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sE Electronics : ドラムとマイクの知識を培う勉強会に潜入!

楽器レンタルやテック派遣、楽器販売・修理メンテナンス、保管といった様々な業務を手掛けるオールインワン株式会社。同社のドラム事業部 nash でドラムテックを務める田中邦明氏は、月に一度、ドラマーの安部川"minzoku"右亮氏、エンジニアの柳島幸一氏と共に、ドラム録音に関する勉強会を開いているそうです。nashのオフィスを訪ね、勉強会の模様を見せてもらうと、音作りのヒントが見えてきました。

ドラマー、エンジニア、ドラムテックの三位一体で録り方を研究


- なぜドラムレコーディングの勉強会をやろうと思ったのですか?

田中:数年前にドラマーの安部川くんから「チューニングとかを色々やってみたい」という話があって、僕自身も録音含め、マイクを通したドラムの音の研究をやり始めた時期だったので、「じゃあ実際にドラムを録ってみようか」という話になったんです。ただ、僕らはドラムのことは知っていても、音響的なこと、マイクのポジショニングなどの経験や知識が足りないので、エンジニアさんがいるといいなと思って。で、エンジニアの柳島さんに声をかけて、ドラマー/エンジニア/ドラムテックの三位一体でやることになりました。柳島さん自身、ドラムのことをもっと知りたいという気持ちがあったので、「勉強会」という名目で月1回集まってやることになったんです。

allinone
左からエンジニア柳島幸一氏、ドラムテック田中邦明氏、ドラマー安部川"minzoku"右亮氏

- それは、いつ頃からですか?

田中:もう2年くらい前でしょうか。勉強会で録音ブースとして使っている部屋は、元々ドラムをレンタルしにきたドラマーさんに叩いてもらうための試奏室なんですけど、以前その部屋でドラムを録ったことがあったんです。

安部川:その時はエンジニアさんに来てもらって、オーバーヘッドにコンデンサーマイク1本、キックにダイナミックマイク1本を立てて録りました。

田中:この部屋で録った音が意外に良かったので、録音機材を集めてここで録ることにしました。何テイクか録りながら、マイクの種類を変えてみたり、マイクの位置を変えてみたり、ドラムキットを変えてみたりと、いろんな実験をしています。

- 実際に勉強会を始めてみて、成果や発見はありましたか?

田中:毎回発見の日々ですね。毎回感動があります。

柳島:僕は普段、ライブのエンジニアをしているんですけど、ライブは限られた時間との戦いなのでドラムの音だけをじっくり作り込む余裕もなくて、何か問題が起きると基本的には対症療法しかできないんです。何かを貼って解決する。みたいな(笑)。ましてライブだと、スピーカーから出る音以外に建物の壁とか床に跳ね返ってくる音の影響とかもあるので、それに対する処理も必要になってくるんです。その点、この勉強会では、モニタースピーカーを通してドラムの音を納得いくまで聴けるので、各マイクのキャラクターや被りの状態までわかりやすくて発見がすごく多いですね。nash にはドラムセットが売るほどたくさんあるので、毎回違うセットを試すこともできます。インチ数が変わると音がどう変わるかとか、そういうことも勉強できます。

nash
nashにはビンテージからモダンまで様々なブランドのドラムセットが揃っている

- そういった知識がライブの現場でも活きてくるわけですね。

柳島:例えばトラブルがあった時や、ミュージシャンからリクエストがあった場面で対応するための引き出しが増えますね。「キックをもっとこういう音にしたい」とか言われた時に、アイディアをいくつか提案できるようになります。

- ドラマーの安部川さんは、どんな成果を得ていますか?

安部川:エンジニアさんやドラムテックさんの仕事の大変さがわかりました。例えば、僕がチューニングで悩んでいると、田中さんがものの30秒ほどで解決してくれたり、柳島さんがマイクのチョイスや角度で被りをなくしてくれたりするんです。それって簡単なことじゃなくて、経験や、血と汗の滲む努力があって身に付いたものなので、その技術は盗むしかないだろうと(笑)。

- エンジニアさんやテックさんの知識を取り込む場なのですね。

安部川:足りなかったノウハウを、すごくたくさん得られています。半年前に自分が作った曲を今聴くと、「こんな酷いミックスしてたんだ……」って思えるくらい耳が良くなっているんですよ。そういう風に、ドラムの道ではないものを勉強しにきている感覚ですね。

安倍川右亮

- ドラムテックというのは、どんな役割を担っているのでしょうか?

田中:主にドラマーのサポートとして、チューニングを通してドラマーとエンジニアなどの橋渡しをすることです。ドラマーにはプレイだけに集中してもらえるよう、ドラムの出音を責任を持って調整します。例えば、タムなどの余分な余韻をとって音を揃えたり、ピッチ感の調整などによって、楽曲内でのスネアなどドラムの立ち位置や響きを調整したりします。うちではドラムのレンタルもしているので、ドラム􏰀のコーディネイトをすることもあります。

- ドラマーの要望に応じて、音色を作っていくのですね。

田中:ドラマーに限らず、エンジニアなどからの要望もあります。録音の基本で言うと"出音を揃える"というのでしょうか。出ていない低音や余分な音をカットするなど、エンジニアさん側で調整することもできますが、できれば元音で調整した方が自然な(基本の)響きを録ることができると思います。

安部川:現場にテックさんがいると、ドラマーは演奏だけに集中できます。レコーディング中、ドラマーは冷静じゃないこともあるので、いつもと同じように音を出しているつもりでも、実はピッチが下がっていたりする。テックさんはそれを冷静な耳で聴いていて、「ちょっと上げようか」って助言をくれたりするんです。

田中:何テイクも録っているとスネアのピッチがだんだん下がってくるのですが、ドラマーはプレイ自体に集中しているので、そのことに気づかないこともあります。もし、そのままパンチイン/パンチアウトをして、曲の途中でピッチが変わってしまったらアウトなので、聴いていてヘンに感じたらブースに入って調整させてもらいます。違和感のあるテイクを、後の作業の中で修正することになるのは、なるべく避けたいんです。

ドラム勉強会

リボンマイクを利用した「グリン・ジョンズ」で録ると色っぽい音になる


- 勉強会はどんな流れで進行していくのですか?

田中:安部川くんが持ってきてくれるオケを使って、ドラムのレコーディングをしていきます。事前に音源を聴かせてもらって、合いそうなドラムキットを僕が用意しておいて、あとは当日に相談しながらシンバルを決めたり、太鼓の口径を変えてみたりします。チューニングをミュートしたタイトな感じにしたり、ジャズピッチのようにカンカンに張ってみたりと実験をしながらレコーディングをしていくと、あとで聴き比べができるんです。

- ドラム本体の調整以外では、どんなことを試していますか?

田中:マイクの種類や立て方ですね。柳島さんのアドバイスのもと、マイクの本数の違いを録音したりします。録り音を聴き、音の被りも含め、その影響を確認しています。マイクの本数が少なくても、いい雰囲気が出ることも結構ありますね。曲によってはビンテージマイクに変更した方が合うこともあります。

柳島:nash には The Beatles の時代のドラムキットもあるので、それを組んで当時のマイクを立ててみたこともあります。「これをジョン・ボーナムのラディックに変えたらどうなるんだろう?」って思ったら、実際にセッティングを変えてみて、当時のマイクの立て方を真似してみたり。

- マイキングを変えるとプレイに影響しませんか?

安部川:叩きにくくなることはないですけど、マイクによって返しの音量が変わったりするので、その違いは面白いですね。最近は普段のレコーディング現場でも、どんなマイクを使っているのかが気になってしまって、見たことないマイクだとエンジニアさんに聞いてみたりもします。

田中:そうやって発見したのが、sE Electronics VR1 というリボンマイクなんですよ。レコーディング現場で見かけて、エンジニアさんに教えてもらいました。リボンマイクを利用した「グリン・ジョンズ」という録り方があって、それとオンマイクを組み合わせると、タムがすごく色っぽい音になるんです。それで、この勉強会でもグリン・ジョンズを検証することにしました。

sE Electronics VR1
sE Electronics VR1

- グリン・ジョンズというのはどんなセッティングなのですか?

柳島:The Beatles や Led Zeppelin のレコーディングに携わっていた、Glyn Johns というイギリス人のエンジニア/プロデューサーがいるんです。彼はスネアの真上とフロアタムのあたりに、リボンマイクを1本ずつ立てていたんですよ。どちらもスネアからの距離を同じにして、パンをL/Rに振って。さらにキックにマイクを1本立てて、合計3本で録るのがグリン・ジョンズの基本形です。本来はキックのマイクも、スネアからの距離を同じにするんですけど、僕らはあえてキックの中に突っ込んでいます。

田中:Led Zeppelin の1stアルバム『Led Zeppelin』の1曲目「Good Times Bad Times」と、2ndアルバム『Led Zeppelin II』の「Moby Dick」では、多分この録音方式を使っていると思いますが、アルバム内で他の楽曲とヘッドホンで聴き比べるとわかりやすいですよ。ドラムの音像に広がりがあって、空気感も伝わります。ルーム感が欲しくて、色々なところにマイクを立てて試しましたが、この部屋ではこの方法でも十分な空気感が録れるようになりました。

グリン・ジョンズ
グリン・ジョンズは頭上とフロアタム横のマイクを、スネアから同じ距離になるように設置する

- そのルーム感は、リボンマイク特有の指向性によるものでしょうか?

柳島:それにも関係していると思いますけど、リボンマイクの場合、入ってきた音をそのまま伝えることができるんです。コンデンサーマイクは構造上、一定レベル以上に音圧がかかるとコンプレション感が出てきてしまいますが、リボンマイクは振動帯が制限なく動くため、入ってきた音をそのまま伝えてくれるので、ナチュラルな音が出てくるんですよ。

田中:その感じがすごく良かったです。この先も VR1 は必須ですね。

柳島:大抵のリボンマイクは筐体が大きいので、VR1 を見た時は「こんなに小さなリボンマイクがあるのか」と。セッティングもしやすいし、持ち歩きもできるし、すごく新鮮でした。リボンマイクは暖かくて柔らかい音が録れるけど、高域のレスポンスが悪いって印象ですが、VR1 は20kHzあたりまで出ていますね。

- スネアまでの距離はどうやって決めていますか?

田中:色々試している段階ですが、今はスネアの中心から110cmぐらいにしています。

グリン・ジョンズ
スネアのヘッドの中心から、マイクまでの距離を測りながらセッティングを行う

V BEATもV7Xも被りが少ないので他のマイクが活きてくる


- グリン・ジョンズ以外のセッティングには、どんなマイクを使っていますか?

田中:今日の勉強会では、キックに sE Electronics の V KICK(ダイナミックマイク)と sE2300(コンデンサーマイク)を立てています。

柳島:V KICK にはEQが付いていて、今日は「Modern/Classic」という組み合わせにしました。中低域をModern、高音域をClassicにすることでハイが少し落ちるんです。「Classic/Classic」にした方がナチュラルですけど、ちょっとクセを付けるという意味では、ミッドが凹んで、なおかつハイが落ちるような「Modern/Classic」の方が合っているのかなと。

V KICKとsE2300
V KICK(左)とsE2300(右)。ヘッドに穴がある場合はそこにV KICKを突っ込む

田中:AKG D112(ダイナミックマイク)で録るといつも D112 の音になるんですけど、V KICK で録ると、いい音に思える時とそうでない時があって。どうやらドラムの生音に原因があるようで、いい音はいい、悪い音は悪いってことが鮮明にわかってしまうんです。V KICK はローの出方をキレイに再現してくれるから、違いがわかりやすいのかもしれません。

柳島:ショックマウントを内蔵しているせいか、振動からくる余分な低域を拾わないので、タイトに聞こえますね。それと、これは sE Electronics V BEAT にも言えることですが、指向性が狭いので、マイクの向きを調整するだけで被りをかなり軽減できます。そのうえ、V KICK と V BEAT はサウンドがすごく明瞭で、タム1個1個の輪郭が出てくるんです。VR1 を足した時の混ざり方もいいですよね。しかもこのマイクはすごく頑丈なんですよ。

sE Electronics V BEAT
タムに設置されたV BEAT

- タムやスネアには V BEAT を立てているのですね。

柳島:スネアのボトムだけは sE Electronics V7X です。V BEAT に比べると明るめの音質で、キラッとした感じがありますね。V7X も V BEAT も本当に被りが少ないので、そのおかげで他のマイクが活きてきます。タムを録る時、シンバルの位置によっては被りの音がすごく気になる場合があるんですけど、V BEAT だとそれがないんですよ。定番の Sennheiser MD421(ダイナミックマイク)もいいマイクなので使用することもあるんですけど、シンバルとの位置関係によっては被りの音がイヤな感じなので、あとで余計な処理をしなくてはならない時があるんです。それに MD421 は筐体が大きいので、ライブ現場ではそんなに自由なセッティングができません。その点、サイズの小さい V BEAT は融通が効きますね。

- では、ハイハットにはどんなマイクを立てていますか?

田中:sE Electronics sE8 です。Heritage Audio HA73X2 Elite(ヘッドアンプ)と組み合わせた時の空気感がいいんですよ。ルームマイクにもいいけど、ハイハットにもしっくりきました。今日はオーバーヘッドにも使っています。HA73X2 Elite は、ここで以前から使っていた Vintech-Audio X73i(ヘッドアンプ)と比べると、艶もあるスッキリとしたキャラクターです。

sE Electronics sE8
sE Electronics sE8

- プリアンプとの相性も大事ですね。

田中:グリン・ジョンズに使っている VR1 は、 Universal Audio Apollo x4 (DSP内蔵オーディオインターフェイス)のUnisonに対応した V76(プリアンプ・プラグイン)と相性がいいですね。自分1人でドラムを録る時は、アウトボードのプリアンプをブースに持ち込むのが大変なので、Apollo x4 を持ち込んでいます。キックとスネアとグリン・ジョンズ(L/R)の合計4chが録れれば、ドラムの雰囲気は大方録れますから。手軽で音もいいので、すごく使いやすいです。

- ハードのプリアンプと、プラグインのプリアンプを使い分けているのですね。

田中:同じくUnisonプラグインの UA 610(プリアンプ)と、ハードウェアの Universal Audio LA-610 MkII(チャンネルストリップ)を比べてみたら、正直、前者の方が使いやすいんですよ。UA 610 にはアウトのツマミがあるので、インプットレベルが結構突っ込めるんです。あと、LA-610 MkII にはLA-2タイプのコンプが入っているんですけど、Unisonプラグインの LA-3A(コンプレッサー)の方が効き目が攻撃的で使いやすいですね。

Apollo x4 UAD-2 Heritage Audio HA73
左写真の最上段がLA-610 MkII、そのすぐ下がHA73。右写真はMacに接続したApollo x4

田中邦明

ロス・ガーフィルドとの出会いをキッカケにドラム専門レンタル会社、ナッシュを設立。フジロック、サマソニなどのイベントへドラムを提供する一方、テックとしてこれまで「スーパービーバー」、「雨のパレード」、「ユアネス」などのレコーディングに参加。

柳島幸一

1972年より音響の仕事を始める。1981年、松本英彦グループでソ連ツアーに同行。 同氏に認められ、以後ジャズを中心とした活動を開始する。アコースティック楽器のMixを得意とし、そのサウンドは前田憲男、佐藤允彦の両氏からもお墨付きである。

安部川"minzoku"右亮

向山テツのアシスタントを務め、数多くのトップアーティストと交流。2007年メジャーデビューの後、現在はTHE STARBEMS、大槻マキ、等サポート。セルフRECをはじめレッスン・クリニックも好評開催中!!!

写真:桧川泰治

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