1176 の歴史:オーディオ界の「巨人」が遺したもの
オリジナルの 1176 は、UA の創始者であり「オーディオ・ルネッサンスの巨人」と称されるビル・パットナム Sr.氏によって開発されました。当時のリミッター技術において、1176 はまさにマイルストーンでした。世界で初めてFET(電界効果トランジスタ)をゲインリダクションの要素として採用。これにより、真空管時代には不可能だった20msという超高速なアタックタイムを実現したのです。その後、ノイズを劇的に減らした「LN(ローノイズ)」モデルの登場など、40年以上にわたり13回ものリビジョン(改良)を重ね、現在の地位を確立しました。
2001年には、最初の 1176 プラグインエミュレーションである UAD 1176LN がリリースされ、アナログエミュレーション・ソフトウェアに革新をもたらします。2013年にはすべてのモデリングを見直し、現在では3つの異なる 1176 ユニットをエミュレーションした 1176 Classic Limiter Collection として発売されています。
個性豊かな3つのラインナップ
UAD の 1176 Classic Limiter Collection には、40年以上にわたる進化を象徴する、キャラクターの異なる3つのモデルが含まれています。
1176 Rev A "Bluestripe"
- 1176 の原点。青いストライプが目印。
- 高い歪み成分と、FET特有のアグレッシブなキャラクター。
- ゲインリダクションをかけなくても、通すだけで音がクリップしやすく、荒々しい質感を加えたい時に最適。

1176 Rev E "Blackface"
- 70年代前半のLN(ローノイズ)回路を再現。
- 比較的リニアなレスポンスで、よりクリア。
- 最も汎用性が高く、ボーカルから楽器までどんなソースにも馴染む。

1176AE "Anniversary Edition"
- UA 40周年記念モデルの再現。
- 2:1という低い圧縮比と、10msの「スーパースロー」アタックを搭載。
- 1176 をより繊細に、スムーズにかけたい時の「隠し味」。

基本操作:逆回転のダイヤルに注意!
1176 の操作はシンプルですが、独特なルールがあります。
- INPUT:コンプに入るレベルを上げます。時計回りに回すほど、コンプレッションが深くかかります。スレッショルド値は固定ですが、低レシオでは低く、高レシオでは高めに設定されています。
- OUTPUT:最終的な音量を決めます。
- ATTACK & RELEASE:ここが最大の注意点。時計回りに回すほど「速く」なります。 一般的なコンプレッサーと逆の感覚なので、初心者の方は要注意!
- RATIO:コンプの強さを選びます。
- HR(ヘッドルーム):感度を調整することで、歪み始めるポイントをコントロールできます。
- MIX:プラグイン内でパラレルコンプレッションが可能。原音の芯を残しつつ、コンプのパンチを加えられます。
- サイドチェインフィルター(リリースノブの/):低域にコンプが反応しすぎるのを防ぎ、キックやベースでの不自然なポンピングを回避します。

1176 を使いこなす秘伝のテクニック
① 伝説の全押しモード
レシオボタンをすべて同時に押し込む裏技です(プラグインではShiftキーを押しながらクリック)。 サウンドは過激に歪み、アタックとリリースが複雑に絡み合います。ドラムのルームマイクや、ボーカルを前面に張り付かせたい時に魔法のような効果を発揮します。
② トーンボックスとして使う
レシオボタンをすべて解除(Shift+クリック)すると、コンプレッションをオフにできます。しかし、信号は 1176 のアンプ回路を通るため、「1176 の質感だけ」を付与する贅沢なプリアンプとして活用できます。

③ 最速設定で歪みを加える
アタックとリリースをあえて最速(右に回し切る)に設定してみてください。音が瞬時に歪み、ガッツのあるサウンドに変化します。ベースやリードボーカルにエッジを立てたい時に非常に有効です。
ミックスに「魂」を吹き込む 1176
UA 1176 は、単なる音量調整ツールではありません。トラックにエネルギーを与え、ミックスの中で音をソリッドにするためのツールです。どのモデルを使えばいいか迷うという方は、まずは Rev E (Blackface)で基本の音作りを覚え、より個性が欲しい時に Rev A (Bluestripe)を試してみるのがおすすめです。Rev Aで荒々しく、Rev Eでパワフルに、AEで繊細に。あなたのミックスに、歴史を作ったあの「パンチ」を加えてみませんか?
