基本的に、オンアクシスでフラットな周波数特性(約1~2dBの範囲内)を備えるマイクロフォンは、例外なく無指向性となっています。通常、これらのマイクは音楽の録音ではなく音響測定等を行うように設計されていますが、音楽収録用として使用できないというわけではありません - Bruel & Kjaer、DPA、Earthworks といったブランドのマイクは両方の用途に適しています。
しかし音楽収録の場においては、無指向性のマイクが常にベストなチョイスとは限りません。この場合、マイクの指向性を例えばカーディオイドにすることで結果は一変します。それほどフラットというわけではありませんが、いくつかのマイクロフォンには愛すべき固有の色付けがなされた周波数特性が備わっています。もちろん、環境や状況によってはフラットなものが望ましい場合もありますが。
マイクロフォンの特性がフラットにならない理由のひとつとして、近接効果の影響が挙げられます。指向性を持つマイクロフォンでは、ソースをマイクに近づけるにつれ低域が強調されます。これがいわゆる近接効果であり、マイクの特性をフラットに保つにはソースとマイクの距離間に注意を払う必要があります。フラットポイントよりも近いと低域はブーストされ、離れると低域は減っていきます。
Electro-Voice RE20 のようないくつかのマイクロフォンでは近接効果をある程度補正することが可能ですが、その効果は限定的です。理論上、近接効果のない指向性マイクを作成することは可能ですが、実際には様々な理由で現実的ではありません。
図は無指向性カプセルと双指向性カプセルの基本的な違いを表したものです。カーディオイドマイクはこれら2つの設計のコンビネーションと考えることができますが、本質はより複雑です。このように、シングルパターンのみの無指向性マイクは、ダイアフラムがシールドされたカプセルにマウントされているだけの非常にシンプルな設計であるがゆえ、幾分フラットな傾向となります。一方、カプセルが指向性を持つためには、位相シフトネットワークを備えた音響ポートが必要です。例えば、高周波数帯において最もフラットな指向性マイクのひとつとされる Sennheiser MKH30 も双指向性のために近接効果に対しては特に敏感で、近距離ではその低域はフラットではありません。
フラットである必要性
Sphere マイクは他のマイクロフォンのモデリングのために設計されていますが、現実には存在しない新しい種類のマイクを作成することもできます。そのひとつは「カスタム」マイクタイプカテゴリ内にある "Sphere Linear" マイクモデルです。
他のラージダイアフラムコンデンサーマイクと同様に、Sphere マイクロフォンの特性も完全にフラットではありません。しかしDSP処理による補正フィルターを通すことで、ほぼフラットな特性を実現します。Sphere Linear モデルは、デフォルトでは約50cmの距離でフラットですが、Off-Axis Correction™ を有効にすれば任意の距離でその特性を得ることができます。Off-Axis Correction™ には、”On-Axis Distance” コントロールと ”Off-Axis Distance” コントロールがあります。Sphere Linear モデルを使う場合、On-Axis Distance で、オンアクシスの周波数特性がフラットになる距離を設定し、Off-Axis Distance では設定された指向性においてどれほどの距離で最も効果的にオフアクシスリジェクションを得られるかを調整します。
もちろん、ひとつのマイクでオーケストラ等の複数の音源を録音するのは珍しいことではありません。ソースが約4メートルを超えると距離はあまり重要ではなくなり、一部の楽器はフラットな特性となるかもしれません。ズームカメラのレンズのように焦点を "Infinity" に設定しましょう。
フラットなオフアクシス
Sphere はオフアクシス特性のフラット化によって、さらに一歩踏み出しています。すべての方向で同時に特性を完全にフラット化することはできませんが、それでもかなり理想的な指向特性を生成することが可能です。
もうひとつのカスタムマイクロフォンモデル "Sphere Linear Diffuse" は、反響等のあらゆる方向からの音に対してもよりフラットな特性を提供します。これはルームマイキングや、オフアクシスのサウンドが重要な場での収録に役立つでしょう。
必要に応じて、Sphere Linear モデルを特定のオフアクシス方向においてフラットになるよう調整することも可能です。これはライブ収録時にオーディエンスの視界の邪魔にならないよう、やむを得ずオフアクシスでマイクを設置する場合等に有効です。また、主要なサウンドソースがオフアクシスとなる可能性が高いステレオ収録を1本の Sphere マイクで行う場合にも役立つでしょう。例えばソースから45度のオフアクシスでマイクロフォンを設置した場合、アクシスコントロールを45度に設定すれば、マイクロフォンは45度の軸外においてはフラットな状態になります。しかしこれはオンアクシス上ではフラットではないということを覚えておいてください。指向性に応じてアクシス補正は90度まで機能し、およそ±45度の範囲で最良の結果が得られます。90度以上となると、なだらかな高域のロールオフが発生します。
双指向性(フィギュア8)
マルチパターンのラージダイアフラムコンデンサーマイクでは双指向性モードにすると特に色付けが濃くなるため、時として良い結果が得られないことがあります。これは高域特性がフラットではなく、近接効果も非常に強くなるためです。ハイパーカーディオイドの設定でも問題となる可能性はありますが、通常はそれほどではありません。双指向性のリボンマイクはとても滑らかな高域特性を持っていますが、実質的に高いロールオフと大きな近接効果も有しており、これらは必ずしも望ましいものではありません。Sphere を使えば他のマイクでは得られない、ほぼフラットな双指向性マイクを実現します - 色付けなく、双指向性マイクならではの優れたサイドリジェクションが必要な場合、特に便利です。
Ocean Way Studios プラグイン
Universal Audio の Ocean Way Studios プラグインとの使用では、興味深い結果を得ることができました。Re-Mic モードに設定すると、このプラグインはスタジオの響きと組み合わされた貴重なヴィンテージ・マイクのコレクションをモデル化します。そこで実際に録音したかのような結果に可能な限り近づけたいのであれば、プラグインにはドライでニュートラルな信号を送ると良いでしょう。元のソースマイクによる色付けは、当然ながらモデリングの結果に影響します。収録が行われた部屋の反響もしかりです。このことを念頭に置き、Sphere Linear モデルではオフコレクションパターンをハイパーカーディオイドに設定して、ルームピックアップを最小限に抑えることをお勧めします。
フラットであることの良さ
多くのレコーディングエンジニアにとってフラットなマイクの響きは馴染みがなく、つまらなく聞こえたり、少し奇妙に感じたりするかもしれません。理論上は正確なものであるかもしれませんが、マイクの選択は、音楽ジャンル、ビジョン、サウンドソースそのもの等、多くの要素を踏まえ芸術的な主観から行われることでしょう。
しかし、求めるサウンドを得るためにEQを使う場合でも、その出発点として Sphere テクノロジーが提供するフラットな特性は有用となるでしょう。ちょっとしたハイ/ローシェルフのブーストや、Proximity EQ コントロールのわずかな調整だけで済むかもしれません。もちろん、指向性を思いのままコントロールしながらEQやコンプレッサー等のサードパーティ製プラグインを追加することで、理想的なマイクロフォンのシグナルチェーンを作成することも可能ですよ。