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Universal Audio LA-610 MkII クラシックチャンネルストリップに触れてみよう!

ボーカル、ギター、ベース収録を例に挙げ、人気のチャンネルストリップ Universal Audio LA-610 MkII を使いこなすヒントをご紹介します。

レコーディング業界のエンジニアは度々「チャンネルストリップ」と呼ばれる機材について語り合います。これはハイエンドミキサーの入力段:プリアンプ、イコライザー、ダイナミクスプロセッサーセクションの総称です。Universal Audio LA-610 MkII はまさにこの「チャンネルストリップ」であり、ハードディスクやテープに録音する際に求められる高い水準のサウンドを手頃な価格で入手できる優れた製品です。

LA-610 MkII は、チューブ増幅回路を中心に据えたプリアンプ部とオプティカルコンプレッサーという、2つのビンテージテクノロジーを高品質かつ現代的な部品を使って再現したモデルです。これにより、クリーンなサウンドからチューブ回路を駆使した幅広い色付けを行うことができます。LA-2A スタイルのエレクトロオプティカルコンプレッサー/リミッターにより、広範囲のアプリケーションソースに適用できます。特にボーカル、ギターやベースに最適です。コンプレッサーは、シルキーかつスムース、ビンテージとモダンなサウンドの両方を享受できます。

ここで、LA-610 MkII の機能を実際のセッションで最大限引き出す方法について、少し説明しましょう。この機材を使って良いサウンドを出すことはとても簡単ですが、ボーカル、ギターやベース録音の際のヒントをいくつか紹介いたします。それを基に、音楽にマッチするよう作り込んでいくのがいいでしょう。

ここでは各コンポーネントがどのような役割をするかについて、詳細に語ることはしません。それに関してはマニュアルを参照していただくとして、LA-610 MkII の二つのメインセクションについて、その性能を最大限引き出す方法についてのみ、述べることにしましょう。

610 - 使いこなしの極意

UA の歴史的なプリアンプ 610 の回路デザインは、LA-610 MkII において、若干の改良が加えられています。中でも一番顕著なものは、高周波帯域における絶妙なブースト感。コンプレッサーセクションの温かみによる損失分を補うために加えられています。ハイ/ローシェルフ EQ も搭載され、音質変化を楽しむことができるようになっています。

ミュージシャンがチューブについて語る際、誤ってディストーションとあわせて語られることが多いのですが、実際のところ、良く考え抜かれたチューブ回路デザインは、入力ゲイン設定を適正に行っている場合、とても忠実でクリーンな増幅を行います。チューブ回路に負荷をかけると、入力信号における偶数次の倍音を強調することになり、一般的に「音楽的」、あるいは「温かい」と呼ばれるサウンドに変化していきます。LA-610 MkII の回路デザインでは、合計5個のチューブが用いられています。このうちの幾つかがプリアンプ回路に用いられ、あとはコンプレッサーのキャラクターを制御するために用いられています。クリーンな特性と倍音豊かな特性を組み合わせながら、音作りを行うことになります。

プリアンプセクションは、ダイナミック、リボン、コンデンサマイクなど、いかなるマイクにも対応できるよう豊かなゲインを確保しています。さらにギターやベースのアクティブ/パッシブピックアップに対応できるよう設計されています。ライン入力を使って、キーボードや外部ライン入力にチューブのテクスチャーを加味することも可能です。

ここでも、カギはゲイン "Gain" とレベル "Level" コントロールの使い方になります。

クリーン

一般的に、信号をクリーンな形で増幅する方法は、Gain をできる限りしぼった状態で、Level コントロールを上げていきます。Level ノブ設定 5~7 では通常クリーンな信号を出力します:ところが、受信デバイス側が最終的な出力ゲインを決定します。

よって、マイクを使って、できる限り色を付けないよう入力をブーストするには、コンプレッサーセクションをバイパス、Gain ノブを -10 に設定し、Level をゆっくりと上げて 7 くらいに設定します。マイク入力への出力が高すぎてLevel コントロールを 3~4 以上に上げられない場合、-15 パッドスイッチを使います (パッドスイッチはマイク入力のみに使用可能、DI やライン入力では使えない)。

色付けの少ないトーンが欲しい場合、上記のような使い方を推奨しています。

ダーティ

もちろん、いつかチューブ機器の特徴を最大限に活かした使い方を試したり、音楽にパワーを加えたいこともあるでしょう。そんな時はコンプレッサー/リミッターの Gain 設定を高めに、Level 設定を低めに設定するのが手っ取り早い方法です。そこからさらに、Gain コントロールを調整、コンプレッサー/リミッターを駆使して、色付けを行っていきます。ギターやベースを使った方法を紹介しましょう。

創造性を失わないコンプレッサーセクション

610 プリアンプと EQ の後段にはコンプレッサーセクションがあります。これは、史上最も人気のあったコンプレッサーと言っていい、Teletronix® LA-2A をベースに設計されています。"LA" は"Leveling Amplifier" の略で、文字通り、ダイナミックレンジを均一化する回路のことで、これは今日、コンプレッサーそのものの機能を指しますが、ここでは「均一化」の概念に焦点を合わせて説明しましょう。

コンプレッサーが録音に使われた場合、基本的に二つの利点が考えられます。第一に、ミックスにおける急激なレベル増加に対して、自動的にピークを抑える機能。さらに静かなパートを前に押し出す特性もあります。例えば、ボーカルは本質的にダイナミックレンジの広いパートですが、全体的にレベルを均一化できます。よって、歌詞が部分的にミックスに埋もれてしまった場合などはまさに、コンプレッサーの面目躍如と言えるでしょう。ピークを上手に抑えることができれば、歌い手のニュアンスを損なうことなく、全体的な音量レベルを上げることができます。

次に、コンプレッサーは上手く使うと、ボーカルや演奏に一貫性が出てきます。楽器の周波数帯域は広範囲に及び、そのうえ同音量レベルでないため、コンプレッサーを通すことで、すべての音を同等のレベルで鳴らすことができるのです。こういうわけで多くのエンジニアは、ギターやベース、キックドラムなどのパーカッションサウンドでコンプレッサーを使用します。楽器の特性を変えることなく、演奏される音を一定レベルで維持します。

LA-610 MkII のコンプレッサー/リミッターの特徴は何より、操作がシンプルなことでしょう:例えば、Peak Reduction のノブ一つで、回路のほぼ全体をコントロールできます。コンプレッサー/リミッターは入力信号の周波数と強さに対応し、パラメーターを自動的に調整します。したがってユーザーは、あれこれ考える必要もなく、やるべきことはただ一つ、サウンドを聴きながら、Peak Reduction ノブを回すだけなのです。レシオ、アタック、ディケイタイムやニーシェイプについても心配は無用です。オプティカルコンプレッサー回路は、録音時の細々とした事柄をすべて一手に引き受けてくれるため、ユーザーの創造性を損なうことなく、じっくりと音作りに集中できます。

出力レベルが足りない場合は、コンプレッサーの Gain ノブを使って、出力信号を上げます。ここでもチューブゲイン段が使用され、音色にメリハリを加えることができるようになっています。

コンプレッサーの使用に精通していて、単純にリファレンス情報が欲しい方には、LA-610 MkII は、レシオ 3:1 でコンプレッションがかかり始めます。マイルドなコンプレッションをアコースティックギターやボーカルなどにかけたい場合、これはとても一般的な設定です。さらに、回路は入力信号にもよりますが、アタックタイム 10ms で動作し始め、デュアルステージリリースでは前半 60ms で始まり、残りは1秒~15秒 (信号の周波数成分に依存) となります。いかなる素材を録音するかを問わず、LA-610 MkIIは、音に対して自然なディケイが加わることになります。これはオプティカルコンプレッサーの魔術とも言えるものです。

歪みの回避

LA-610 MkIIのI/Oは、比較的分かりやすい構造になっています。ただし、ライン出力ジャック (XLRコネクタ) がプロ仕様の信号 (+4dBu) を出力することは覚えてましょう。録音する前段階でミキサーにLA-610 MkII をインサートしておけば、クリーンで歪みのない信号を送ることができます。LA-610 MkIIの出力を例えば、Avid M-Box 2 のように広域のラインレベル入力に対応しているオーディオインターフェイスの入力端子に接続する場合、問題が生じる可能性があります。M-Box 2 にLA-610 MkII の出力を接続する場合、インターフェイスのチャンネルの入力ソースを、あらかじめ DI/Line に設定しておきましょう。次にチャンネルの入力コントロールを反時計回り方向に振り切っておきます。さらにインターフェイスのパッドスイッチを有効にして、+4dBu 入力 (M-Box 2 の入力コントロールは 17dB のヘッドルームを備えている) に対応できるよう設定します。最後に、M-Box 2 の対応する 1/4' TRS 入力チャンネルに、LA-610 MkII ライン出力端子を接続します。

XLRメス - TRSオス ケーブル

使用するケーブルは、一方がメスの XLR 端子 (LA-610 MkII ライン出力側)、他方インターフェイス側は、TRS 端子を備えたものを使用します(画像参照)。また、XLR マイクケーブルに接続する TRS アダプタも利用できます。

キーボードのようにラインレベル出力の楽器を使用する場合、LA-610 MkII の DI 入力ではなく、リヤパネルにあるライン入力端子に接続します。キーボードに 1/4 端子がある場合、一方に 1/4 端子 (キーボードに接続)、他方にオスの XLR 端子 (LA-610 MkIIに接続) を備えたケーブルを使います。DI 入力は元来、ギター/ベース専用に設けられた端子ですが、ビンテージキーボードなど低出力のキーボードにも使用できます (Fender Rhodes, Wurlitzer, Hohner Clavinets など)。

メーターにとらわれるな!

LA-610 MkII コンプレッサーは仕事の手間を省ける便利なツールですが、VU メーターを使って全体的な音量レベルの設定を行います。主に3通りの確認事項があるため、メーターには3種類の設定があります。Preamp 設定は文字通り、プリアンプ段における入力信号レベルを示します。また、Output 設定では、コンプレッサー/リミッターの後段で加えるメイクアップゲインを確認する際便利な設定です。Output メーター設定は、コンプレッサー/リミッターが有効な場合のみ動作します。

使用経験がなければ若干わかりにくいかもしれませんが、ゲインリダクション (GR) 設定を理解しておくと後々有益です。設定自体は単純です。これは信号のピークが、コンプレッサーによってどの程度圧縮されているかを示すものです。メーター上の黒数字は、ゲインリダクションのdB 値を示します。例えば、3 dB のゲインリダクションを得たい場合、メーターを GR 表示に切り替え、ピークリダクション "Peak Reduction" ノブを上げていき、針が - 3 のラインまで振れるよう設定します。つまりピークリダクション設定を高くするほど、針はより大きく振れるようになります。

多くのエンジニアは、後日、同じサウンドを再生できるようにするため、セッション中の録音ログを残しておき、楽器毎に使用したゲインリダクション値を記録しておきます。

メーターが動かない場合、コンプレッサー/リミッターが有効になっているかどうか、GR、あるいは Peak Reduction がゼロに設定されていないか、または、Output が選択されているにもかかわらず、Gain ノブがゼロになっているかを確認しましょう。

ボーカルの収録

ラージダイアフラムコンデンサーマイクを使ってのボーカル録音

ボーカルはささやくようなウィスパーボイスから金切り声のようなスクリームまで広範囲に渡るため、レベリングアンプがその特性を最も発揮できるアプリケーションでもあります。いわゆる掛け録りやミックス作業の中でのコンプレッサー機能など、ボーカル録音における恩恵は図り知れません。LA-610 MkII が素晴らしいのは、クリーンで、かかっているのかいないのか分からないほどの透明なコンプレッション効果を得られること。さらにプリアンプ、およびチューブステージを増幅させて歌い手の声に厚みを加えられることです。

例えば、カントリーミュージックの女性歌手の録音で、ラージダイアフラムのコンデンサマイクとLA-610 MkII を使用しました。芯の通ったクリーンなサウンドが欲しかったので、プリアンプ Gain コントロールを 0 に、Level ノブを 4.5 に設定しました。結果は望んだ通りのクリーンなサウンドでしたが、これに少しばかり倍音を加えるために、Gain を -5 から -10に、Level を 7 に設定しています。

曲のイントロ部分には伴奏があり、カーディオイドマイクの隣接効果より抑制の効く手法を使いたかったので、声の低音部を少しブーストするため、200Hz 付近で 1.5 dB 分の EQ を加えました。

メロディーと歌詞のため、必然的にボーカルパートに広いダイナミックレンジが要求されました。コンプレッサーをインサートし、ゲインリダクションを適用して、一番大きい音のパートで、-6 dB 付近を指すよう設定。こうすることで、比較的静かな部分がしっかり聞こえるようになる反面、曲の持つエモーションと合致するよう彼女の声に力強さが加わりました。また、コーラスパートの繊細な「la-la-la」の部分では、ピークリダクションがやや弱くかかるようになって緊張感が緩和されました。

ピークリダクションを -6 dB から -10 dB に設定することで、ボーカルトラックは全体的に均一化されたことに気づいたでしょうか。このレベルでゲインリダクションをソロトラックにかけると、声にコンプレッサーがかかっていることが明白になってしまいます。しかし、ミックスの中でボーカルパートを聴いた時にはコンプレッサーはさほど目立たなくなります。

ボーカルトラックサンプル (前半はコンプレッサーなし、後半はコンプレッサーをかけた状態)

ゲインリダクションを高めにかけることで、思いもよらない利点があります。それはボーカル録音の際のナチュラルなルームリバーブが録れることです。ミックスの中でさえ、ナチュラルなルームリバーブのディケイ部分を確認できます。

バックグラウンドボーカルも同様に、LA-610 MkII を使用する利点があります。通常、バックグラウンドボーカルは、リードボーカルの背後に配置されることが多いため、バックグラウンドボーカルトラックの言葉一つひとつが鮮明に聞こえる必要があるのです。

アコースティックギターの収録

スモールダイアフラムのコンデンサーマイクを12フレット付近に向ける

エンジニアがアコースティックギタートラックにコンプレッサーをかける主な理由の一つは、演奏を均一化するためです。例えば、プレイヤーがギターをストローク奏法、あるいはフィンガーピッキング奏法で弾く場合、弾くポジションによってダイナミックレンジに偏りができ、特定の音やコードだけが他の音より目立ってしまうことが多々あります。LA-610 MkII のようなオプトコンプレッサーは、リスナーに気づかれることなく、信号を上手に均一化できるツールなのです。

主にストローク奏法で弦を掻き鳴らすパートでは、小型ダイヤフラムのカーディオイドタイプのコンデンサマイクを、ネックから6インチほどの場所に設置、12フレットを狙いました。LA-610 MkII 側は、クリーンなプリアンプ設定 (Gain = 10, Level = 7) から、-3 から -6 dB のゲインリダクションで、メイクアップゲイン "Make Up Gain" ノブを 6 以上に設定しました。ただギタリストは、少し演奏した後で、もう少しエッジの効いたサウンドが欲しいと言い出したため、結局Level = 5.5, Gain = 0 の設定に落ち着きました。次に EQ を使って、200Hz付近を 1.5 dB をカット、こうすることでコンプレッサーが動きのあるギターパートに対してスムースにかかるようになりました。

次の曲ではフィンガーピッキング奏法が使われたため、ラージダイアフラムのカーディオイドコンデンサマイクを使って、今度は 8 インチ離して、12フレットを狙って設置しました。ギターのボディが温かい共振音と、フィンガーピッキング奏法による、きらびやかな高音を同時に捉えたかったため、マイクをサウンドホールに心持ち向けています。Gain は -5 に、Level を 7.5 に設定すると、楽器の持つ周波数レンジをバランス良く捉えることが出来るようになります。ゲインリダクションを -3 から -6 加えることで、とても心地よく自然に音のつぶを揃えることができるようになりました。

ラージダイアフラムのコンデンサーマイクを12フレット付近に向ける

ボーカルテイクを2つ録った後、彼女 (歌い手) は60年代 Nick Drake 風のフォークギターサウンドを録り直すことにしました。柔らかい音を再現するため、Level を 4.5 に、Gain を +5 押し上げてチューブ回路に負荷を加えます。最後に EQ を使って、200 Hz 付近を 3 dB ブースト、7 kHz 付近を -3 dB カットします。LA-610 MkIIのプリアンプは、初期 610 モデルより比較的明るい音質なので、録音品質を損なわない程度に高域を抑えました。-3 から -6 dB のコンプレッションを加えることで、ギターの音は温かく、ウッディーなサウンドになり、ボーカルを上手く引き立てるようになりました。

アコースティックギターピッキングサンプル (最初はLA-610 MkII のコンプレッサーなしの状態。次に、EQなしで軽めのコンプレッションをかけた場合。最後にEQをかけて、コンプレッサーをかけた場合 - EQ により心持ちダークなイメージになった)

エレキギターの収録

LA-610 MkII に関して言えることは、エレキギターと相性がいいということ。DI 入力に接続するだけで、Fender ストラトキャスターの5タイプのピックアップ設定は、どの設定においても、ビッグで温かいサウンドを出力しました。この際のLA-610 MkII 側の設定は、Hi-Z 2.2M 設定で、パッシブピックアップとのインピーダンスマッチング専用設定となります。最もクリーンなゲイン設定は:Gain = -10, Level = 7 です。

この曲のギターパートは、リズミックなコードバッキングとメロディの両方を含んでいました。デジタル領域でのレベルオーバーを避けるため、リミッターを利用することにしました。その際、-3 dB のゲインリダクション設定だけで事足りました。

基本的に VU メーターを見ながら出力レベルを調整します。この際、コンプレッサーを介さない Preamp モードとコンプレッサーをインサートした Output モードを切り替えながら調整します。この2通りのモードを交互に切り替え、同時に DAW の入力メーターから目を離さずに、ピークを越えないギリギリの入力レベル(最大ビット数を稼ぐ)で録音します。こうすればデジタル由来の歪みを回避できます。またこの時点では EQ を調整する必要もありません。よってギターの音は良い意味でも悪い意味でもすべて取り込まれます。

ストーンズ風のリズムトラックは、LA-610 MkII の Gain を +10 までブーストし、Level は 5 に設定。この設定ではコンプレッサーに若干の負荷をかけることになります。この段階ではギターは、不自然な固まりに聴こえ、ファズのようなディストーションサウンドになります。ギターパートはパーカッシブだったため、Peak Reduction ノブを 6.5 ~ 7 に設定しました。結果、GR モードでは、VU メーターは、-15 ~ -20 dB を指していました。トランジェントがシャープになり、ドラムパートにパンチを加える形になりました。コンプレッサーの Gain ノブを 4 に設定すると、DAW 側の入力メーターは大体 75 % あたりを示すようになりました。

強めのゲインリダクション設定で作業する場合、実際は入力信号の音色まで変えてしまいます。この場合、高周波帯域と低周波帯域がロールオフしています。したがって、200Hz 付近を +3dB ブースト、7kHz 付近を +1.5 dB ブーストしてトーンを明るめの空気感を加えてみましょう。他の楽器の音とギターサウンドがマッチするよう繊細な調整を行います。ストラトの自然なサウンドを残しつつ、ミックスにうまく溶け込むような設定は、自分の耳で確認しながら行います。


エレキギターサンプル (Fender Stratcaster を DI 入力端子に接続、ゲインを上げて Keith Richards 風のサウンドに)

エレキベースの収録

ピック奏法であれ、フィンガー奏法であれ、エレキベースのシャープなトランジェントや低音を上手く捉えるには、どうしてもレベリングアンプが必要になります。アタックタイムを上手に使えば、ピック奏法やスラップ奏法などのパーカッシブなサウンドを扱える上に、コンプレッサーのデュアルリリースタイムを使えば、低音域のサスティンの効いた音をごく自然に、かつ音楽的な手法で捉えられます。そういう意味では、LA-610 MkII に搭載された T4 回路は、エレキベースという楽器にうってつけのデバイスであると言えます。

エレキベースは、チューブ独特の色付けや繊細な音作りを行える特性を、最も活かせる領域かもしれません。アクティブピックアップ装備のベースを用い、Gain を 0、Level を 4.5 にセットしました。クリーンでソリッドなサウンド設定です。指で弾いた音を DAW に送ると、それほど強く弾いたわけではないのに、メーターは赤いゾーンを指しました。

そこでリミッターをかませ、ゲインリダクションをかけました (VU メーターは GR モードで -15 ~ -20 付近を指す)。これで DAW でベースギターを適正に扱えるようになりました。この時点では、信号が過度なコンプレッションをかけられている状態です。つまりアタックが過度に削り取られ、サスティンのパートより小さな音になってしまいます。このように、逆方向に作業する (つまり、最初に最大設定を試し、Peak Reduction や Gain ノブを使って調整する手法) ことで、ピークやレベルを均一化し、ナチュラルで加工されていない音色に感じられる設定に至るまで調整します。

エレキベースを録音する際、気をつけるべき点は、弦を弾いた時に出音が不自然に飛び出すことがないよう、コンプレッサーを上手く設定することが大切です。

LA-610 MkII のコンプレッサーは、EQ 設定と相互に作用するよう設計されています。Gain を +10、Level を 5以下に設定、70 Hz 付近を 3dB ブースト、リミッターを加えて若干音をつぶすことにより、ベースらしい強いサウンドになります。このサウンドをレゲエの曲調にマッチさせようとするなら、4.5 kHz 付近を EQ でロールオフし、Gain は 0 まで下げます。

これが始まり

一旦、LA-610 MkII 各セクションの主要なコントロールが、互いにどのように作用し合うか理解できるようになれば、様々なインスピレーションが浮かぶようになるでしょう。ゲイン段がどのような動作をするか、さらに録音デバイスに送られるレベルの概念を常に念頭に置くようにしましょう。そこから始めれば、LA-610 MkII のプリアンプやコンプレッサーから様々な色彩を引き出せる様になるでしょう!

Posted by Gino Robair on 2010年6月23日 11:13:11 PDT

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