主要なツアーやコンサート会場、そしてジョージア州アトランタのマウント・ベテル教会のような大規模な礼拝所では、ワークフローを合理化し、ステージの乱雑さを減らし、信頼性を高めるために Dante® を活用しています。
Dante がFOHミキシングをどのように変革しているのか、そして、それが世界中のライブオーディオのプロフェッショナルにとって、なぜ頼れるソリューションとなっているのかについて説明します。
Dante とは? FOHミキシングにおいてどう機能するのか?
Dante(Digital Audio Network Through Ethernet)は、Audinate 社が開発したAudio-over-IPネットワーク・プロトコルです。標準のイーサネット・ネットワークを介して、非圧縮かつ低レイテンシーのデジタルオーディオを複数チャンネル伝送することを可能にします。
デジタルミキサー、オーディオインターフェイス、 Apollo x16D などのリアルタイムプロセッサ、スピーカー、その他のオーディオ機器などの Dante 対応デバイスは、ネットワーク経由で高品質のオーディオ信号を送受信できるため、従来のアナログケーブルは不要になります。

Dante では、オーディオ信号は標準のイーサネット接続を介して伝送され、ネットワーク上の各デバイスは互いにシームレスに通信します。このセットアップにより、小規模な会場から大規模なホテルの会議室まで、あらゆる場所で使用できる柔軟で拡張性の高いシステムが構築され、ネットワークの信頼性も十分に確保されます。
配線の簡素化により高速、安価、柔軟なセットアップを実現
FOHミキシングにおける Dante の主なメリットのひとつは、配線の削減です。従来のアナログセットアップでは、マイク、ミキシングコンソール、アンプ、スピーカーといった各機器を接続するために、複雑な配線が必要となり、それらが絡まり、セットアップに長い時間がかかります。また、歴史的な劇場や精巧なコンサートステージなど、見た目が重要な場所ではスッキリとしたステージ構成が求められるため、そこでも配線が問題となることがあります。

Dante は、すべてのオーディオ信号を1本のイーサネットケーブルで伝送することで、これらの問題を解決します。ステージからFOHへ、あるいは様々なプロセッサーやアンプへオーディオを送信する場合でも、Dante のネットワークシステムはかさばるアナログケーブルの必要性を減らします。実際、数十台あるいは数百台ものデバイスを単一のネットワークに接続できるため、必要な物理インフラを大幅に削減できます。
さらに、イーサネットケーブルは従来のスネークケーブルよりも一般的で手頃な価格であるため、セットアッププロセス全体がより高速、安価、柔軟になります。
拡張性と将来性を兼ね備えた、あらゆるステージに対応するオーディオネットワーク
従来のアナログシステムでは、システムの拡張は、ケーブルの増加、扱いにくい機器の増加、そして故障の可能性の増加を意味していました。しかし Dante なら対応デバイスを追加するだけで簡単にシステムを拡張できます。

インプット、モニター、あるいはスピーカーアレイ全体を追加する場合でも、システム全体の配線を変更する必要はありません。新しいデバイスをネットワークに接続するだけで、Danteが自動的に信号ルーティングを処理します。
例えば、Apollo e2m ステレオ・ヘッドホンアンプ/ラインインターフェイスを、Dante オーディオネットワークに接続するだけで、ヘッドホンアンプとライン入出力によるパーソナル・モニターコントロールを追加できます。また Dante ならではの特徴として、Apollo e2m は Power-over-Ethernet(PoE)で動作するため、煩雑な壁コンセントがいらず、ステージやスタジオを清潔に保つことができます。

さらに、Power-over-Ethernet(PoE)によりリモートコントロール可能な Unison™ マイク/ライン・プリアンプ Apollo e1x を使うことで、Dante ネットワークを簡単に拡張できます。
この拡張性こそが、Dante がこれほど人気を博したもうひとつの理由です。エンジニアは所有する機材をすべて買い替えることなく Dante を導入でき、予算とニーズに合わせて段階的に Dante 対応機材を導入していくことができます。
*クイックヒント=アナログミキサーや従来のエフェクトプロセッサ、パワードスピーカーなどの古い機器を Dante ネットワークに簡単に組み込むことができるように、「アナログ - Dante」または「デジタル - Dante」のインターフェイスアダプターが用意されています。

低遅延かつ高品質のデジタルオーディオをイーサネット経由で実現
ライブサウンドにおいて、レイテンシーと音質は極めて重要な懸念事項です。レイテンシーが高いと深刻な問題を引き起こし、遅延や演奏のずれにつながる可能性があります。同様に、クリアでプロフェッショナルなサウンドを確保するには、シグナルチェーン全体を通してオーディオ信号の品質を維持する必要があります。
Dante はこれらの両方の懸念に対処します。このプロトコルは、非圧縮の高品質デジタルオーディオを極めて低いレイテンシー(通常1ミリ秒未満)で配信するように設計されています。一瞬のタイミングと完璧な音質がパフォーマンスの成否を分けるライブサウンド環境において、このレベルのパフォーマンスは極めて重要です。Dante を使用することで、エンジニアはネットワーク上の気になる遅延や音質劣化なしにオーディオ信号をルーティングできます。
さらに、Dante は高ビット深度および高サンプルレートのHDオーディオフォーマットをサポートし、複雑なセットアップでもクリアな音質を保証します。これは大規模なオーケストラや演劇など、明瞭度とディテールが不可欠な状況において特に重要です。
Dante コントローラーでFOHセットアップをリモートコントロール
Dante とネットワーク接続されたデバイスとの連携は、リモートコントロールとモニタリングにおいても重要なメリットがあります。最新の Dante セットアップでは、FOHエンジニアは Dante Controller または互換ソフトウェアを介して、デバイスをリモートコントロール/モニタリングすることができます。これによりライブイベントでは、エンジニアが各デバイスまで物理的に移動する必要がなくなり、臨機応変に調整を行うことができます。
例えば、マイクレベルの調整、スピーカー設定の変更、信号ルーティングに潜む問題のチェックなど、すべてをラップトップまたはモバイルデバイス1台から行うことができます。これにより効率性が向上するだけでなく、特に複数の要素が連動する複雑なライブイベントにおいて、エンジニアの身体的負担も軽減されます。また、Apollo x16D と UAD Console アプリを併用することで、スタジオクオリティのサウンドでライブミックスを自在に調整でき、UAD プラグインをリアルタイムで操作することも可能です。

Dante の安全性がショーをスムーズに進行させる
どんなライブサウンド・エンジニアに聞いても、システムの信頼性こそが何よりも重要だと答えるでしょう。一度障害が発生すると、パフォーマンスはたちまち台無しになり、大きな混乱を招き、恥をかくことになります。幸いなことに Dante は十分過ぎるほどの安全性を確保しており、ネットワークの一部に障害が発生してもオーディオ信号は途切れることなく流れ続けます。
Dante のネットワーク・リダンダンシー機能により、プライマリ/セカンダリネットワーク構成が可能になり、2つの独立したネットワークを同時に運用できます。そのため一方のネットワークに障害が発生した場合でも、セカンダリネットワークが自動的に引き継ぎ、途切れることのないオーディオ伝送を実現します。
このレベルの信頼性は、コンサート、劇場公演、企業イベントなどのプレッシャーのかかる環境で、完璧なオーディオを提供する責任を負う FOH エンジニアにとって非常に重要です。Dante はセットアップを簡素化するだけでなく、最も重要なこと、つまり毎晩素晴らしいサウンドを提供することに集中できる自由を与えてくれます。
文:ダリン・フォックス