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Kilohearts : 創造性無限シンセ phase plant ビギナーズガイド by かめりあ(3)ベース編

作曲家のかめりあ氏が、愛用のモジュラーシンセ・プラグイン「phase plant」の使いこなし方を紹介する連載コーナー。今回はベースドロップで使えるベースサウンドの作り方を解説します。

第3回 変調大好き!ベースドロップで使えるベースサウンドの作り方


こんにちは! かめりあです。だんだん私が誰か覚えてきてくださいましたでしょうか。次回は「だ~れだ!」(目隠しするやつ)から始めようと思います。

今回も前回、前々回に引き続き、Kilohearts phase plant の使い方を紹介していきます。前々回の「ゲームボーイサウンド」、前回の「エフェクト紹介&実際の使い方」からさらに一歩進んで、今回は『変調大好き! ベースドロップで使えるベースサウンド』を作ってみましょう! ぜひ、サブウーファー強め、ボリューム大きめでお楽しみください。

目次

変調について

まず前回、前々回で紹介していなかった機能として、phase plant には「FM/AM/PM」という変調機能が付いています。それぞれFrequency(周波数)/Amplitude(振幅)/Phase(位相)と Modulation(変調)を組み合わせた言葉の略です。特にこの中ではPMが一番使いやすく、過激なサウンドを生み出しやすいです(「FMじゃないの?」という疑問はもちろんあると思いますが、位相を変調するのと周波数を変調するのはある意味で兄弟関係だったりして、まぁ色々あるので、結論からは「phase plant 上だとPMの方が便利」と思っておいてください)。今回はそのPMや、その他の色々なエフェクトテクニックを使ってベースサウンドを作っていきますので、しっかり覚えていってくださいね!

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▲下のオシレータの出力を使って、上のオシレータのPHASEを変調している様子。AM、PMなどの変調は緑色の表示になる

音色1. まずはグロウルサウンド

■オシレータ

「オシレータから出てくる波形がすべてを決める!」と言っても過言ではないので、ここでは作り込みをしっかりやっていきます! まず、実際に音を出す「本体」となるオシレータは一番上のWavetableで、音色は[Spectral]→[Harmonic Blend]を使用しています(図中A)。グロウル系のベースでは、本体のオシレータの倍音が多いほどキレイな汚い(?)グロウルを出しやすいので、倍音に富んでいて派手なオシレータを選ぶと吉です。

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▲これがオシレータ部。見切れているが一番下にはDistortionが挿さっている

その下の2つはモジュレーション用のオシレータ。音色は上から[Modulators]→[Bend Soft](図中B)と、[Synth]→[Waves](図中C)を選びました。Bend Softやサイン波などのキレイな曲線を描いているWavetableを、本体のオシレータと同じピッチ、あるいはサブベースと同じピッチで出し、PHASEを変調するのが、良いグロウルを作るコツ! こうすると本体のオシレータに含まれる倍音部分が「圧縮」されて、ゴリゴリブリブリとした音が産まれます(表現が難しい)。さらに、Waves(3段目のオシレータ)でBend SoftとHarmonic BlendをちょっとずつPMしてあげることで、汚れた感じを付加しています。

■サブベース

大体のベースサウンドは、「サブベース」と呼ばれる純粋な正弦波か多少倍音を含んだ(あるいは多少歪んだ)正弦波などを、ベースの周波数で同時に鳴らし、しっかりと芯のある、それでいてベースの帯域(30~80Hzくらいですかね?)がキレイなサウンドを得るテクニックを使っています。ただ、これから紹介するエフェクト群や、場合によってはHPF(ハイパスフィルタ=低音を除去するフィルタ)さえもかけている中にサブベースを通すと、その利点が失われてしまうため、サブベースだけはバイパスさせて別ルートで発音させる場合が多いです。

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▲サブベースのGroupは、右下の[Send to]からLANE 3(最終レーン)に直接飛ばすと便利

そこで、今回は上の図のように、サブベースのGroupを[Send to](送り先を選択できる箇所)からLANE 3に直接バイパスします。こうすることでサブベースがキレイに発音されて、より良いベースサウンドが得られるのです! サブベース以外にも、LANEには色々な使い道がありますので活用してみましょう。例えば、いくつかの別の音を出して、別々にエフェクトしたりなど、色々。

■エフェクト

そしてエフェクトです。オシレータ部で基本になる音を発生させ、エフェクト部で調整したり味付けをしていく流れになります。それプラス、必要であれば phase plant 後でもエフェクトしていくことになりますが(みんな大好きOTTやSausage Fattenerなど!)、そちらはブログの趣旨と外れてしまうのでまた機会があれば! あるいはググってください! よしなに!

さて、まずはLane 1!(図中A) Disperserで波形を歪ませつつ、アタック部分を鋭くし(非常に強いコンプレッション下だとアタックが持ち上がってピュンピュンした音になる)、DistortionとFilterで軽く音作り。結構歪ませながら音を作っていきますが、歪ませれば歪ませるほど音のシンプルさやキレイさが失われていきますので注意して!

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▲エフェクト部。Lane 2にはPhaserもかかっている

Lane 2では多数のFilterを使ってフォルマント部分を作ります。フォルマントとは、ザックリ言うと「音程に関わらず強調される周波数帯域」のことで、これをフィルタで組み立てていくとグロウルサウンドの「喋っている感じ」を作ることが可能です。自分の場合はフィルタを大体2段から3段くらい、今回はノッチ系@770Hz(図中B)、バンドブースト系@80Hz(図中C)、バンドブースト系@320Hz(図中D)の順番でかけています。これらはEnvelopeやMacroなどを使って周波数(Cutoff)を多少上下させられるようにしておくと◎! なぜならドロップ中にベースに喋っていてもらえると楽しいですからね。

なお、上の図には映っていませんが、Lane2にはこれらに加えて、Depthを[0]にしてまったく動かなくしたPhaserをかけることで、さらに複雑なフィルタ感/フォルマントを作っています。これも先ほどのフィルタ同様、少しだけ動かしてあげると◎!

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▲こんな感じで動かす

最後にLane 3で、「multipass」というマルチバンド・エフェクトラックを使用したマルチバンドコンプで音質を整え、非常に短いディレイとリバーブで少し空間を足してあげることでグロウル完成! この手の1から作ったベースサウンドは音質がまばらになりがちなので、こういう形であらかじめハイやローの出方を均しておくと使いやすいですね。

ちなみに、リバーブのMixにはエンベロープをアサインしておいて、リリースが不必要に長くならないようにコントロールしてあげるとさらに使いやすいですよ!

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▲Lane 3にはマルチバンドコンプ、超ショートタイムディレイ、 味付け用リバーブが挿さっている
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▲マルチバンドコンプ(multipass)の中身はこんな感じ! コンプがいっぱい

音色2. デチューンが効いた少しシンセっぽいベースサウンド

■オシレータ

まずオシレータです。今回は被変調側に[Growls]→[Twitter](図中A)、変調側に[Growls]→[Gross](図中B)の根元のあたりを使っています。少し遅めのアタック感を得るために、どちらもちょっとアタックを遅めに設定しています(図中C。それぞれ15ms、100msほど)。このようにOutを設定したうえで[Send to](出力)を[None]にすれば、エンベロープのかかったサウンドで変調することも可能なので覚えておくとグッド! どちらも少し倍音多めのサウンドで組み合わせると、こういったシンセっぽいサウンドが生まれやすい! エンベロープで少しだけFrameを動かして、ベースサウンドの動く感じ、音が変わる感じをこの段階で作っていきます(図中D)。

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▲オシレータは割とシンプル。Unisonを使うと音が増える!(図中E)

今回のベースサウンドのキモは、変調側のオシレータを2オクターブ(+24半音)上げていることです(図中F)。Harmonicのパラメータを[x4.00]にしてもおkですよ! こうすると高い位置に倍音の基軸のようなものが生まれて、気持ち良い音になります。たぶん。

■エフェクト

今回は、前回の記事でも紹介したNonlinear Filterを使って、フィルタリングをしてみようと思います。どちらかというとオシレータ部の動きが大きいので、エフェクト部のフィルタリングなどは控えめ。このNonlinear Filterがメインのレゾナンス部分となります。さっきのグロウルの方は味付けで料理を作っていくタイプでしたが、こっちは素材の味で勝負みたいな感じですかね(?)。

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▲Lane1は主に歪みやショートディレイでベースになる音作り。Ping-PongをONにしてもオッケー

例えば、VelocityをこのフィルタのCutoffに設定したりすれば、ベロシティによってフォルマントの高さが変わるサウンドにできたりしますよ! 便利!

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▲VelocityとNonlinear Filterの連携が便利

この手の、ややシンセティックで金属的なベースサウンドは、レゾナンスが命! ショートディレイをさらに2段重ねつつ、HPFを使ってローを少しキレイにしていきます。例えば、Kiloheartsのエフェクトであれば、ResonatorやPhase Distortionなんかも高域をブーストするのに使えますので、この段階でインサートしていくのもアリかもしれません(最終的にはあなた次第です!)。

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▲少し見にくいが、Lane2はDelay × 2とHPF、軽いDistortionで馴染ませている

このようにショートディレイを重ねていくと、不規則で金属質なフィードバックが得られますが、次第に音がボヤけてリリースが不自然に長くなってしまう傾向にあります。もし、この段階でリリースを切ってしまいたい場合は、エンベロープで切ってあげるといいと思いますよ!

ちなみに、Lane3はほぼグロウルサウンド同様、マルチバンドコンプ、ショートディレイ、軽いリバーブの3種類です。このように最終的な仕上げ(それからサブベースも同様の感じです)を統一することで、仕上がりを均すことができるという意味であって、決して手抜きではないですよ!(大声)


音色3. LFOで全部駆動しちゃうタイプのサウンド

■オシレータ

phase plant ではLFOを自在に書けるということを活かして、1個のLFOで全部を動かすことが可能です。加えてLFOの個数やエンベロープの個数にも制限が無い(あるかもですが自分はたどり着いたことがありません。もしご存知の方がいたら教えてください)ので、いろんなLFOを作り放題! 今回は付点8分のリズムで動くLFOを活かして、LFOで動くベースサウンドを作ってみます。

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▲オシレータはこんな感じで3種。それぞれメイン、PM用、それから超高域用(×30! 高い)

オシレータはこのように3種を読み込みました。上からメイン(Spectral → Spectrosub 1/図中A)、PM用(Sweeps → Static/図中B)、それから他の2種のAMを行う超高域用オシレータ(Evolving → Melancholy/図中C)の3種です。HARMONICが[×30.000]というと、ほとんど5オクターブ近く上ですね(図中D)。すごく高いということだ!

ちなみに、PM用の2個目のオシレータのように、周波数をややズラす(HARMONICが[×2.073]になっていますよね)ことでデチューン感のあるサウンドを生み出すことが可能です!(図中E) やり過ぎるとノイズになっちゃうのでお気をつけて!

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▲LFOで全部動いてる様子。これがコンピュータ制御

今回はこの1台のLFO(左下)を使って色々動かしていきます! 具体的にはオシレータのゲイン、デチューン、エフェクトのDrive、ChorusのRate+Mix、FaturatorのDrive+Fuzzなどなど。ちなみにLFOの速度、分母&分子(!)にもMacroやエンベロープをアサインできるので、例えばMacroが上がっている間は8分音符になったり16分音符になったり、みたいなこともできます。ここまできたら横着せずにMIDIノートを置けって感じですね。その通りです。できるのが凄いという話であって……! ね……!

なお、2つ目のLFO(中央)はメインのLFOと同じ速度で動いていますが、こちらはMaster Pitchにアサインして一瞬ピッチをウネらせる用にしています。なので、ちょっと形が違うということです!

■エフェクト

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▲エフェクトはこんな感じ。いっぱいある

エフェクトはこんな感じでやや多めです。Lane 1ではDistortionやFaturatorの他に、ChorusやEnsembleを使ってさらにリッチでデチューン感のあるサウンドを生み出しつつ、LFOを使ってメリハリを付けていくという戦略をとっています。Lane 2は今まで同様、ショートタイムディレイでレゾナンス成分を付け足しつつ、質感の調整を行って最終段に送り出す役目としています。この段は多少Mixを下げてエフェクトのかかり具合を調整することも可能だったりしますね。最終段は今まで通りですね(なじませ用にDistortionが増えていますが)。


ということでした

そんな感じで自分流のベースサウンドの作り方をお伝えしてきました! 画面だけでは伝わりにくいところもあると思いますが(DTMって文字で伝えるのは難しいですよね……)、サブベースの出し方やエフェクトのルーティング、変調の使い方など伝えられていたら良かった~となります。もちろん一度、WAVファイルなどにレンダリングして、Sampleで読み込み直したりするのも有効ですので、ぜひ色々試してみてください(ぶん投げ)!

次回、第4回はこれまでヘヴィに使い倒してきたWavetableを離れ、サンプルを使った個性的なサウンドの作り方を紹介していこうと思います! お楽しみに!


かめりあ / Camellia / 大箭マサヤ (not カメリア)

作曲家、編曲家、および作詞家。1992年生。2003年、弱冠10歳から母親のPCでDTMを始める。 電波ソングやポップミュージック、ロック・メタル、EDM、ハードコア、ジャズ、民族音楽、ラテンなどの広い音楽ジャンルを制作、 インスト・歌ものを問わず、クラブミュージック、VOCALOID楽曲、東方アレンジ、リミックス、ゲームBGM等を広範囲に手がける。音楽ゲーム「SOUND VOLTEX」で行われた公募にて楽曲を複数曲収録され、とくに同ゲーム内で行われたKAC(KONAMI Arcade Championship)2013オリジナル楽曲コンテストでは最優秀賞を獲得。またbeatmania IIDXシリーズなどで活躍するクリエイターが多数所属している「beatnation RHYZE」にメンバーとして参加し、REFLEC BEATシリーズやBeatmania IIDXシリーズ、jubeatシリーズ等に楽曲を提供している。2014~17年には上記beatnation RHYZEのメンバーとして、さいたまスーパーアリーナ、ZEPP Divercity、豊洲PIT等にてDJ出演を行った。2016年には人気ボーカリストkradnessとのユニット「Quarks」を結成、5月にはワンマンライブを行うなど活動の幅を広げつつ、 7月には自身初となるメジャーソロアルバム「MEGANTO METEOR」をリリース。2017年には継続してBEMANIシリーズに楽曲提供を行いながら、「プリパラ」シリーズの楽曲のリミックス提供を行った。男性ボーカロイド「VY2V3」公式デモソングの制作、「蒼姫ラピス生誕祭」でのDJ出演、「初音ミクのミクミクメイクミク」にてED楽曲を提供するなど、ボカロPとしても活動が多く、 VOCALOID楽曲としては「システマティック・ラヴ」「Fly to night, tonight」「ココロの質量」など、エレクトロ~ダブステップ系の楽曲を主に投稿し人気となっている。

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