Mick Guzauski インタビュー : Daft Punk "Random Access Memories" におけるミックス秘話

ツールを過度に使用せず、全く異なる種のサウンドへ圧倒的なまでのミックスを施し、2013年にディスコのイメージを一変させてしまったエンジニア、Mick Guzauski に話を伺いました。

グラミー受賞エンジニア Mick Guzauski は、1970年代中頃に Chuck Mangione のエンジニアとしてロサンゼルスで本格的なキャリアをスタートさせました。80年代には Burt Bacharach、Madonna、Johnny Mathis、Quincy Jones、Cher などのエンジニアとして活躍し、その後も Michael Jackson、Mariah Carey、Eric Clapton、Barbara Streisand などのレコーディングを手掛けます。そして彼の最新作はチャートでトップを獲得した Daft Punk の新アルバム Random Access Memories です。

アメリカやフランス等、国を越えて制作された Random Access Memories は直球のディスコ・アルバムで、生バンドときらびやかな電子音が融合されることでレトロでありながら未来的な、そして異次元でありながらオーガニックなサウンドを実現しています。ファンに受け入れられるだけでなく、Rolling Stone 誌や Guardian 誌で4つ星の評価を得ています。

「2013年におけるディスコの再定義」と Guzauski が語るこのアルバムの制作工程には Universal Audio のツールがさりげなく使用されており、生楽器と電子音という異なる2つの要素を1つのミックスにまとめ上げることに成功しています。

- Daft Punk のアルバム制作によってミックス・エンジニアとしてさらに1段階成長したそうですね。その理由をお聞かせいただけますか?

Daft Punk が僕に声を掛けてくれた一番の理由は、僕が長年生楽器の録音に携わってきたからだと思うんだ。今回のアルバム制作ではエレクトロニカ、生バンド、他にも様々な音楽のスタイルを今までやったこともない方法で一つに集約させたのさ。少し前は電子楽器と生楽器を融合する際、それらがより自然に聞こえるようなサウンド作りがアイデアの中心だった。それに対して今回のアルバムは、多くの電子音が入っていながら全体がよりオーガニックであることをテーマとして作られたんだ。

- どのような方法でオーガニックさを出したのでしょう?

録音自体は特別な方法で行ったわけではないよ。まず、バンドがウォームな音を心掛けて曲をアレンジする。それを録音する訳だけど、エンジニアとして気をつけたことはマイキングで音を作り込んでいくことだ。もちろんコンプレッサーやEQは使用したが、それは最小限にとどめ、部屋で鳴っているそのままの音を録音することを心掛けたんだ。

Daft Punk の2人は録音されたライブ・トラックを持ち帰り、彼らの持ち味であるシンセや電子音を加える作業を行った。彼らは私が録音したトラックを聴いて「ワオ!EQする必要ないね。そのままの素晴らしい音がするよ!」と言ってくれたから嬉しかったよ。その後オーバーダブしてきた彼らのトラックも素晴らしくて、ミックスで色々弄る必要はなかったね。アルバム全体が耳疲れせず聴きやすい音楽に仕上がったのはこういう理由なんだ。

”エンジニア人生において 1176 や LA-2A は信頼できるパートナーだったよ。今回の Random Access Memories でも多くの場面で使用されている。LA-2A はベースとボーカルに、1176 はボコーダーやギターに使用したね。“

- そのままの音を録音するために、どんなマイクを使用しましたか?

まずはドラムから。キックには4種類のマイクを使用している。メインマイクとして、パンチのあるロー・ミッドが録音できる定番 AKG D112 を使用している。と同時に Sony C-500 も活用した。C-500 は古いコンデンサー・マイクで現行品では無いんだけど信じられないくらいの音圧で録れるんだ。クリーンで高音の伸びがあり、ハイエンドが強調されるのが特徴だね。このマイクで録ることでミックスの時に音作りの幅が出るんだ。キックの外側には Neumann U47 を用いてより低い唸りを、そして Yamaha SubKick でサブの共振を録音している。これら4本のトラックを組み合わせることでキックの音を自由に作れるようにしたんだ。

スネアは一般的な方法で録音したね。Shure SM57 をトップ、AKG C-452 をボトムで使用した。ほとんどの曲でデッドな音が欲しかったので、近距離でマイキングした。胴鳴りを少し入れたいときにちょっとだけマイクを離したりはしたけどね。

- 曲のアレンジはスタジオで行われたのですか?それとも事前に出来上がっていたのですか?

リズム・セクションを録るためのラフ・トラックが Pro Tools 内に用意されていたんだ。つまり曲の方向性は事前に出来上がっていた。マイキングによってナチュラルな音を録るということにしたため、ゲートやEQは使わないことにしたんだ。全ての音は近距離でマイキングし、Pro Tools やテープに録音した後、ミックスの時に微調整するという方法でレコーディングは行われたんだ。


“ツールはさりげなく使うことにしたんだ。UADプラグインはウォームで音質も素晴らしいね。少しかけるだけで十分なんだ。”

- ミックスはどのような手順で行ったのですか?

ロサンゼルスの Conway Studios で一夏かけてミックス作業を行った。スタジオではコントロール・ルームの他に Pro Tools 用の部屋が用意され、ミックスと平行して Daft Punk の2人がさらにサウンドを加えたり編集したり、といった作業がその部屋で行われたんだ。ミックスを聴いた彼らが修正を加えてこちらに戻すというやりとりが繰り返し行われた。とても良いコラボレーションができたと思うよ。

1曲ごとに納得するまで作業を続けることにしていたので、スケジュールには余裕があったよ。ミックスが完成するのに何日もかかった曲もあるし、すぐに終わった曲もある。日をまたいで作業が続いた曲でもトータル・リコールは一切行ってないんだよ。夢のようなプロジェクトだったね。

- リスナーを惹きつけるミックスに仕上がってますね。なにかコツはあるのでしょうか?

何より曲と演奏が良いからね。音質とミックスのことを言うならば、リミッティングを最小限に抑え、劇的な処理を避けているのが特徴だ。コンプレッションを控えめにして全体の風通しを良くしてダイナミクスがなるべく大きくなるようにしたんだ。今回のミックスはローエンドをカットし、5~7kHzあたりをブーストするような過激なサウンドを作るプロジェクトでは無いからね。ラウドにする必要は全くないと思ったんだ。

- それなのに物足りなさもなく、リッチなサウンドですよね。

面白いことにラジオでかかると他の曲と同等ではないにしても十分ラウドに聴こえるんだ。ラジオのコンプレッションがきつめにかかることで他の曲にピーク・レベルが近くなるんだろうね。力強いローエンドも十分キープできてるよね。

- 「レトロだけど新しい」サウンドを作るのは難しかったですか?

そうでもなかったよ。関わったみんなが同じ気持ちを共有していたので、とてもワクワクするプロジェクトだったね。参加ミュージシャンたちは皆ディスコ全盛時から現役の連中だったから、昔のような演奏をまた録音できることに興奮していたよ。Daft Punk の2人のためにあまりあれこれ語りたくないけれど、彼らは今回のアルバム制作を通じ、過去の音楽について多くの発見をしたんじゃないかな。彼らはずっと若いけど、僕たちにとってはこういう音楽が再びヒットするのを経験できて興奮しているんだ。

“Ocean Way ダイナミック・ルーム・モデリング・プラグインはアーリー・リフレクションの音がとてもナチュラルで、上の方で使うとリバーブと原音がすごく馴染むんだ。ルームの音を実際に録音したかのように聴こえるよ。”

- UA のハードウェアはどの場面で使われたのですか?

私は70年代からこの仕事を続けてる面倒くさいオヤジだから(笑)、やっぱり 1176 と LA-2A は僕のエンジニア人生になくてはならないものなんだ。今回のアルバムでも様々な場面で使ってるよ。LA-2A はベースとボーカルに、1176 はボコーダーやギターに使ったね。

- 他にはどんなハードウェアを使いましたか?

Daft Punk の2人はデジタル処理をせずにこのアルバムを作りたいと言ってきたんだ。編集が必要なのでデジタルに取り込んだとは言え、素材の多くはアナログ・テープに録音してから Pro Tools に落としている。ミックスは Pro Tools から96kHzで出力され、72チャンネルのアナログ・コンソールに入力して行ったんだ。トラックやフェーダーが足りなくなったときは Pro Tools 内でバウンスしたりもしたけど、基本的にはアナログ卓でのミックスだったから音作りも全てアナログで行いたかったんだ。


“私が言えることは、聴いてくれる人が楽しんでくれるようにミックスすること。頭を柔らかくし、つべこべ言わず、楽しむことを自分に強制しないことかな。”

- プラグインは全く使用しなかったのですか?

プラグインによってはハードウェアを使うより良い結果が得られる場合もあるんだ。UAD Precision De-Esser はボーカルでかなり使用したね。ディエッシングに DBX 902 を使ったりもしたけど、より追い込んだ処理が必要な場合はUADプラグインの方が細かい部分までコントロールできるから便利。あと Bricasti とEMT 250 というデジタル・リバーブは一部で使ったけど、それ以外は全てアナログのアウトボードを使用したよ。

UADプラグインは本物にかなり近い音がするね。たまたまリバーブ・ユニット EMT 140 の実機があったので試しにUAD版とA/B比較してみたんだけど、ほとんど同じだったよ。今ではUAD版を使わない日はないくらいさ。

- よく使うプラグインはありますか?

リバーブ・プラグイン EMT 140 と EMT 250、それに Manley Massive Passive EQ は良く使うよ。これらは実機も所有してるんだけど、プラグイン版の音質は本物にかなり近い。1176LA-2A も愛用しているよ。Ocean Way ダイナミック・ルーム・モデリング・プラグイン もいくつかのプロジェクトで使った。最近リリースされたプラグインなのでまだちゃんと使ってないけど、すごく気に入っているよ。アーリー・リフレクションの音がとてもナチュラルで、上の方で使うとリバーブと原音がすごく馴染むんだ。ルームの音を実際に録音したかのように聴こえるよ。

ノスタルジックな気分のときは Harrison 32C/SE チャンネルEQ を使うよ。UADのプラグインはオリジナルのハードウェアと比べるとキャラクターは同じだけどクリアな音がするね。Precision Limiter と De-Esser も良く使用する。まだ使ったことがないプラグインもあるけど、そのうち使ってみようと思ってるよ。

“UADプラグインが入ったApolloとプロジェクト・ファイルが入ったラップトップがあればいつでも作業が行えるんだ。”

- UADプラグインを使うことで新しい発見は何かありましたか?

ちょっとした驚きがあるね。EMT 140 プラグインは3台の EMT 140 から選択して使うことができるんだ。そのうちの2台をボーカルにかけてA/B比較したときに気が付いたんだけど、実は2台を組み合わせて使うと私好みの音ができたんだ。EQをかけた Plate A とわずかにプリ・ディレイが異なる Plate B を組み合わせることで、単独で使うよりサウンドの厚みが増してリッチになることが分かった。このテクニックは Herb Alpert のプロジェクトで使ったところさ。彼のトランペットに最高にマッチしてたよ。


- Apollo はいつから使い始めたのですか?

リコールが必要なプロジェクトをいくつか抱えていたこともあって、Daft Punk のアルバム制作の直前に手に入れたんだ。UADプラグインが入った Apollo とラップトップがあればどこでも作業が行えるよ。

- Apollo を使うにあたり何かアドバイスはありますか?

まず、プリアンプがとても透明感があり、フラットで色付けが無いのが特徴だね。生楽器の録音に使う場合はプラグインをかける前にプリアンプのゲインつまみを調節してから、マイクの種類やマイク・ポジションを色々試して自分のイメージ通りの音に近づけること。EQやコンプはその後に補うように使うことが大切だよ。

- いきなりプラグインに頼るのは良くないということですね

曲が大体組み上がってからプラグインを使うことだね。各音が他の楽器にどういう影響を与えているのかをまずは確認するべき。コンプレッションで言うと、例えばあるバスの中の一つのトラックだけが飛び出したり引っ込んだりしてしまう場合はそのトラックにだけコンプレッションをかけるべきだね。また、きつめのコンプレッションを想定している場合でも、最初から過度にかけない方がいいよ。

ツールはさりげなく使うことが大切だよ。UADプラグインはウォームで音質も優れている。派手に使わなくても十分なんだ。

- 何がきっかけでその考えに行き着いたんでしょうか?

何となく感じていたんだ。私を含めて多くの人が経験してると思うけど、プラグインは簡単に起動できてどんどん数珠つなぎで使ってしまいがちなんだよね。例えばある楽器のEQ処理に納得いかないと別のプラグインを次々とかけていってしまうんだ。そういうときは一旦プラグインを全部外してからやり直した方が良い場合が多いね。

- 今夏はどんなプロジェクトで Apollo を使いましたか?

大きなところでは Celine Dion だね。3曲のミックスを行った。細かい調整をする作業にも Apollo は出先で続きが行えるのが素晴らしいね。UAD のDSPと高品質なコンバーターのおかげで欲しかったものが現実となったんだ。


“参加ミュージシャンたちは皆ディスコ全盛時から現役の連中だったから、昔のような演奏をまた録音できることに興奮していたよ。”

- Celine Dion のプロジェクトは Daft Punk の制作方法と同じ方法で行われたのですか?

Celine Dion のプロジェクトはボーカルをいかに聴かせるかが重要なんだ。それに対して Daft Punk の楽曲は曲全体のプロダクションにフォーカスしているため、あるときはボーカル、あるときは別の音という感じにリスナーが聴くポイントが次々と変わる。ここがセリーヌ・ディオンのプロジェクトと大きく異なるね。そしてこれはミックスの仕方にも影響してくるんだ。

あと、Celine Dion の楽曲には自然界に存在しない音は含まれていない。シンセは多用されてるけどね。ダフト・パンクの曲にはドラム、ベース、キーボードと一緒に、スペイシーで現実には存在しないクレイジーなサウンドがミックスされているんだ。そういう意味ではこの2つのプロジェクトは真逆と言ってもいいだろうね。

- Celine Dion のプロジェクトではどんなプラグインを使用しましたか?

EMT 140 を実機の AMS RMX16 と併用してボーカルに使った。Universal Audio には AMS RMX16 のUADプラグインを是非作ってもらいたいよ! Manley Massive Passive や LA-2A、1176、Precision De-Esser や Precision Limiter もミックスに使ったよ。

- ミックスにおける哲学とは?

どこで聴いても良い音で鳴るミックスをしたいと思っているよ。でも最近はラジオやイヤホンで実際にどう鳴るかや、特定のジャンルっぽい音に合わせなくちゃということは考えてないようにしてるんだ。前まではずっとこの考えに縛られてたんだけど、正直楽しくないんだよ。少なくとも私にとってはね。自分のミックスした音楽を聴いた人たちが楽しんでくれることが一番大切。そう思って自分も楽しんでミックスしているよ。特定のジャンルによくある音だからと言って全体が激しく潰されて加工された音を作るのは好きじゃないね。

- 最後に、ミックスに関するアドバイスをいただけますか?

私が言えることは、聴いてくれる人が楽しんでくれるようにミックスすること。頭を柔らかくし、音に対して言い訳をせず、楽しむことを自分に強制しないことかな。自分自身が聴きたいと思うものを作ることだね。

Photos ©2013 Juan Patino Photography. Check out more at www.juanpatinophotography.com.
Special thanks to Electric Lady Studios.

Michael Gallant

ページトップへ