライブラリを購入するか、私が作っている TOKYO CAB PACK シリーズを購入することを強くお勧めします。

別途販売されている SuperCabinet ライブラリは本当にラインナップが豊富で、音もとてもクオリティが高いので安心して使えるのですが、THU 以外と組み合わせて使うことができないため、汎用的な wav フォーマットで販売しているデータの方が使い勝手は良いとは思います。

位相の調整であったりバンドごとに切り分けて混ぜ合わせるといった複雑な操作もできますが、本来 IR はただそのままロードしてそのままコンボリューションして終わり、というのが最も元ネタの音に近い、つまりリアルな音になるものです。色んな機能に触れてみることは楽しいですが、私個人としては触ることの無いであろう機能が沢山付いていて GUI に対し少々煩雑だなという印象も受けます。

アンプキャプチャー Rig Player(Rig Libraries)が提供する抜群の弾き心地と豊富なバラエティ


▲こちらもリグを読み込んだらどのノブにも触らないのが正解でしょう。ノブを触りたくなったら他のリグを試してみて下さい

THU で追加された目玉機能として、アンプをキャプチャーして鳴らすことができる Rig Player があります。名前もかなりギリギリですが見た目もギリギリで、ドイツ製のあのアンプをオレンジ色に塗ったらこんな感じになるよなという GUI です。

キャプチャーして鳴らすと言ってもユーザー自身がキャプチャーするのではなく、既にアンプキャプチャー界で実績のあるサードパーティが THU のために作成したものを購入して使うことになります。このサードパーティ製のリグのクオリティが非常に高く、いくつかハイゲイン系をロードして試してみましたが、今私が THU を使うとなったら確実に Rig Player を使うだろうと断言します。それほどまでに、収録されているアンプモデル群と Rig Player のレスポンスの間には大きな違いがあります。本当にちゃんとアンプを弾いている気分が味わえます。

品質が高いだけでなく同じ機材でもセッティングのバリエーションが十分にあるため、その労力を考えるとこのキャプチャーを作成した方々には頭の下がる思いです。

THU の未来を変える? キャプチャーとモデリングの合わせ技 Fluid Modeling


Fluid IR というアプローチに OVERLOUD の独自性が色濃く現れていますが、最近公開された Fluid Modeling というアプローチが THU の未来を大きく変えうるものだと考えています。

これはどういうものかというと、古典的なアンプモデリングとアンプキャプチャー技術をかけ合わせたハイブリッドな技術です。古典的なアンプモデリングでは、アンプの挙動を完全に聴き分けできないレベルまで追い込むことは技術的またコスト的に困難である一方、アンプキャプチャー技術はあくまで音色のスナップショットに過ぎないため、後から音色を変更できないという問題点がありました。Fluid Modeling はこれらを解決します。

Fluid Modeling では無数のパラメータの組み合わせのキャプチャーを作成し、その間の音の変化をモデリングの技術を応用して補完することによって、実物のアンプとなんら変わらない音、フィールのまま後から自由にパラメータを変更することができます。現在 THU Premium に入っている89個のアンプはいずれも Fluid Modeling 非対応ですが、今後対応デバイスが増えていけば OVERLOUD が台風の目になる可能性はあると思います。

これに近いアプローチを完全にデータドリブンな形で実現しているメーカーがフィンランドにあり、正直なことを言うと元ネタへの忠実度の高さ、弾き心地のアンプらしさではそちらに軍配が上がりますが、処理負荷の軽さや OVERLOUD の GEM シリーズへの応用などの柔軟性では Fluid Modeling に分があるとも感じます。同社の FUSE はなんだかんだ私のミックスバスに居座っています。

ドイツにはトーンスタックのモデリングと1点のキャプチャーを組み合わせてアンプ全体の挙動を再現するメーカーもあり、ユーザー自身がキャプチャー由来のモデルを作れる点ではそちらの方が便利ですが、Fluid Modeling の方が多くのパラメータの組み合わせをキャプチャーしているため、大きな変更を後から加えた時の再現度が高いことが予想されます。

このようにIRに対するアプローチは他社にも見られますが、TH シリーズも技術において期待が持たれます。進化した部分もありつつ、今後にまだまだ伸びしろを残す TH シリーズの現在地を知ることができて、とても楽しかったです。良かったら試してみて下さい。

青木征洋

作曲家、ギタリスト、エンジニア。

代表作に「Marvel Rivals」「Street Fighter V」「Bayonetta 3」「NINJA GAIDEN 4」「僕のヒーローアカデミアULTRA RUMBLE」「戦国BASARA3」等。

自身が主催しアーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.でインターネットギタリストシーンの黎明期を開拓し、現在活躍する多くのギタリストに影響を与える。
「G5 2013」はオリコンアルバムデイリーチャート8位にランクイン。

音楽ゲームの世界では「CHUNITHM」「オンゲキ」「太鼓の達人」「GITADORA」「Arcaea」「Cytus II」等、多くのタイトルで数々のボス楽曲を担当し、テクニカルギタリストとしてプレイヤー達に恐れられている。

にじさんじ所属のボーカルユニットNornisへの楽曲提供やTVアニメ「メイドインアビス」のOP主題歌の作曲等、ゲームの分野以外においても実績を残している。

東京大学工学部卒でデジタルオーディオに精通した日本人唯一のiZotope Artistであり、Billboardの全世界チャート6位にランクインした「The Real Folk Blues」のチャリティーカバーや、MARVEL初のオンラインオーケストラコンサートではミキシングを務める。

THU Premium : 期間限定セール & 購入者特典情報

2026年4月29日から5月20日までの期間、beatcloud にて THU Premium のスペシャルセールが開催されます。今回のセール期間中に購入された方には、特典として青木征洋氏が今回のために特別に作成した「限定プリセット・パック」をプレゼント。導入したその日から即戦力のサウンドを鳴らせる内容になっています。このプリセットをガイド代わりに使えば、次世代のアンプ体験へ最短距離で到達できるはずです。

・セール期間: 2026年4月29日 〜 5月20日
・販売プラットフォーム:beatcloud
・限定購入特典:青木征洋 作成・THU Premium専用プリセット

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