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DSM & Humboldt : SIMPLIFIER MkII / SIMPLIFIER X ゼロワットアンプの実力

チリのエフェクターブランド DSM & Humboldt が開発したアンプシミュレーター SIMPLIFIER シリーズは、フルアナログで製造されている点に特徴があります。ギタリスト/音楽プロデューサーの竹中俊二さんが、ギター用1chモデルの SIMPLIFIER MkII と2chモデル SIMPLIFIER X を試しました。

スタジオと同じクオリティでライブでもアンプの音を出したい


ギタリストの皆さんは、普段のライブやレコーディングで、アンプのマイキングやセッティングをどのようにしているでしょうか? 僕の場合、レコーディングではお気に入りのマイクやセッティングがあり、楽曲やアレンジに合わせて音作りをするので納得できるサウンドを残せることが多いです。一方でライブやコンサートでは、うまくいく時もあれば納得できずに迷走したまま本番を迎えてしまったり、客席での音質がコントロールできなかったり、録音を聴き直してがっかりすることも少なくありません。

ライブではマイクの選択肢も限られ、大抵はモノラル。さらに他の楽器のセッティングもあるため、ギターだけ長くサウンドチェックに時間を割くことも難しい。そうした理由から、普段からマルチエフェクターで音を作り、ミキサーに直接ラインで送ることも多いです。とはいえ本音を言えば、お気に入りのエフェクター+愛用アンプの組み合わせを、スタジオと同じクオリティでライブでも出力できれば最高です。おそらく多くのギタリストが抱える共通の悩みでしょう。

SIMPLIFIER MkII : 夢のようなマルチアンプ・ストンプ


弾いた時のレスポンスが良く、ウォームでスムーズな感触はアナログならでは

そんな中で出会ったのが、アンプシミュレーション・エフェクターの SIMPLIFIER MkII です。ブリティッシュ系コンボ/スタック/アメリカンコンボのプリアンプとパワーアンプを選択でき、真空管やスピーカーの種類もセレクト可能。さらにXLRステレオアウト、アンバランスアウトも搭載している夢のようなマルチアンプ・ストンプです。

タイプ
▲SIMPLIFIER MKII。プリアンプとパワーアンプはそれぞれ、AC BRIT、USA、MS BRITの3種類から選択可能

しかも高品位なアナログ回路を採用しているためノイズが少なく、ライン出力とは思えないほど自然で立体感のあるサウンドが得られます。ギターを弾いた時のレスポンスも良く、ウォームでスムーズな感触はアナログならでは。さらに、オーバードライブやディストーションなどのストンプとも相性抜群。自然なドライブ感を実現します。

サウンドの特徴

  • クリーン:スーパークリーンからブリティッシュなエッジ、アメリカンな倍音感まで幅広く対応
  • クランチ:ギターのボリューム操作で多彩なニュアンスを表現可能。本物のアンプ同様
  • ラインアウト:ミキサー卓に送れば、客席でも狙い通りのサウンドを再現

実際のアンプに寄せた設定にしておけば、ステージと会場の違いを意識する必要もほとんどなし。ラインアウトがキャノン仕様なのでダイレクトボックスを介さずスムーズに接続でき、ステレオ出力とキャビネットシミュレーターによる広がりも素晴らしい。

エフェクターボードに組み込んだら、手放せないアイテムになるでしょう。

アウトプット
▲アンバランスアウトはキャビネットシミュレーターのバイパスが可能
キャノン
▲XLRステレオアウトを使えばダイレクトボックスをかまさずに長めのケーブルが引き回せる

SIMPLIFIER X : ステージやレコーディング環境に最適化されたプリアンプ


2台のアンプをステージ上でセッティングしているかのような自由度

SIMPLIFIER X は SIMPLIFIER MkII をベースに、2台のアンプシミュレーターを組み合わせることで誕生したアップグレード・モデルです。A/Bの2チャンネル仕様に加え、選択可能な3タイプのリバーブを搭載し、より実機アンプに近い操作性と多彩なサウンドバリエーションを実現しています。専用スイッチャーによりチャンネル切替やリバーブのオン/オフを直感的に行える点も、ステージユースを強く意識した設計といえるでしょう。

サウンド面では、AMP Bがクラシック寄りのビンテージサウンドを再現。ロックやブルース、ジャズ、R&Bといったオールドスタイルに最適で、プレイヤーがイメージしやすく扱いやすいキャラクターを持っています。一方、AMP Aはレンジが広く、エッジの立ったアメリカンなトーンが特徴。メタル系やモダンなジャンルにも適応し、パワフルで抜けの良いサウンドを生み出します。両者を切り替えることで幅広い音作りが可能となり、好みに合わせた追い込みも容易。さらに両チャンネルのキャラクターを寄せることでジャンルを問わない万能機材としても活躍します。

TOP
▲SIMPLIFIER X。左側がAMP B、右側がAMP A

接続性においても大きな強みを発揮します。インプットは2系統用意され、A/Bを独立したアンプとして使用可能。アウトプットもモノラル個別出力とステレオミックスの両方を選べるため、現場の状況に合わせた柔軟な対応が可能です。加えて2系統のセンド/リターンを搭載しており、異なるキャラクターのエフェクトチェーンを並列で運用できるのは大きな魅力です。まるで実際に2台のアンプをステージ上でセッティングしているかのような自由度を提供してくれます。

ミキサーへの送信においても、モノラルで独立させたり、ステレオでミックスしたりと自在。クリーンとドライブを分けて出力することで客席側の音量や質感を柔軟にコントロールでき、ステージモニターとPAのバランスを切り離せるのは現場的に非常にありがたい点です。シンプルなセッティングでありながら多彩なシナリオに対応できるため、レコーディングとライブ双方において強力な武器になるでしょう。

アウトプット
▲AMP A/BそれぞれにアンバランスアウトとバランスDIアウトを装備

総じて SIMPLIFIER X は、アナログライクなアンプサウンドを追求しつつ、現代のステージやレコーディング環境に最適化された多機能プリアンプです。ヴィンテージ志向のプレイヤーからモダンなヘヴィサウンドを求めるギタリストまで、幅広く満足できる完成度を誇ります。2台のアンプを自在に操りたいギタリストや、セットアップをシンプルにまとめたいプレイヤーにとって、まさに理想的な1台といえるでしょう。

文:竹中俊二

竹中俊二

1964年10月23日、高知県生まれ滋賀県、千葉県育ち。
日本のギタリスト、スタジオミュージシャン、アレンジャー、作曲家、サウンドプロデューサー、サウンドクリエイター。
ジャズ、ロック、R&B、フュージョン、ワールドミュージックなど、広範囲にわたるジャンルとスタイルでのライブ、レコーディング、作編曲をライフワークとしている。
年間ライブ本数260以上、レコーディング曲数120曲以上をこなす。

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