最終回 実践! 実際に楽曲でphase plantを使ってみよう
ご無沙汰です! かめりあです。DTMしてますか? わたしは〆切で大変なことになっています。いつ休めるんでしょうね。
さて、早いもので今回は第5回でございます! これまで phase plant にまつわる色々なテクニックを紹介してきました。今回はそれらを合わせて(どうやって合わせていくかは……最終的に皆さんのアイデア次第です!)、実際に自分、かめりあが楽曲内で使っているプリセットや設定集を紹介していこうと思います。プラクティカルでございます! というわけで、今回は「実践! 実際に楽曲で phase plant を使ってみよう」で行ってみましょう!
目次
- ややトランシーなプラック
- ドロップで重ねる低めのプラック
- ドロップのベース①(フォルマント系)
- サンプルを使ったシンセパッド
- サンプルを使ったFX/ライザー
- ドロップのベース②(レゾナンス系)
- ポルタメントの効いた上モノシンセ
- ドロップのベース③(ワンキー系)
- まとめ
1. ややトランシーなプラック
このプラックはイントロ部分で使用しています。上の画像を見てもらうと、Modulator部のEnvelope(赤枠/Decayが160msくらい)が、上から順にLane 1のFilterのCutoff(黄枠/45%)とQ(黄緑枠/20%)、DistortionのDrive(紫枠/30%)、Lane 3のFilterのCutoff(白枠/10%)にアサインされていて、このEnvelopeをイジるだけでも表情が付けられそうな音色になっています。
上部のMacro 1(水色枠)は、Lane 1のFilterのCutoffに[−15%](黄枠)、Lane 3のFilterのCutoffに[−65%](白枠)でアサインされているので、このMacroを動かすとフィルターがかかって、簡単に盛り上がり感が出せます。Lane 2のDisperser(橙枠)も加わって、アタックがかなりプリプリ(?)とした、まるで鮮度のいいエビのような質感をしています。
大事なのは、オシレータのPHASEが[±180°]になっていることと(灰枠)、下部のGlobal Unisonを[×4]に設定して(茶枠)、DetuneやSpreadで音の厚さをかなり足していること。前者は、発音のタイミングで音の位相がランダムにズレる設定になっています。位相が揃うと、アタックに「ピュンピュン」という”シワ”のようなものが生まれてしまうので、それを防いでいるんですね~。
後者はCPUをめちゃくちゃ食う危険なテクニックです。Global Unisonを増やすと、その本数分、“phase plant全体から発せられる音”を重ねられます。ただし、エフェクトを並行して処理していくので、その分、2倍、3倍と際限なくCPUを食ってしまうのです。こういったDetuneの本数が多いシンセだと、CPU、そして電気代との相談ですね……。
実際には、この後段にディレイ、リバーブ、リバーブ2(エフェクトを過多にして音像を消していく飛ばし用)、さらにレゾナンスの高いフィルターを挿して、空間を作ると共に、ビルドアップで「シュワーーーー!!!!」っとなるアレ用のエフェクトを突っ込んでいます。
2. ドロップで重ねる低めのプラック
ドロップのサブベースは、正弦波に近ければ近いほど倍音が存在しないため、音程のわかりにくいベースラインになりがちです。そのため手法としては、あえて正弦波に寄せて音程を消すか、あるいは歪ませて倍音を増やして音程をハッキリさせるか……という選択肢になることが多いです。前者はシンプルな選択、後者はやや複雑性のある選択ですね!
自分は後者の、歪ませて倍音を増やす手法を採りがちで、加えて、やや低め(サブベースとぶつからないくらい)のプラックを重ねると「さらにグルーヴが増して良い!」という気持ちです。これ、正しいんですかね?(百人百様の楽曲の作り方があります。これはただの一例です。あなたのインスピレーションとトライアンドエラーを信じましょう)
今回は上画像のように、Saw波を加工した「Melting Saw」(赤枠)というWavetableから作っていきます。2種のEnvelopeを用意し、左はDecayが遅め(黄枠/〜100ms)で、オシレータ内のLPF Filter Cutoff(黄緑枠/20%)とDistortion × 2(水色枠/80%)にアサインされている音色加工用。
右は、Decayがとんでもなく速くて(白枠/〜6ms!)、Master Pitch(紫枠/24st)とオシレータOut Gain(茶枠/100%)、オシレータ内LPF Filter Cutoff(黄緑枠/25%)にアサインされている、純粋にアタックの「ゴツッ」とした触感を出すためのものになります。ピッチをこうやって変調すると、明らかに打楽器的な、ややもすれば撥弦楽器っぽいニュアンスが加わるので、遊んでみると楽しいですよ!
ちなみに、今回は同じセッティングのDistortionを2種重ねることで独特の歪み感を作りましたが、Ctrlキー(Macでは⌘キー)を押しながらドラッグ&ドロップで複製できますので、覚えておくといいですね。時短! いのち短し!
余談ですが、その他にも色々なコマンドがありますので紹介しておきます。筆者が知らないキーコマンドもあると思うので、面白いものを発見したらぜひ教えてください。
- Shiftキーを押しながらパラメータを調整:微調整ができる
- Altキーを押しながら生成:すでに存在するオシレータ・エフェクトの間に追加できる
- パラメータを右クリック:数値入力
- パラメータをダブルクリック:リセット
- 一番右上のインベーダーマークをクリック:スペースインベーダーで遊べる(????)
3. ドロップのベース①(フォルマント系)
上の画像は、ドロップで使用されているベースです。1本目のメインのオシレータ(赤枠)を、2本目(黄枠)で変調し、3本目(黄緑枠)はサブベースにする(Lane 3に直接アウトプット)という形式です。サブベースが正弦波になっていますが、少し歪ませるか、あるいはすでに歪んでいるWavetable(Overdriven Sine)を使ってもいいと思います。
Modulatorには、Envelopeに似た形のLFOが入っています(水色枠/ワンショットを繰り返さず、1回で終了する設定なので、ほぼEnvelopeそのもの)。こういう使い方をすると、Envelopeでは不可能な細かい形状の調整ができるのでオススメテクニック(=オステク)です! 上から、メインオシレータのPHASE変調に乗算(Envelope(%)×変調の値になるということ。Envelopeが消えている時はまったく変調しない)で100%(紫枠)、Frame(茶枠/25%)、Distortion Drive(白枠/50%)にアサインされています。
これらを組み合わせると、少し歪んだイメージで、Sync Window Sineの「ウォウ!」という音を活かしたベースが作れます! 手早い。Polyphonyを[1/LEGATO](橙枠)、Glideをかなり高めにして[LEGATO](灰枠)にすることで、複数のノーツがつながった時に滑らかに接続することができます。
4. サンプルを使ったシンセパッド
上の画像は、ビルドアップ前のセクションの、裏で厚みを出すために鳴らされているシンセパッドです。
Sampleの[Factory]->[Symplesound]->[Choirs]->[Gregorian Choir](赤枠)のやや低い帯域の音色に、Wavetableの[Chords]->[Frost Chords](黄枠)の金属質な超高域を、AM(黄緑枠/メインオシレータLEVELの変調)することで付与して、サラサラとした質感を加えています。
Faturator(紫枠)で音の一体感を少し整えた後、ChorusとEnsemble(白枠)で音のデチューン感を足せばOK! ちなModulatorは、サブオシレータFrame(水色枠/100%)、メインオシレータDetune(橙枠/15%)、Faturator Fuzz(灰枠/45%)、Drive(茶枠/5%)にアサインしています。
このパッドはAMで高音を足しているだけあって、どの音域でも均等にハイを補強してくれますね。例えば、Macroにピッチをアサインして、ビルドアップではライザー的に使っても良いのでは!
5. サンプルを使ったFX/ライザー
ライザーはサンプルをまんま使ってもいいと思うんですが(時短!!)、せっかくなので1つ作ってみましょう。こうやってFXを作る一番のメリットは、自分で曲に合わせて調整ができること! レッツカスタマイズ!
Macro(赤枠)がPitch(黄枠/36st)、Filter Cutoff(黄緑枠/100%)、Filter Q(水色枠/80%)に入っています。これが(たぶん)基本の形で、例えばディレイやリバーブなどの空間系を足したり、Frequency ShifterやRing Modulatorで非線形の処理を足したりといった変種があります。今回は、すでに周囲の音が多いのでシンプルに。
ちなみに、Sampleに[Symplesound]->[Inharmonic 4](紫枠)を使っていますが、ここは基本、何でもOK! 持っているサンプルを使ったり、コードをライザーにしてみたりなどなど、何でもできますよ!
6. ドロップのベース②(レゾナンス系)
Sawの波形でFM変調をすると、何が起こるかと言うと、実はちょっとダーティでノイジーなピッチベンド的な効果になります。これを活かして、超金属的なギンギンしたベースを作るのが好き! 今回は[Chords]->[Saw Power Chord](茶枠/他のChordでも良い)を使って、FM変調ベースを作ります。
上の画像の下部左のLFOで、メインオシレータFM(PHASE)変調に乗算100%(赤枠)、メインオシレータのFrame(黄枠/10%)、変調オシレータのFrame(黄緑枠/20%)、Filter Cutoff(水色枠/5%)とアサインして形を作りつつ、Velocity(紫枠)をLFOの速度に[−20%]でアサインしています(白枠)。
Velocityが高いとアタックが遅れ、ディケイが長くなり、低いと逆にアタックが速くディケイの短い音になるので、これを組み合わせつつ、Macroでさらに音を変え(Chorus Decay=15%、変調オシレータのFrame=45%、Delay Time=10%)、Macro 2でピッチを変えて……という組み合わせでバリエーションを出しています。
こういったワブルベースは後処理が大変なんですが……、細かいディレイを重ねたレゾナンス系の処理をする時に、こういったFM変調のサウンドは相性がいいです! ギョリギョリしていきましょう!
7. ポルタメントの効いた上モノシンセ
ドロップに重ねたり、ブレイクで使える、上モノ系リード系シンセ。これもPolyphonyを[1/LEGATO]にして(赤枠)、Glideを使った(黄枠)、ポルタメントの効いたシンセになっています。見えていませんが、Lane 2の最下部には12.0kHzのBitCrushが挿さっていて、少しノイジーでデジタルな印象の音になっています。こういう感じで、Filter→Distortion→Filter→Distortionというカスケード処理をすると、徐々にリアルな質感の音になっていきますので、覚えておくと良いかも。
Glideが[Always]になっているので、常にポルタメントがかかっています。こういった音色では、アルペジオ系のフレーズが映えますね! あるいは長回しのフレーズでも良いっすよね。
8. ドロップのベース③(ワンキー系)
最後に、ワンキーでフレーズを生み出す系統の、ちょっと複雑なベースサウンドを紹介します。音の系統としてはFM変調系に近いですが、変調オシレータが[Raw Harmonics]という、正弦波の純粋な倍音列を奏でるWavetableになっているので面白い! レーザー!
上の画像を見ると、まず、一番左のLFOは16分音符の速度で振動しています(赤枠)。これをLane 1のGainにアサインして(黄枠)、「ブワワワワワワ……」と揺れるような音に。このLFOは「1/16音符」の速度ですが、その“16”にMacro 3をアサインすることで速度を変えられるようにしています(黄緑枠)。この楽曲では、途中で1/24(24分音符)のフレーズにしてみました。高速!
次に2個目のMinというモジュールですが、これはInput AとInput Bのうち、低い方を出力するという役目をしています(水色枠)。今回はMacro 2の入力を[×1.13]でAに入力しつつ(橙枠)、Input Bを[0.5]のままにすることで(白枠)、Macroが上がりきっていない間は0.5となり、さらにMacro 2の入力よりやや大きめな出力を得ることができます。Minの出力は、オシレータ内のLFOのQとCutoffにそれぞれ[30%]でアサインしています(茶枠)。
何のためにこうしたことをやっているかと言うと、ある程度の間は[0.5]固定で上がらないオートメーションにしたいと思ったからです。けど、こういうのは自分でアイデアを実装していくのが楽しいので、やってみてください。
次に、LFOはメインオシレータのFrameを微妙に(5%)振動させつつ(灰枠)、Cutoffを[25%]動かしています。これらには後述のMultiplyがそれぞれ[8%]、[100%]で乗算がかかっています。
最後にMultiplyという、Input A × Input Bの値を出力するモジュールで、Input Aをデフォルト値の[1]、Macro 2を[−1]という設定にしています(紫枠)。Macro 2は基本的に0→1と増加するオートメーションを書いているのですが、減少させたい時に、こういったMultiplyのモジュールを使うと便利です!
各種アサインですが、Macro 1は、メインオシレータFrame(30%)、見えていませんがサブオシレータFrame(70%、Overdriven Sineを使用)と、ややおとなし目の基調となる変化です。
Macro 2は、LFO Depth(100%)、Lane 1 Gain(−35%)、Min Input(1.13)、変調オシレータ(こいつが大事!)のFrame(−60%)、Multiply Input(−1)と、こちらがメインの動きとなります。
上から順にMacro 1、Macro 2。ピッチをこんな感じで書いて、音高がグーッと上がっていくと共にLFOがかかってきて、変調も激しくなるという流れになります(ハァーハァー…長かった)。こんな風にMin/MaxやMultiplyを組み合わせると、1つのオートメーションから複雑な動きを生み出すことができますので便利です! 使ってみてください!
まとめ
実際に楽曲で使っている phase plant の中身を見せてきました。こんな風に色々な音を作り出すことができる、まさに創造性無限大なシンセがコイツでございます! 皆さんの使い方も見てみたいです。ぜひ教えてください。
なお、紙面で説明している都合上、皆さん「こちらの楽曲は一体どんな音がするんだ?」と(当然)思っていることでしょうが、いずれこちらはしっかり1曲にしようと思っております! その時は改めてお知らせしますのでお楽しみに。
というわけで、色々と紹介してきましたが一旦こちらでまとめとなります! また機会がありましたら、是非是非読んであげてくださいませ~。それではかめりあでした! ピース!
かめりあ / Camellia / 大箭マサヤ(not カメリア)プロフィール
作曲家、編曲家、および作詞家。1992年生。2003年、弱冠10歳から母親のPCでDTMを始める。 電波ソングやポップミュージック、ロック・メタル、EDM、ハードコア、ジャズ、民族音楽、ラテンなどの広い音楽ジャンルを制作、 インスト・歌ものを問わず、クラブミュージック、VOCALOID楽曲、東方アレンジ、リミックス、ゲームBGM等を広範囲に手がける。音楽ゲーム「SOUND VOLTEX」で行われた公募にて楽曲を複数曲収録され、とくに同ゲーム内で行われたKAC(KONAMI Arcade Championship)2013オリジナル楽曲コンテストでは最優秀賞を獲得。またbeatmania IIDXシリーズなどで活躍するクリエイターが多数所属している「beatnation RHYZE」にメンバーとして参加し、REFLEC BEATシリーズやBeatmania IIDXシリーズ、jubeatシリーズ等に楽曲を提供している。2014~17年には上記beatnation RHYZEのメンバーとして、さいたまスーパーアリーナ、ZEPP Divercity、豊洲PIT等にてDJ出演を行った。2016年には人気ボーカリストkradnessとのユニット「Quarks」を結成、5月にはワンマンライブを行うなど活動の幅を広げつつ、 7月には自身初となるメジャーソロアルバム「MEGANTO METEOR」をリリース。2017年には継続してBEMANIシリーズに楽曲提供を行いながら、「プリパラ」シリーズの楽曲のリミックス提供を行った。男性ボーカロイド「VY2V3」公式デモソングの制作、「蒼姫ラピス生誕祭」でのDJ出演、「初音ミクのミクミクメイクミク」にてED楽曲を提供するなど、ボカロPとしても活動が多く、 VOCALOID楽曲としては「システマティック・ラヴ」「Fly to night, tonight」「ココロの質量」など、エレクトロ~ダブステップ系の楽曲を主に投稿し人気となっている。
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