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Universal Audio UAD User File #009 : AssH

ギタリスト/シンガーソングライターであり、YOASOBI のサポートワークでも知られる AssH。彼のプライベートスタジオを訪ね、レコーディングから動画撮影、ライブにまで活用しているという OX など、Universal Audio 製品を使った制作手法について話を聞きました。

ギターがうまくなるのにもDTMが絡んでいる


- まずは AssH さんのギタリストとしてのルーツを教えてください。

『BECK』という漫画の竜介というキャラクターがそもそものきっかけでした。彼が若いのに古臭い音楽をプレイしていて、国内外問わず活動しているのがシンプルにカッコいいなと思ったんです。あと、僕の親父がジャンルレスで音楽を聴く人で、僕も2〜3歳の頃に KISS のライブ盤とかを、次にどんなリフが来るかまで覚えてしまうくらい何度も聴かされていたんですよ。当時はそれがイヤだったんですが、ギターを弾くようになってからは、「ここでよくこう来るよね」っていうフレーズの使い方だったり、音色の出し方やピッキングのニュアンスとかが幼少期に頭に入っていたおかげで、だいぶラクでした。多分、海外のカントリーやブルース、ゴスペルのプレイヤーとかもそうで、生活の文化として音楽を聴いてきたから、ああいうリズム感やニュアンスになると思うんです。日本だとそういう文化がなかなかないので、そういう意味では感謝していますね。

- そうした経験が独自の音色やプレイスタイルに繋がったのですね。

軸はペンタトニックで、曲のキーに対して5つの音で見せる可能性に、僕が生きてきた2000年代の文化や日本の感じ、生活環境なんかがハイブリッドに混ざり込んで、それをアウトプットしているのが僕の特色なんです。ザックリとだけど、それが一番の強みというか、今生きている僕にしか出せない音だと思います。この音はジミー・ペイジにもスラッシュにも出せないし、逆に僕はスラッシュやジミー・ペイジの音は出せない。だからこそリスペクトしているし、自分が誇りに思える音を出せるように頑張りたいなと思いますね。

- AssH さんのプレイはカッティングも印象的ですよね。

カッティングを褒めてくれる人が多いのは嬉しいんですけど、実は苦手なんですよ。Chic や Nile Rodgers、最近だったら Cory Wong とか、いろんな人のプレイを聴いて練習していたらそう言ってもらえるようになって。ゴリゴリのクリーンでファンキーなカッティングというよりは、Eric Gales のリズム感や、Philip Sayce や Stevie Salas が弾くようなエッジの効いたアグレッシブなカッティングから影響を受けています。日本人だったら内藤デュランがすごく好きです。

- YOASOBI の現場では Ayase さんからどんなプレイを求められますか?

最初は「どういう感じで弾いてほしい?」と思ったんですけど、「自由にやっちゃって」と言われて。というのも、僕が自由に弾いて、それを削った方が早いと。だから、一旦ムチャクチャやりますけど、基本、何も言われないです。ライブでは原曲のギターアレンジと変えちゃったりもするので、弾くのがメチャメチャ難しいんですよ。例えば、「群青」のサビとかはレコーディングでは余計なことせずシンプルにカッティングにしたんですけど、ライブではAメロやサビにネオソウルのニュアンスをメチャメチャ入れています。

- そこまで自由にやらせてもらえるのはいいですね。

YOASOBI の場合は本当にサポートメンバーのフィーチャーもすごくしてくださるし。他の現場では、なかなかないことですよね。

- シンガーソングライターとしての活動はいつ頃から?

僕は自分の歌声が嫌いで、ちょっとコンプレックスだったんですが、iamSHUM っていうトラックメイクを教えてくれた仲の良いDJがいて、彼に「歌えばいいじゃん」って言われたんですよ。それがきっかけでシンガーソングライターを始めました。あと、19歳の時にエイベックスに入って、そのアカデミーでお世話になった方に「DTMを始めなさい」と言われて。最初はよくわからないまま Cubase を買って、SHUMくんからプラグインとかを色々教えてもらって、制作とかもやるようになりました。

- DTMがきっかけで、本格的な楽曲制作を行うようになったんですね。

そうですね。ギターがうまくなるのにもDTMが絡んでいます。自分の演奏をレコーディングして聴いてみると、「俺、こんなにリズム感悪いんだ?」って気づかされて。弾きながら「そうか……ハシったくらいの感覚で弾く方が、ハシらないんだ」とか、そういう擦り合わせをしてギャップをどんどん無くしていくんです。そうやって客観的に聴く音と、主観で弾く音のズレを無くしていくと、リズムに関しては思うように弾けるようになっていきました。今でこそレコーディングは2〜3テイクくらい、大体1テイクで終わっちゃいますけど、その練習のおかげかもしれません。

AssH

YOASOBIの配信ライブをやるということでOXを導入した


- AssH さんは YouTube や Instagram でも積極的に活動していますよね。

それもアカデミーで「カメラをやりなさい」と言われて、動画をやるのが僕の中でキーになっているんです。当時心掛けていたのが縦画面で撮ることで、それによって Instagram の画面の占有率が変わるんですよ。フィードが流れていく時に、縦画面の方が通る時間が長いので、それだけで再生回数が倍になる。そういうロジカルを誰かに教えてもらって、今でこそ TikTok とかで縦画面が一般的ですけど、当時はまだやっている人はそれほどいませんでした。それを1年くらい続けて、年に300本くらい動画を出していたら、「見たことある」とか「画質がキレイな人でしょ?」と言ってくれる人がすごく増えてきたんです。“画質がキレイ”というのが、見た人の記憶に残りやすくなるパーツのひとつになっていて、「縦画面で画質いい人だよね」と。さらに、動画の背景になっているこの部屋とか、覚えてもらえる特徴がいくつもあったんです。

- この部屋で動画を撮影しているんですね。

そうです。17歳の頃からここに住んでいたのですが、今は住んでいなくて、ミーティングや撮影、レコーディング、レッスンとかに使うオープンスペースにしています。防音はしていないのでドラムとかは無理ですけど、ギター、ピアノ、歌なら音も出せます。

AssH Studio
▲AssHのプライベートスタジオ

- ここでのレコーディングに使っている機材と、ライブで使う機材は別なんですか?

まったく一緒です。Universal Audio OX を買うまでは、Universal Audio Apollo Twin mkII にギターをつないで、UADプラグインの Suhr SE100Marshall Plexi Classic Amplifier を使っていました。どちらも普通に音が良くて。それプラス Tube Screamer とか、外付けでエフェクトをかけていました。ギターの仕事をするようになってからは、それだけだとカバーできる範囲が狭いので、小さいボードを作りましたけど、僕の「OMG」という曲とかは、Apollo のアンプシミュレーターでレコーディングしています。Instagram の動画も Apollo で音を録っていて、みんなに「音いいね」って言ってもらえます。シールドを挿すだけで弾けるからラクじゃないですか。ただ、YOASOBI で配信ライブをやるということになったので、OX を導入して、それからは OX をメインで使っています。

- YOASOBI の武道館ライブでもOXを使っていましたね。

使いました。あの時は360度ステージだったので、絶対にラインで出さなくちゃいけなかったんです。Fractal Audio や Kemper という選択肢もあったんですけど、僕はロマンをすごく大事にしているので、自分の好きなボードとアンプを残しつつ、ラインに落とせるということで OX を買いました。それからもう1年くらいずっと使っています。

- 配信ライブと有観客ライブではセッティングを変えますか?

変えないです。キャビを鳴らすか鳴らさないかぐらいの違いですね。

- OX を使いこなすためのポイントは?

深過ぎて最初は使いこなせなかったんですけど、最近は使い方がわかってきました。中でマイクを2本立てられるんですが、僕はそれをずっとモノで出していたんです。だけど、LとRに完全に振り分けて、卓の方でミックスするようにしたら急にレコーディングの音が良くなりました。今では決まったプリセットもあるので、それだけを使っています。

- RIGの設定をうまく活用しているんですね。

リアルアンプの音を、なるべくいい音でDAWに落とし込むためですね。本当にこだわるなら、マイクを立てた方がいいと思いますけど、その日の環境や湿度、天気の影響とか、マイクの角度、距離感とかを研究するには膨大な時間とお金がかかるから、それを考えたら OX を使おうかなと。多分、アンプをフルアップして鳴らすのって色々と大変なので、作業のスピード感がないなと。

OX
▲Morgan Ampsの上に設置されたUniversal Audio OX

Apollo Twinで曲を流してみたら出音の良さにビックリした


- Apollo Twin mkII を導入したきっかけは?

以前はオーディオインターフェイスに対するモチベーションがなかったんです。当時はお金もなかったから、インターフェイスにお金をかける価値も見出せなくて。ただ、Apollo Twin mkII は見た目がカッコいいのと、「インターフェイスをちゃんとしたやつに変えたら、曲のクオリティがもっと上がるんじゃないか?」と思って、買いに行って iTunes で曲を流してみたら音の良さにビックリしました。「なるほど、出音も良くなるんだ」と。それで Apollo Twin mkII を導入してから、もう4年くらい使っています。中のアンプシミュレーターもいい音だし、最近は Helios Type 69 というプリアンプがすごく気に入っていて、OX の後にそれを Unison で挿してレコーディングしています。Helios はレニー・クラヴィッツとかが一時期使っていたと聞いて、ちょっと買ってみようかなと。歌とかアコギは Neve 1073 で、最近はアコギも Helios にしています。ベースは Ampeg SVT-VR を挿して弾いています。コンプは 1176 とかを挿れたりもしますけど、その辺はケースバイケースですね。

Apollo Twin
▲Universal Audio Apollo Twin mkII

- ミキシングでもUADプラグインを使いますか?

ミキシングでは使いません。いい音でドンドン録っていきます。あと、UADプラグインをたくさん使うにはDSPが必要なので、ギタートラックとかもステレオで録っていたらDSPを結構消費するから、まだちょっと手が出せていないんです。モノがいいのは重々承知しているので、ボーカルのミックスで Neve 1073 を挿したり、定番のコンプや RealVerb Pro とかは好きで使ったりしますね。

- 今回の取材前に Universal Audio UAFX も試していましたが、いかがでしたか?

まず Starlight Echo Station はメチャメチャ音がいいですよね。特にアナログディレイが好きで、テープエコーもすごく好きです。あとサイズが良くて、このサイズでスイッチが2つあって、ライブでも踏み間違えをしなかったのはビックリでした。Golden Reverbrator は、日頃 RealVerb Pro を使っているので、なんとなく音のイメージはできていました。リバーブやディレイの差が現れるのって、大きな音を出した時なんですよ。ヘンにバシャバシャしてアンサンブルをかき消したり、残響音が残り過ぎてディスコードしたり、そういうのがある安いリバーブだとしんどくて。Strymon を使い始めてからはその悩みが無くなったんですけど、UAFX もそこがちゃんとクリアされていて良かったです。パラメーターもわかりやすいし、EQも付いていて、プリセットができてこのサイズはいいですね。

- では Astra Modulation Machine はどうでした?

モジュレーションはいらないと思っていたのでノーマークだったんですけど、ちょっと興味が湧いて弾いてみたら、まずフェイザーの音が良くて。MXR phase 90 は踏むと音がデカくなっちゃうのが苦手なんですけど、Astra はSEEDというツマミでそこがイジれたりと、結構汎用性が高い。トレモロが2種類あって、フランジャー/ダブラーとコーラスも入っている。コーラスも結構エグいところから綺麗めまでかけれました。モジュレーションであまりボードの場所を取りたくないんですけど、Astra だと標準的なサイズの1.3倍くらいの幅でスイッチが2つあって、しかも急遽トレモロが必要になっても対応できる。あとシンプルに、僕は白が好きなので。

Astra
▲ボード内、奥の中央がUniversal Audio UAFX Astra Modulation Machine

本当に無理だと思ったことが、なんだかんだで達成できた


- YOASOBI を始め、2021年は大活躍の1年だったと思います。

YOASOBI 自体の活動は実働としては少なくて、2021年はライブが3本と、「群青」以降のレコーディングにも参加させてもらっているという感じです。ただ、YOASOBI の仕事をしていることで僕の名前が知られて、いろんな現場に呼ばれるようになりました。

- 活躍の場が増えたことで、創作活動においても刺激になるものが多かったのでは?

そうですね。おかげさまで2021年は忙しかったので、手が回らなかったりして、作品が1つもリリースできずに年が終わってしまいましたけど、2022年からはそちらに力を入れていきたいですね。しばらく制作意欲がなくて、なかなか自分のハードルを超えるものが作れなくて、ファンの人達がすごく楽しみにしてくれていることはわかっていたけど、なんか納得がいかなくて。ただ、いろんなところで知らないコードにたくさん出会ったし、1曲26分とかの組曲を、リハなしで大御所の方々と演奏したりもしたんですね。そういう、本当に無理だと思ったことがなんだかんだで達成できるということが、2021年はずっと連続していたんです。そういう時って人間、進歩するなと本当に実感して。そういう生活を1年間経て、だいぶ強くなったと思います。創作意欲も上がったので、これから先が楽しみですね。アンプも新しくしたし、経験も積んだし、OX もあるので、どんどんレコーディングしていって、色々と研究しながら楽曲を出していきたいなと思います。

AssH プロフィール

ギタリスト、ソロアーティスト。日本だけにとどまらず世界を股にかけ活躍中。EP『Re:born』が iTunes チャートで8位獲得、5th シングル「OMG」が iTunes チャートで1位を獲得。また数々のアーティストのサポートとしても活躍中。2020年は毎月リリースを行い、精力的に活動中。また自社レーベル''White Smith Records''を設立。

ニューシングル「Waves」

2022年1月12日に配信リリース
iTunes Store(日本)の"インストゥルメンタルトップソング"ランキングで1位を獲得!
https://linkco.re/Mb04VYv2

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