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LiquidSonics : 別次元のミックスを実現する Cinematic Rooms の空間表現力

近年、音楽クリエイターやエンジニアの間で人気を集めるプラグインリバーブの専門ブランド、LiquidSonics。そのヘヴィユーザーの1人であり、現代音楽やクラシック作品に数多く携わる作曲家/マスタリングエンジニアの中川統雄氏に、愛用のプラグインとその魅力を聞きました。

Cinematic Rooms の素晴らしい響きと空間再現性能にノックアウトされた


- 中川さんは普段どんなジャンルの楽曲制作に携わっているのですか?

専門は現代音楽の作曲ですが、DAWを使った音楽制作は多種多様にやっていて、生楽器を扱うものはもちろん、IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)や音響系の作品を最も得意としています。

- LiquidSonics を使用する以前は、どんなリバーブを愛用していましたか?

最初は Digital Performer に付属するIR系のリバーブを使っていましたが、その後 2C Audio のリバーブ、特に B2 をよく使用していました。B2 は負荷が非常に高いので、どうしても使用を制限せざるを得ない場面もあり、その場合は Valhalla DSP の諸作を筆頭にかなりたくさんのリバーブを使用していました。2C Audio に関してはいろんな問題(お家騒動)があって、メインマシンではもう使えないのが今でも心残りではあります。

- LiquidSonics を導入したきっかけは?

プロ界隈での評判の良さですね。「Seventh Heaven(BRICASTI Design M7 のシミュレートプラグイン)の再現性が凄い、そっくりだぞ!」という噂をかなり聞きました。そのような経緯があったので、早速 Seventh Heaven Professional を買って使ってみたところ、M7 の響き自体がさほど好きなテクスチャーでは無かったからなのか、自分の好みには合いませんでした。そう言う意味では、Seventh Heaven は M7 の再現性が高いとも言えます。ある程度編成が大きい音楽にはマッチしやすいですが、ソロ楽器では難しく感じました。当時は特にフルートの作品をたくさん手掛けていたので、それに合うか否かが自分にとっては1番重要でした。その後 Cinemtic Rooms に出会い、その素晴らしい響きと空間再現性能に完全にノックアウトされ、今に至ります。Cinematic Rooms を使うことが断然多く、次に Illusion ですが Lustrous Plates もよく使います。

LiquidSonics
▲左上から時計回りに Lustrous Plates、Seventh Heaven、Illusion、Cinematic Rooms

- Cinematic Rooms の魅力は何でしょう?

やはり空間の再現性能の高さです。負荷や使いやすさを考えると、他の製品とは一線を画します。また、リバーブを使いたいと思った場面で、とりあえず Cinematic Rooms を挿せば、うまくいかないことは極端に少ないですね。設定などを突き詰めていくと、音源によっては Cinematic Rooms がベストかどうかわかりませんが、少なくとも合格点の出せる音をほぼ確実に出してくれる。これが1番ですね。それと、かなり細かく設定できるのにも関わらず、使いやすいことも魅力です。これはプリセットの優秀さにも関係していると思います。

- よく使用する場面は?

ありとあらゆるところです。特に生楽器には必須と言ってもいいレベルだと思います。フルートに関しては間違いないと、自信を持って断言できます。フルートは材質によってかなり響きが異なりますが、どの材質、どのメーカーでも、まったく問題なく違和感の無いリアルな響きを与えてくれます。おおむね木管属には無類の親和性を発揮します。そもそも「この楽器には合わないな」と感じたことは正直一度もありません。

- 生楽器と相性が良いのはなぜでしょうか?

確定まではできませんが、深くリバーブをかけても、楽器を鳴らしている時間領域の音と、実際に演奏している時の音との乖離がほとんど感じられない点にあるのかもしれません。多くのリバーブは残響以前にそこに違和感があります。Cinematic Rooms の場合、生楽器系に関しては、ほぼすべての音源と相性が良いと言っても過言ではありません。音源側のリバーブを切って Cinematic Rooms を入れろ、話はそれからだ。そう言えるぐらいには信用しています。例外は SYNCHRON PIANO のような、マルチマイクの設定を詰めていくことで完璧に近い空間表現ができる音源です。これらは LiquidSonics 製品ですら受け付けない空間表現能力があります。

- Professional 版を使用している理由は?

たくさんありますが、特に感じるのはEQセクションの素晴らしさです。帯域を設定して、量はおろか、各帯域の幅をコントロールできるのはとてもありがたいです。

- CPU負荷はキツくありませか?

かつての B2 の鬼畜のような負荷を考えると、むしろ軽くて心配になるぐらいです(笑)。

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▲オーケストラ作品のミックスをしているところ。Digital Performer の Pre-Gen 機能を使うと負荷を激減させることができるので、このように全パートに Cinematic Rooms や他のリバーブを挿すことも可能になる。このような使い方は今までとは別次元のミックスを可能とする

- 楽器配置の高低感をリバーブで調整することもありますか?

高低感の調整に関しては、そもそもまったく考えていません。特殊な音響演出をする場合は別ですが、楽器のあるべきところから音が出ているように配置するのが理想だと考えます。例えば、オーケストラ楽曲をミキシングするとして、実際演奏している位置以上に高低差を付けようとするから音楽の文脈から外れておかしくなるのであって、適切なミキシングをすれば人間は結果として適切に高低を感じるものだと考えています。そういう意味でも、例えばオーケストラのミキシングを行うのであれば、様々なホールで何度もコンサートを聴くことが上達の近道です。多種多様なコンサートホールの、様々な位置で生のオーケストラの演奏を聴くことが最も重要だと思います。そして実際のホールで聴く音に限りなく近づけていけるのが、Cinematic Rooms の本当の凄さだと思います。

綺麗過ぎて物足りない時に Illusion の BIT DEPTH が大活躍する


- では Illusion の魅力は?

色々なパラメーターが的を射ており、使いやすいことです。新たに備わった DYNAMICS AND FIDELITY の各パラメーターは私にとっては神機能です。BIT DEPTH を見つけた時は「やりやがったな!」と叫んだぐらいです。これは傑作ですね。使いどころは、ビンテージ感やザラつき感を加味させる時です。綺麗過ぎて何か物足りないと感じた時にも大活躍します。低bitリバーブならではの魅力ってありますよね。これは本当に素晴らしいので、今まで使ったことがなければまず触ってみてほしいです。ありとあらゆる場面で使えます。どちらかと言うと、生楽器よりシンセ系で使うことが多いです。

Illusion
▲Illusion は右下に SYNAMICS AND FIDELITY のタブがあり、その下部でパラメーターを操作できる

- Cinematic Rooms との使い分け方は?

おおむね生楽器は Cinematic Rooms で、それ以外は Illusion を使うことが多いですが、サブパラメーターの違いで選ぶことも多いです。

- どんなEQやコンプを組み合わせていますか?

EQは Toneflake Custom でチューンされた AD2077 です。これは究極の精度にまで高められたハードウェアで、別途 Marinair や WSW のアウトプットトランスをチョイスできるようにオーダーしました。コンプについては、強いて言えば Pulsar Modular P11 Abyss ですが、リバーブを挿すトラックに使用することはかなり減りました。ここ数年のプラグインの進化によって、コンプでなければならない場面が激減したというのもあります。EQに関しても同じことが言えます。

- 各所で LiquidSonics の音が良いと言われる理由は何だと思いますか?

プロアマ関係なくかなりたくさんの人にお勧めしましたが、素晴らしいという評判以外は聞いたことがありません。最近増えている、宅録もするプロの演奏家達からの反応も同じです。むしろ彼らの方が絶賛度合いが強いですね。LiquidSonics の音が良いと言われる理由は、再現性能の高さに尽きると思います。先ほど話した通り、「あるべき音をきっちり再現する」ということが最優先課題である場合、それを極めて高い精度で実現してくれるからだと思います。もし購入を迷っている人がいるなら、絶対に買った方が良いです。買って後悔することはありません。時は金なり。

中川統雄(ナカガワ ノリオ)

作曲家。ピアニスト。マスタリングエンジニア。東京芸術大学音楽学部作曲科及び同大学院作曲専攻修了。現代音楽の作曲家として、海外の音楽祭に数多く出品する他、Cockroach Eaterなどの他名義でも活動中。浜崎あゆみ、High and mighty colorなどのメジャーアーティストや、数多くのミュージシャン、映画、ゲーム音楽、CM音楽等の作曲・編曲・ミックス・マスタリングを手掛けている。

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