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Townsend Labs : ダーク・サイド・オブ・ザ・マイク - アクシス(軸)が重要な理由

By Chris Townsend | 2016年9月24日

全てのマイクロフォンは、音がやってくる方向に依存する周波数特性を備えています。この性質のため、オーディオエンジニア達は、正しく(あるいは意図したクォリティで)レコーディングを行うためにマイクロフォンの位置を調節します。この行為はおそらくマイクロフォンが登場したその時から行われているでしょう。

一部のマイクロフォン、特にカーディオイドコンデンサーの場合、約20度のオフアクシスで最もフラットかつスムースな特性を得ることができます。45度くらいで心地良くあたたかかみのあるサウンドになります。実際、多くのリボンマイクでは45度のオフアクシスで設置すると少し明るい感じになります。

この効果は音の波長がマイクロフォンのダイアフラムのサイズに相当する高域(主に5kHz以上)で主に発生します。指向性を持つマイクロフォンの場合、近接効果による低域のブーストはオフアクシスで設置することで軽減することができます。90度のオフアクシスでは本質的に近接効果は生じません。

下図は、現在生産されている AKG 414 XLII をカーディオイドパターンに設定した際の周波数特性の比較です。これらの信号はノーマライズ済みで、青色の曲線はオンアクシス、緑色は45度、赤色は90度オフアクシスの場合の特性となります。この図が示す通り、45度に設置した場合には高域が2~3dB下がり、90度の場合はよりフラットな特性でありつつ、10kHz以上がロールオフしています。


次に、U47 のカーディオイドモードを見てみましょう。414 と同様に、軸から外れた時の特性の違いを確認できます。


U47 のオムニモードではさらに劇的な結果となります。


しかし周波数特性を変えるためにオフアクシスにすることは必ずしも理想的ではありません。指向性を持つマイクの場合、部屋の反射やバックグラウンドノイズの割合が大きくなり、マイクの方向性が弱まってしまったかのように感じるでしょう。

特定の用途によっては意図的にルームアンビエンスを増やして録ることが良い結果に繋がることもあります。しかし多くの場合、マイクロフォンのアクシス調整は高域(例えばシビランス)の軽減を目的として行われます - よって、ルームアンビエンスの増加は望ましくない副作用と言えるでしょう。

なぜ、Sphere マイクロフォンのモデリング技術は違うのか

Sphere のモデリング技術では、これらのパラメーターを独立して扱えるように設計されているため、収録時に頭を抱える必要はなくなります - なぜなら、録音した後にいくらでも調整が可能だからです! Sphere の "AXIS" コントロールではマイク軸を仮想的に動かすことができ、実際にはオンアクシスで収録された音あっても、モデリング処理によってオフアクシスの特性へと変えることができます(その逆もしかりです)。仮に AXIS 設定を45度にすると、オンアクシス上にある Sphere でモデル化されたマイクロフォンの周波数特性は、あたかも45度オフアクシスでセッティングされているかのようになります。

Sphere の Off-Axis Correction™ 機能を使用すると、指向性を連続的に調整することができます。そのため、実際に収録した音に大きな影響を与えずにルームサウンドを増減することも可能です。例えば気に入ったボーカルサウンドがあったとします。しかしリバーブ感が少し物足りない...そんな時にはまず指向性をカーディオイド、さらにはサブカーディオイド、あるいは無指向性に近づけてみましょう。この効果はそれほど明確なものではないかもしれませんが、時として非常に強力なものとないます。(詳細は、Sphereのユーザーガイドの”Off-Axis Correction”の章をご覧下さい。)

指向性を持つマイクをオフアクシスで使用すると音量レベルが下がります。これはマイクが持つ指向性が、前面に届いた音を最も強調するという性質のためです。これを補うため、AXIS コントロールは音量ができるだけ一定になるようレベルをノーマライズし、様々な設定を容易に試せるようになっています。

艶やかな背面

理論上、オムニや双指向性のマイクロフォンは、正面/背面ともに同じ反応を示さなければなりません。しかし実際には異なるケースがほとんどで、違うマイクどうしが1つになっていると言えるほど特性が異なるマイクも存在します。例えば一定のステレオイメージを生成するためにマイクの対称性が必要なミッド/サイド(MS)収録の場合、このようなマイクは良い選択とは言えません。

RCA 77DX や Royer R121 といった一部の双指向性リボンマイクのパターンは非対称で、背面の音は前面の音とは異なります。77DX の場合、内部のアコースティックラビリンスによって様々な指向性を選択可能とする反面、リアでの収録音が少し暗い感じになるという副作用を持っています。これは 77DX をオムニモードに設定した場合でも同様です。

Royer の場合、特許取得済みのオフセットリボンデザインによって意図的な差異が生まれ、異なる2つの魅力的なサウンドが与えられます。背面は前面に比べて少しブライトで、高域のディテールを維持したいアコースティックギターやボーカルに最適なものとなっています。

下図の通り、121 の背面(緑色)は、オンアクシス(青色)に対して10kHzで4dB、12kHzで8dBほど強調されていることを確認できます。


オムニ型のスモールダイアフラムコンデンサーマイクは、マイク本体が高域をブロックする性質上、背面の方が正面よりも暗くなります。このタイプのマイクロフォンのリアサウンドを使うのは極めて稀なことです。ただし、明る過ぎるソース素材に対しては有効かもしれません。

Sphere のマイクモデルで背面の音を選択するには "AXIS" コントロールを180度に設定し、耳をガイドにしてください。ほとんどのスーパー、ハイパー、サブカーディオイドを含むカーディオイドマイクの場合、オフアクシスの特性は非常に色付けの濃い、およそ良い音とは言い難い結果になります - カーディオイドモデルで AXIS コントロールを180度に設定してもそのサウンドに驚かないでください。同様に、双指向モデルでの90度の設定はとても変わった結果になります。

無限の可能性

もちろん、一般のマイクと同じように、Sphere マイクを実際にオフアクシスに設置することも可能です。ポイントとなるソース(例:胸の反響が少ないボーカリストで、比較的ドライな部屋での収録を想定)をレコーディングする場合、AXIS コントロールは実際にマイクを動かした際と非常に近い結果をもたらします。

一方、ギターキャビネットのようなマイクのサイズに比べて大きなソースをレコーディングする場合、マイクを物理的にオフアクシスで使用すると、ソースの別領域がフォーカスされてしまい、意図しない音となってしまう可能性も考えられます。AXIS コントロールは指向性を回転させるわけではないため、マイクを別の箇所へ改めてフォーカスすることはありません。

最初に述べた通り、指向性の変更はすべてのケースにおいて必ずしもベストな手法というわけではありません。
ご自身の環境で実際にいろいろとお試しください。定説に従わず、こころゆくまで!

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