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Heritage Audio : Grandchild 670 - 名機 Fairchild をコンパクトサイズで再現

1950年代に誕生し、今も世界中で愛用されるコンプレッサーの名機 Fairchild 670。そのニーズに応えるべく Heritage Audio が2022年に開発した Herchild 670 を、コンパクトな 500 シリーズで再現したのが Grandchild 670 です。Fairchild を長年愛用するエンジニアの青野光政氏に Grandchild 670 の実力をチェックしてもらいました。

音像を一瞬でまとめて、良いグルーヴ感にしてくれる


- 青野さんが Grandchild 670 に興味を持ったきっかけは?

API lunchbox 500 に収まる Fairchild 670 が出たと聞いて、どんなものが出来たのか、どう使えるのかが知りたかったんです。

- そもそも Fairchild 670 はどんなコンプレッサーなんですか?

元々はレコードカッティングで使用するために作られたものだと聞 いています。 僕の知る限りでは、シリアルNo.1〜100までが「レッドロゴ」、それ以降のシリアルNo.101からは白で印字されていたため、通 称「ホワイトロゴ」と呼ばれていました。 近頃はオーバーホール時に白いロゴを赤くした Fairchild 670 も見かけるため、今言ったシリアル番号と合わないものもあります。

- レッドロゴとホワイトロゴに性能的な違いは?

レッドロゴの個体は主にレコードカッティングで使われるようにセット されていたと感じます。 ナチュラルで品の良いかかり方をするため、コンプがかかっていないようにすら聴こえますが、しっか りと音量を整える仕事をしてくれます。 ホワイトロゴはレコーディング環境でよく使われている感じがします。 こちらは結構アグレッシブでヤンチャな感じで仕事をしてくれます。DCスレッショルドのセッ ティングがレッドロゴとは違うように思いますが、写真や映画でビートルズのセッションを見ると、レッドロゴの Fairchild 660 が写っています。 皆さんがよく耳にするビートルズのシンバルの音は、Fairchild 660 のDCスレッショルドのセッティングを変えて使っていたのかもしれません。

- では青野さんの使い方を教えてください。

主にマスターバスにかけています。不思議なことに、各楽器が別々の方を向いているようなガチャガチャしたグル ーヴの音源でも、Fairchild 670 を通した途端に同じ方を向いて、グルーヴが良く聴こ えるようになるんです。それでついつい使ってしまいます。 その他は、ボーカル、ベース、スネア、タム、シンバル、ドラムのオフマイク、ピアノに使ってます。

- なるほど。その Fairchild を再現した Herchild 670 も使ったことがあるそうですね?

はい。その時もマスターバスに入れて聴きました。Fairchild 670 に近いなと思いましたが、少し現代的なハッキリした音になっています。Fairchild 670 も新品の時はこんな感じだったのかもしれませんね。 音は気に入っています。チューブは片チャンネル11本、LR合計で22本も使われていて、TUBE6386 を使っていないですが本家に近いですね。Herchild 670 を操作してみると、正直、DCスレッショルドのセッティングに は最初に苦労させられました。Fairchild 670 のDCスレッショルドは、デフォルトのセッティン グが気に入らなければ、自分かあるいはメンテナンスエンジニアがセッティングを し直すのですが、Herchild 670 は自分の好みに合わせてうまく調整できるだけに苦労するかもしれません。僕は Fairchild 670 と 660 を所有していたので、ある程度好みのセッティン グがあり、それに近づけようとして、ついつい何十通りも試し てしまいました。時間はかかりましたが、その部分が完成するとオリジナルの Fairchild 670 に近いことができるようになり、とても気に入りました。

Herichild 670
▲Herichild 670(国内未発売)

- 高評価ですね。Grandchild 670 の印象も同様ですか?

Grandchild もやはりマスターバスに入れて聴いたところ、第一印象から良かったです。音像を一瞬にしてまとめてくれて、良いグルーヴ感にしてくれます。コンパ クトサイズの 500 シリーズとは思えないサウンドで、手軽に持ち運べるし、これはいい!と思いました。昨今は家でのミックスが多いので、置く場所を取らないのがいいですよね。スタジオなどにも持って行きやすい。マスターに使えるコンプは世の中にいっぱいあるけど、いいまとめ方をしてくれるコンプはなかなか無 い現状で、これほどまとめてくれるコンプはありがたいというのが第一印象です。

古臭い感じがなく今の音楽に使える魅力あるチューブ


- チューブはどんなものが使われているのですか?

6BA6 が4本使用されています。よくチューブを使うと音が丸くな ってコモることがあるんですが、Grandchild のチューブは古臭い感じがなく、音の中心がへこむこともなく張り出してくれて、今の音楽に使える魅力あるチューブに思えました。

- ノブやスイッチの役割を教えてください。

上段左にあるのが電源のオン/オフスイッチで、バイパスも兼ねています。VUメーターを挟んで右側にタイムコンスタント(TIME C.)があり、メーカー側でアタックとリリースの設定が決められていて、5つの中から好みの設定を 選んで使います。オリジナルの Fairchild 670 にも同じようなものが付いています。各種設定値は取説を参照してください。中段は、左に電源オン/オフのランプ、中央にデンと構えたインプットゲイン。 下部左にACスレッショルドノブ(AC THR)、右にレシオとニーなどを決めるDCスレッショルドノブ(DC THR)が付いていま す。

- オススメの操作手順は?

インプットゲインは、Grandchild 670 への入力信号が+4dBout / 0Vuの場合は10がデフォルト(+4dB)で、+1dBずつノッチ上げしていきます。タイムコンスタントは最初は4か5が使いやすいです。余談ですが、Grandchild 670 の4と5は、Fairchild 670 の3と4に近いです。ACスレッショルドは7くらい。DCスレッショルドは2時くらいにして、まずは聴いてみました。

- パートごとの使用感を教えてください。

ボーカルについてはノーEQ、ノーコンプでオーディオ化された音源を使用しました。 余談ですが、牧野さんのレビューで紹介されていたセッティングとは異なってしまいました。牧野さんの標準的 セッティングをまず試してみて、その後に僕のセットもやってみてください。 音源やインプットゲイン前のレベルによってセッティングは変わってきますので。ゲインは少しオーバー気味に8と7の間にしています。タイムコンスタントを1で使用するとバランスが良くなり、4か5にすると今回は音像が遠くに聴こえました。ACスレッショルドは7.5くらいにして、あまり強くかけず、VUメーターで−1〜−3dBくらいリダクションします。DCスレッショルドは2時半あたりでいい感じに潰れ、サチュレーションなども付加され、力強い音源になりました。

- ミックスバスでも使用しましたか?

アコースティックバンドの音源を使い、ゲインは+4dBのデフォルトである10、タイムコンスタントは4でリリース長めで使いました。タイムコンスタントを5にする と音像がちょっと遠目になります。ACスレッショルドは6.5くらいにしてあまりかけないで、VUメーターで−1〜−3dBくらいリダクション。DCスレッショルドを2時くらいにすると、綺麗に良いグルーヴ感が出る音源が出来ました。ロック系ハード音源では、ゲインを少しオーバー気味の7、タイムコンスタントを5、ACスレッショルドを7くらいにして、VUメーターで−5〜−7dBくらいリダクショ ンし、DCスレッショルドを3時半くらいにセットすると、力強く張り出しのある音源になりました。全体的に、ACスレッショルドを絞りきると、見た目はVUが全然振れていなくても、コンプレッションは結構効いてる印象を持ちました。

- Grandchild 670 はどんな人にオススメですか?

プラグインに飽きた人や、ビンテージチューブ機材に興味がある人にオススメです。 お値段は30万円ちょっとと少しお高めですが、使ってみたらコスパ以上の代物と思 います。

内部
▲6BA6(5749)NOSチューブを4本、専用設計トランスを3基搭載

青野光政

レコーディングエンジニア。音質の追求と作業環境の向上を求め、イデア・サウンドを設立。今までに井上陽水、嵐、ASPARAGUS といったアーティストの作品をはじめ、ポケットモンスターなどのゲーム作品まで手掛けている。

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