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Kilohearts : 創造性無限シンセ phase plant ビギナーズガイド by かめりあ(4)

作曲家のかめりあ氏が、愛用のモジュラーシンセ・プラグイン Kilohearts phase plant の使いこなし方を紹介する連載コーナー。第4回は既存の音声ファイルを読み込んで作る、個性的なサウンドメイクのアイディアを紹介します。

だ~れだ?(It’s Camellia!!!!)

こんばんは! かめりあです。もう4回目ともなると、大体の方が覚えてくださったかなと思います。そうですよね? ありがとうございます。

さて、前回はたくさんの変調/モジュレーション機能を応用しながら『ベースドロップで使えるベースサウンド』の作り方を解説させてもらいましたが、今回はこれまでのWavetableから離れ、Sampleという既存の音声ファイルを読み込んで使う方式の解説をしていこうと思います。『Sampleバイブル! できちゃう個性的サウンドアイデア』というタイトルでいかがでしょうか!

目次

第4回 Sampleバイブル!できちゃう個性的サウンドアイデア


まず簡単な使い方

Sampleモジュールは、これまで使ってきたWavetableと同じく、オシレータレーンに読み込むところからスタートします。「Factory」という名前のプリインストール・サンプルも用意されていますが、基本的な使い方を覚えるために、一度、自分の持っているサンプルを読み込んでみましょう! WAVファイルなどをドラッグ&ドロップすれば速攻入ります。楽ちん。

▲Sampleをオシレータレーンに挿入し、WAVファイルをD&D。これで読み込みオッケー

右上の[Root]は、発音される音程が等倍(速く/高くも遅く/低くもならず1倍。サンプルそのまま)となる際の音高で、基本的にはサンプルの音程に合わせて設定します。ちなみに、Rootの錠マーク(🔒)をONにすると、サンプルを変更してもRootの音程が変わらなくなります。「音程を変えて試したい!」という理由がない限り、基本的にはONにしっぱでいいと思います。

その右の[Loop]は名前の通り、ループ再生を始める/終わるポイントを設定するもの。基本的にはサスティンがあって、音程・音色とダイナミクスがある程度安定しているサンプルなら、Loopの範囲をうまく調整してあげればキレイにつながります! 逆にループが苦手なのは、打楽器やビブラートのある楽器(ビブラートのタイミングをうまく合わせてあげることができれば使えますけどもね! トライ&エラー)だったり、サスティン内で音色が変わるような特殊な楽器です。

▲こんな風に、波形が揃うようにLoopの範囲を設定すると、切れ目なくサスティンが続く

アイデア① ドラムサンプラーとして使う

「Phase Plant のエフェクターやモジュレータ、その他の機能を使いたいけど、ドラムサンプラーとして使う時は、どのMIDIシグナルが入ってきても同じ音高で発音してほしい」(例えば音程のあるキックとか、そういうことありますよね)という場合は下図のように設定すれば実装可能です。

▲HARMONICを[×0]にすると音高の影響をなくすことができる

画面右のRootを[A2]、画面中央のHARMONICを[×0]、SHIFTを[+110Hz]に設定します。このように設定することで、MIDIの音程による変化を受けず、常に「A2の周波数から数えて110Hz相当の速度」で再生されます。つまり、A2の周波数は110Hzなので、A2に対して1倍(等倍)で再生されるのです。チューニングで使われるA4の音程が440Hz、1オクターブ下がるごとに周波数は半分になるのでA3が220Hz、A2が110Hz……と覚えておくといいですね(もちろんこのうちのどの組み合わせを使っても大丈夫ですよ!)。数学もDTMの役に立ちます。これは本当です。

ちなみに、このテクニックはWavetableなどでも使えますので、音程に関係なく同じ音高を発音したい時は使ってみると吉!

応用すればこんな風にも

「ハードスタイルキックのサンプルを使って曲を作りたい。でも、そのままサンプラーに読み込むと、キックの音程がアタックごとに変わってしまって、ちょっとヘンかも……」。そんな時はアタックとそれ以外を分離して、前者は音程が変わらないサンプルとして、後者はMIDIと同じ音高が鳴る部分としてセッティングすれば、より良いキックが得られます! 加えて前者はHoldを使ってアタック部分後をフェードアウト、後者はDelayを使ってフェードインさせれば音がうまくつながりますね。

▲上のSampleでアタック、下のSampleでサステイン/リリースを作る

アイデア② ノイジーで歪んだ重たいベースシーケンス

次はこのSampleを、前回紹介した変調と組み合わせて使う方法です。既存のWAVサンプルを使って変調できるシンセというのはなかなかありませんので、できるならやった方がいい! というのは自明の理ですね(?)。今回は皆さんも再現できるよう、プリインストール(Factory)のサンプルを使って、ノイジーで歪んだ重たいベースシーケンスを作ってみましょう。

関連記事 第3回 変調大好き!ベースドロップで使えるベースサウンドの作り方

まずはオシレータから。上段がメインのオシレータで、プリセットから[Factory]→[VSCO 2 CE]→[Strings]の[Cello Pizz (C4)]を選び、Rootを[C3]に設定(下図黄枠)

下段は変調用オシレータで、[Factory]→[Symplesound]→[Decays]の[Roads A (C2)]を読み込み、Rootを[C2]に設定して、上段のメインオシレータのPHASEを20%ほど変調しています(下図赤枠)

どちらもLoopモードを[PING PONG](最初から再生→ループ最終部までたどり着いたら逆再生→ループ開始部までたどり着いたら順再生→……)にしているので、ループの切れ目を感じることなく滑らかになり、それでいてお互いのループの“ズレ”によるランダムな音の歪み・変調が活きています(下図黄緑枠)。こういうランダム性から新しい音が生まれる瞬間っていいですよね……。良くない?

▲こちらが完成形。SampleをそれぞれPING PONGモードでループさせているので、滑らかさと共にランダム感が出る

次にモジュレータを説明していきます! LFOは4つ使用し、すべてRetriggerモードにしています。左から順に下記のように設定します。

①メインのオシレータのGain:60%(上図水色枠)
②変調用オシレータのピッチ:+12st(上図紫枠)
③マスターのピッチ:−1.2st(上図橙枠)
④エフェクト内DistortionのDrive:30%、メインのオシレータのGain:5%、Detune:55%、DistortionのDrive:100%(上図白枠)

一番左端のLFOはとても複雑な形にしました。2Dロッ○マンのステージかな? このようにLFO内でシーケンスを組むことで、簡単にシーケンサーのような使い方もできちゃいます。常套テクニック! 他にも一番右の付点8分音符系シーケンスを、オシレータのDriveやDetuneにアサインして、やや複雑で打点の多いシーケンスにしています。このようにLFOを自由に作り込めるという点を活かして、音作りをしていけるのが Phase Plant の特徴なので、忘れないでくださいね。

それからエフェクトでは、Lane1でTransient Shaperや、先ほどのLFOをアサインしたDistortion、Disperserを使ってアタック感を調整。Lane2でDelayとReverbを用いて空間を付与。Lane3でCompressorとDistortion(リミッター代わり)を使って音圧の調整をしています。

この手のワンノート系シーケンスはどうしてもアタックが消えがちなので、アタックを強調することのできるTransient ShaperやDisperser、Compressorなどをやや多めに使ってあげると、プリッ♥としたアタック感になりますよ!

▲動いてる動いてる

アイデア③ 鍾乳洞系パッド

マレット系のサンプルを使った鍾乳洞系(?)パッドの作り方です。サンプルは音高に比例した速度で再生されるので、当然、高い音ほど速く、低い音ほどゆっくりと進むことになります。これを利用すると、まるで鍾乳洞の至るところで雫が落ちているかのような効果を作り出すことができます。と説明しても伝わらないと思いますので、ぜひ作ってみてください。こんな感じ!

▲鍾乳洞サウンド、リバーブやディレイをかけてももちろん○

オシレータは、メインとして上段に[Factory]→[VSCO 2 CE]→[Mallet]の[Marimba(B5)]を読み込み、下段には薄いパッド成分として[Factory]→[Symplesound]→[Choirs]の[Classic Choir]を読み込んで、深くLPFをかけて使用しています。大事なのは上段のメインのオシレータなので、こちらに注目して説明していきます!

▲動作している様子、複雑に見えてそんなことはない(多分)

サンプルは中央(「SEMI CENT」という表示の上あたり)にスタート位置を設定して、途中から再生されるようにします。そして左端にループ開始部、右にループ終了部を配置。ループ終了部を、モジュレータのRandomで常に左右に動かすことで、完全に同一の部分ではループしない、少し自然でランダムな感じにします。このように設定することで、マレット系のサンプルがアタックからリリースまで何度も再生され、ひとつひとつのノートが遅いトレモロ(同音連打)のように聴こえるわけです。簡単に作れるうえに非常に効果的! 

加えてエフェクトでは、Ring Modを使って非線形倍音の味付けをしたり、Reverser(逆再生を重ねます。バッファの分遅れるので気をつけて)でフワフワした非現実的な音にしても美味しく頂けると思います。また、今回はインサートしていませんが、深いDelay/Reverbとの組み合わせも神秘的でおいしそうですね。どれもお好みでどうぞ!

アイデア④ DJがレコードを巻き戻す時のRewindサウンド

最後に一発ワザ。実際に録ったり、サンプルを探すより早いので、これはただの手抜きができる(でも使える)一発テクニックです。

▲キュルルルルル…が一発でできる

さて、これは何を読み込んだSampleかというと、サンプル集に入っているいわゆる「Construction Kits」などと呼ばれる、すでに曲として大体出来上がっているサンプルの“すべてのパートがミックスされている完成形のWAV”です。こういうデータって「見本」としての役割が強いのであまり使いどころがなかったり(だってもう曲として完成していますし……)することが多いのですが(少なくとも自分は使ったことがほぼ無いです!)。

この音源をおもむろにSampleに読み込んだ後、アイデア①のようにHARMONICを[×0]にします。その後、同様にSHIFTも[+0Hz]に。こうすると再生速度が完全に0(停止)となります。そこでモジュレータに、アタックが少し遅く(~25ms)、ディケイの長い(この設定では4.65s。調整しましょう)Envelopeを用意します。このEnvelopeをオシレータのSHIFTに[−50%]で設定すると……

▲巻き戻ってる!

このようにサンプルを巻き戻すことが可能! DJがレコードを巻き戻す時のいわゆる「キュルルルルルル!」という、Rewindサウンドが簡単に作れました。実はSHIFTの周波数はマイナスの値も設定することができ、マイナスの周波数は逆再生になります(プラスの周波数が順再生、ということはマイナスは逆再生ということですね)。ちなみに、1%あたり100Hzなので−50%だと−5,000Hzとなり、−50%は設定できる最低の値です。そのため豪快に巻き戻した「キュルルルルル!」というサウンドになるんですね。 

今回はすべてのパートがミックスされた音源でしたが、例えばドラムループだけならもう少しコシのないRewindにすることもできたり、あるいはこういった飛び道具的な使い方に限らず、汎用的にも使えます。加えてLOOPモードを[Reverse]に設定することで、もっと簡単に逆再生を作れたりもしますのでお試しあれ。

ちなみに、このように細かく調整すればベロシティやMIDI CCを使ってサンプルをスクラッチすることも不可能ではないですが、ここまでくると自分でコスって組み替えた方が早い気がします。もし本当に細かくスクラッチを作り込みたい、という方がいれば……。

▲スクラッチ、できないこともないです

まとめ

今回はSampleにフォーカスして紹介してみました。Phase Plant の多彩な機能、エフェクト、モジュレーションと組み合わせると思いも寄らない面白い使い方ができますので、ぜひ皆さんのサンプルフォルダの音源と組み合わせてみてくださいね。今回は取り上げませんでしたが、もちろん通常のサンプラーとしても非常に有用ですので、こちらもオススメ!

次回は、これまでに紹介したテクニックを使って実際に楽曲を作っていってみましょう! どこまで解説できるか今から中々ドキドキしていますが、可能な限り頑張ってみようと思います。お楽しみに!


かめりあ / Camellia / 大箭マサヤ(not カメリア)プロフィール

作曲家、編曲家、および作詞家。1992年生。2003年、弱冠10歳から母親のPCでDTMを始める。 電波ソングやポップミュージック、ロック・メタル、EDM、ハードコア、ジャズ、民族音楽、ラテンなどの広い音楽ジャンルを制作、 インスト・歌ものを問わず、クラブミュージック、VOCALOID楽曲、東方アレンジ、リミックス、ゲームBGM等を広範囲に手がける。音楽ゲーム「SOUND VOLTEX」で行われた公募にて楽曲を複数曲収録され、とくに同ゲーム内で行われたKAC(KONAMI Arcade Championship)2013オリジナル楽曲コンテストでは最優秀賞を獲得。またbeatmania IIDXシリーズなどで活躍するクリエイターが多数所属している「beatnation RHYZE」にメンバーとして参加し、REFLEC BEATシリーズやBeatmania IIDXシリーズ、jubeatシリーズ等に楽曲を提供している。2014~17年には上記beatnation RHYZEのメンバーとして、さいたまスーパーアリーナ、ZEPP Divercity、豊洲PIT等にてDJ出演を行った。2016年には人気ボーカリストkradnessとのユニット「Quarks」を結成、5月にはワンマンライブを行うなど活動の幅を広げつつ、 7月には自身初となるメジャーソロアルバム「MEGANTO METEOR」をリリース。2017年には継続してBEMANIシリーズに楽曲提供を行いながら、「プリパラ」シリーズの楽曲のリミックス提供を行った。男性ボーカロイド「VY2V3」公式デモソングの制作、「蒼姫ラピス生誕祭」でのDJ出演、「初音ミクのミクミクメイクミク」にてED楽曲を提供するなど、ボカロPとしても活動が多く、 VOCALOID楽曲としては「システマティック・ラヴ」「Fly to night, tonight」「ココロの質量」など、エレクトロ~ダブステップ系の楽曲を主に投稿し人気となっている。

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