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Universal Audio : Apollo x16D と UAD によるリンダ・リンダズのライブシステム

ライブ会場において、 Dante ネットワークを利用して、アルバムクオリティのサウンドをFOH(客席側)とモニターの両方で実現する方法を、リンダ・リンダズのFOHエンジニアを務めるアダム・ラボフ氏が紹介します。

アルバム品質の FOH とモニターを Dante ネットワークで実現


- エンジニアのアダム・ラボフ氏は20年以上に渡り、クラブツアーから大規模フェスのステージまで、あらゆる現場を経験してきました。

私がライブエンジニアとして働き始めたのは2004年頃でした。でも本当の始まりは1993年に人生で初めて観たライブ、ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』ツアーです。それが私の人生を変えました。その年の後半にはパール・ジャムやサウンドガーデン、ピンク・フロイド、フィッシュのライブも観に行きました。20歳の頃、ミキシングの基礎を学ぶためにオーディオ・エンジニアリングのコースをいくつか受講し、2003年にロサンゼルスに移り住んでからは、スタジオエンジニアリングではなくライブサウンドに重点を置くようになりました。

- ラボフ氏は近年、ブレイク中のポップ/パンクバンド、リンダ・リンダズのFOHを務めており、彼らはグリーン・デイ、スマッシング・パンプキンズ、パラモア、さらにはローリング・ストーンズとの共演も果たしています。リンダ・リンダズのツアーの準備を進める中、ラボフ氏とバンドメンバーは、そのロック色の強いライブサウンドをもっとグレードアップさせたいと考え、Dante オーディオネットワーク上で動作する Apollo x16D インターフェイスと UAD プラグインを導入することにしました。

現代のバンドのためのモダンなライブシステムを構築


ツアーで Dante を使うのは初めてでした。Allen & Heath の dLive コンソール1台と Apollo x16D を3台用意し、うち2台はFOH用、1台はモニター用に使います。慣れるまでに少し時間はかかりましたが、何度かショーをこなすと自然と扱えるようになってきました。入出力がたくさんあるおかげで、UAD プラグインのオーディオルーティングはかなり柔軟に行えます。以前のセットアップはアウトボードを一切使わない Midas M32 コンソールだけのシンプルなもので、それでも問題はありませんでしたが、Apollo x16D と dLive を組み合わせた新システムは、音質を大幅に向上させました。その違いは、使い始めてすぐにわかりました。

- バンドの音、トークバック、観客用マイクなどを含め、32ものインプットをセットアップするには、システムの柔軟性が鍵となります。

この新システムの一番の魅力は、複雑な dLive シーンやスナップショットに縛られないことです。必要なプラグインを必要な時に読み込むだけで、インイヤモニターやFOHへのリスクを最小限に抑えながら一貫した結果が得られます。

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▲ロードケースに詰め込まれたスタジオ機材。リンダ・リンダズのライブでは、アルバム品質のライブミキシングを実現するために、Dante 経由で Apollo x16D が使用されている

UAD プラグインを使った初めてのツアー


- ラボフ氏にとってライブで UAD プラグインを使用するのは今回が初めてでしたが、オリジナルのアナログハードウェアを使用していたこともあり、シームレスに移行できたそうです。

長年、1176 コンプレッサーや Neve プリアンプ、EL8 Distressor などのビンテージハードウェアを数多く使ってきましたが、UAD プラグインの音は本物です。おかげで4人のボーカル、ドラム、ベースすべてにスタジオクオリティのチェーンをかけることができ、妥協する必要もありませんでした。物理的な機材がないのに、Distressor や Neve 1073 を好きなチャンネルに挿せるって素晴らしいですね。サウンドとクリエイティビティの新たな世界が開けました。

リンダ・リンダズはパンクバンドですから、PCもバックトラックも使いません。その実直かつ洗練された状態を維持するのが私の役目です。バンドメンバーはレコーディングでの音作りにとてもこだわっているので、ライブでもその雰囲気を再現したいのです。

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▲「ツアー中に Distressor や API PREAMP などの調整ツールを使えるなんて、今までは考えられなかった」(ラボフ)

UAD プラグインを挿しただけで、微調整も要らずに全てのサウンドが良くなった


- ラボフ氏はリンダ・リンダズのプロデューサーであるカルロス・デラガーザ氏(※ギタリストのルシア・デラガーザとドラマーのミラ・デラガーザの父親)と協力し、アルバムで使われた UAD ボーカルチェーンをライブミキシングに活用しています。

スタジオで使用されたプラグインを読み込んで、FOHの必須プラグインとブレンドすることで、アルバムのサウンドに忠実でありながら、ライブ空間にもマッチするサウンドに仕上げています。

▲リンダ・リンダズのレコードで使用された UAD プラグインチェーンをステージ用に準備する、プロデューサーのカルロス・デラガーザ氏(左)とFOHエンジニアのラボフ氏(右)

バンドが到着する前に会場に合わせて音響を調整する


- ラボフ氏は Apollo x16D でバンドのライブをマルチトラック録音しておき、それをバーチャル・サウンドチェックに使用しています。ライブコンソールのマイク入力を経由してそのマルチトラックを再生し、ライブのサウンドをシミュレートする手法です。こうすればバンドがステージに到着する前に、EQや音量バランスの微調整、UAD プラグインの設定などを進めておくことができます。

昨年はスタジアムでのライブが多くなり、音響的な許容範囲が広がったのですが、会場も様々です。バーチャル・サウンドチェックなら、楽器パートをソロで確認したり、プラグインをテストすることもできますし、観客の存在を意識することなく音響を調整できるというメリットもあります。

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▲「リンダ・リンダズはレコードの音質にとてもこだわっているので、ライブでも同じような雰囲気を出せるようにしたい」(ラボフ)

音楽に集中できる自由が生まれた


- 同じ場所からFOHとモニターの両方を操作するのは大変そうですが、それもラボフ氏の仕事です。

バンドメンバーはステージ上のミックスにはあまりこだわりません(笑)。4人編成のロックバンドですから、トラックもなければドラマチックな演出もないのです。インイヤモニターの調整が終われば、私はハウスミックスに集中して、観客に最高の体験をさせることができます。

制限のないライブミキシング


Dante ネットワークを扱うには、学習や経験の積み重ねが必要です。以前は古い機材を隅々まで熟知していましたが、Apollo と UAD のおかげで、よりクリエイティブに考えられるようになりました。ハードウェアでの経験を活かして臨機応変に対応できるようになり、何よりも、理想としていたミックスを実現できます。

Dante によってワークフローが変わったわけではなく、内蔵エフェクト数の制限がなくなり、創造性を発揮するための柔軟性が与えられました。ステージから届く音を作り変えるだけでなく、強化できるようになりました。20年のキャリアを経た今でも毎日学びがありますし、それが一番大切なことだと思います。そして、自分の機材を知り、エゴを抑え、周りの人が一緒に仕事をしたいと思えるような姿勢でいることを心掛けています。

リンダ・リンダズのライブで使われる UAD プラグインTOP5

文:ダリン・フォックス

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