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Townsend Labs : 素晴らしい録音を行うための5つのステレオマイク・テクニック

By Dr. Mike Metlay | May 18, 2020

多くの人は、音楽をステレオで聴くことが当たり前だと思っています。人間には耳が2つあり、ステレオプレーヤーにはスピーカーが2つあるからです。何十年もの間、音楽はステレオでリリースされ、再生されてきましたが、ステレオでうまく録音を行うことは決して簡単ではありません。エンジニアが信頼性の高いステレオ録音の方法を編み出すまでには、長い年月がかかりました。ここでは、素晴らしい録音を行うための5つのステレオマイク・テクニックについて説明します。

  1. マイクの間隔を空けて設置する方法(AB方式)
  2. 同じ場所にペアのマイクを設置する方法(XY方式/ブルームライン方式)
  3. Mid/Side 方式(MS、M/S、M-S 等と表記)
  4. 近い場所にペアのマイクを設置する方法(ORTF方式/NOS方式)
  5. Sphere L22 マイクによる同位置での録音

どの方法で始めるべきかについても触れていきますが、必ずしもそれが正解とは限りません。人間の耳のことを少し知っておけば、選択がしやすくなるでしょう。

人間の聴き方とマイクの聴き方

私たちの耳と脳は、音の定位を判断するために、複雑な双方向型システムを形成しています - 一見無関係と思える情報を効果的に利用するように進化してきたのです。例えば耳介(外耳の肉の多い部分)は、音声が外耳道を伝わっていく過程に影響を与え、その独特な形状が、左右だけでなく、上下や前後における音の配置を決定付けます。

音声は、片方の耳にはダイレクトに届きますが、もう一方の耳に届くためには頭の周りを通過しなければなりません。脳はこれらの異なる音色を相関させ、音源の正確な定位を判断します。この特性を「頭部伝達関数(HRTF)」と呼びます。

耳が扱う主な3つの要素は、「音量」、「音源からの距離」、「位相」の違いです。音の大きさはかなり明確で、音源が左にある場合、左耳の方が右耳よりも大きく聴こえます。同様に、音源からの距離も分かりやすいでしょう。左からの音は、右耳に届く前に左耳に届きます。そしてその時間差は、耳に届く音波の位相にも違いをもたらします。これがステレオマイキングを語る上で非常に重要になります。

マイクは耳とは違うため、人間が持つ聴覚系の重要な物理的特性を何も持っていません。どの方向に対して、最も敏感に「聴く」のかを決める指向性は備えていますが、そこから定位を判断することはできません。ステレオのイメージを得るには、人間の聴覚体験の一部を模倣するような形で、マイクをセッティングしなければならないのです。

素晴らしい録音を行うための5つのステレオマイク・テクニック

ここでは、最も一般的なステレオのマイキング・テクニックをいくつか紹介します。以下の図を参照してください。すべてがマイクを上から見下ろした図で、左チャンネルを緑、右チャンネルを黄色で示しています。

マイクの間隔を空けて設置する方法(AB方式): マイクを2本立てるだけ

最もわかりやすいステレオマイクのセッティングは、2本のマイクを間隔を空けて設置する AB 方式です(図1)。2本のマイク(たいていはオムニ)をある程度離して設置し、その音量と距離の違いによってステレオ情報を伝えます。ドラムキットやグランドピアノのような、比較的大きな音源を録る場合によく使われることでしょう。オーケストラや合唱団のようなワイドな音源に対しては、この AB 方式だけが有効です。後述する他のステレオテクニックと比較すると、最も広く、劇的なステレオイメージとなります。

図1 : AB

ただし、この方法には2つの潜在的な問題があります。1つは、マイク間の距離によって音波の到達時間が異なるために位相差が生じ、音像を狭くしたりモノラルにミックスした場合に、音質が大きく損なわれる可能性があることです。これを軽減するには「3 to 1(3対1)ルール」を使用します。これは、2本のマイク間の距離をいずれかのマイクから音源までの距離の3倍以上にすることで、位相の問題を最小限に抑えるというものです。場所などの都合によって、常に実用的または可能であるとは限りませんが、お試しください。

AB方式のもう1つの問題は、マイク間の距離が非常に大きい場合、ステレオイメージが過度に引き伸ばされ、センターに何も音がないよう感じることです。想像してみてください、誰もいないステージの両サイドから、聖歌隊の歌声が2つの塊として聴こえるとしたら - いかがでしょうか?唯一の対処法は、それぞれのマイクを近づける、あるいはソースから離したりしてみることです。

以下の動画は、短いピアノ演奏をマイクの間隔を空け収録したものです。ワイドなステレオイメージが、曲を引き立てる豊かなサウンドを生み出していることに注目してください :

同一の場所にペアのマイクを設置する方法(XY方式/ブルームライン方式)

AB方式に対して、同位置にマイクをセットする方法(図2 : XY方式)もあります。2つのカーディオイドマイクを可能な限り近づけて、一方を他方の上に重ね、それらのダイアフラムを同じ位置に配します。通常、角度は90度で、左のマイクが右チャンネルを収音するようにします。

図2 : XY

XY 方式は、ほぼ音量差のみに依存します。音がマイクに届くまでの時間は等しく、位相差が最小限に抑えられるためです。結果、明瞭で定位感に優れたサウンドが得られますが、全体にはやや「狭い」印象となるでしょう(これは悪いことではありません。非常に広いステレオの音像は、ときに非現実的に聴こえる可能性があります。AB方式にありがちな問題ですね)。

ブルームライン方式(図3)は、 XY方式と同じ配置となりますが、カーディオイドではなくフィギュア8のマイクを使用します。これによりマイクの背後から位相のズレた情報が捉えられ、広々とした臨場感が加わります。

図3 : ブルームライン

初心者の方には、これらの方法をお勧めします。幅広い場面で有用で、失敗する率も低いでしょう。ステレオでマイクをセッティングする際には、経験豊富なレコーディングエンジニアでさえも、逆相によって音が打ち消されないよう細心の注意を払っています。逆相になってしまうと、広大なはずの音像が、薄っぺらで、弱々しく、へこんだように聴こえてしまいますが、同位置にマイクを配置することで、この問題を完全に回避することができます。また、1本のマイクスタンドで設置が済むため、狭いスタジオでの使用にも適しています。多くのポータブル・フィールド・レコーダーには、XY方式のマイクが内蔵されていますよね。

Townsend Labs の Sphere L22 マイクロフォンは、同位置でのステレオ録音に最適です。レコーディングセッションが終わってからでも指向性等を調整できるだけでなく、Sphere 180 プラグインを使用することで、他のマイクにはないさまざまなオプションを利用できます。これについてはあとでご紹介します。

Mid/Side方式

近年非常に人気の高いテクニックのひとつとして、Mid/Side 方式(M/S)があります。図4で示すとおり、Mid は音源を狙うカーディオイド・マイク、Side は側面を狙う8の字型マイクです。

図4 : Mid/Side (MS)

サイドマイクからの信号を2つに分割してミキサーのチャンネルへ送り、一方を反転させると、ミックスでステレオ幅を調整できるようになるため、非常にワイドなステレオの音像から完璧なモノラルに至るまで、位相問題を気にせずに音創りが行えます。最近では、M/S処理を標準で行えるプラグインも出てきていますので、DAWでこのテクニックを簡単に試せるようになっています。例えば、Goodhertz 社が提供する無料の Midside Matrix プラグイン*もその1つです。

*より深くM/Sの世界をお楽しみいただける上位バージョン、Midside(有料)もございます。

経験上、Mid/Side方式は、ドラムルームやアコースティックギターなどの弦楽器との相性が良いと思います。

近い場所にペアのマイクを設置する方法(ORTF方式/NOS方式)

もうひとつのテクニックは、かなり近い位置にステレオマイクをセットする方法で、一般的に、フランス公共放送(図5 a)の頭字語である ORTF 方式、またはオランダ公共放送(図5 b)にちなんで NOS 方式と呼ばれているものです。これらはマイクの距離と角度がわずかに異なります - ORTF方式では、カーディオイドマイクが110度の角度で外側に向けて17cm(6.7インチ)離され、NOS方式では90度、30cm(12インチ)離されます。一部のステレオ・フィールド・レコーダーの中には、この方式をミニサイズで模倣しているものがあります。

図5a : ORTF
図5b : NOS

ラジオ放送局がこのセッティングを開発したのは、音量感とステレオ感の両方が得られるからです。さらに、マイクの相対的な位置を微調整して、ベストな位相特性を得ることも可能です(簡単ではありませんが)。結果、リアルなステレオイメージが得られますが、正確な音を得るにはいくつかの初期設定が必要となります。1つのスタンドに2本のマイクを同時に取り付けられるステレオバーとポジショナーには、角度と距離が記されていることが多く、最終的な調整は耳を頼りに行われます。ピアノや小さなアンサンブル、パーカッション等を録る場合には、ORTF方式から始めてみるといいでしょう。

Sphere 180 : 1本のマイクが2本のマイクとして機能する

デュアルカプセルの Sphere L22 マイクロフォンと Sphere 180 プラグインの登場により、ユニークかつ簡単にステレオマイキングが行えるようになりました。Sphere 180 プラグインを使えば、L22 からの信号は、「同位置に置かれた異なる出力を持つ2本のマイク」として処理されます。マイクを90度回転させて音源と直角に配置するだけで、位相に優れた音声を左右から収録できるのです。このテクニックはXY方式に似ていますが、マイク間の角度が180度であるため、非常に自然なサウンドを保ちながら、XY方式よりも広い音像を作れます。素早く簡単にセッティングができるうえに、従来のステレオマイキングに劣らぬ、素晴らしい結果が得られます。

Sphere 180 プラグインのおかげで、このテクニックには多くの余地があります。指向性を操作してステレオの中心や幅を調整したり、必要に応じて両サイドを異なるマイクモデルに設定することもできます - 例えば、アコースティックギターの音像バランスを調整するのに最適でしょう。

以下は、従来のステレオマイク録音と Sphere 180 を比較した動画です :

Sphere システムでは、1本のマイクを1ペアのマイクとしても扱え、レコーディングが終わってミュージシャンが帰宅した後でも、好みに合わせて調整することが可能です。ぜひ、以下のリンクよりダウンロード可能な無料の Sphere プラグインと録音済みのトラックを使って、Sphere 180 の独自の可能性を探ってみてください。

1本の L22 マイクロフォンに対して Sphere 180 を1つ起動し使っていくのが最も簡単な方法ですが、1本のマイクの信号を並列で起動した Sphere プラグインに送り、その内1つのリバースボタンを押せば、同様の効果が得られ、より細かな調整が行えます。それだけでなく、2本の L22 でこのテクニックを行うと、M/S方式およびブルームライン方式、マルチチャンネル・サラウンドまで、あらゆるものに対応できます。

5つのステレオマイク・テクニック : 素晴らしいスタートです!

どのマイクを持っていても、ステレオマイキングの基礎知識は不可欠です。ここで紹介した5つのテクニックは、素晴らしい録音を行うための出発点であり、あなたのマイクテクニックを成長させるための基礎として役立つでしょう。

Sphereを使えば、次のことが実現します :

  • 多くの人が夢見るマイクでレコーディング
  • トラッキング後でもマイクの種類、指向性、その他の特性を変更可能
  • ボーカルを飽きさせることなくさまざまなマイクをオーディション可能
  • Off-Axis Correction™ を使用して、音のにじみや、不要な部屋の反響、その他のありがちな問題を軽減
  • 1本のマイクでステレオレコーディング

主要なプラットフォームとDAW用に用意された、フル機能が使える Sphere プラグイン(無料)をインストールしてみてください。そして、録音済みのトラックについて再考してみましょう。

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