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Universal Audio UAD User File #008 : オカモトコウキ(OKAMOTO'S)

9月に発売された OKAMOTO'S の最新アルバム『KNO WHERE』は、その楽曲制作の多くがオカモトコウキさん(g)のプライベートスタジオで行われたそうです。自身のスタジオを持つに至った経緯や、Universal Audio Apollo を中心とした制作環境について、コウキさんに聞きました。

音作りに時間をかけるより、頭の中にあるものを形にするスピード感が大事


- このスタジオは元々、どんな場所だったのですか?

住み始めてしばらくは何もない空間でしたが、少しリフォームしてスタジオみたいな感じにしました。基本は奥さん(沙田瑞紀/miida)がここで作業していて、配信や YouTube のライブ映像を収録したり、他のミュージシャンのレコーディングをチョイチョイやるような感じです。最近は歌録りもここでできるようになったのが大きいですね。以前は本当に簡易な作業だけ家でやって、あとは外のスタジオでやる感じでしたけど、Universal Audio Apollo x6 を導入してからはマイクを何本も立てられるようになったし、ドラムを録ること以外は大体できるようになりました。最近は商業用のスタジオが減ってきちゃっているじゃないですか。なので、できるところまではここでできるようにしておいた方が良いかなと。お財布にも優しいかなと。

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▲2つあるオーディオインターフェイスの下段がApollo x6

- OKAMOTO'S はずっと、外のスタジオでレコーディングするスタイルでしたよね。今もそうだと思うんですけど、プライベートスタジオを使うケースが増えてきたのでしょうか?

初期の頃はバンドの一発録りで、本当にライブを収録しているみたいなシンプルな感じでした。弾き語りのデモをもとに、バンドのみんなで合わせるっていう感じで。それが少しずつ音楽性も変わってきて、デモを作り込んでから本チャンで差し替えたり、もっと構築していくような音楽に変わってきたので、その必要に駆られて制作手段も色々と変化してきた感じです。

- 最新アルバム『KNO WHERE』の楽曲制作も、オカモトショウさんとここで作業したそうですね。

本当に何も決めずに集まって、「どんな曲にする?」みたいな話しをして。最近聴いたあの曲が良かったとか、この曲が良かったみたいな話から始まって、「じゃあリズムパターンこういう感じで、こういう曲作ろうか」みたいな話し合いがあって、ババッと作っていくような感じでした。だから、結構スピード感が大事で、音作りに時間をかけるよりかは、頭の中にあるものを形にしていって、最後に詰めていくようなことが多かったですね。今回は本当に全部共作したので、早い段階でババッと作っていく感じでしたけど、もしかしたら今後はもっと個別で作り込んでいくこともあるかもしれないし、つどつど制作方法は変わっていくと思います。

- 意図的にやり方を変えているんですか?

メンバーと話し合ってそうしているというよりは、流れで(笑)。多分、バンドの全員がすごく飽き性で、1回やると飽きちゃうんですよ。だから最初のロックバンド然としたバンドサウンドから、もうちょっとファンキーな方に行った時もあったし、結構毎回変わっちゃうので、そのつど制作方法もそれに合わせるように頑張ってやって、12年が経ちましたっていう感じです。

- 今作はファンキーさや打ち込み的な要素も、いい塩梅でミックスされていますよね。

そうですね。楽曲に関しては、コロナ禍でライブがすごく減ってしまったことで、時間がメチャクチャあったので、本当に雑多な曲をバーッと作っていって、その中からセレクトしてああなったんですけど。それでも17曲くらいのボリュームになりました。

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1176はデモのクオリティをさりげなく1段階上げてくれる


- DAWで曲作りを始めたのはいつ頃からですか?

一番最初は GarageBand で、その時はあくまでも簡素にレコーダーとして使っていた程度ですね。ギターと仮歌を入れるくらいで、それがデビューするちょい前あたりかな。最初の4〜5年はずっと、あくまでもバンドで合わせて、その時の具合でやっていくっていう形でした。オーディオインターフェイスとかコンプとかプラグインに全然こだわりがなかったし、最初は本当に録って出しているっていう感じでしたけど、ちょっとずつそこにこだわるようになっていって。先に奥さんが Apollo Twin を使っていて、それもすごくいいなあと思って。それから、ちゃんと機材を揃えるようになったという感じですね。

- コウキさんが Apollo を導入したのは、わりと最近なんですね。

3〜4年前からかな? 色々揃えて曲作りをしていきたくなって、このスタジオをだいぶ整えたんですよ。防音室を置いて、アウトボードとかも導入し始めたのが、コロナ禍に入るちょっと前くらい。で、このスタジオを使い始めたのがソロアルバム(2019年)の時でした。アップライトピアノを録ったり、その時はまだ防音室がなかったので、歌は外のスタジオでしたね。2020年の頭に防音室を導入してからは、機材もどんどん揃えていきました。

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▲スタジオ内の一角に設置された2畳ほどの広さの防音室

- 本チャンのレコーディングをここですることもあるんですか?

ありますね。ここで行うのは基本的には歌録りですね。OKAMOTO'S のニューアルバムでは、レコーディングしたセッションを持ち帰って、歌録りなり、コーラス録りなりをやるという感じでした。僕がオペレートして歌を録る時もあれば、エンジニアさんが来て作業してくれる時もありましたね。その時も Apollo x6 を使いました。

- どんなセッティングで録るんですか?

歌録りの時は、この辺のアウトボードが全部挿さっています。マイクプリ、ディエッサー、コンプを通って Apollo x6 に入れます。Apollo x6 のアウトプットが防音室のミキサーとつながっているので、クリックとボーカルの返しとオケをパラで出して、それをシンガーに聴いてもらいながら手元でバランスを取ってもらいます。

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▲歌録りに使用されたアウトボード類
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▲Apollo x6の6つあるアウトプットを利用して、歌の返し、オケのmix(L/R)、クリックを個別に出力する
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▲それぞれの出力を防音室のミキサーに入力して、歌いながら音量バランスを調整できるようにしている

- Apollo のラックモデルを選んだのも、そういう使い方を想定されていたからなんですね。

そうですね、チャンネル数が多い方がいいなと思って。ギターのアンプ録りをする時とかも、マイクを2〜3本立てたりするじゃないですか。そういうこともあって、マイクの本数は増やせた方がいいなと。Apollo にはもっとチャンネル数の多いモデルもあると思うんですけど、歌録りには Apollo x6 が丁度いいサイズ感かもしれないですね。

- ここでギターを録ることもあるんですね。

録りましたね。OKAMOTO'S ではないんですけど、miida のギターを録った時に、Shure SM58 とコンデンサーマイクの組み合わせだったと思います。この間、アコギもここで録りましたね。

- プリアンプはアウトボードのものを使用するのですか?

そうですね。ここで録音する時はアウトボードをかけ録りしています。ただ、上の階にも部屋があって、そこでデモ作りをする時は、UADプラグインを使っていますね。主にコンプとEQかな。UA 610(マイクプリ)や Pultec Pro Equalizers(EQ)のLegacyといった、本当にベーシックなものです。コンプは 1176SE/LN で、ピークが点かないように、レベルを整えるくらいですね。これらを Console 上でかけ録りしています。ディレイとかも使うかな。プラグインはいくつか試してみて、直感でパッパッパッと曲を作っていくので、ミックスでじっくり試すような感じではないんですけど。

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▲上の階にある、デモ制作のためのスタジオ
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▲こちらでは第一世代のApollo Twinを使用している

- その方が作業がスムーズに進むんですね。

そうですね。UAD は処理が全然重くないから、作業のスピード感を求めている時にすごくいいですね。UADプラグインをかけ録りしながら、Logic Pro 上でも別のプラグインをかけることがあるので、そういう風に二重三重にプラグインをかけても全然ストレスがないところがすごく助かっています。

- 1176 の効きは実機の印象に近いですか?

僕は実機に詳しくはないんですけど、UAD の 1176 はかかり方がすごく自然で、かかっている感じがし過ぎないところがいいですね。味付けが自然というか、デモのクオリティをさりげなく1段階上げてくれます。僕らの音楽性はやっぱりロックなんで、ミッドの暖かみとか、ちょっとアナログチックな暖かみが欲しい時がよくあって。そういう場合に、ボーカルや楽器を 1176 に軽く通すだけで、スタジオで録った時との質感の差が少なくなるのはありがたいです。相当すごい技術だなと思います。昔使っていたDAW内蔵のプリセットコンプとかって、スタジオで実際に使っているコンプとの差を感じることが多かったんですけど、今はそういう違和感がないですね。動作も実機の 1176 と同じだから、外のスタジオに入った時に「こうやってかけてください」って言うこともできるし、作業がシームレスにできる。プロデューサーの方々のような作り込みはあまりやっていないですけど、コンプは自然と使っていますね。

- 他のコンプも使っていますか?

UAD の 1176 を使う前は、IK Multimedia の T-RackS Black 76 を気に入って結構使っていたんですよ。今回のアルバムでも、デモの半分くらいまではずっと使っていたんですけど、効きがちょっと強力過ぎるような気がして、UAD の 1176 を軽くかける方向に変えました。ナチュラル感が欲しかったんですよね。T-RackS もすごく気に入っていて、他にもいくつか使っていました。

- 上の階でギターを録る時はライン録音ですか?

Line 6 Helix Rack でギターの音作りをしています。そこで完全に音を作ってから、Apollo Twin にラインで突っ込んで録るという感じですね。

素早くデモを作り込むためにUADを使っている


- シンセのアイディアとかも、デモを作る時にどんどん出てくるのですか?

最終的に音色を差し代えた箇所はあるにしても、アイディア自体はデモの段階から入っているし、そのまんま作っていった感じが多いかもしれないですね。僕もそうなんですけど、奥さんがハードのシンセをすごく好きで、どちらかというと鍵盤系を集めているのは奥さんの方です。僕は本当にギターと、オーガニックなロックサウンドという感じです。

- アルバムではボーカルエフェクトも多彩に使われています。

海外のアーティストとかって、ボーカルの処理がすごく凝っているじゃないですか。曲中で1ヵ所だけ定位が変わったり、LRの片方だけリバーブをかけていたり、次に3声になったり。その時は Dua Lipa とかを聴いていたのかもしれないですけど、「最近のはボーカルの凝り具合がスゴイよね?」みたいな話になって。それで今回、オケを録った後にボーカルのプリプロじゃないけど、ボーカルの入れ方について話し合いをしました。歌詞の中で1ヵ所だけパンを振るとか、細かいことを色々決めて。「Welcome My Friend」っていう曲のDメロで、ボコーダーがバーッてすごく重なるようなところがあるんですけど、そことかは結構時間をかけて考えて、声の厚みとか、どれくらい重ねるかをディスカッションしながら決めていきましたね。その作業もこのスタジオでやりました。

- そういう処理もコウキさんがプラグインで行うんですか?

ボーカルにショートディレイをかけたりとか、作りたいイメージをエンジニアさんと共有するために、基本的なプラグインを使ったりすることはあります。エンジニアの青木 悠さんも UAD をめっちゃ使っていて、UAD-2 Satellite を持っていましたね。ロックバンドのフォーマットではあるんですけど、海外のめっちゃ作り込んでいるアーティストと比べてもスカスカになったりしないように意識して、ベースのロー感とかを今までよりも出したり。楽曲の作り方も、曲中でガラッと移り変わったり情報量が多くなったりとか、そういう工夫がかなりあったんじゃないかと。

- ここではベースはどうしているんですか?

ベースは打ち込みで作る時もあるし、ここでエレキベースを弾いて録ることもありましたね。ちっちゃい aguilar のベースアンプがあって、それとラインを両方同時に録って混ぜたり。ラインを録る時は Rupert Neve Designs RNDI を通しています。最終的にはほぼ RNDI の音だけを使ったと思います。RNDI はいい意味でハイファイじゃない感じがするんですよ。僕らがよくレコーディングで使っている、Studio Sound DALI の卓が Neve なんです。その卓のブリティッシュな感じというか、暖かみのある感じというか、昔のロックバンドっぽい音が録れるところが気に入っていて。で、RNDI を使うと、そのスタジオでハマくんが録っている時のフィーリングに近くなるんです。すごく馴染んでくれるというか、バンドの音楽的に、いてほしい帯域にうまくベースがいてくれる。音がボーボーしなくて、いい感じに支えてくれる感じですね。僕はベーシストじゃないんで、感覚的な話になっちゃうんですけど、これはすごく好きです。

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▲ベースをラインで録る時はRNDIを通してからApolloに入れている

- ソロアルバムのベースも同じやり方ですか?

そうです。ソロアルバムでは本チャンのベースも僕が弾いて、その時も RNDI で録りました。コロナ禍になって、外でレコーディングができなくなった時に、ここで完結させられないとダメなんじゃないかって感じで防音室も買ったし。OKAMOTO'S は基本的には「せーの」で合わせて作るスタイルなので、デモを作り込みたいわけではないんですけど、やっぱり頭の中の設計図として、デモを作り込んでおくと共有も早くできるから、素早くデモを作り込むために UAD を使っているという感じなんです。Apollo はチャンネルごとに設定が自動で切り替わってくれるし、難しいセッティングをしなくても簡単に録れるじゃないですか。すごく直感的に操作できるのが、いいと思いますね。しかもラックモデルだとやれることも広がりますから、いつかここでドラムを録れるようにしたいですね。大工事が必要ですけど(笑)。

- ドラムを録るとなると、部屋の広さも影響しますよね。

そうですよね。今、「from Studio Kiki」っていうYouTubeチャンネルで、毎回いろんなバンドがこのスタジオに来て、スタジオライブみたいな感じを収録しているんです。最初は友達のミュージシャンを誘って「なんかやろうよ」っていう感じで始めましたけど、だんだん広がっていって。けど、ドラムは無理なので、打ち込みにしてもらう条件で。でも、LITE が来た時は、ドラムパッドを叩いていました。今はそこまでが限界なんですけど、なかなかスタジオライブみたいなのを収録してそれを出せる場所もないので、そういう発表の場が色々あったらいいなって思います。

写真:桧川泰治

オカモトコウキ

1990年11月5日東京都練馬生まれ。中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO’Sの原型となるバンドを結成。2010年、OKAMOTO’Sのギタリストとしてデビュー、アメリカSXSWやイギリス、アジア各国などでもライブを成功させ、日本国内では日比谷野外音楽堂、中野サンプラザなどでもライブを開催、結成10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させ、初ソロアルバム「GIRL」をリリース。アグレッシブなギタープレイとソングライティング力は評価が高く、菅田将暉、関ジャニ∞、PUFFY、Negicco、小池美由など多くのアーティストに楽曲を提供。またPUFFY、YO-KING、ドレスコーズ、トミタ栞、堂島孝平、ナナヲアカリなどのライブでのギターサポートも行なっている。ソングライティング力を生かしバンドの中心的なコンポーザーとしても活躍。OKAMOTO’Sとしては2021年、1月に配信シングル「Young Japanese」を皮切りに、「Complication」「M」「Band Music」「Picasso」と怒涛の勢いで新曲を発表、その活動の勢いは止まることを知らない。9月29日に9枚目のオリジナルアルバム「KNO WHERE」をリリース。10月8日のKT Zepp Yokohama公演を皮切りに全国16か所18公演をまわるライブハウスツアー「OKAMOTO'S LIVE TOUR 2021"KNO WHERE"」を開催。

OKAMOTO'S
『KNO WHERE』
2021.9.29
BVCL-1176
特設サイト

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