Hookup,inc.

Expressive E : Osmose と4台のシンセで織りなす Suchmos TAIHEI の音作り

Suchmos のキーボーディストであり、ソロアーティストや劇伴音楽作家、エンジニアとしても活躍する TAIHEI さんが、いまメインのシンセとして愛用しているのが Expressive E Osmose です。自宅用とライブ用に2台所有するなど、導入からわずか数ヶ月でヘヴィユーザーとなった理由を聞きました。

Osmose に出会うまではデジタルシンセを信用していなかった


- TAIHEI さんが Osmose を導入した経緯は?

シンガーソングライターの小田朋美さんに Osmose を触らせてもらったことがあって、鍵盤を縦や横に動かすだけでピッチやモジュレーションを操作できることにビックリしたんです。しかも音が良かったから、すぐに導入を決めました。Osmose が自宅に届いた時は、鍵盤と鍵盤の間の音程を手に入れられたことに興奮して、ピッチを揺らしてばかりいましたね(笑)。手に入れてからはひたすら実験ばかりしていました。新しいシンセを買うと、俺はとりあえずひと通りのプリセットを弾いてみるんですよ。で、クリックなしでずっと録っておきます。そうしているうちに「レイヤーしたら面白いかも?」って気づいて。

- 何と何をレイヤーするんですか?

SEQUENTIAL Prophet-6 や P12、Trigon-6、Oberheim OB6 などのアナログシンセを、アクティブのMIDIスルーボックスで Osmose に接続して、Osmose を弾くだけで他のシンセが同時に鳴るようにしたんです。Osmose を軸にして、シンセのシステム全体を変えました。

- アナログシンセの音を Osmose に重ねたわけですね。

そうです。やはりアナログシンセは音が太いというか、電気の生音という感覚があるんですよ。正直、Osmose に出会うまではデジタルシンセを信用していませんでした。

- MIDIで鳴らすようにした理由は?

両手で複数のシンセを同時に弾くのとは違い、MIDIで繋げば、Osmose の鍵盤のジェスチャーを利用して、接続したアナログシンセのパラメーターを変化させることができるからです。例えば Osmose の鍵盤を押し込んだり、横に揺らすと、MPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)という情報がMIDIで送られるのですが、アナログシンセ側にプログラミングされているパラメーターによって反応の仕方が変わります。その予測不能な感じがバグみたいでまた面白いんですよ。LFOを組み合わせるみたいにいろんな変化を起こすから、完全にコントロールしようとするのではなく、あえてバグありきで作っています。

Osmose/Prophet/P12
▲上から Prophet-6、Osmose、P12

- 聴いたこともないようなサウンドが出そうですね。

アリーナクラスの会場で4台分のシンセを一度に鳴らすと、ものすごい音が飛んでいきますよ。特にシンセベースを弾くと、とんでもなく気持ちいいです。野外フェスだともう最高。観てくれた人に「地獄みたいなシンベの音していましたね!」「どうやって作ったんですか?」って言われて、「シンセをいっぱい鳴らしているんだよ!」って。お客さんからしたら、俺が Osmose しか弾いていないのに、「どんだけたくさんの音が鳴っているの?」って思ったんじゃないかな。もしくは Osmose がMIDIキーボードに見えたかもしれない。俺も朋美さんが Osmose を弾いているのを初めて見た時に、MIDIキーボードかなと思ったので。見た目的にも、超高級なMIDIキーボードに見えないこともないですよね。

- どんな音色をレイヤーすることが多いですか?

例えばシンセベースなら、Osmose のフレットレスベースと、Prophet-6 のシンセベースと、P12 のウニョウニョした音を混ぜて3レイヤーにしたり。あるいは Prophet-6 でコードを弾く時に、アタックが明瞭な Osmose の音色を混ぜたりします。アナログシンセのちょっと広めな音像に、デジタルシンセのアタックの強さを足すようなイメージですね。

- バッキングをレイヤーさせることが多いですか?

アンビ系の音色や白玉のフレーズとかもレイヤーさせると効果的ですよ。Osmose は音数制限がありませんが Prophet-6 は6音ポリなので、その差によるバグも面白いです。Prophet-6 を P12 に変更したりと、入れ替えも自由自在です。Osmose、Prophet-6、P12、さらに OB6 の音色もレイヤーして、その組み合わせが3バンド分もあったりと膨大になってきたので、最近は音色のレシピをメモるようになりました(笑)。

- 特に強烈なレイヤーサウンドは?

Osmose と Moog One の組み合わせはヤバいですね。Moog One はオシレーターが3つと、エンベロープが3〜4つ付いていて、フィルターも2系統、LFOも4つあるから、そこに Osmose から MPE を送ると、反応するしないのバグがすごくて。こういうパワフルなシンセに Osmose の MPE を送ると、どんな反応を示すかビックリ箱みたい。何も反応しなければしないで、Osmose の音だけが抜けてくるのもそれはそれでいいんです。

Moog One
▲Moog One(上)と Rhodes(下)

- Osmose の導入前から、よくレイヤーを組んでいたんですか?

Prophet-6 と OB6 もしくは Mellotron のレイヤーを組んでいましたが、どちらも音が強いシンセなので、レイヤーする意味はあまり感じていませんでした。Osmose だと、その音像感がアナログシンセの音を包むことで、レイヤーを繋げてくれるような感じがします。アナログシンセが骨で、Osmose が肉となるイメージでしょうか。もちろん Osmose 自体の生楽器系のプリセットも好きで、例えばクラビは問答無用でPファンクっぽくなります。Osmose のクラビはアタックがパキッとするので、単体だと冷たく感じますが、Prophet-6 のフワッとしたアタックの遅い音をほんの少しレイヤーするといい感じに決まります。この場合は Osmose が骨で、Prophet-6 が肉の役割ですね。

- レイヤーすることで音が過剰になることはないですか?

シンセの音はすべて手元のミキサーでまとめているので、チャンネルEQを使ってローカットしつつ、レイヤーを組み合わせています。ライブだと鍵盤5台がかりで音を作っていますね。

レイヤーするアナログシンセが何であれ、Osmose がハブとなれば問題ない


- ステージでは Osmose をどのように配置していますか?

ピッチを揺らさないように鍵盤を押すのが難しくて、まだ左手でうまく弾けないので、Osmose を右手側に置くようにしています。Osmose に触るようになってから、自分が斜めに鍵盤を弾いていることに気づきました。スケールを上がっていくような運指も、斜めから押してしまうと鍵盤が横に動いてピッチがよれてしまうんです。上手なピアニストのように手首を並行移動させる必要があるので、それを意識するだけでも運指の練習になりますね。

- Osmose ならではの奏法はありますか?

4和音を押さえる時に、親指と中指と薬指を固定して、人差し指だけを揺らしたり、人差し指と中指を交互に押し込むなどして、一部だけピッチやモジュレーションに変化を付けています。指4本を全部動かすより、1〜2本だけ動かす方が面白い効果が得られます。

- 和音のフォームを崩さずに、音に動きが出せるんですね。

そうです。ピアノや Rhodes の場合、ベロシティやコンピング、ハーモニーの組み合わせなどで音の動きを表現しますが、Osmose ならこういう手段もあるんです。あるいはシンセのカットオフを回して表現していた音色変化も、Osmose なら鍵盤の押し込み加減で表現できます。トランペッターがタンギングでフーッとさせるような音の止め方も、Osmose ならできるんです。そうかと思えば、いきなりロングトーンのシンセに表情を変えたり、自分のプレイ次第で何でも表現できるところがすごい。考え方はオルガンに近いと思います。オルガンもひとつでいろんな音色作りといろんな役割をやれるじゃないですか。Osmose はそういうことができる気がしますね。

- Suchmos のライブでは、どんなレイヤーを組んでいますか?

Rhodes かピアノがメインで、Osmose から Prophet-6 や Trigon-6、OB6 に MPE を送っています。今は Osmose の鍵盤に慣れたので、どの音色も Osmose で弾けるようになりました。以前は4〜5台の鍵盤を使い分けていたので、タッチが少しずつ変わるのが難しかったんですけど、今は基本的に Osmose かピアノタッチかオルガンを弾き分けるくらいなので、プレイも安定しました。Mellotron は付属鍵盤だと弾くのが難しかったですが、Osmose の鍵盤で弾いたらすごく安定しました。

- マスターキーボードとして使えるほどですね。

ピアノタッチ鍵盤と Osmose があれば、あとは出したい音色によってラック系のシンセだけを持っていけば済みます。海外でのライブも Osmose とラックがあれば、大きなシンセは現地で借りればいい。この楽器がないと困るといったことが、Osmose を中心としたシステムにしたら、あまり無くなりました。Osmose だけは持っていかないと困ります。最近はどこに行くにも Osmose だけは一緒です。購入してまだ8ヶ月とは思えないくらい使用頻度が高いですね。

- 外部のエフェクトをかますことは?

シンセの内蔵エフェクトをあまり信用していないので、基本全部ドライなんですよ。手元のミキサーでEQしたり、センド/リターンに送るか、エフェクターを直でつなぎます。ただ、レイヤーする時に気をつけなくてはいけないのが、エフェクトが過剰になり過ぎること。全部にエフェクトをかけると濁ってしまうので、最近はエフェクトで飛ばす音色と、ドライのまま会場の響きに任せる音色とを分けています。マスキングが多くなるのがレイヤーの危険なところだから、Osmose 内であまりエディットできない分、レイヤーするシンセの方にはハイパスを使うようにしています。ハイパスは音が細くなるからあまり使ったことがなかったですけど、レイヤーするようになってからは、メインのローミッドをどの音色に任せるかを決めてあげないと、ただの仲の悪い音になってしまうんです。

- バンドとの混ざり方も考慮してハイパスするんですか?

そうです。ベーシストが5弦ベースを使う時は、オシレーターのサブの割合を削ってみたり、24インチのキックが使われる時は、会場のローの鳴りとかも含めてミキサーのチャンネルで調整します。Osmose はあまりいじりません。Osmose のエディター画面って、プリセットごとに出てくる項目がバラバラじゃないですか。できればリリースとかは全音色共通でエディットできるといいんですけどね。今のところ問題は感じていませんが、たまに欲しくなります。

- Osmose を購入する以前とは、曲の作り方も変わりましたか?

プレイスタイルが変わったのと、出先でやれることが増えました。今まではまだまだこれからのプロジェクトの場合は、シンセを諦めてピアノ1本で行くような振り切り方もしていたんですけど、今なら Osmose のケースとリュックひとつでどこにでも行けるから、シンセでのアプローチをいろんな場所に持ち込みやすくなりましたね。Prophet-6 は重いけど、Osmose は持ち出しやすいんですよ。機動力が上がったのは Osmose のおかげです。先日のライブも Osmose と Prophet-6 と P12 で行いましたが、音色によっては Prophet が骨で Osmose が肉になったり、Osmose が骨で OB6 と P12 が肉になったりと人事異動が自由自在なので、レイヤーするアナログシンセが何であれ、Osmose がハブとなれば問題ありません。Osmose のどこが好きかと言われたら、もうわからない領域まで来てるかも。自由度がものすごく高くなるのが、Osmose の一番良いところかもしれませんね。

TAIHEIさん

写真:桧川泰治

TAIHEI

キーボーディスト/コンポーザー/プロデューサー。
Suchmosの鍵盤奏者。
2013年から2018年までSANABAGUN.に在籍。

クラシック音楽のみならず、ROCK、JAZZ、R&B、HIP-HOPなどの幅広い音楽に習熟。ルーツミュージックに重きを置き、現代の芸術表現としての音を紡ぐ。

自身がリーダーを務めるバンド’賽(SAI)’や N.S DANCEMBLE、ソロライブ活動に加え、劇伴音楽制作や、STUTS、七尾旅人、Rei、Haruy といったアーティストのサポートなど、幅広く活動中。

関連記事

ページトップへ