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Universal Audio : エンジニアが明かす UAD プラグインチェーン(2)福田 聡

現代の音楽制作において、もはや欠かせないツールとなっている UAD プラグイン。今回は、第一線で活躍するエンジニアの福田 聡氏に、ミックスの要となるボーカルとマスターにおける UAD プラグインのチェーンについて話を聞いた。アナログ実機を知り尽くした福田氏だからこそ語れる、各プラグインの絶妙なニュアンスの違いや、微細な質感調整を重ねていく独自のアプローチは必見です。

ボーカルのプラグインチェーン:微細なトリートメントの積み重ね


ボーカルに対して福田氏が組んでいるプラグインチェーンは、大胆な変化を求めるものではなく、あくまで質感の調整と微細なブラッシュアップを目的としています。その核となる UAD プラグインと、それぞれの役割を紐解いていきましょう。

【Chain 1】Neve 1084 Preamp & EQ:輪郭を描き、オープンな響きを与える

福田:ボーカルチェーンの要として、まずは Neve 1084 を使います。このプラグインがもたらす、全体のオープンなサウンドや明るい質感が非常に好きなんです。ボーカルはもちろん、ギターやドラム(キックやスネア)など、輪郭をしっかりとさせたいパートには必ずと言っていいほど使いますね。ヴィンテージの Neve 実機と同様に、ただEQのスイッチを入れるだけでも音が変わる、そのモデリングの素晴らしさを高く評価しています。効きが非常に良いため、ツマミを少し触る程度の微調整が基本です。ボーカルに対しては、ハイエンドの伸びを出すために16kHzや12kHzあたりを少しだけいじり、上の方へふんわりと伸ばすようなアプローチをとります。また、Neve 特有の1.6kHzや3.2kHzの帯域も好んでたまに使いますが、基本はハイエンドの調整用ですね。

1084 をチョイスする理由は、低音の質感が好きだからです。1073 は少し重心が上寄りな気がするのですが、1084 の方が腰が据わっていて、非常にバランスが良いんです。また、後発のプラグインだから何となく精度が良いのではないか、という期待感もあります(笑)。もちろん、1073 Legacy の少しキラキラしすぎない落ち着いたトーンも好きで、上がそこまで輝かなくていいギターなどにハイを足す時に重宝しています。また面白い使い方として、スタジオにある実機の Neve をラインアンプとしてだけ通し、最終的なEQ処理はこのプラグインの 1084 で行うこともあります。実機でEQをするよりも、プラグインで処理した方が現代的な音になる印象があるんです。

1084

【Chain 2】1176AE Classic Limiter:コンプの入りをコントロールする

福田:EQでローカットなどを施した後の、チェーンのかなり上段にインサートするのが UAD 1176AE です。複数の 1176 プラグインがありますが、僕はこのモデルのレシオ=2:1が非常に好きで、ボーカルを整えるのによく使っています。昔はインプットノブのデフォルト位置が低いのがなんとなく使いづらい場面もあったのですが、アップデートで「MIX」や「HR(ヘッドルーム)」のパラメーターが追加されてからは格段に使いやすくなりました。コンプが掛かりすぎてインプットが下がりきらない時に、HRで入り口のレベルを下げてあげるんです。そうすることで、余裕を持ったコンプレッションが可能になります。

1176AE

【Chain 3】Fairchild 660 Tube Limiter:針がわずかに振れる程度の密度感

福田:次に Fairchild 660 を通します。これはコンプレッサーとして積極的にリダクションさせるというよりは、ドシンとした質感が欲しい時や、密度感をギュッとさせたい時の質感調整が目的です。メーターの針がわずかに振れる程度に通すだけで、ほぼデフォルト設定のまま使っています。アウトプットが若干大きくなる傾向があるので、そこだけ少し下げて整えるくらいですね。

660

【Chain 4】Studer A800 Multichannel Tape Recorder:楽曲に合わせたボーカルのトーン調整

福田:もう少し豊かな低音感が欲しい時などに、Studer A800 を足すことがあります。これもアグレッシブには使わず、基本的にはテープの種類と回転数を切り替えて、キャリブレーションは感覚で調整しています。サビでボーカルのピークが強すぎたり、上ずって聴こえたりする時にバランスの良い声に落ち着かせたり、少し声が細く感じた時に太さを補うなど、オケ馴染みを良くするための調整役として優秀です。ギリギリ実機を使っていた世代なので、自分の記憶と連動して音が変化してくれるのが素晴らしいですね。テープの種類は以下のように使い分けています。

  • GP9: ハイファイな質感。30IPS時のレンジが広くドンシャリになる感じが非常に有用。
  • 900: GP9と比べ、非常にバランスが取れている安定のサウンド。
  • 456: 実際のテープ同様、若干ミッド寄りでジャリッとした質感。ザラザラ感が欲しい時に最適。
  • 250: かなりローファイな印象。質感調整というよりは、積極的なエフェクトとして使用。
A800

【Chain 5】SSL 4000 E Channel Strip:耳を頼りに仕上げる最後の一手

福田:ボーカルチェーンの最後、トリートメント的に後段で使うのが SSL 4000 E Channel Strip です。このプラグインの素晴らしいところは、パラメーターの具体的な数値が出ない点です。他のプラグインだとメーター上に数字が出て視覚に頼ってしまいますが、これなら純粋に耳と感覚だけで音作りができます。また、数ある SSL 系プラグインの中でも、この UAD 版はバスコンプも含めて非常にボディがしっかりしていて、太い音がするのが特徴です。本家 SSL が出しているプラグインは少し「ギュッ」とまとまった音ですが、UAD 版は太い。UAD 版 Neve が「チャリッと明るい」とすれば、こちらは「冷静に、しっとりと明るくなってくれる」印象です。SSL は効きが良いので大きくはいじりませんが、色気に関わるローミッドの300Hzや、ハイのシェルビングで9kHzより上を少し持ち上げて微調整しています。

SSL

マスターのプラグインチェーン:楽曲の最終的な重心と表情を決める


マスターチャンネルにおいても、福田氏は UAD プラグインに絶大な信頼を寄せています。全体の太さや広がり、そして楽曲の表情をコントロールする秘訣を聞きました。

【Chain 1】マスターコンプは Shadow Hills と SSL のどちらかを選択

■Shadow Hills Mastering Compressor Class A

福田:UAD 版は Brainworx 版よりも音が太く、大好きでずっとマスターに使っています。スローアタック、ファストリリースの優しいセッティングで、レシオも2:1や3:1。リダクションは1〜2dB程度で、針を大きく振らせるような使い方はしません。トランスの切り替えが鍵で、大抵はIRONかNICKEL(たまにSTEEL)を選びます。トランスを通した時点で音がドシッとし、重心の位置や上の伸び、空間の隙間が変わります。原音から少し柔らかくなり、じんわりと広がるような印象を与えてくれます。ドラムバスにもよく使いますね。

Shadow Hills

■SSL 4000 G Bus Compressor

福田:大定番ですが、やはり UAD 版は音が太いです。他メーカーの同種プラグインだと、帯域の上半分だけで鳴って腰高になる印象を受けることがあったのですが、UAD 版はそれがなく、下もフルで鳴ったままコンプが掛かってくれます。実機の FX-G384 よりも音が太く感じられ、コンソールのGバスコンプを通した音により近い印象です。Shadow Hills が倍音でじんわり広がるのに対し、こちらは原音のまましっとり広がるイメージです。たまに、スレッショルドを高め、アタックを速くし、レシオを4や10にして強烈に掛けた上で、MIXパラメーターを使ってパラレルコンプレッション的に少しだけ足す、といったアグレッシブな使い方もします。

SSL G Bus Compressor

【Chain 2】Pultec Passive EQ:現代にマッチした真空管のニュアンス

福田:マスターにもボーカルにもよく使うのが Pultec EQP-1A です。デフォルトだとゲインが少し高いため、それに惑わされないよう自身で「0VU」のプリセットを作ってからスタートします。マスターでは、低域の60Hz or 100Hzと高域の12kHzを少しだけブーストし、上を明るくしつつ裾野を広げるアプローチが多いです。アッテネーションのツマミも、非常に自然なフィルター効果が得られるので気に入っています。実機の Pultec EQP-1Aも複数所有していて大好きでよく使うのですが、現代の音楽においてはその真空管の質感が必要ないこともあります。その点、UAD プラグインは実際には真空管を通っていない分、現代の質感に絶妙にマッチしてくれる感じがします。実機を散々使ってきたからこそ、このプラグインの良さと適した使い所が分かります。超推しのプラグインですね。

Pultec

【Chain 3】Ampex ATR-102 Mastering Tape Recorder:最後の切り札「駆け込み寺」

福田:マスターにおいての駆け込み寺であり、劇薬とも呼べるのが Ampex ATR-102 です。毎回マストで使うわけではなく、ミックスを終えて「もうひと越え欲しい」「少しのっぺりしているな」と感じた時の最終手段として足しています。Studer A800 が「太さとレンジ感の担当」だとすれば、Ampex は「ミッドレンジの表情担当」です。通すだけで音がギュッとなり、ミッドの質感に素晴らしいバリエーションが生まれます。ストリングスなどの個別のトラックでも大活躍します。ただ、パラメーターが少し細かくてUIも把握しづらいため、基本的にはプリセットをパラパラとめくって直感的に選んでいます。自分で完全に制御しきれていないからこそ、劇薬としての効果を強く感じるのかもしれませんね。

Ampex

UAD プラグインは微細な調整で質感を磨き上げていける


福田:ミックスという作業には、こうした微細な処理を重ねていく場面が多々あります。最近はクライアントからいただくトラックの仕上がりがすでに良いことが多いので、EQやコンプで世界観を根底から変えるというよりも、良いトラックを少しずつ磨き上げてブラッシュアップしていくのが現在の主流だと感じています。そういった現代のミキシングにおいて、微細な質感をコントロールできる UAD プラグインは、僕にとって非常に重宝する存在です。

福田 聡

写真:桧川泰治

福田 聡

1996年に埼玉大学教養学部入学後、ジェームス・ブラウンのFunkに傾倒。ブラックミュージックを深く掘り下げ、卒業論文で P-Funk を論じる。2000年、ビーイングにエンジニアとして入社し、B'zなど多くの大物アーティストや新人バンドを手掛ける。2013年に独立し「福田録音」を設立。ファンクを軸として、グルーブ重視のサウンドを数多く手掛ける。リズム録りが生きがいのひとつ。レコーディングからミックスまで、Pro Tools とアウトボードによるハイブリッドシステムを駆使している。
近年は、オールアナログでDJ活動も再開中。
HP site : https://satoshi-fukuda.jimdofree.com

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