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IK Multimedia : ドルビーアトモスのための iLoud MTM / iLoud Precision 導入事例 @ Studio BEWEST

岡山県津山市の Studio BEWEST では IK Multimedia のマルチモニターシステム iLoud MTM Immersive Bundle 11 を導入し、中国地方のスタジオで唯一 Dolby Atmos に対応した音源制作を実現しています。スタジオオーナーの西本直樹氏に導入までの経緯を聞きました。(iLoud Precision MTM の導入に伴い、2024.3.6に新規インタビューを追記しました)

球体に包まれて音を聴いているような感覚。美しくて震えた


- 西本さんは何がきっかけで Dolby Atmos に興味を持ったのですか?

エンジニアの古賀(健一)さんが空間音響の第一人者で Dolby Atmos をやられていたので以前から気になっていたんですが、高嶺の花のように感じて腰が上がらなかったんです。スピーカーはもちろん、インターフェイスやスタンドなど、すべて揃えていくとものすごく高額になってしまう。「やってみたいけど、どうしよう...」って感じだったんです。そんな時、古賀さんに再会する機会があって、「Dolby Atmos をやってみたいです」とお伝えして、根掘り葉掘り教えていただいてたら、ものすごくやりたくなってしまって。その時に古賀さんが、iLoud MTM Immersive Bundle 11 を勧めてくれて、セッティングも全面的に協力してくれました。

- Dolby Atmos のどんなところに魅力を感じましたか?

AirPods Pro や AirPods Max で聴くだけでも空間オーディオはとても美しくて、ステレオでは再現できない音像があるということはずっとわかっていました。そこにだんだん惹かれていったというか、自分でもそういう音源を作ってみたいと思うようになったタイミングでした。

- いつ頃に導入したのですか?

2023年の4月頃に iLoud MTM Immersive Bundle 11 を購入して、ざっくり置いて聴いてみたら、その時点ですごかったんですが、ちゃんとセッティングをしたのは5月のGW明けでした。予想以上にサウンドクオリティがすごくて、Dolby Atmos 対応作品を再生してみたら、球体に包まれて音を聴いているような感覚がありました。四方から解き放たれた音に包み込まれて、この世に自分と音だけが存在しているような錯覚に陥るほど美しくて本当に震えました。

西本直樹
▲Studio BEWEST の 西本直樹氏

- ミキシングも試しましたか?

ステレオのセッションから Pro Tools の Dolby Atmos のプリセットで組んで、色々触って勉強しているところですがとても面白いです。面白いながらもわからないことが多く、オブジェクトをどうすればいいか、ベッドに送るトラックに最適なものは何かなど、勉強しなくてはならないことがたくさんあります。球体に包み込まれるようなミックスを作るにはどう音を配置したらいいかとか、「実センターをうまく使うには?」といったようなことは日々勉強して経験を積んでいきたいところです。

- iLoud MTM の音はいかがですか?

以前サブモニターとして iLoud MTM のステレオペアを持っていたので、音のイメージは頭の中にあったのですが、Atmos で組んだ時にどうなるかはまったく想像できなくて、想像以上でビックリしました。

スタジオ全景
▲iLoud MTM Immersive Bundle 11 で組んだ Dolby Atmos 制作環境

- ステレオで使っていた時の印象は?

イマーシブでもそうですが、同軸スピーカーのような鳴り方というか、音が直線的に飛んでくるようなイメージがあります。ミキシングではADSRをしっかり聴き取れることが僕の中では重要ですが、iLoud MTM はトランジェント成分やディケイがしっかりと聴き取りやすくて、エンベロープのデザインがしやすいので、メインのスピーカーでミックスした後にチェック用として使っていました。

- そのトランジェント特性は、Dolby Atmos でも活きていますか?

すごく活きています。「サイズは小さいのに、こんなにパワーがあるのか」と思いましたし、音が直線的に飛んでくるイメージはステレオの時と変わりません。その分スイートスポットは狭いですが、そこに自分が収まった時に、四方から飛んでくる色々な音の確認がしやすくて、音が飽和せず、鮮明に、クリアに、タイトに聴こえるという感じですね。クッキリとした音像です。

iLoud MTM
▲iLoud MTM

小さなスピーカーから、こんなにパワフルな音が出ることにみんな驚く


- スピーカーの配置はどういう流れで決めていきましたか?

一番距離が取れないところを最初に決めました。Studio BEWEST はサイドの距離(サラウンドLとサラウンドRの間)が一番短くて、1.45mくらいしか取れないんです。そこを基準にセンタースピーカーを同距離に配置してから、その他のスピーカーも配置を決めていきました。

- 設置に使用したスタンドは?

すべてマイクスタンドです。K&M の普通のマイクスタンドで、ハイトだけ TRIAD-ORBIT を使いました。高さや安定感の点で TRIAD-ORBIT にして良かったです。先日 IK から iLoud MTM のマウンティング・ブラケットが発売されたので、今度はそれを使って天井に付けたいと思っています。

- 内蔵の自動音場補正システム(ARC)は使用しましたか?

使いました。さらに DADMAN のEQで補正するパターンと、ARC を使わずに DADMAN だけで補正したパターンを比較しましたが、圧倒的に前者が良かったです。音の飛び方や、基本的な周波数帯域のフラット感が違いました。部屋に若干の定在波があるから、ローがディップしているところもあって、それは DADMAN で補正するんですが、ARC を使う方が中高域が鮮明に見える感じがあります。基本的に Dolby Atmos を組む際は、よほど整った環境でなければDSP補正をした方がいいと思います。

- ARC を使う方がトランジェントもよりクッキリ聴こえますか?

まさしくそうです。フロントから出てくる音は目立って聴こえるものですが、サイドやハイトもフロントに負けないくらい音が飛んできてほしい時、iLoud MTM はメーターが振れる通りに音が飛んできてくれるからすごくいい。ARC を入れた方がその性能を強く感じました。

フロント
▲フロントのL/C/R。iLoud MTM はネジ穴を底面に備えているためマイクスタンドに取り付けて設置できる

- なるほど。そのようにして7.1.4chのモニターシステムが完成したのですね。

今は7.1.4chで組んでいます。ただ先日、Dolby Atmos の勉強のために東京のスタジオを訪問した際、立ち寄った宮地楽器さんで iLoud Precision MTM を試聴したら、速攻でL/C/Rを iLoud Precision MTM に変えたくなってしまいました。iLoud MTM よりもローとローミッドの密度感が増した感じで、すぐにでも変えたいと思うくらい良かったですね。今はステレオミキシングを別のスピーカーでやっていますが、フロント3本を iLoud Precision MTM にすればそれを利用したステレオの作業も今のスピーカーと併用してできそうです。

- iLoud Precision の他のモデルは試聴しましたか?

iLoud Precision 5 も聴きましたが、iLoud Precision MTM は圧倒的でした。群を抜いていますね。だからこの先も IK の Dolby Atmos システムでやりたいと思っています。Genelec の同軸スピーカーも素晴らしいですが、ルームチューニングやセッティングを緻密にすることで IK のシステムも遜色ないところまで行けると思うし、コストパフォーマンスがすごくいい。何分の1かわからないけど、ものすごく低予算で導入できます。

- より多くの人が Dolby Atmos に挑戦できるようになるわけですね。

西日本で Dolby Atmos のシステムを組んでいるレコーディングスタジオは、うちと、あと鹿児島に1軒あるようですが、もっといろんなところで聴けるように普及させたいと思っています。まだメジャーアーティストの特権とか高嶺の花のような印象がありますが、僕らはインディーズのアーティストを中心に携わっているから、彼らにも気軽に Dolby Atmos を聴いてもらって、作品もリリースできるような状況を地方から作っていきたい。IK のシステムは小規模なレコーディングスタジオでも導入しやすい価格帯なので、いろんなスタジオのオーナーさんにぜひ Studio BEWEST の見学に来ていただいて、実際に聴いていただきたいなと思っています。8畳くらいの狭いコントロールルームですが、地方のレコーディングスタジオには同じくらいの規模が多いと思うので参考になると思います。西日本から Dolby Atmos を広めていきたいと思う中で、この iLoud MTM Immersive Bundle 11 はオススメしたいです。音を聴いたら、みんな驚くと思います。

- エンジニアだけでなく、コンポーザーの方々にも参考になりそうですね。

先日、地元のヒップホップ/レゲエ系レーベルのプロデューサーさんが聴きに来られて、「この環境でアーティストに音源を作ってあげたい」と言っていました。こんなに小さいスピーカーからこんなにパワフルな音が出ることに、みんなビックリします。見た目とのギャップがすごくあるんです。僕も最初聴いた時にそう思いましたけど、みんな同じように言いますね。

- 今後 Studio BEWEST は Dolby Atmos の作品作りに力を入れていくのでしょうか?

基本はレコーディングスタジオなので、きっちりレコーディングをしてステレオの仕事もしつつ、Dolby Atmos を知らないアーティストにも浸透させて、リリースまでこぎつけてあげたいですね。それが今の自分の仕事というか使命と思っています。どんどん広めていければいいですね。東京はいろんなスタジオが Dolby Atmos をやり始めて、地方よりは進んでいると感じますが、海外はもっと進んでいると思います。だからこそ地方からの底上げが必要で、地方から普及していけば、もちろん都内にも波及していくだろうし、いい循環が生まれると思います。そういうパワーを地方から送っていきたいと思っています。

ハイト
▲ハイトスピーカーは4本あり、TRIAD-ORBIT のマイクスタンドで設置している

※以下、新規インタビュー(2024.3.6追記)

フロントを iLoud Precision MTM に変えて9.2.6chにした


- 前回のインタビューでは「L/C/Rを iLoud Precision MTM に変えたい」ということでしたが、L/Rワイドも含めたフロントの5本すべてが iLoud Precision MTM に変わりましたね。

はい、最初はフロントの3本を iLoud Precision MTM に変更するつもりでしたが、信頼している Xylomania Studio の古賀さんから「L/Rワイドも iLoud Precision MTM にした方がいいかも」というご意見をいただいたのもあって、結局フロントの5本を全部 iLoud Precision MTM にすることにしました。iLoud MTM で組んでいた頃は Apple Music が対応している最小構成の7.1.4chでやっていて、それはそれで良かったんですが、作業していくうちに9.1.6chでミックスしたくなったというか、9.1.6chを7.1.4chに落とし込んだ時にどう聴こえるかを勉強したいという欲が出てきてしまいました。

- 9.1.6chと7.1.4chではサウンドにどんな違いがあるのですか?

マルニスタジオさんが組んでいた9.1.6chが圧巻で、特にハイトスピーカーが6チャンネルあることで天井の音の動きがスムーズになることにすごく感動しました。ハイトが4本の場合、リスニングポイントの45度前と45度後ろに左右1本ずつスピーカーがきますが、6本あると真横にもう1本ずつスピーカーが追加されます。だから例えばハイトで円の動きをする時に、音のスムーズさが圧倒的に違います。

iLoud Precision MTM
▲センター/L/R/Lワイド/Rワイドの5本が iLoud Precision MTM に変更された

- iLoud Precision MTM が一気に5台も入ると、フロントの聴こえ方もガラリと変わったのでは?

すごく変わりました。iLoud Precision MTM を最初に聴いた時、ローがものすごくて、いい意味でじゃじゃ馬なイメージがあったんですが、同軸のような直線的に音が飛んでくる音のイメージは保たれていて、iLoud MTM のレンジが広くなったような感じがありました。特にローに大きな差があって、音の見え方も随分違う。iLoud MTM も仮想同軸で位相特性の良さは感じていましたが、iLoud Precision MTM はまったく別物です。サイズの大きい3ウェイのスピーカーの場合、トランジェントが鈍くて、センターに定位している音が思ったより飛んでこないことがあるんですが、iLoud Precision MTM はあんなに大きなスピーカーで、あれだけローが出るにも関わらず、位相特性の良さをすごく感じます。

- ミックスのしやすさにもつながる部分ですね。

僕が特に気にするのがトランジェント成分の見え方なんですが、そこが iLoud Precision MTM は素晴らしい。トランジェントが誇張されていて派手に聴こえるスピーカーはよくありますけど、iLoud Precision MTM は誇張している感じがなく、とてもナチュラルで原音に対しての色付けがものすごく少ない。だから Dolby Atmos ではもちろん、ステレオミックスでも使っています。iLoud Precision MTM でトランジェントを調整するような作業をしてから、別のスピーカーでステレオの全体像を作って、また iLoud Precision MTM に戻って全体を確認するような使い方をしています。

- iLoud MTM と iLoud Precision MTM を組み合わせる作業はすんなりいきましたか?

すんなりとは行かなかったです(笑)。iLoud Precision MTM の方が出力が大きいので、両方のモデルから同じ音量が出るように調整していくところがスタートでした。アウトプットを調整して音量を揃える作業をまずやりました。古賀さんをはじめ、福山Cableの出原さん、愛知からステリカリの松井君、その他全国からいろんな方が手伝いに来てくださって、Smaartという測定器をメインにして音響の調整をやりました。調整はルームアコースティックを主にやっていった感じですね。ただ、そこに至るまでは本当に苦難の道のりでした。まず7.1.4chシステムの撤去から始まり、8畳くらいの狭い部屋から11畳くらいの広い部屋に引っ越しして9.2.6chのシステムを組んでいき、完全移行するまで丸1ヶ月ぐらいかかりましたね。部屋が広くなったのはいいんですが、若干正方形に近い形状になってしまったので、ルームチューニングが大変でした。正方形に近い部屋は音響特性がちょっと難しいので、吸音材や音響調整のボードを張りながら調整と測定を繰り返して整えていきました。

ハイトスピーカー
▲ハイトスピーカーは4本から6本に拡張された

- 9.2.6chということはサブウーファーが2つあるわけですね。

センタースピーカーがあるとどうしても真ん中にサブウーファーを置けないので、LとRに置いているスタジオは少なくないと思います。サブウーファーの低音に指向性を感じてしまう耳の持ち主もいるので、センターに置けない場合はLとRに均等に置くようにします。僕自身、7.1.4chの時はサブウーファーが1つだったので、右側にサブウーファーを置いていたのですが、やはり右から低音が鳴っているように聴こえてしまったので、それが2つ置くことで改善されて、作業がすごくしやすくなりました。

- システムをアップデートしたことで、作品の仕上がりにも変化を感じていますか?

そうですね。音の見え方が以前の7.1.4chと今の9.2.6chでは雲泥の差があるので、手伝いに来てくれた全国の仲間達もみんな「これはヤバい!」と言ってくださって、「今まで聴いた Dolby Atmos で1、2を争うくらいいいかもしれない」と言ってくれた方もいました。もう何人か聴きに来られましたけど、みんな言葉が出ないとおっしゃってくれて。これで作ってみたいというアーティストさんも増えてきたので、組んで良かったと思います。

写真提供:Studio BEWEST

西本直樹

岡山県内にレコーディングスタジオ BEWEST を2店舗構えるオーナー兼レコーディングエンジニア。ジャパレゲの第一人者 J-REXXX や、紅桜との伝説のユニットTHEタイマンチーズの作品を手掛け、その他毎年数多くのインディーズアーティストの作品を世に送り続けている。また2023年7月から Dolby Atmos 作品を中心にリリースするインディーズレーベルを設立。地方から Dolby Atmos 作品を世に送り出す活動を精力的に行っている。

https://www.bewest.net/

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