88鍵のスリムなMIDIキーボード
筆者は、この Impact LX88+ を使い始めて、そろそろ3年が経ちます。
当時、デスクの下に置いて引き出して使える88鍵の鍵盤を探していたのですが、鍵盤用のスタンドからデスクの天板までの隙間が12cmしかなく、なかなかそのスペースに合う鍵盤が無かったんですよね。でも、この Impact LX88+(以下LX88+)は、高さが8.9cmの薄さで、奥行きは27.9cm、重量も8.2kgと非常に軽いという、今までの88鍵ではとても考えられないスペックでした。「うちにピッタリ! というか、むしろ余裕がある!?」って感じだったので、発売直後に楽器店へ走って鍵盤のタッチを確認して、すぐに購入しました。それ以来、ずっとメイン鍵盤として使っています。
■打鍵音が静かなしっかりした鍵盤
LX88+ の鍵盤は、ハンマーアクション的な重い鍵盤ではなく、オルガンやシンセに近い重さで、程良いストロークもありながら、打鍵音が本当に静かです。鍵盤がハネ過ぎることも、弾いた時のカチッていうイヤな音もなく、ベロシティも素直に出るので、とても弾きやすいタッチです。見た目がハンマーアクション鍵盤のようなボックスタイプなので、実際に弾いてみると、とてもビックリするかもしれません。この辺は、好みの分かれるところだとは思います。
筆者は打鍵が強いので、重い鍵盤だと腱鞘炎気味になっていたのですが、LX88+ にしてからは腱鞘炎にほぼならなくなり、グリッサンドをして指の皮がめくれることもなくなりました。
ちなみに、同じ Impact シリーズの LX25+/49+/61+ とは全然違う鍵盤です。LX88+ の方がより重く、しっかりした鍵盤です。
■丁度いい位置にあるトランスポーズとレイヤー/スプリット
左上にある適度に重いピッチベンドとモジュレーションホイールの右隣に、トランスポーズボタンがあるのもとても助かります。楽曲を制作していく過程で、キーが変わることが沢山あるので、左手でポンと押せる、丁度いいところにトランスポーズボタンがあるのがいいですよね。さらに、トランスポーズボタンを両方同時に押すと、オクターブシフトやMIDIプログラムチェンジ、MIDIチャンネル変更、LX88+ 本体のプリセット変更など、トランスポーズボタン自体の機能を置き換えることが可能です。
トランスポーズボタンの上には、他の Impact LX シリーズには無い LX88+ 独自の機能として、「Layer」と「Split」のボタンがあります。Layerは、グローバルMIDIチャンネル(デフォルトは1)の他に、MIDIチャンネル2を有効にして、2つの音源を同時に演奏するモード。Splitは、F#2(変更可能)を起点に任意のMIDIチャンネルを割り当てて、鍵盤の高い方と低い方で違う音色を演奏するモードです。
どちらもMIDIチャンネルを同時に2チャンネル分演奏できます。楽曲制作だけでなく、ライブ演奏でも威力を発揮する機能ですね。
なお、ほぼすべての設定は Impact LX88+ 本体のみで行い、本体内に5つまで保存できます。逐一パソコンからアプリケーションを立ち上げなくても良いところも魅力です。
■スイッチとしても使える8つのドラムパッド
右側にある8つのパッドは、タッチが少し固めで、ベロシティがしっかり出せます。「Pad Learn」という機能があり、パッドを選んだ後に鍵盤を弾くだけで、パッドに割り当てる音程を簡単に決められるのが嬉しいです。また、ドラムだけでなく、音源のキースイッチやプログラムチェンジ、コントロールチェンジ、DAWによってはClipやSceneなども割り当てて、それぞれのスイッチとして使うこともでき、汎用性は抜群です。さらに、このPad Map設定は4つまで保存できるので、筆者はドラムに2つ、コントロールチェンジに1つ、キースイッチに1つ使用しています。
■Nektar DAWインテグレーション
対応している各DAWに、専用のインテグレーションファイルをインストールすることで、コントローラーの割り当てがスムーズに完了します。
「Mixer」モードでは再生・録音などのトランスポートボタンや、ミキサー用のフェーダーなどがDAWと連携し、同時に8チャンネル分の操作ができます。フェーダーオートメーションを書いたり、PANをノブでコントロールしたり、ボタンでミュートしたりと、一般的なDAW操作を行えます。
パソコンのキーボードに触れることなく、手元でコントロールできるのがいいところですが、筆者が一番使うのは、Recするトラックを選ぶ「Track」ボタンかなと思います。何トラックも重ねる場合など、弾きたい部分をループさせたまま、このボタンでどんどん次のトラックへRecしていきます。その間、鍵盤から手がほとんど離れなくていいのは助かりますね。
あとは、フェーダーオートメーションも良く使います。このフェーダー、きちんと重めなんですよね。フェーダー操作をする場合、目的のフェーダーがあるトラックまで移動するには、Shift + BANKを押して8チャンネルずつ切り替えていきます。
面白いのが「ドローバーモード」という、オルガン音源のドローバー操作用のモードがあること。9本のフェーダーのMIDIコントロールチェンジ・パラメーターが逆転し、下げた時が最大になる機能です。対応したオルガン音源を持ってないので、あまり使う機会がないのですが、覚えておきたい機能ですね。
さらに、トランスポート周りのボタンは、きちんとクリック感がある。そんなところも気に入っているポイントです。
「Inst」モードは、Nektarマップシステムにより、プラグインの操作がノブやフェーダーに自動で割り当てられる、とても便利な機能です。ただ、DAWごとに機能の仕方が違うようなので、自身の使っているDAW用のインテグレーションファイルのインストーラーに入っているpdfを開いて、機能の確認をしてください。
近年は、ほとんどのプラグインでMIDI Learnが使えるようになってきているので、筆者は「Preset」モードのまま、汎用MIDIコントローラーとして使って、「Mixer」と「Preset」を切り替えながら作業しています。
「Preset」モードを含む、自分が設定した本体のユーザープリセットをバックアップするには、Memoru Dump機能を使用して、MIDIでシステムエクスクルーシブ(SysEx)を送ります。対応DAWや専用アプリで、カスタマイズした設定を管理しましょう。
■バンドルソフト「UVI Digital Synsations」との連携
LX88+ には UVI Digital Synsations という4種類のソフト音源(DSX、DS1、DS77、DS90s)がバンドルされています。これは日本独自のバンドルで、80年代後期~90年代初頭のシンセサイザーの名機であるEnsoniq VFX、KORG M1、YAMAHA TG77、Roland D-50の計4台で新規にプリセットを作成し、その出音の質感をそのままに丁寧にサンプリングして、さらにUVIエンジンで味付けをしたものです。無料ソフトの UVI Workstation 上に読み込んで使用するか、もしくはUVIのフラグシップシンセ Falcon でも読み込めます。
ちなみに、90年代の特徴的なシンセである、KAWAI K5000S、Roland JD800/990、Ensoniq FIZMOの3台で独自に音色を作成した Digital Synsations Vol. 2 も発売されています。
UVI Digital Synsations を使う場合、LX88+ ではPresetモードで使うといいと思います。UVI Workstation も Falcon も、ほぼすべての機能がMIDI Learnに対応しています。プラグイン上のエディットしたいパラメーター上で、optionキーを押しながらクリックするとMIDI Learnが表示されます。そこで LX88+ で動かしたいフェーダーやノブをコントロールするだけで登録が完了です。もちろん、自分でMIDIコントロールチェンジの番号を入れたり、DAWのトラック上でオートメーションを書くこともできるので、好きな方法で音色のエディットやオートメーションをしてみてください。
筆者の場合、フィルターのカットオフやレゾナンス、エンベロープをノブにアサインして、オートメーションすることが多いです。
■最後に
Impact LX88+ は見た目はシンプルでスッキリしていますが、トランスポーズやトランスポート、各フェーダーやノブ、クリック感のあるスイッチなど、インターフェイスがものすごく考えられている、とても良い印象の鍵盤です。88鍵なのに本体がとても軽く、持ち運ぶのも本当にラクです。非常に買いやすい価格も魅力的。また、MIDIアウトが1つ付いているので、1アウトのMIDIインターフェイスとしても機能します。鍵盤から直接MIDIアウトへ信号を流すことも可能なので、使い勝手はさらに広がるでしょう。
写真:桧川泰治
山木隆一郎
安室奈美恵、鈴木愛理、東方神起、あんさんぶるスターズ!(Knights)、西野カナ、藤井フミヤ、KAT-TUN、SMAP、EXILE、三浦大知、BoAなど数多くのプロデュース、作曲、アレンジ、Remixを手掛ける日本R&B界の鬼才。主に、R&B、Hip Hop、FUNK、Electroなどを中核にしたClub/Dance系を得意とし、近年はジャンルを超えた作品も多数制作。日本人離れした鋭角なサウンドやグルーヴ、職人気質なプロデュースワークは、国内外のメジャーシーン、インディーズシーン問わず高く評価されている。自身を中心に構成されたユニット「RYPPHYPE」では、Vocalとシンセを担当。