Jacknife Lee は、テクニカルな問題によって精神的エネルギーを消耗させられることが許せません。実際、U2、Snow Patrol、そして The Killers といったベテランのレコードをダメにするようなものを信頼できるわけがないでしょう。というわけで、ロンドン AIR スタジオ にて新しい Apollo X インターフェイスを使い、アイルランドのインディーロッカー Two Door Cinema Club と London Metropolitan Orchestra のセッションを収録する際、大量のアウトボードや旧型のI/Oデバイスと対峙せずに済むことを彼は喜びました。
Lee は Apollo を使った経験こそあったものの、UA オーディオインターフェイス独自のリアルタイムUADプロセッシング能力を解放するための鍵となる、付属のコンソールアプリケーションについてはそうではありませんでした。本記事では、彼が得たコンソールアプリや Apollo X との啓示的な経験、そしてそれらがプラチナレコードに認定される彼のワークフローにいかにして溶け込んでいったかを詳しく説明していきます。
- AIR スタジオでの Apollo X を使った大規模なセッションについて、話をお聞かせください!
もちろんです。今回の Apollo アーティストセッションは、私にとって目を見張るものとなりました。以前 Apollo を使ったことはありましたが、コンソールアプリケーションと一緒ではありませんでした。なぜ2つのミキサーで作業するのか、理解できなかった。ただ不必要で複雑に思えたのです。
はじめのうちは、DAWとコンソールという2つの画面間を行き来することで、自分がどこにいるのかを把握することができませんでした。しかし一度コンソールに慣れ始めると、とても直感的で、ほとんど不可視のシステムでさえあると分かりました。加えて、フロントエンドにおけるレイテンシーはありません。これは本当に素晴らしいですね。まるでそこにあるのに気付かなかった、自宅の上階を発見してしまったような感覚でした。
- 今回の規模のセッションでコンソールを使用するにあたり、どういったアドバンテージがありましたか?
コンソールの便利な点の1つは、リアルタイムで比較試聴が可能なところにあります。ハードウェアの世界ではこんなことはできませんよ。なぜなら、同一ハードウェア上で2つの異なる設定をすばやくA/B切り替えすることはできませんからね - 決して、正確な設定に戻ることはできないでしょう。
コンソールを使えば、任意のマイクプリアンプやコンプレッション設定で数分間バンドをトラッキングしながら、途中で何か別のものに変えてみたり、まったく同じ設定に戻してみたり、といったことができるんです。
- それはクリエイティブ面で非常に大きいですね。
たしかに。スタジオでハードウェアを使っていても、それらを好きなだけ試せるほど時間的余裕がないってことは結構ありますから。
あと、コンソールのフロントエンドでは様々なマイクプリを試してみることができるので、それらの違いについても学べますよ。これはほとんどのUADプラグインにも当てはまるのですが - 実機のハードウェアをより良く使う方法を教えてくれるという有益な副産物も与えてくれますよね。
- あなたは「テープへコミット」するタイプですか?
ええ、そして今回の Apollo アーティストセッションでも、いつも通りの「ディストラクティブ」レコーディングの手法に従って、ハードウェアであろうと Unison プラグインであろうと関係なくサウンドをコミットしていきました。実際、コンソールで何の処理も行わなかったことはありません。つまり、もし Thermionic Culture Vulture でいこうと思ったのなら、後戻りしてサウンドを微調整するようなことは気にしないということです。コミットしていきます。プロセス全体をスピードアップするのみです。
Apollo X を使えば、スタジオの誰かに頼まなくても、簡単に接続してクイックに音を出すことができました。 - Jacknife Lee
- 収録の際、Apollo X からどのような印象を受けましたか?
Apollo X を本当に特別な存在にしている要因のひとつは、それがいかに頼りになるものかというところにあるでしょうね。私はこういったレコーディングシステムに関してとても苦い経験があって、基本的には好きなものの、どこか信頼できないという思いもありました。決して広く普及しているシステムに対し喧嘩を売っているわけではありませんよ。しかしもし私がプロデューサーで、ギアの一部が機能しないといった場合には、実に厄介な状況に立たされてしまうのです。
Universal Audio のサポートは素晴らしいと言うべきでしょう。しかし機材の方もまた、常に機能してくれるということがどれだけ重要であるかを忘れてはなりません。それにしても、信頼性の高さと美しく機能することに加え、Apollo X は私の能力を本当に拡張してくれました。多くのインターフェイスはただインターフェイスであるだけです。ただそれだけです。そしてそれがこれまで私が慣れ親しんできたものです。しかし、Unison テクノロジーとコンソールアプリを備えた Apollo X はそれを越えるものですね。
- あなたはご自身のスペースで仕事をすることに慣れていらっしゃいますね。私はあなたが「大きなスタジオ」に関して複雑な感情を抱いていると聞いたことがあります。
最近、「本来の」スタジオに入ると、レコーディングの工程がいかに面倒なことであるか、なぜアーティストはちょくちょく大きなスタジオで行き詰ってしまうことがあるのかを思い知らされます。とにかく時間がかかるんですよ - iPhone を使って何かをしようとするだけでも、接続に小1時間かかることがあったして。
しかしいざ AIR スタジオに入ると、コントロールルームの機材に頼る必要がなくなったことが爽快でしたね - Apollo X を使えば、スタジオの誰かに頼まなくても簡単に接続できてクイックに音出しできましたから。
- 誰かにハードウェアのパッチングを頼む必要がなくなれば、より実験がしたくなるかもしれませんね。
その通り。ときどき、強烈なコンプレッションが欲しいためにトラック全体を異なるバスに分け、マスターバス上のいくつかの追加プラグインとパラレルにしたりするなど、過激にいくこともありますよ。決して「一面的」ではありません。
どうなるかな、なんて思いながら、例えばスラップバックエコーをマスターバスに置いてみたこともあります。バンドの誰かが私と一緒にいる時にクレイジーな何かをマスターに入れたりすると、サウンドの突然の変化に、たいてい皆興奮してくれましたね。
- そうすることでアーティストを惹きつけると?
昔はミキシングの段階で全てが大きく飛躍すると理解されていたものですが、現在はよりせっかちになっています。プロデューサーとして、それが後に素晴らしいサウンドになるということをアーティストが分かってくれているとは思わないようにしましょう。特に完成されたマスターと同じくらい良いサウンドがすぐに飛び出してくると誰もが期待しているような時代にはね。
- このレコーディングの過程で、曲は他にどのようにして変わったのでしょうか?
"Sun" のオリジナルバージョンでは、キーボードはほとんどありません - Wurlitzer だけかと思います。今回のバージョンでは、MiniMoog などのシンセ、Korg KR-55 Pro、Roland TR-808 Rhythm Composer といったドラムマシンなど、いくつか違ったものを試してみることにしました。ドラムマシンを置いてオリジナルのクリックに合うよう調整し、とてもシンプルなパターンを作ってからバンドに入ってもらい、スタジオ1でライブ演奏を行いました。
スタジオでハードウェアを使っていても、それらを好きなだけ試せるほど時間的余裕がないってことは結構ありますから。- Jacknife Lee
- マイクはそれほど多く使わなかったようですね。
ベース用の2本のマイク - プラス UAD Ampeg B-15 プラグイン、Wurlitzer のための2本、ギターのための2本、そしてドラム用ですかね。本当にマイクはあまり使いませんでした。ほどよくライブな部屋でのかなりストレートなバンドレコーディングだったので、多くのアンビエントマイクの必要性を感じなかったのです。Alex(Trimble、Two Door Cinema Club のボーカリスト)のボーカルには Shure SM7 を使い、UAD Neve 1073 Preamp & EQ、1176、そして Distressor を介して、コントロールルームで録っていきました。
- Apollo X で収録すれば違いを体感すると言って差し支えないでしょうか?
不思議なことに、私は Apollo X を使うことで、何らかサウンド的に違いを覚えるようなことになるとは思ってもいませんでした。本当に。しかし突然、いつの間にか、私のレコーディングがよりまとまって聴こえ始めたんですよね。どういうわけか、Apollo X で収録されたレコーディングがとてもうまく混ざり合ったと感じたのです。より豊かで、とてもナチュラルに聴こえるんですよ。
- James Rotondi