伝説のハードウェア Pultec EQ : 音の光彩を変えるような滑らかなカーブ
Pultec は、1950年代にアメリカのニュージャージー州で設立された Pulse Techniques 社のブランドです。同社が開発したイコライザーの最大の特徴は、回路にパッシブ設計を採用している点にあります。
一般的なEQは電子回路で音を増幅しながら調整しますが、Pultec はコンデンサやコイルなどの受動部品のみで構成されたフィルターで音を削ります。そのままでは音量が下がってしまうため、最後に真空管式の増幅回路を通して音量を戻すという仕組みになっています。この「引いてから、真空管で戻す」というプロセスこそが、豊潤で温かみのあるサウンドの秘密なのです。
特徴は、そのカーブの滑らかさにあります。現代のデジタルEQのようにピンポイントで鋭く削るのではなく、音楽的な響きを保ったまま、まるで音の光彩を変えるような自然な変化をもたらします。
Pultec EQ は1970年代に一度生産が終了し、一時はビンテージ市場で天文学的な価格で取引されていましたが、その唯一無二のサウンドは現代においても、最後の仕上げに欠かせない最高のツールとして君臨し続けています。
UAD 版に収録されている3つのモデル
Pultec Passive EQ Collection は、Universal Audio が10年以上に渡る UAD プラグイン開発のノウハウを詰め込んで、Pultec EQ を忠実に再現した決定版です。実機の複雑な回路、トランス、真空管アンプの振る舞いまで完全にモデリングされています。このコレクションには、用途の異なる3種類のプラグインが含まれています。
①Pultec EQP-1A:低域と高域の魔法使い
1950年代から愛される、最も有名なプログラムEQです。隣接する周波数に影響を与えず、特定のレンジを音楽的に引き出します。バスドラム、ベース、ボーカル、マスターバスなど、あらゆるソースにシルキーな艶と重厚な低域を与えることができます。

②Pultec MEQ-5:中域の力強さを引き出す
EQP-1A の兄弟モデルで、ミッドレンジに特化しています。ギターやボーカルをミックスの中でグッと前に出す力強さを持ち、複雑なフィルターの相互作用により、ミックスを壊さずに楽器の響きを豊かにします。

③Pultec HLF-3C:究極の引き算フィルター
12dB/octのロー&ハイカットフィルターです。不要な帯域を音楽的にカットし、サブグループの整理や、レトロな電話の音のような特殊効果を作る際にも便利です。

直感的に音を作る!主要ツマミの役割
Pultec の操作パネルは一見複雑に見えますが、役割を整理すれば実はとてもシンプル。代表的な2機種のツマミを攻略しましょう。
■EQP-1A(低域・高域のシェイピング)
パネルが左・中央・右の3セクションに分かれています。
左側:低域ブースト/カット
- BOOST:選んだ周波数を持ち上げ、ふくよかな厚みを与える。
- ATTEN:選んだ周波数をカット。
- LOW FREQUENCY:周波数(20, 30, 60, 100 CPS)を選択。
中央:高域ブースト
- BOOST:高域の明るさや空気感を足す。
- HIGH FREQUENCY:周波数(3k, 4k, 5k, 8k, 10k, 12k, 16k KCS)を選択。
- BANDWIDTH:ブーストする範囲(Q値)を調整。SHARP側で鋭く、BROAD側で緩やかに。
右側:高域カット
- ATTEN:超高域を滑らかに削る。
- ATTEN SEL:カットする周波数(5k, 10k, 20k KCS)を選択。耳障りな刺さる音を抑えるのに有効。

■MEQ-5(中域の密度をコントロール)
ボーカルや楽器の芯を作るためのミッドレンジ専用機です。
- 左側のPEAK(低中域ブースト):200Hz〜1kHzをブースト。スネアの重みやボーカルの温かさを出す。
- DIP(中域カット):200Hz〜7kHzの広い範囲から選択してカット。音がこもっている時や、他の楽器との渋滞を解消する引き算の要。
- 右側のPEAK(高中域ブースト): 1.5kHz〜5kHzをブースト。ギターのプレゼンスや、歌の輪郭をハッキリさせる時に使う。

Pultec EQ のツマミには、何dBという正確な数値が書かれていません(0〜10の目盛りのみ)。これは数字に頼らず、耳で聴いて良いと思うところで止めればOK、という設計思想の表れです。まずは思い切ってツマミを5くらいまで回してみて、その劇的な変化を楽しんでみてください。
プロも使う裏技 Pultec トリック
Pultec EQ を語る上で欠かせないのが、低域の BOOST と ATTEN(カット)を同時に使うテクニックです。本来は打ち消し合うはずですが、実機ではブーストとカットの周波数が微妙にズレているため、独特のカーブが生まれます。低域をブーストしつつ、その少し上の帯域をカットすることで、タイトでパンチのある、ボワつかない低音が手に入ります。

知っておきたい豆知識
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単位の読み方:現代の Hz / kHz ではなく、当時の単位である CPS(Hz)と KCS(kHz)が使われています。ビンテージ気分を味わいましょう!
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通すだけで色がつく:EQスイッチがオンなら、ノブが0の状態でも真空管やトランスの回路を通るため、アナログ特有の音の着色が得られます。
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アーティストプリセット:世界的なエンジニアが作成したプリセットが多数収録されており、プロの技をすぐに試すことができます。
音をデザインし、音楽的な質感を与えるツール
Pultec Passive EQ Collection はたんなる補正用EQではなく、音をデザインし、音楽的な質感を与えるためのツールです。「デジタル臭さを消したい」「ベースにもっと芯が欲しい」「ボーカルに空気感を足したい」…そんな悩みを持っている方は、ぜひこの伝説のサウンドを試してみてください。
また Apollo インターフェイスを使っているなら、リアルタイム UAD プロセッシングで、Pultec EQ をかけ録りしてみてもいいでしょう。通常、パソコンのCPUでプラグインを動かすと、演奏に対してわずかな遅延(レイテンシー)が発生します。しかし、Apollo の内蔵DSPを使用すれば、2ミリ秒以下という驚異的な超低レイテンシーで Pultec を通した音を聴くことができます。「あのふくよかな低音」や「シルキーな高域」をリアルタイムでモニタリングしながら演奏できるため、プレイヤーの気分も上がり、ベストなパフォーマンスを引き出しやすくなります。
Apollo X Gen 2 シリーズには3モデルの Pultec EQ がすべて付属しているので、ぜひ活用してみてください。
