Softube Weiss プラグインシリーズとは?
Weiss といえば業界最高峰の性能を持つサンプルレート・コンバーターソフトである saracon の開発元で、Hi-Fiオーディオ/プロオーディオ両軸のデジタルハードウェア製品を生産する企業です。その製品ラインナップから、圧倒的なデジタル内加工の品質や、デジタル⇆アナログ変換技術を礎とした企業であることが見てとれます。その理念は、意図しないことは何もしない透明な出音と、意図したことに応える柔軟性の両立とのこと。
今回扱うプラグイン群は1つを除いて、90年代初頭に Weiss が開発した DS1-MK3 や EQ1 を含む、「ガンビットシリーズ」と呼ばれるハードウェア・デジタルプロセッサーを、Softube との共同開発で現代にプラグインとして蘇らせたものです。そして2025年6月に Softube とのコラボレーションで、基となるハードウェアの無いプラグインエキサイター Weiss Exciter を発表し、新しい動きを見せ始めました。
プラグイン群は現在8つがラインナップされていますが、エキサイター以外の技術的な大元はダイナミクスを担う Weiss DS1-MK3 と、イコライジングを担う Weiss EQ1、この2つです。


Weiss DS1-MK3 からは Weiss Compressor/Limiter、Weiss Deess、Weiss MM-1 にそれぞれ派生し、Weiss EQ1 からはミキシングでも使用できるようミニマルフェイズモードのみを抜き出して軽量化/簡易化を図った、Weiss EQ MP に派生しました(Weiss EQ MP は Weiss EQ1 に、Weiss Compressor/Limitter、Weiss Deess、Weiss MM-1 は Weiss DS1-MK3 に付属)。
そして Weiss DS1-MK3 と Weiss EQ1 の機能を Softube Console 1 用に抽出し、新たな要素を加えたものが、Weiss Gambit Series for Console 1 です。それらのサウンド部分に関しては、Weiss の創設者であるダニエル・ワイス氏本人が「オリジナルと変わらないサウンドだ」と発言しているそうです。
実際に使用した際の全体的な印象としては、元の設計の良さからか古さを感じる面は一切無く、むしろその多機能さに、これまでも歴史に残る名盤制作の中でも繊細な変更が求められる場面で重宝されてきたであろうことが伺えます。Pro Tools の登場が1991年、Waves の登場が1992年であったことを考えると、ガンビットシリーズが発表された当時、これだけ品質が高く、細かな調整が可能で、リコールが容易なものは稀有だったことでしょう。私自身、これまでの仕事で何度もディエッサーやマキシマイザーなどに助けられております。

Weiss EQ MP と Weiss Exciter でギターの音作り
さて、第1回目の今回は「音作り編」と題して、ギターとベースの音作りに各種プラグインを使用しながら、機能や性能面を見ていきたいと思います。今回使用する素材は、最近取り掛かっていた、基本的なバンド編成に時折シンセやパーカッションが加えられた、ポップで少しサイケな楽曲です。バンドとしての生感やムードが大事になります。
まずはギターの音作り。録音の段階でキャラクターやプレイ感の良さは担保されているので、今回はきちんと主張がありつつ、歌などを邪魔しない高域の整理がキモと捉え、常に鳴り続ける高域の余分なレゾナンスをEQで取り除きつつ、エキサイターで元々あった輝きを再構成するようなイメージで進めていきます。
Weiss EQ MP でレゾナンスを除去
まず使用するのは Weiss EQ MP。細かいところですが、縦横の拡大縮小機能に対応しており、アナライザーを見やすい形に変更できるのが助かります。また、背景色を黒基調にしたダークモードも存在しています。音に集中できるよう暗めの環境で作業している方にとって、これは何よりも作業効率を上げる要素になり得るでしょう。
さっそく中高域にいくつかのレゾナンスを見つけ、取り除いたところ、ダイナミクスやプレイの機微、音の輪郭がグッと伝わりやすくなり、聴き方によっては音量が上がったようにも聴こえます。これは良い傾向です。EQによっては細いQで大幅にゲインを変更した場合、全体の輪郭が崩れるように聴こえることもありますが、それがあまり感じられません。下げたところが素直に下がり、その結果、残したい部分がちゃんと前面に出た印象です。

Weiss Exciter でダイナミクスに追従した倍音を得る
次に Weiss Exciter を使い、EQでカットしたレゾナンス部分を、動きのある倍音に置き換えるイメージで処理していきます。今回は繊細な変化で間に合う印象だったので、EQのように元音の音量が上がるだけになってしまう効果を抑えるmasteringモードがONになっているプリセットを選択し、amountを適切だと感じる量に調整しました。この処理は上手くいったようで、元々こういう音だったかのように明瞭でリアルな音になり、バイパスをした時に初めてどんな処理が行われたかに気付くほど自然でした。
一般的なエキサイターでは、きちんと設定しないと、いらない中低域まで増幅してしまったり、音量だけがどんどん大きくなってしまい、元の音量と合わせてみたらそれほど変化していなかった...ということがあります。Weiss Exciter ではそんなことも無く(そもそも500Hz以上にしか効かない設計も◎)、音量に左右されない一貫した処理のおかげか、音量が大きくなった時にだけ強くかかるだとか、大き過ぎて割れるようなことも一切無く、ダイナミクスに追従した倍音が得られます。ある意味で、これまでエキサイターに求めていた機能のうち、本当に必要な要素だけを加えるために産まれてきたような印象を受けます。

音に関しても、コレで決まってしまえばおそらく替えは効かないでしょう。逆に言えば、できること、やるべきことがハッキリしているので、コレじゃない時にも判断が早く済みます。
またCPU負荷に関しては、上記の機能に加えて、追加した倍音と原音が常に同位相に保たれているなど、これほど多くの処理をしているのならそれなりの負荷があるものだろうと思っていましたが、それほどではなく、各バス程度であれば気軽に使っていけそうです。
この後、全楽器と併せて聴いて余計に感じた超高域を Weiss EQ MP のハイカットで処理し、相対的に主張不足を感じた中低域を補完して、ギターの音作りはこれで完成としました。
Weiss Exciter と Weiss Compressor/Limiter でベースの音作り
次はベースの音作りです。こちらもギターと同じく、それぞれのマイクとDIの音を組み合わせ、粒立ち、ムード共にすでに完成された印象でしたが、楽曲全体で捉えると、中域以上のドライブ感...歪み/倍音の追加を必要とするものでした。
Weiss Exciter でより生々しい質感を得る
なので今回は初手で Weiss Exciter を使用し、masteringモードがONになっていないプリセットに絞って探していきます。[Mid Presence Low]というプリセットがハマり、弦のビリっとした質感と、ピッキングのムチ感が得られました。

Weiss Compressor/Limiter でサスティンを増強
次にドラムのダイナミクスの間を縫ってしっかり鳴り続けられるよう、Weiss Compressor/Limiter を使用してサスティンを増強するようなイメージで圧縮します。ミックスバスの圧縮を第一に開発されたプラグインではありますが、非常にクリーンなキャラクターのお陰で、ベースに用いても余計な色付けに惑わされることなく制御に集中できます。キックやスネアを活かしながら、ベースとしての立ち位置を確保することに成功しました。

このプラグインはそのまま使用しても良いものですが、インプットメーター下の矢印から表示できるオプションパネルがキモと言えるかもしれません。ここにはオートゲインや検出部のPeak/RMS調整、サイドチェインの設定などがあります。中でもPeak/RMSの調整は重要で、ここを右いっぱいに振ればピークに関わらない、いわゆる“音量感”のような部分のみを上下する動作が可能です。今回の音源全体のマスターバスでは、ここを400msに設定することで、元のアタック感を保ったまま音量に触ることができました。

最後にエキサイターとコンプに関わる形でイコライジングするために、初段に Weiss EQ MP を追加し、ミックス全体で聴いた際に足りなかった中高域と、キャラクター的にもっと感じたい低域を上げ、気になるレゾナンスを処理して終了しました。

終わりに
今回は第1回「音作り編」ということで、ミキシングでの Weiss EQ MP、Weiss Exciter、Weiss Compressor/Limiter の使い方をご紹介しました。Weiss プラグインは全体的に多機能で、学習にそれなりの時間を要しますが、覚えてしまえば達成したいことにいち早く Weiss クオリティで達することが可能になるものです。DAWに慣れ始めて、これから永く使っていける道具を求めている方から、技術を磨くにつれて多様化していく自分自身の要望にスムーズに応えられる相棒を探している方にまで、広くオススメします。
次回は「トラブル解決編」と題し、Weiss DS1-MK3(Weiss Deess、Weiss MM-1含む)と Weiss EQ1 をマスターバスに対して使用しながらご紹介しようと思います。
お楽しみに!
文:水野壮志
セール情報
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水野壮志
1993年 京都生まれ、静岡育ち。 幼少期よりジャニスジョプリン似の母とイングウェイマルムスティーン好きの父にピアノとギターを習わされるも、一方的に教わる事への反抗からロックへの道に目覚める。 高校卒業前後からバンド活動に没頭し、deepNowとしてYAMAHA Music Revolution 優秀賞/ フジロック/ライジングサンのルーキー枠出演、年180本ほどのライブ経験を果たす。 その後The Tateとして電子音楽制作、Qujakuとしてヨーロッパツアーなどを経験する。
同郷の崎山蒼志氏率いるバンドKids Aと,rowbaiが当時組んでいたバンドを見て”今の姿を音源として残すべきだ”と強く思い、エンジニアリングを開始。 その後ライブハウス浜松Kirchherrのオーナー就任し、以降地元のミュージシャンの録音を継続的に行い地元音楽シーンを支える。 上京したことをきっかけに、自身の経験を活かしマスタリングに専念する。
3D空間としての音場のダイナミクスや解像度を制御し、空間認知度を高めるマスタリングを得意と する。
インディー/サイケ/エレクトロニック/ロック/ボカロ/VTuver/アイドル/劇伴 など幅広いジャンルを手掛けている。