Hookup,inc.

Heritage Audio : Grandchild 670 - 500シリーズサイズの Fairchild

厳選されたコンポーネントと回路を詰め込んだ“500シリーズサイズの Fairchild”こと、Heritage Audio Grandchild 670。本機のサウンドに魅了されたエンジニアの1人である牧野 “Q” 英司氏が、使いこなしのコツを明かしてくれました。

太くて暖かく、クリアでタイトな押し出し感のあるサウンド


レコーディングエンジニアにとって憧れのコンプレッサーであり、コンプレッサー界の重鎮でもある、あの名機 Fairchild 670 をリスペクトし、スペインの Heritage Audio により開発されたステレオVariable Muチューブコンプレッサー、Herchild Model 670。その後継機であり、500シリーズに対応した Grandchild 670 がようやく日本でも発売されることになりました。同社からはこれまでにも数々のビンテージ名機をリイッシュした製品が発表されてきました。どれもビンテージ感をリスペクトしたものであると共に、どちらかというとオリジナル機にインスパイアされて当時の新品を再現した印象で、素晴らしい製品でした。

実際に Grandchild 670 の音を聞いてみます。

まずは何も考えず、コンソールのマスターにインサートした瞬間、クリアで明るい印象に驚かされました。元祖ビンテージの Fairchild の場合、太く暖かい、しかしちょっと緩くこもった感じになるのが、楽器や目指しているサウンドに合わなかったことが幾度もあったのですが、Grandchild 670 は太くて暖かく、しかしこもることなくクリアでタイトな押し出し感のあるサウンドを鳴らしてくれます。

タイムコンスタントとDCスレッショルドでかかりをコントロール


もうちょっと詳しく検証してみます。

まずはパワースイッチ。バイパス時は赤のランプが点灯し、メーターのランプは消灯しています。オンで両方点灯。これはナイスアイデアですね!

タイムコンスタント(TIME C.)はアタックとリリースがセットになったプリセット5種類を選択するスイッチ。DCスレッショルド(DC THR.)はレシオとニーと立ち上がりカーブの調整ノブ。これらの組み合わせで、色々なコンプのかかりをコントロールすることができます。BPMや楽器、アレンジにもよりますが、自分は比較的大きな細かくないフレーズには結構コンプ深めでアタック早めのリリース長めにし、BPM早めで細かいフレーズの場合はコンプ弱めでアタック遅めのリリース早めにすることが多いのですが、どのタイプにもコントロールしやすいです。

20dBまで調整可能なインプットゲインは、とてもスムーズにコントロールできます。自分は、歌やギターなどはREC最中にインプットゲインを上げ下げすることが多く、そうした作業も何のストレスも感じずに行えました。インプットゲイン、ACスレッショルドノブ、DCスレッショルドノブは、いずれも軽いクリックが細かくあるので使いやすいです。またリアの底部にサイドチェーン・ハイパス・フィルターが3ポイントあるのも助かります。

本機には真空管 6BA6 が4本搭載されてます。この真空管の印象としては、中域の押し出し感に魅力を感じていましたが、古くさくない、新しくクリアで張りのある、甘くならないサウンドにも魅力が現れていると思います。

タイムコンスタント
▲VUメーターの右側にあるタイムコンスタントでアタックとリリースを選択する
マニュアル1
▲付属のマニュアルにアタックとリリースの数値が記載されている

ピークがしっかりコントロールされて張りのあるサウンドが得られる


実際に使ってみた印象は、ドラムにはタイムコンスタント=ポジション2、DCスレッショルド=9時のポジションが好みでした。パワフルな抜けのいいドラムサウンドを得ることができます。

ピアノは白玉系の音源だったので、タイムコンスタント=ポジション3、DCスレッショルドは右振り切りのポジションで、リバースが付加された感じにも聞こえるナイスなサウンドになりました。

歌はやはり、タイムコンスタント=ポジション4、DCスレッショルド=12時がしっくりきました。これが本機の標準的なセッティングかと思います。

そしてマスターに関してはBPMやアレンジに大きく左右されますが、どのポジションでもしっかりピークがコントロールされて、リダクションをそんなにかけずとも、張りのあるクリアなサウンドが得られます。

DCスレッショルド
▲フロント下部の右側にあるDCスレッショルドでレシオとニー、立ち上がりカーブを調整する
マニュアル2
▲マニュアルには各カーブのニーとレシオの設定が記載されている

現代的にアレンジされたサウンドに使いたくなる


昨今のどんどん進化していくプラグインも魅力的ですが、やはり実機における音楽的な暖かさは、まだまだプラグインよりは優れていると思います。

昔の機材は重くて大きいものが良しとされていて、軽いのは信用できないというのが一般常識でしたが、500シリーズに対応したコンパクトな本機は本当に常識を覆してます。歪みも感じられず、S/Nも非常に良く、心地良いチューブ倍音が感じられ、使い勝手も良く、実際に通すだけでハッピーになれる印象です。

自分的には、ビンテージものと比べて音やデザインが似てるとか同じとかいう評価ではなく、機器単体で実際に音を聞いて、「素晴らしいサウンドか?」「使いやすさはどうか?」を重視したいのが本音ですが、やっぱりちょっと意識してしまいますね。

ビンテージの Fairchild は個体差もあってちょっと苦手な部類に入るのですが、Grandchild 670 のサウンドは、どんな楽器やマスターにも使いたくなる、ある意味ビンテージの Fairchild よりも、現代的にアレンジされたサウンドにどんどん使いたくなる一品です。

牧野 “Q” 英司

1979年に新宿ロフトのPAエンジニアとしてスタートし、マグネット、ツー・ツー・ワン、ゲッツ、フリーを経て、現在は(株) Q OFFICEを立ち上げ、自由なスタンスで音作りを楽しむスタイルで活動中。
最近作としては、BUMP OF CHICKEN、Cocco、PERSONZ、MONGOL800、luki、アンジェラ・アキ、リーガルリリー、My Hair Is Bad、めいちゃん、フリージアン、Nornis、玉井詩織などを手掛けている。

関連記事

ページトップへ